最初は、ただの好奇心だった。  
 限られた一部の者への口伝と伝承だけに語られてきた『龍神の神子』という存在。  
陰陽の陽を司る白龍と陰を表す黒龍、それぞれの龍神が一人ずつ選ぶ斎姫。  
当代では、源氏の軍奉行の妹姫が『黒龍の神子』だと聞いていた。  
 しかし、黒龍の神子の鎮魂の力はあくまでも怨霊を鎮めるもので、封印の力ではない。  
それでは、怨霊を生み出し使役する平家に太刀打ち出来ない。  
 かといって、事は単純に平家が有利と言い切れる訳でもなかった。源氏には院宣という大義があり、  
また地方の武士や豪族の心情は、既に貴族と化した平家より源氏に近しい。  
今は中立でも、いずれ源氏に味方する可能性は高い。  
 そんな拮抗とも膠着ともつかぬ戦況の中、不意に現れた『白龍の神子』――怨霊を封じ、浄化する唯一の存在。  
 勝敗の行く末を、いかに神子とはいえ、たった一人が支配するなどあり得ない。  
だが、大きな影響を与えることも疑いない。  
 ならば、調べる必要がある。その力が本物か否か。  
 神子が本物なら、ヒノエは熊野別当としてそれに応じた対処を採ることになる。また、紛い物であっても、  
駒として使えるならその利用方法を判じることもあるだろう。故に、烏や人を介して得る情報からではなく、  
直接、この目で神子の為人を正確且つ完璧に確かめる必要があった。  
 神子の存在が源氏の益となるだけならいいが、熊野に害を及ぼすなら。  
 ――この地を危ぶませる存在となるなら、捨て置くつもりは欠片もなかった。  
 
 身を潜めていた六波羅で、偶然に出逢った白龍の神子姫。春日望美と名乗った少女への印象は、  
良くも悪くも『普通』だった。  
 甘い言葉を優しく囁けば頬を染める。美しいものを見れば顔を輝かせ、珍しい唐菓子を贈れば嬉しそうに笑う。  
 それは、深窓の姫君には稀だろうが、市井の娘ならごく当たり前の反応だ。強いて『普通』の少女でない点を  
挙げるとすれば、守りたいものがあるのだと自ら剣を取り、戦いに――しかも前線に赴くところだろうか。  
 ヒノエ自身、戦う女を知らない訳ではない。数こそ少ないが女武者は古来より存在するし、熊野の烏には女もいる。  
それでも、大原で怨霊と遭遇した際、望美が躊躇いもせずに剣を構えた瞬間だけは、軽い驚きを覚えもした。  
 けれど、彼女は『姫君』ではなく『神子』で、戦える以上は戦場に立つことも当たり前だと――少なくとも、望美自身は  
そう思っているらしい。大人しくしていれば、触れなば落ちんとした風情の少女なのに。  
 浅慮で身の程知らずな行動や、自己満足の正義感に付き合わされるのは煩わしい。だが、望美にはそれだけの実力が  
伴っていたから、『守りたい』というその言葉と想いは、素直に好ましいと感じた。  
 花のように可憐な愛らしさと、凛然とした涼やかさを具えた容姿、やわらかな声音、すらりとしたしなやかな肢体。  
怜悧な聡明さと少しばかり勝ち気な気性。どれも、ヒノエの好みに適う。  
 ――手に入れるのも、悪くないかと思った。  
 八葉の中には、明らかに彼女に片恋している男もいる。だが、望美の瞳に宿る想いは、ヒノエに向けられる時だけは  
艶やかに色を変える。  
 他の者に向けられる時は信頼を映した瞳が、ヒノエを捉えた時、淡い恋慕を宿す。  
 
