その部屋は、もう明かりが落とされているのか、真っ暗だった。  
「敦盛さん……お邪魔します」  
「み、神子……来てしまったのか……」  
中から聞こえる小さな声で敦盛がまだ起きていると知り、望美は障子に手をかけた。  
す、と障子を開けると、暗い室内からは慌てた気配。一拍置いて、燭台に火が点された。  
「神子……私は、無理だ。あなたまで穢れてしまう……」  
敦盛は、ほの赤い頬をしながら、真剣な眼差しで言う。  
「そんなことありません」  
障子を後ろ手に閉めて、望美はそっと敦盛の側へ歩み寄った。  
すでに床に付いていた敦盛は、薄手の夜着一枚に身を包み、  
普段は結い上げる髪を流して、見ようによっては姫君にも見える。  
その髪を手に掬って、望美は微笑んだ。  
「こんなに綺麗な敦盛さんだもの、絶対平気です」  
「い、いや……そういうことでは……」  
わかりやすく照れた敦盛の頬に、手を滑らせる。  
「わたしのこと……はしたない、って思うかも知れないけど……嫌いにはならないでくださいね」  
 
囁きと共に贈られたのは、微かに震えるくちびる。  
押し当てるだけのそれをそっと離して、真っ赤な顔で微笑んだ望美は、  
膝の上で固く握られた敦盛の手を取った。  
「神子……?」  
幾度か撫でてその掌を開かせると、緊張にしっとりとしたそこに瑠璃色の石が見える。  
「敦盛さんの、珠玉……」  
あるかなしかの呟きを漏らし、望美はその石にくちづけた。  
「あ……っ?」  
ぴくん、と敦盛の肩が震える。気の流れに繋がるその石は過剰に敏感らしい。  
しかし敦盛が神子を拒絶出来るわけもなく、俯いて耐える敦盛のそこに、望美はくちづけを繰り返した。  
最初は触れるだけだったくちびるが徐々に食むような動きで石の表面を撫ではじめる。  
火照り出した身体の熱が腰に溜まり、切っ先をもたげはじめる感覚に、敦盛は焦った。  
「み、神子……駄目だ、やはり……できない」  
高ぶり始めたそれを隠すように身じろぐ敦盛に答えないまま、望美は珠玉に舌先で触れた。  
「っく!」  
中心を嘗められたような鋭い快感に唇を噛む敦盛に構わず、望美は舌を這わせた。  
半分ほど埋まりこんだ珠を、尖らせた舌先で舐めまわす。  
 
「っ、ょせ……、み、こ」  
声を殺す程度の抵抗しか出来ず、身もだえる敦盛の肩を突き、横たえる望美。  
「敦盛さんが無理なら……いいよ。私が……する、から」  
何か決意したような瞳で、その場に立ち上がると帯を解き、自ら着物を脱ぎ捨てた。  
柔らかな朱色に照らす灯りが、望美の肌を闇に浮かび上がらせる。  
「神子……」  
敦盛には、即座に身を起こし望美を止めることも出来たはずだった。  
しかし、望美の語る昔語りの巨人がそうされたように、  
敦盛の身体も地に縫い止められてしまったように感じた。  
 
彼女の瞳にか、気圧されてしまって身体が竦むのだ。  
望美自身、不慣れなことである。緊張で、膝も笑っている。  
しかし、やるときめたことなのだ。すでに動き始めてしまったのだ。  
引き返してしまうには、望美自身の信念が邪魔をした。  
絶対救うと決めたのだ。あの時のような……仲間を失うような……辛い思いは、したくないのだ。  
敦盛の胸の横にひざまづき、もう一度だけくちびるを触れ合わせる。  
それに許しを得たかのように、望美は唇を敦盛の首筋にずらすと、下肢に手を延ばした。  
身もだえる敦盛に寄り、すでにやや乱れた袷から怖ず怖ずと指先を忍ばせ、  
下履き越しにもはっきりと高ぶった敦盛のものに触れる。  
獣のそれに近いからか、ずいぶんと長いようなそれは下履きに窮屈そうにおさまり、力強く脈打っていた。  
「だめだ、神子、本当に穢れて……」  
止めようと伸ばした敦盛の手よりも早く、脇から侵入した望美の手の平がそれを包む。  
 
「み、神子……」  
他人に触れられる快感に一瞬竦んだ制止の手が届く前に、思い切りよく引っ張り出してしまう。  
下履きの脇、寝間着の袷から引き出したそれは熱く脈打ち、先端に滴を滲ませている。  
「敦盛さん……」  
ごめんなさい。そう小さく呟いた望美は、緩く握ったそれの先端に口づけた。  
ニ、三度軽く口づけ、それから怖ず怖ずと舌を伸ばす。  
ぺろぺろと掬うような動きでくすぐると、きゅっと目をつぶりながら先端をくわえた。  
「神子、駄目だっ……!」  
身体を起こそうとする敦盛だが、それを軽く吸い上げられると快感にびくんと竦む。  
その手が止まった隙に、望美はゆっくりと頭を上下させ始めた。  
「う、くぅ……っ」  
柔らかに擦り上げられる感触に、制止の力が萎える。  
かろうじて髪に触れた手も、引き離すほどの力は入らずただそこにあるだけだった。  
唇と連動して手も上下させると、髪に触れた指が絡めるように撫でてくる。  
徐々に力を増し、立ち上がるそれに望美の動きも速まる。  
敦盛さん、気持ち良くなってくれてるんだ……  
快感を与えている興奮に、触れられもしない望美の泉も蜜を湛えていた。  
 
