燃える里。友達。父。母。  
襲い来る怨霊。  
泣き叫ぶ私。  
私を助けてくれたあの人。  
優しく微笑むあの人。  
清らかなあの人。  
―――そして。  
 
「お姉ちゃん、後ろ…!」  
 
―――また、あの夢だ。  
私は跳ね起きた。  
身体が思うように動かない。  
心臓がこれ以上ないほど早鳴っている。  
十数年たった今でも忘れない。  
あの日、あの時、あの瞬間。  
私のせいであの人は怨霊に―――  
 
大丈夫だ、大丈夫。  
あの人は死なない、私が守るから。  
心を強く持て。  
私にしか彼女は守れないのだから。  
逆鱗を持つ私にしか。  
あの人のために生きている私にしか。  
大丈夫。あの人をこんなに愛しているのだから。  
 
「は、、――っ、」  
下半身に手を伸ばす。  
そこはすでに硬く反り返っていた。  
あの人のことを想いながら、  
わたしはそれを根元から先端まで擦り始めた。  
あの人について、私の知っていることは少ない。  
名前すら知らない。  
だけど。  
 
「――好きっ、大好き――ぁ」  
耳に心地よい声。  
厳しくも優しい瞳。  
瑞々しく形の良い唇。  
絹のように滑らかな髪。  
無駄のない、柔らかな肢体。  
この世の誰よりも清らかで美しい心―――。  
瞳を閉じればいつだって浮かびあがる。  
あの人だけだ。  
私の心をこんなにも捉えて離さないのはあの人だけだ。  
私の―――私の運命。  
「――ん、くぅ、あ、あぁっ!」  
 
力の抜けた身体で横たわったまま、空を見上げてみた。  
とても美しい星空。  
―――この空は、あの人のもとへと繋がっているのだろうか。  
”あの人に会い、守り通す。  
願わくば、想いを伝え、指を絡め、睦みあう”  
この先くると信じて疑わない未来を思いながら、私は眠りにつく。  
 
今宵は、満月。  

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