望美が時空をかけて弁慶を救ってから1年…。  
二人は相変わらず薬師を営んでいた。応龍の加護のもと、京で暮らす毎日は平和そのものだった。  
弁慶は穏やかな笑顔で望美を包み込み、望美も弁慶を優しく支えていた。  
しかし、望美の脳裏には不安が渦巻いていた。最近弁慶は望美を抱くことなく眠りにつく…。  
―夫婦になった後、毎日のように愛してくれていたのに―  
望美は淋しい想いを胸に秘め、弁慶に問うでもなく毎日を送っていた。  
 
望美は弁慶が出かけている間、五条橋から人々が少しずつ立ち直る様子を眺めるのが日課だった。  
ここは弁慶が、自分が犯した罪を心に留めるため訪れていた場所。  
弁慶の努力が実を結ぶのを、目の当たりにできるのを楽しみにしていた。  
「はあ〜。」  
それなのに、今の望美はこの復興を素直に喜べなかった。望美よりも仕事、京の復興を優先させる弁慶  
に心は不安でいっぱいで。自分の懐の狭さにいやになる。そう思ったら、自然にため息がでていた。  
「憂いを帯びる姿も可愛らしいね…。姫君。」  
この歯を浮かすよううな台詞をスラスラ言える人物は、一人しかいない。  
「ヒノエくん!」  
久しぶりの懐かしい仲間との再会に、望美はとびきりの笑顔を向ける。  
当たり前のようにヒノエの手をとって、矢継ぎ早に質問していた。  
「久しぶりだね!ヒノエくんも元気だった?熊野水軍のみんなも元気?たんかいさんは?」  
そんな望美の様子に苦笑しているヒノエ。  
「おいおい。いっぺんに答えられないだろ? ん…そういや、あいつは?」  
ヒノエの質問に一気に顔を曇らせた望美は答えた。  
「…仕事…。」  
 
望美の様子に何かを察したヒノエは、望美の手を引っ張った。勢い余って胸に飛び込む形になった。  
「望美、息抜きにいかねえか?たまにゃいいだろ?」  
「ちょっとっ、ヒノエくん?」  
有無を言わさぬ強さで手を引かれて、ヒノエについていかざるをえなくなった望美だが心は満更でも  
なかった。ヒノエの優しさが感じられたから。  
五条橋から早足で走り去っていく二人を、家路につく弁慶は偶然目にしていた。  
穏やかないつもの表情が、みるみるうちに鋭い眼つきへと変貌していった…。  
 
上賀茂神社まで来た望美とヒノエは満開の桜に目を奪われていた。  
ひらひらと舞い散る儚い桜色の花びらを見ているうち、望美の心は哀しさでいっぱいになってしまった。  
「綺麗だけど…桜って儚いね。」  
「散り行くから綺麗なんだろ?」  
また淋しそうな表情に戻ってしまった望美の顔を、覗き込むように近づいたヒノエはそう答えた。  
相変わらずなヒノエに比べて、なんだか最近卑屈になってしまっている望美は気恥ずかしくなった。  
「…なんだよ、そんな暗い顔して。てっきりふたりにあてつけられると思ってきたのによ。」  
「そんなに暗い顔してた?」  
望美は頬に手をかけながらあわてて笑顔を作ろうとした。その手をヒノエに取られ、ふたりはみつめ  
あうような形になった。  
「ヒノエ…くん?」  
「こんなことなら、あいつなんかに渡すんじゃなかったぜ。望美が幸せじゃないならなんのために俺は…。」  
普段の軟派なヒノエじゃなく、真剣な眼差しで見つめるヒノエの姿に望美は混乱していた。  
「望美…。」  
なにもいわず目を逸らした望美に、ヒノエはすべて悟った。望美から離れると自称気味に笑いながら  
ヒノエはいった。  
「わかってたはずなのに。馬鹿みたいだな、俺。」  
何を言ったらいいのか分からず黙り込む望美を見て、ヒノエは苦笑していた。  
こんな状況なのに笑っているヒノエを不思議そうに見つめる望美。  
「望美が不安になってる今が好機だと思ったんだけどな。こんな揺さぶりじゃ仲は裂けなかったか。」  
ヒノエは望美に笑いかけながら、言葉を続けた。  
「不安になるのは幸せの裏返しだって思えばいいんだよ。はじめて同じ女に二度振られた男の進言だ。」  
「ありがとう。そして…ごめんね。」  
 