「みこ……神子っ! だ、駄目だ……も、うっ」  
ぐ、と髪を掴まれて、望美は逆らわず口を離した。  
高まった敦盛のそれは天を仰ぐようにそそり立ち、今にも弾けそうに震えている。  
「こ、んな……神子、もう止せ……」  
戻られよ、と荒い息のまま囁く敦盛に首を振ると、望美は敦盛の腿を跨いだ。  
「……私の相手なんか不満かも知れませんけど……ごめんなさい」  
そう言って、ひざ頭でにじり寄ると、敦盛のものを受け入れようとした。  
しかし濡れたとはいえ触れないままの秘所は扉を閉ざしたままで、スムーズに飲み込もうとはしない。  
先端は入るのだが、その先に進まないのだ。  
「う……う、敦……盛さ……」  
苦しげに呟き、小刻みに身体を揺すってはその先に進めようとする望美。  
その姿に、ついに敦盛も折れた。  
「わかった……神子、わかったから一度、離れてくれ……」  
そう言って望美の背に手を回し、転がるように反転して覆いかぶさる。  
「こうするしかないなら……こうすることで、神子の力に……なれるなら……」  
言葉とともにくちづけて、腰を引くと入れ違いに秘所に指を這わせた。  
深い口づけに口腔内を掻き回され、細い指に秘所も掻き混ぜられて意識が熱に掠われそうになる。  
幼く見えるとはいえ敦盛も武門の子。  
それも、栄華を極めた平家の御曹司である。  
幼名を捨て、元服した時点で添え伏しもついた。  
初(うぶ)ではあるが、経験がないわけではないのだ。  
「んっく……んん、う、ふぅっ……」  
泡立った蜜がとろりと溢れ落ちる。  
自然に背に回っていた望美の指先がさまよい、  
絹の寝間着を掻き抱くように乱し始めるのを感じて、  
ようやく敦盛はそこから指を引き抜いた。  
 
「……神子……」  
ただ神子と八葉というだけの想いならば、これほどに辛くはなかろうが……  
熱に意識を乱された望美には決して届かない程度にぽつりと呟いて、敦盛はほんのわずか瞑目した。  
しかし嘆いても致し方ない。  
そもそも、怨霊であるこの身がそんな想いを抱く自体が罪深いこと……  
ただ望むのは怨霊の浄化のみ。  
そのために、こうすることが必要ならば、何を惑うことがあろうか。  
「……力を、抜いて。楽にしていてくれ……」  
もともと低い声がさらに低く、艶を増して響く。  
ぞくりと走り抜けた痺れが去った直後、僅かに緩んだ瞬間に合わせて突き入れる。  
「っああぁ!!」  
不意打ちに最奥を突き上げられ、悲鳴に近い嬌声が上がる。  
「っあ、神子、駄目だっ……!」  
硬直した身体に締め付けられて、  
散々高められていた敦盛のものは一気に関を越えてしまい、搾り取られるように放ってしまう。  
熱いものが中で弾け、それから浄いものが五体を巡るのを感じた望美は敦盛が達したことを悟った。  
同時に、覆いかぶさるように抱きしめたまま荒い息をつく  
敦盛のものが萎えないまま、繋がっているのも、その確かな存在感でわかった。  
胸に縋り、息を整える敦盛がかわいくて、  
抱き返した腕に感じる体温の熱さにたまらなくなり、望美は思わずねだる。  
 
「敦盛、さん……くちづけて、ください」  
「……神子」  
応じた敦盛が身体を起こすと、繋がったままのそれがぐりっと内壁を擦り上げる。  
「っはぅ!」  
びくっ、と身体を震わせる望美に、敦盛の控えめな欲も煽られた。  
五行を高めるためだ、そんなもっともらしい免罪符の元に律動をはじめ、欲に我を忘れる。  
くちづけて、舌を絡めて、吸い上げて。  
熱いくちづけよりも激しく、敦盛の動きは望美を追い詰める。  
胸元を吸い上げ、白磁の肌に紅い紅い華を咲かせて……  
「っあぁ、敦盛さん、敦盛さっ……!」  
幾度めかの頂点に、ともに意識を白く飛ばした。  
 
……翌朝。  
望美が目を覚ますと、目の前に敦盛の静かな寝顔があって、一瞬あまりの驚きに声を失った。  
淡く闇の残る時分に珍しく目覚めたのはそのせいらしい。  
べたつく身体をどうにかしようとそっと布団を抜け出ると、身じろいだ敦盛が小さく呟いた。  
「……ん……みこ……」  
「……私の夢、見てくれてるんですか」  
側に脱ぎ捨てたままだった小袖を羽織りながら、起こさないようにそっと言葉を掛ける。  
「……もう少しだけ……おやすみなさい」  
敦盛の秀でた額に唇で触れると、望美は静かに部屋を後にした。  
皆が起き出す前に温泉を使って、こっそり自分の部屋に戻ってしまおう。  
決めた望美の足取りは、心なしか軽かった。  
 

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