「望美ちゃんの五行が尽きたぁ〜?」  
素っ頓狂な声が響く。景時だ。  
「どうやらそうらしいんだよね……」  
困ったように微笑む望美に、譲が慌てて問う。  
「らしいって……どういうことなんですか?!」  
「神子は、八葉に五行を注ぐから」  
白龍がぽつりと言った。  
不器用な言の葉でなされた説明を要約すると、おおよそ次のようになる。  
 
神子が開放した五行は、一度神子に留まる。  
それが神子と絆でつながった白龍に流れ、神気となる。  
また、神子の持つ五行は八葉にも流れ、神子を守る力となる。  
しかししばらく神子から離れていた将臣はその加護が及ばなかった。  
それが熊野に来て再会したことで、今までの不足を補うように、  
神子の持っていた五行のほとんどが将臣に注がれてしまったらしい。  
「なんだそりゃ? 俺のせいかよ!」  
思わず声を上げた将臣をフォローするように、望美は慌てて言った。  
「だ、大丈夫だよ! ほら、五行なら貯めればいいんだし……」  
 
「でも神子、今、封印出来ないよ?」  
「ええっ?!」  
不思議そうにかけられた白龍の言葉に、望美は半ば悲鳴のように問い返した。  
「今、神子、五行と神気の釣り合いがないから、封印は出来ない」  
「白龍、ならばどうすればいいんです?」  
やはり軍師だからか、弁慶は冷静だ。即座に返した問いに、白龍は微笑む。  
「自然に貯まるのを待つか……胎内に取り込む」  
「……胎内……ですか」  
困ったように復唱する弁慶。  
「うん。八葉の気をもらう。八葉の属性の五行が得られるよ」  
その言葉に、何か気付くものがあったらしい。弁慶が言い難そうに問うた。  
「では……やはり、五行は偏る訳にはいきませんから……」  
「うん。……最低五人だね」  
実に言い難そうに、景時が続ける。  
「で……でも、待っていても良いんだよな?」  
どこか必死な譲が白龍に詰め寄ると、ぱちぱちと驚いたように瞬きをした白龍は頷いた。  
「うん、五行は常に巡るから。……封印ができるまでなら……二月か三月。」  
「そんなにか?! 戦が終わってしまうぞ!」  
九郎が叫ぶ。  
「だからって……先輩に、そんな!!」  
譲も負けじと怒鳴るように返した。  
「落ち着けよ、譲」  
将臣に諌められ、さらに返そうとした譲を遮るように弁慶が呟く。  
「しかし……三月ですか。その間に、戦局が動かなければ良いのですが……」  
 
「……無理だろうな」  
言葉の後を継いだのはリズヴァーンだ。  
「し、しかしリズ先生……」  
敦盛に頷き、リズヴァーンは静かに言った。  
「選択するのは神子だ。神子は源氏ではない……無理に尽くす必要はない」  
その言葉に、そこにいる十人の視線が望美に集まる。  
諌めるような目、懇願するような目、促すような目、ただ困ったような目。  
「わ、私は……」  
どうすればいいんだろう。胎内に……って、エッチするってことだよね……  
みんなのことは好きだけど、そういう……対象に考えたことなんて……  
ううん、それより、何人もと代わる代わる、そんなことしなきゃならないなんて……  
じゃあ断ろうかな? ……でも、三ヶ月も待てるかな?  
たとえ源氏が待ってくれても、平家は待ってくれないよね。  
そしたら……怨霊を封印出来なかったら……?  
一度めの運命みたいに、成す術もなく攻め入られて負けちゃうかもしれない。  
みんなが、死んじゃうかもしれない。  
そんなのは……嫌だよ。  
「出来ることがあるのに……しないまま、ただ見ているだけなんて嫌だよ」  
ぽつりと、望美の言葉が零れた。  
「え……先輩、まさか……」  
「うん。だって……」  
あんな運命は、見たくないから。  
「……ごめんね、譲くん」  
「神子……それで良いのだな」  
やや苦い瞳で、リズヴァーンが問う。  
「……はい、もう決めました」  
私が少し我慢すれば、道が開けるのなら。  
「それが……お前の選択ならば……。八葉は、神子に従うのみ」  
リズヴァーンの言葉が、結論になった。  
 