 こちらがその気になった時点で叶い、成就する恋は――容易く叶う遊びは、ヒノエの好むところではない。  
 ヒノエにとって恋は戯れ事であり、駆け引きの手練手管を試す機会に他ならない。相手を振り向かせる過程こそが  
楽しいのであって、肉体的快楽には、然程の関心はない。所詮、入れて、動いて、出すだけの行為だ。相手が違ったところで、  
どれほどの差異があるのだろう。身体の相性がよければ、多少快楽が深まる――それだけのことだ。  
 だから、既に自分に恋している女など、普段なら戯れの相手にさえならない。  
 とは言っても『神子』という不可侵の存在を恋に堕とすのは、面白いとも思った。大切な神子姫の恋の相手が  
熊野別当とは、源氏方としては何としても防ぎたい事態だろうが、妨げられるほど楽しめる。  
 あんな花を手折る機会は、そうはない。  
 純潔を失って尚も神子であるなら、熊野に連れ帰ってもいい。いや、神子の能力を失おうとも、その名が残るなら充分だ。  
 望美は『神子』という立場だけでも使える存在だった。既に源氏の兵達には戦女神の如くに崇められ、慕われている。  
それは、彼女が在るだけで、鎌倉方への牽制になるという事実を指し示す。加えて、剣技だけでなく頭の回転も良く、  
戦況の判断も的確だ。ただ蝶よ花よと愛でられて育った姫達よりは、余程役に立つ。  
 仮に政治的に役に立たなくても、子を産むことは出来る――次代の別当となる子を。母の身分が重視されるのが常ではあるが、  
既に勢力を失いつつある貴族の身分よりも『龍神の神子』という希少性と神秘性の方が付加価値は高い。  
 多少の労は惜しまずに、手に入れるだけの価値はある。  
 どうせ、いずれは妻を娶って子を生さねばならない身だ。熊野の役に立つ上、ヒノエの好みにも適う女なら充分だと思った。  
 
 清盛を浄化して平家を打ち倒した後、源氏と熊野の船団は、一旦鎌倉に向かうことになった。  
 その凱旋の夜、熊野水軍の船の中で、望美はヒノエに抱き込まれる形で身を預けていた。  
「ねえ、姫君」  
 殊更に低めた声で、可愛らしい桜色の耳朶を嬲るように囁きかける。吐息が触れたのか、  
びくりと反応する様がヒノエの笑みを深くする。  
「熊野に、おいで」  
 そうして、オレのものになればいい。  
 誰よりも大切にして、誰よりも幸せにしてあげる。  
 お前が、オレの役に立つ間は。熊野に利をもたらす間は――大切に、愛していてあげる。  
「ヒノエ、くん……」  
 戸惑うようにヒノエを見上げてくる瞳は、どこまでも澄んで深い。  
「でも」  
「聞きたくない」  
 なめらかな頬に指を這わせながら、ヒノエは嫣然と笑んだ。  
 望美の肌はどこまでも肌理細やかで、快い。  
「是の答えしか、オレは聞かない」  
 ゆるりと押し倒されると、床板から波のさざめきが直に身体に伝わる。  
揺れる波間に投げ出されたような錯覚を覚えて、望美は思わずヒノエにしがみついた。  
「今まで待ってあげたんだ。お前の気が済むように、お前が決着をつけるまで……ね」  
 望美の前髪をそっと払い、額に唇を落とす。次いで瞼に、頬に、頤に。触れるだけの口づけを繰り返しながら、  
ヒノエは甘く告げる。  
「もう待たない。……オレの傍で、オレの為に、生きて」  
 望美はぎゅっと固く瞳を閉じた。  
 蟲惑的な、甘い毒を含んだようなヒノエの声は、望美の思考を溶かしてしまう。狂わせてしまう。  
 ――駄目なのに。  
 きっと、苦しくてつらくて悲しくて。  
 何度も泣くことになるだろうとわかるのに――ヒノエの言葉に逆らえない。拒めない。  
 傍に、いたい。  
 ゆっくり瞼を開くと、ヒノエの瞳に映る自分が見えた。  
 深く、それでいて綺麗に澄んだ紅に、吸い込まれそうになる。――囚われる。  
 黙って彼の頬を包み、そのまま引き寄せて唇を合わせた。  
 初めて交わした、くちづけだった。  
 
