神子姫様はしばらくおやすみ  
 
今熊野にいる。鎌倉方の要請で熊野水軍の力を借りるのが目的なんだけど。ようやく頭領の約束が取れた。  
今夜は好意で特別に本宮に泊まらせてもらった。野宿が続いていただけに広い部屋と床と食事にはみんな満足した。頭領に会えるとあって期待も高まってる。  
戦の陰もここにはない。静かな夜。蛍があちこちに飛び交う。気がつくと部屋の中にも迷い込んでいる。現代じゃ考えられない。  
 
「蛍が綺麗だわ・・戦の心配をしなくてすむのはいいわね」  
「本宮は結界もきちんと張ってあるから怨霊の心配もないね〜ほんと楽だよ〜」  
「早く兄上は戻ってください。八葉の部屋はあちらです」  
「はいはいわかりました・・ほんとに朔はきびしいんだから〜」  
今は朔と二人だけだ。白龍は大人になっちゃったから八葉の部屋に行ってもらった。  
ほんとに静かだ。小さな白龍は私になついていたから少し寂しい気もする。  
 
「静か過ぎて眠れない・・・」  
朔が隣で寝息を立てているのに望美は目が冴えてねむれなかった。戦世に体が慣れてしまったのか。  
怨霊や平家の武者が夜襲をかけないか緊張していたから。ここは本当に何の気配もしない。静かすぎる。  
「ちょっと散歩してこよう・・・」  
朔を起こさないようにそっと床を抜け出した。  
 
廊下は静かだ。自分の足音だけが聞こえる。なんだかどきどきしてきた。なんでだろう。  
 
後ろからいきなり浚われた。両手が首に回る。  
「きゃん・・・」  
「ほんっとに鈍いなあ。それでも神子姫様?」  
くすくすと笑う声に望美は赤くなる。  
「もう寝る時間よっ。ヒノエこそ何してんのよ」  
「べつにー。神子姫様こそこんなとこで見回り?」  
ヒノエはいつものアクセサリーや上着もはずしている。薄い着物一枚だけ。細身なのに意外と筋肉がついてる。  
 
頭の中で危険信号が鳴り響いている。朔と一緒に寝てるほうがよかった。わざと後ろから捕まえたんだ。後悔先に立たず。ああ。  
「声出すとみんな集まっちゃうよ」  
「誰のせいで声が出ると思ってるんです?」  
目いっぱい怒って見せるが効果はない。後ろから巻きつけられた腕はしっかり望美を捕まえる。男性にしては小柄な体なのに。  
 
「神子姫さまはしばらくお休み」  
耳元で囁く声はいつもと違う男の声。耳をふさぐことも出来ない。望美の意識を少しずつ犯していく。  
「そうしないともっと声出すようにするよ?」  
「いやあ・・・」  
もう片手が胸のあたりをなぞっている。ぞくぞくする感覚が襲う。快楽の始まり。  
「やっぱ柔らかくて気持ちいい・・・今夜駄目?」  
ぶんぶん左右に顔を振る。  
「ほんとに駄目?」  
「わかってるくせに・・・っ・・・」  
 
私に振るなんてずるい。そんなに強く抱かれてるわけじゃない。本気で振りほどけばすぐに逃げられる。でも体がいうことを利かない。もっと刺激が欲しいとねだる。夜毎の記憶はしっかりと刻み込まれて、離れない。  
「ほんと、素直じゃないなあ・・」  
くっと、胸を掴まれて甘い痛みが走る。  
「もう少しこうしてもいいけど、寝たほうが楽だよ?」  
望美は黙ってうなづいた。もう呼吸が乱れて立っているのがやっとだった。  
ヒノエに導かれるままに部屋に向かう。  
 
「ここは?」  
「隠し部屋の一つだよ。ついこないだまで三山が争ってたから。今は必要ないけど」  
壁の一部にしか見えない戸を開くと思ったより狭い。上に小さな明り取りの窓がある。  
「二人が入るには十分だよ。声も響きにくいし」  
「どうしてこんなところまで知ってるの?」  
「それは俺がえらいから」  
謎めいた笑いを浮かべてヒノエは戸を閉めた。  
 
部屋にあった衣の上に望美を横たえると、ヒノエは愛撫を再開した。  
両手を口にあてて必死に声を出すまいとする。それが反って快楽を深くする。  
「は・・・ふ・・」  
ひくひくと跳ねる体。長い髪が波打って汗ばんだ白い肌に張り付く。後から後から涙が零れ落ちる。  
「ほんと・・声ださねえの・・」  
不服そうな言葉と裏腹に笑みさえ浮かべて、敏感な場所を辿る。その苦しそうな表情がそそる。自分の手でもっと快楽におぼれさせたい。二度と離れられないように。  
 
数日前につけた跡がもう消えかけてる。それが悔しくてきつく吸い上げる。体が反り返って、くっきりと赤い跡がついた。  
本当は、もっと沢山つけたいけど、望美が頼むから服から絶対見えないところしか駄目。あの兄弟が黙っていない。ととくに弟は弓が得意だ。突然後ろから矢が飛んできてもおかしくない。それだけはごめんだ。  
 
「仕方ねえ・・ここだけで我慢してやるよ」  
「だめ・・ああ・・ああん・・」  
 
望美の中に指を差し入れてくるくると回すと、壁がどんどん吸い付いてくる。くちゃくちゃと蜜が流れ、掻き出されて染みをつくる。  
ときおり手が外れて高い声が漏れる。どんどん追い詰めていく。  
 
「っつうーーーー」  
 
ぎゅっと体を逸らせて、望美は一人で上り詰めていった。  
 
華奢な体を二つに折り曲げて奥底まで突き上げていく。跳ね上がる水音。強い快楽に目の前が白くなる。初めは痛がってたが今じゃ自分から腰を動かしてくる。  
こいつって、剣の技だけじゃなくて体の覚えもはやかったのな。まじで溺れるよ。  
「ちょっと・・締め過ぎ」  
「知らない・・もう・・だめえ・・・」  
目の前が真っ白になって落ちていく。深い深いところに。おい、もう少し加減してくれ。締まりが良すぎ。お前。  
 
朝早いのは慣れている。  
望美を抱えるとほの暗い廊下を目的の部屋に向かって歩いていく。  
そっと戸を開けると朔が静かな寝息を立てていた。脇に望美の体を横たえる。何事もなかったように。  
衣も着せてある。多分背中の跡にはきづかないだろう。秘密が一つふえた。笑みを浮かべてヒノエは部屋を出た。  
 
憎たらしいほど天気がいい。蝉の声が騒音に聞こえる。望美は腰の痛みに耐えて山道を歩いてる。  
ようやく路が開け、神社の鳥居が見えてきた。しかし弁慶が心配そうに声をかけてきた。  
「顔色が蒼いですよ・・どうも調子が悪いようですね。望美さん」  
「大丈夫です。このくらいっ」  
「先輩、無茶はしないで下さい。休まなきゃ駄目です」  
「そんな顔して頭領にあってもいい印象を与えないと思うよ〜」  
多数決には勝てなかった。望美は「ヒノエくんのばか」を心の中で何十回も繰り返しながら眠りに付いた。  
 

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