 
そして、夜が来た。  
『神子は土属性だから、土気は少し残ってる。土気の相生は金気だから、最初は白虎がいいね』  
わかっているのかいないのか、  
微笑んで言った白龍の言葉を反芻しながら望美は立ち上がりそびれていた。  
八葉から望美を訪ねると、望美も心の準備が出来なかろうということで、  
望美が好きなタイミングで八葉の寝所を訪ねることになっている。  
「気持ちはありがたいけど……かえって踏ん切りがつかないよ……」  
幸い二泊めからは龍神温泉の宿が空き、複数の部屋が取れていたから、  
声や気配が御簾越しに筒抜けなんて事態は避けられる。  
しかし、女の側から、そのために訪ねるというのは……  
「……しかたないんだけどね。いつまでもこうしててもダメだし、行こうかな……」  
ようやく立ち上がり、備え付けの鏡台を覗く。  
恋人ではないとはいえ、逢瀬なのだ。身嗜みは整えて臨みたい。  
洗い髪に軽く櫛を通し、ようやく望美は部屋を出た。  
 
「あの……お邪魔しても、いいですか」  
「望美ちゃん?!」  
障子越しに控めな声をかけると、驚いたような返事が返る。しばしバタバタと音がして……  
「あ〜……とりあえず、どうぞ?」  
すっと開いた障子の間から、景時が顔を出した。  
室内に入ると、呪具の銃が分解されて机の上に載せてある。  
「まさか、こっちに来るとは思ってなかったからさ〜、散らかしててごめんね?」  
「あ……ご迷惑ですか?」  
「いやいやいやいやいや? そんな事はないんだけどさ〜、ホントにオレの方来ちゃっていいの?」  
照れたような、困ったような笑顔で景時は問う。  
「はい。だって……やっぱり譲くんは、幼なじみだし。弟みたいな感じで……」  
「あらら……それはまた……」  
譲くんも不憫な。  
声には出さずに天を仰いだ景時は、ひとつ深呼吸をしてから望美に向き直る。  
「じゃ、ま、とりあえず座ろうか? 立ち話もなんだしさ。」  
そう言って、すでに敷かれていた布団の上にあぐらをかく。  
それはごく自然な所作ではあったが、あらためて布団を意識した望美の顔面に朱が上った。  
「っその……私、今……」  
「うん、普通におしゃべりって感じじゃないみたいだね。……しよっか? 望美ちゃん。」  
真っ赤になって俯く望美に苦笑して、景時はそっと手を差し延べた。  
 