 
ヒノエと望美が弁慶の屋敷にたどり着いたのは、もう随分日が傾いてからだった。  
あの後、他の八葉だった者たちの近況をヒノエに聞いている間にすっかり時間が経ってしまっていた。  
もう弁慶も帰宅している時分だと望美とヒノエはあわてて屋敷に戻っていった。  
案の定、弁慶は屋敷の入り口で待ち構えていた。それもとびきりの笑顔を張り付かせながら。  
「ヒノエ、今日は僕の妻に付き合ってもらって悪かったですね。もう結構ですよ。」  
「あ、あのよ、俺の話が長くて遅くなっちまったんだ。悪りぃ。」  
望美もあやまるため口を開こうとしたが、ヒノエに遮られてしまった。  
「聴こえなかったんですか?帰れと僕は言ってるんですよ。」  
弁慶は満面の笑みを張り付かせて、望美の腕を強引に引っ張りぴしゃりと戸を閉めて中に  
入ってしまった。  
「望美、すまねえ。ありゃそうとうご立腹だぜ。」  
 
「あの弁慶さん、遅くなってごめんなさい。」  
怒っているはずの弁慶からは一切怒りは感じられずそれが逆に望美を不安にさせた。  
いまだきつく握り締められたままの腕がじんじんと熱を持っていく。  
そのまんま弁慶は奥の間まで望美を連れて行った。望美の体を突き飛ばすと後ろ手に襖を閉める。  
へたり込むように畳の上に倒れると、今まで受けたことのない乱暴な仕打ちに目を潤ませながら弁慶の顔を  
見つめた。弁慶は望美に向かってあの鋭い眼つきで見つめ返していた。  
「弁慶…さん?」  
無言で弁慶は望美の体に覆いかぶさると、スルスルと望美の着物の帯を解き始めた。  
「やっ。」  
弁慶がなにをしようとしているのか察した望美は、身をよじって逃れようとした。  
しかし弁慶はそれを片手で制すると、もう片方の手で望美の両手を頭の上で拘束するのだった。  
解いた帯紐でそのまま望美の両手をきつく縛り上げると、着物の袷はだらしなく肌蹴てその下からは透き通る  
ように綺麗な素肌が顔をのぞかせる。  
望美の小ぶりだが形のいい膨らみのてっぺんにある突起は、この先に待ち受ける刺激に期待してかすでに  
つんっと硬く存在を主張していた。  
「無理やり縛られているというのに、君という人は感じてしまっているんですね。」  
弁慶はそう言って望美の胸を乱暴に弄ると、硬くなっている突起を指ではじいた。  
「はぅっ。あぁ…。」  
 
望美は恥ずかしさに顔を背けて、身を捩った。その様子に弁慶は意地悪な微笑みを張り付かせながら、  
望美の顔を正面に向かせ唇を貪りはじめた。その間も胸の愛撫は続けられて、そのたび望美の体は  
ピクピクと跳ねた。  
荒々しく歯列を舌でなぞられて、望美が逃げようとしても捕らえられて絡み合う舌と舌。  
望美は与えられ続ける愛撫にだんだんと体に疼きをためていく。  
弁慶の唇は望美の首筋に降りていき、きつく吸い上げた。望美の柔らかい素肌に赤い花を咲かせていく。  
「あんっ、あ…あ…。」  
望美はたまらなくなり、もじもじと両足をこすり合わせはじめた。  
瞳を潤ませて哀願するようにみつめる望美に弁慶はいつものように丁寧な口調で問う。  
「そんな瞳でみつめてどうかしましたか?僕は君の心のなかは読めないので言葉にしてもらえると嬉しいです。」  
「そんな…っ。」  
焦らすように指で望美の下腹部をなぞる弁慶。早く熱を冷まして欲しくて葛藤する望美。  
「…下さい…。」  
「なんですか?聞こえないんですが。」  
わかっているくせにわざと意地悪く聞き返す弁慶に、とうとう望美は泣きながら言葉にした。  
「お願い!下…も触って…ください。」  
「ふふっ、君にしては上出来ですね。」  
弁慶はふわりと微笑むと望美のひざの裏に両手をかけて、押し開いた。  
望美の泉はもうすでにたっぷりと潤いを保っていた。左右に広げるととろりと蜜が溢れ出てくる。  
弁慶はプクッと起き上がっている蕾を指で擦りあげた。  
「やんっ…あ…あっ。」  
そのまま手を下に滑らせると蜜で溢れている入り口に少しづつ指を沈めていった。  
ずぶずぶと指が根元まで飲み込んだかと同時に蕾に唇を近づけると器用に吸い上げ始める。  
「ああっ気持ち…いいよぅっ。」  
弁慶のしなやかな指が望美のなかをかきまわすたび、どんどん蜜が溢れ出しぴちゃぴちゃと厭らしい音が部屋を満たす。  
最奥を突かれるたび、望美の背は跳ねて心地よい痺れが広がっていく。  
「ああっ、あんっもっと…もっと下さい。」  
 
