熊野から京の梶原低へと辿りついた一行は、随分遅れて到着した弁慶  
と望美に対して特に疑問を持つ者はいなかった。  
いや唯一人の目撃者を除いては…だが。  
譲は木々の間からみた弁慶と望美の痴態を夢だと片付けてしまいたかった。  
そう…何度も何度も繰り返し見る自分が死ぬ夢のように…。  
相変わらず穏やかに微笑んでみせる弁慶に、譲は心の中で何度抹殺したか  
しれない。表面上を取り繕うのも限界が来そうだった。  
法皇様に怪異の起こっている場所を教えてもらい、将臣にも再び会えて  
嬉しいはずの望美の顔からは笑みが消えていた。  
そして今、望美の首筋には細く切ったさらしがまかれている。  
ふたりからつけられた花を隠すために。  
 
長旅で受けた疲れをいまだに癒せずにいる体を湯船につけると望美はこれまで  
の出来事を思い返していた。夢だと思いたい…でもっ。  
激しく頭を振ると何度も体をお湯で擦る。ふと手を止めて、湯船にゆがむ自分  
の姿に望美の瞳からは涙が溢れる。  
―こんな私を将臣くんにみせたくないよ―  
入浴を終え、部屋に戻る間に望美は譲とすれ違った。なんだかよそよそしい  
幼馴染に話かけようとしたが、譲の雰囲気に気後れしそのまま部屋に戻る。  
「先輩…。」  
切なげに顔を歪ませた譲は、ある決意を胸に秘めた。それは望美をもっと  
苦しめることになるのは分かりきっていた。しかし…若い譲の理性はあっけなく  
飛んだ。戸が開いたような気がして、振り返る望美の目に譲の姿が飛び込む。  
「譲くん、どうしたの?」  
無言で自分の元に迫る譲に、いやな予感を感じ望美は逃げようと身を捩るが  
あっさりと腕を掴まれすでに敷いてあった布団に押し倒される。  
「いやぁっ。」  
譲は首に巻かれたさらしを取り去ると、その下に赤い花々が確認できた。  
「弁慶さんとの…痕ですよね。」  
 
「譲くんっ、なんで…。」  
知っているの…そう続けそうになった望美は、ハッとした様子で目を逸らした。  
その望美の態度にますます譲の腕に力がこもる。  
「俺の気持ちを知っていながら…どうしてですか!」  
年下とは思えないほどいつも冷静な譲が、感情を爆発させる。  
もう…止まらない、止まれない…。  
薄い寝巻きに着替えていた望美の帯を解き、袷をはいで譲は素肌に口付ける。  
「う…ん…。」  
譲は柔らかな胸の頂にある突起まで唇を運ぶと、飴でも舐めるかのように  
弄ぶ。と、同時に片方の手で乱暴に揉みしだく。  
「あっ…ん。」  
ゾクリと望美の体に快感が駆け抜ける。抵抗する気力はとうに失せて…譲の  
一方的な愛撫は望美をだんだんと追い詰めていく。  
突起をこね回し、口にふくんで舐めあげる。  
続けざまにふたりの男に抱かれて、この先に待ち受けている疼きを知っている  
望美は足を擦り合わせて耐えていた。  
その望美の行動は、ますます譲を破滅に導くには充分だった。  
「先…輩。」  
譲は前触れなく下着を取り去り、もう受け入れる準備も整った泉に指を突き立てられた  
望美はビクッと体を震わせた。  
蕾に譲は唇をつけ、きつく吸い上げ始めると突き立てた指は泉のなかをかき回す。  
「ああ…はぅ…う…んん。」  
頭を左右に振って愛撫に翻弄される望美の姿に、譲の顔に苦悶の表情が浮かぶ。  
こんな望美を譲は知らない…女の顔で身悶える望美を…。  
またも甘い疼きが望美の体を支配していく。  
「あ―あっ…あっ。」  
望美は両足を突っ張ると、足の指をしなって達してしまった。  
 
その様子を見届けた譲は、望美の泉に熱いたかまりを押し付けると一気に  
貫いた。  
「ひゃ…あ…ああ。」  
望美を気遣う余裕もなく、一心不乱に腰を打ちつけ続ける譲。  
揺らされながらも望美は薄く目を開けて、眉根をよせて腰を打ち付ける譲を  
ぼんやりと眺めていた。  
物心ついた時にはもうそばにいて、弟みたいに一緒に生きてきた譲はもう  
どこにもいない…。目の前にいるのは、望美の体に溺れる見知らぬ男…。  
そうしたのは自分のせい…。  
そう思うと望美の瞳に涙が滲んでくる。  
譲ははじめて望美に口付けると、貪るように口内を犯し始める。  
ふたりの繋りから発する水音と激しく求め合い絡み合う舌と舌。  
最奥で先程よりも大きな疼きが広がり始める。  
「ああっ…やぁ…もうっ。」  
「先輩っ!」  
ドクンと、望美のなかに譲の熱い欲望が注ぎ込まれたのが感じられた。  
望美の瞳から涙が頬に零れ落ちるのをみた譲。  
自分の体の下には、ずっとずっと想い続けていた愛しい望美が火照った  
裸体をさらけだし、泉から溢れた欲望で太ももを汚している。  
「俺は…俺はっ。」  
突きつけられた現実に、我に返った譲は後ずさりして部屋から駆け出して  
しまった。振り返りもせずに。  
後を追うわけにもいかずに、気だるい体を投げ出したまま望美は涙を  
拭って呟いた。  
「私のせいなの…?何かが狂ってる…。」  
 

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