怖ず怖ずと重ねた掌を優しく掴み、引き寄せて抱き留める。  
「こんな時に言っても無理だろうけど……緊張しないで、ね?」  
つむじの辺りに触れた唇から降る普段通りの声音に、僅かながら望美の緊張が緩んだ。  
こくん、と小さく頷いたのを確かめて、景時の手が帯へと滑る。  
望美は、普段の着物とは違う、柔らかな色の単衣姿だ。背中に回った蝶結びが、するりと解かれる。  
「あ……」  
恥じらいからきゅっと景時の胸元に縋った望美の背を支えて優しく横たえると、  
留めるもののない着物が小さなきぬ擦れを立てて袷を緩め、ほのかに色づいた肌を垣間見せる。  
その細い肩に軽く手を添えて、景時は唇を落として行った……額に、頬に、鼻先に……そして唇に、優しく触れる。  
一度触れた唇が離れると、緊張から引き結ばれていた望美の唇がほうと緩む。  
そこを狙って、今度は深く口づけた。  
戸惑う舌を吸い上げ、絡み付かせる。  
「ん、む、ぅん……っ」  
漏れる声が、僅かに甘い。  
それを確かめて、景時はくちづけを続けながら、指先を袷に忍ばせた。  
滑らかな絹が滑り、より滑らかな肌が曝される。  
豊かとは言えないが、形よくつんと張った胸にそっと手を添える。  
ピクンと身体を強張らせた望美の注意を逸らすように髪を撫で、肩の力が緩むとそっと掌に力をこめた。  
全体に柔らかく掴み上げるようにすると、くちづけの息継ぎに漏れる声も確実に甘さを増す。  
「っあ……ン、ふ……」  
その声に、景時も煽られる。  
ピンと自己主張をはじめた胸の先端を捏ねくると、見る間に尖ってゆく。  
ちゅ、と音を立てて唇を離した。途端に甘い声が上がる。  
「っはぁ……あ、ふぁ……」  
顎に、首筋に唇を滑らせ、鎖骨をひと舐めしてから胸に吸い付く。  
「ぁん! は、あっ……く」  
胸が弱いのか、声が高くなる。  
無意識なのだろう、すり、と腿を擦り合わせる仕草に誘われて、景時は指先を下に延ばした。  
 
柔毛がふわりと載った丘を越えた先に、そっと触れる。  
くちゅ、小さな水音と熱く絡むぬめり。  
高まる嬌声を抑えようと手を口元にやった望美に苦笑し、景時は亀裂に沿って指を滑らせた。  
指先が軽く沈む入口は敢えて通過して、そのまま上へ。  
小さな花芽を探り当て、やわやわとくすぐるように触れてみた。  
「んう! ふ、んくっ……!」  
びくびくと震え、上がりそうな声を掌で押さえ付ける望美。  
聞かれたくない、聞きたくないのだ。  
八葉は大切なひとだけれど、仲間だ。恋人ではないのだ。  
その八葉に、こんなことをされて……否、してもらって。  
こんなふうに、善がっているなんて……  
神子などと呼ばれはしても、しょせん名だけなのだと。  
浅ましい欲を持った、ただの娘なのだと……  
嬌声は、その証に外ならない気がして。  
望美は、両の手の平を強く唇に押し付けた。  
 
「望美ちゃん……」  
景時は困ったように呟いて、その手の甲にくちづけた。  
「イヤなのかな……ダメなら、止めるよ?」  
その声に、堅く閉じられていた望美のまぶたが開く。  
手を止めた景時は、いつもの優しく気弱げな笑顔で望美を見つめていた。  
「……や、じゃない……です。ただ……恥ずかしくて……」  
甘く潤んだ声が、とぎれとぎれに囁く。  
「そっか」  
ホッとした様子を隠すこともなく、景時は笑顔を見せた。  
「できればでいいんだけど……声、我慢しないでほしいな。  
苦しそうだし、せっかく可愛い声なんだもん、聞きたいから」  
言葉とともに手を差し延べ、唇を覆うそれを外してしまう。  
「それに、さ」  
ちゅっ、と軽い音を伴う、触れるだけのキスを落として、  
「唇隠されちゃったら、こんなのもしにくいでしょ」  
景時はそう言って微笑った。思わず望美の頬も緩む。  
それに引き寄せられるように、もう一度くちづけを交わした。  
と同時に、指先をまた泉に浸す。  
「っうん……ふ、ぅん、う」  
花芽をくすぐられ、全身を震わせて反応する望美の嬌声は唇に呑まれる。  
さらに、景時の中指が入口を探り始めた。  
僅かに沈め、軽くこねるように掻き回してはじりじりと深度を上げてゆく。  
溢れ出す蜜は身体を伝い、じわりと布団に染みていった。  
 