拘束された両手をもどかしく捩りながら、弁慶に哀願する望美。望美がもうすぐ限界に達しようとしていることに  
気づいた弁慶はするりと指を引き出した。  
お預けをくらった形の望美は泣きはらした瞳で弁慶をみつめた。  
「心配しなくても、もっと良いものを差しあげますよ。」  
そう告げると弁慶は望美のいまだ拘束されたままの両手を引っ張り、畳の上に寝転がった。  
弁慶の体の上に乗る形になった望美はどうしていいのか動けすにいた。  
「自分で動いてもらえますか?そのままじゃ君もつらいでしょう。」  
今まで弁慶に抱かれても自ら動いたことのない望美は混乱していた。  
やがて意を決して拘束された両手で弁慶の帯を解き、袷を開くと熱いたかまりが顔をのぞかせた。  
そこに望美はまたがると少しずつ腰を沈めていく。望美のなかに待ち焦がれていた圧迫が広がっていく。  
「やぁっああぁ…。」  
望美は根元まで受け入れると大きく息を吸い込み呼吸を整えた。暫く動けないでいる望美に焦らされた弁慶は、  
腰に両手をかけて下から突き上げた。  
「あんっ、まだだめぇっ。」  
いきなり最奥を突かれて魚のように身を反らせる望美に、弁慶は含みをもたせた笑みを浮かべていた。  
そんな余裕をみせる弁慶を追い込みたい衝動に駆られた望美は、ゆっくりと上下に動き始める。  
深く快感を味わおうと腰を沈める望美を、時折弁慶は突き上げる。  
「ああっ、そこが…いいのっ。」  
望美が体をくねらすたび、弁慶のたかまりをきつく締め付ける。望美のなかの狭さに弁慶は眉根を寄せて耐えていた。  
 
弁慶のいつもの表情を崩したことで望美の熱はますます高まっていく。  
もどかしそうに腰を上下させる望美に物足りなくなった弁慶は、繋がったまま望美の体に覆いかぶさった。  
「あっ…ダメっイッちゃう。」  
「まだ、許しませんよ。」  
上からの圧迫でより深く突かれた望美の体は、もうすぐ限界を迎えようとしていた。  
しかし弁慶が簡単に許すわけもなく、腰を引くと今度は入り口を擦り始める。  
 
ゆるゆると浅く抽出を繰り返す弁慶は、蕾を指で撫で上げた。  
「はぅっ。」  
電流が走ったように背を反らせる望美。また焦らされる立場に舞い戻った望美は、自然に弁慶の動きに合わせ腰を揺らし  
はじめていた。望美の行動に弁慶は笑みをみせる。  
もっと深く、もっと奥まで弁慶のすべてを味わいたい望美は、今だ拘束された両手を弁慶の首に回すと体を密着させた。  
「お願い。弁慶さん…を下さいっ!」  
「君の願いを聞き入れましょう。」  
望美の耳元で囁くと、弁慶は一気に腰を打ちつけはじめた。ふたりの体から発する水音が望美の頭に響いていく。  
「やぁ…ん。もう…もうっ弁慶さん!」  
「望美っ…!」  
弁慶は望美の唇を貪ると望美のなかに熱い欲望をすべて注ぎ込み、望美はそのまま意識を飛ばしてしまっていた。  
はあっはあっと肩で息を整えた弁慶は、帯紐で結ばれたままだった望美の両手の拘束をほどいた。  
きつく結んでいたため、くっきりと紐の後を残した両手に口付けを落とすとふとため息をつく。  
「僕もまだまだ未熟ですね。君が他の男と話しただけなのに、嫉妬するなんてね。」  
いまだに気を失っている望美にそう囁きかけると、汗でべたついた体を拭き始めた。  
 
「いってらっしゃい。気をつけてね。」  
「わかりましたよ。望美。」  
朝、弁慶を送り出す望美は笑顔で手を振っていた。昨夜の激しい情事は、弁慶の新しい一面を望美に発見させた。  
嫉妬のすえに起こったことだが、弁慶も同じ気持ちでいることが再びわかった。  
望美の袖から昨日の情事の痕が顔を覗かせる。望美は急いで隠すと袖の上から愛しそうに撫ぜながら、弁慶の後ろ姿を  
見送っていた。  
 
 

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