と、突然景時の指がずぶりと深く沈み込む。  
同時にくちづけた唇も解放され、素直に甘い声が上がる。  
「ぅ、くふぅ……っあ、うん、あぁっ……!」  
景時の器用な、しかし武士らしく武骨さも備えた指が望美に潜り、隠微な水音を立てて掻き回す。  
入口近くを、かと思えば最奥の突起を弄り回し、時には悪戯に内壁を引っ掻く。  
ぐちゃぐちゃと響くその卑猥な音は望美の耳にも届き、たまらない気持ちにさせた。  
「っあぁ……か、景時さんっ……!」  
敷布を握りしめていた望美の手が景時の背に回り、縋り付く。  
応えるように頬や額に軽い口づけを与える景時の耳元で、消え入るような囁きが漏れた。  
「……もぅ……お願ぃ……っ」  
「……仰せの通りに」  
小さな囁きを返して、景時はまた口づけを落とす。  
それから、優しく望美の片足を抱き上げて……  
「……いい? そのまま……力抜いててね」  
「あ……ぁ……っあぁ!!」  
ゆっくりと、貫いた。  
 
気は強いがやや押しに弱い望美は、  
現世にいた頃持った恋人と既に経験済みだったから、痛みなどはない。  
あつい、熱いものに充たされる感覚……  
生理的な涙が一筋、赤くほてった頬を冷ますように流れた。  
「……望美ちゃん……っ、痛、かった?」  
望美が熱に強張ってしまった分、彼も辛かっただろうに、  
自分の息も整わないまま気遣いをくれる景時に、望美はうっすら微笑んでみせた。  
「……だいじょぶ、だから……ね?」  
あまりに気丈なその笑みに惹かれるように、景時はそっと口づける。  
繋がったままの口づけで、中にある景時のものが身体の動きに連動し、ズルリと動く。  
「は、あっ……」  
こぼれ落ちたのは甘い声。  
「望美ちゃんも……気持ち良くなってくれてるんだ」  
緊張が解けた身体が快感を得ていることに勢いづき、抱く腕に力を込める。  
「……動く、よ」  
囁いて……軽く、刻み込んだ。  
「は、んぁ……ん、ふ、ぁ」  
動きに合わせて、望美の嬌声が響く。  
少しずつピッチも振れ幅も増して、比例して声のトーンも高まる。  
「あ、あ! ん、んッ、ぁん、あ、っ」  
背に縋った手がもどかしく這い、やがて耐え切れず爪を立てる。  
快感の峠が近い証だろう。応えるように、景時の動きも激しさを増した。  
「あん! や、あっ、あ、くっ、あぁ、あ、あッ!」  
がくがくと揺さぶられながら上げる切なげな喘ぎは、もはや意味をなさない。  
快感を堪える景時の顔にも汗の粒が浮かび、ぐっと眉間にも皺が寄る。  
望美の快感が高まるにつれて増す締め付けに、即座にしぼりとられるような錯覚すら覚えた。  
「っく、景時さん、かげときさんッ……!」  
悲鳴のように呼びながら、望美の身体が強張る。  
それと同時に、動けないほどきつく締め上げられて、景時も限界を越えた。  
真っ白な視界のなか、温かなものに抱きしめられ、胎内で熱いものが弾ける。  
そこから、何か澄んだものが五体を駆け巡るのを感じて、望美は瞳を閉じた。  
 
望美が目を覚ましたのは、自分に割り当てられた部屋だった。  
あれから何度かして、そのまま気を失ったはずなのに、夜着に包まれた身体から、その痕跡は感じない。  
しかし夢ではない、確かに金気が増しているのがわかる……  
「って、ことは……」  
景時が、後始末と身仕度をさせて、運んでくれたのだろう。  
それに思い至り、望美は羞恥に崩れ突っ伏した。  
確かに、一緒に起きて、みんなに会うのは恥ずかしいけど……  
「これはこれで恥ずかしいよ……」  
呟いて、望美は布団を被り直した。  
朔に起こされるまで、寝直してしまおう。  
瞳を閉じたその顔は、ほのかに朱に染まっていた。  
 

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