「……っあ、は……っ」  
 あえかな声で喘ぎながら、望美は肢体をくねらせた。  
 既にどこを触れられても感じるのか、ヒノエの指先ひとつにも震え、甘い嬌声を響かせている。  
 優美な曲線を描く身体の稜線を辿り、手のひらを這わせるだけで跳ねる過敏な反応と、  
必死に声を抑えようとする様がヒノエを楽しませた。  
「……可愛いね、姫君」  
 含むように笑いながら愛撫を深めていくヒノエを、望美はきつく睨みつけた。しかしその気強い瞳も、  
次の瞬間、甘やかに歪む。つんと立ち上がっていた胸の頂を、ヒノエがやんわり噛んだのだ。  
 痛いほどに張りつめて艶やかに尖ったそれを、ヒノエは口に含んで舌を絡ませ、転がすようにつつく。  
時に歯を立てられ、時に濡れた舌で塗り込めるように押し潰されて、望美はただ喘ぎ、身悶えるしか出来ない。  
「あ、や、……っあ……!」  
 己の身体の下に組み伏せられ、快楽に震え戦慄く神子姫は、扇情的で悩ましい。従順にヒノエの愛撫を受け入れて、  
男の征服欲と支配欲を満たしてくれる。  
 だが、それだけだ。  
 愛してなど、いない。  
 ――彼女は、熊野の役に立つ。確かに、その点に於いては愛しいと想わないでもないけれど。それは気に入りの道具を愛でるのと同じ類の愛情だ。  
 ヒノエが愛するのは――身も心も命も、魂さえ捧げて惜しまないのは、あの美しい熊野の地だけだ。  
 だから、熊野の為に必要だというなら、この少女を愛することも出来る。  
 心から愛し、慈しんで、大切に大切に守り続けてやろう。たったひとつの宝物のように。  
 オレの望みに副う間は。  
「…………っ!」  
 白い大腿を撫でていた手を下肢の付け根に滑り込ませると、望美の身体が大きく震えた。  
 それを無視して、硬く閉じられた秘花をするりと撫でれば、指先に熱く濡れた感触が伝わる。  
「……濡れてる」  
 ひそやかに囁いたヒノエから逃れるように、望美は両腕で顔を覆い隠した。その如何にも生娘らしい反応に、  
ヒノエは喉の奥で嗤う。  
「でも、もっと濡れないと。後でつらいよ」  
 望美が瞬時に頬を染めたのが、腕の隙間からもわかる。  
「だから、素直になって」  
 細い脚を押し開いて自分の身体を割り込ませ、彼女の意志では、秘めた部分をヒノエの視界から隠せないようにする。  
 その花弁の薄い桜色は、男を知らない証のひとつでもある。露を含んだ花のように濡れた部分を幾度か撫でると、  
望美の唇から抑えようのない甘い声が零れた。  
「あっ……んぁ……っん……!」  
 ――いい声だ。この神子姫は、身体だけでなく声も心地よい。特にこんな甘くねだるような淫靡な声は、  
自分しか知らないと思うと、ぞくぞくした。  
 
 清らかで優しい、天人のごとき龍神の神子姫。  
 それを地に引きずり堕ろし、遊び女のように蹂躙して乱れさせられる男は自分だけだと思うと、  
何故か笑い出したくなるほどの悦楽を感じる。  
 この、真白に美しい神子姫には、心も身体も、魂までも穢して傷つけてしまいたくなるような――  
そんな歪んだ嗜虐心を覚えさせる風情があった。  
 けれど、その昏い想いとは裏腹に、ヒノエの指先は優しく花弁を割り、溢れた蜜を絡めながら、  
傷つけないようにゆっくりと望美の秘花に埋められていく。随分と濡れていたから痛みは薄いだろうと思ったが、  
望美はちいさな声で痛い、と泣いた。  
「仕方ないな」  
 初物は面倒だと思いながらも、その反面、不快ではなかった。  
 処女を抱くのは初めてではないし、個人差はあるようだが、破瓜の痛みは避けられないものだと知っている。  
だが自分は男で、そんなものとは無縁なのだから、気遣うだけ面倒だった。  
 けれど、望美が痛みに泣くのは見たくないような気がした。  
 望美を女にするのはヒノエだ。それだけを感じ、覚えていればいい。痛みなどは知らぬままに、悦びだけを  
味わえばいい。  
 そう思った自分を一瞬だけ不可解だと思ったが。痛がる女を見て快感を覚える性癖はないからだと思い直して、  
愛撫を深めることに専念した。  
 ――そうだ。快楽だけを分け合う方が楽でいい。  
 どうせ、この行為に、愛などないのだから。  
 愉しいことだけを追い求めればいい。  
 ヒノエは、自分一人が快楽を覚えるよりは互いに分け合う方が好きだったし、必要とあれば相手だけを堕として  
溺れさせることもままあった。だが、望美は間違いなく初物で、しかもあの気丈な性格だ。最初から耽溺させようとは  
思っていない――それは、先々の楽しみとする。今はただ、ヒノエに溺れればいい。  
 薄く笑みを刷いて、ヒノエはそっと瞳を伏せ、愛液を溢れさせた秘花にくちづける。途端にしなやかに跳ねた  
望美の腰を容易く押さえ込んで、とろりと零れる蜜を吸った。  
「や、ヒノエく……ぁんっ……や、だ……っ」  
 顔を覆っていた腕を解き、半身を起こして逃れようとする望美の抵抗を奪うように、ヒノエは望美の裡に  
舌を挿し入れた。指よりもやわらかく熱いその動きに、望美の身体から力が抜ける。  
 身体の方は素直だと笑いながら、ヒノエは溢れる蜜を啜り、しなやかな指先で、熟れたように色づいた蕾を  
緩く撫であげた。  
「ひ……っあああっ!」  
 くるりとまるく円を描くように撫で、次いで押し潰す。その刺激だけでも恐ろしいほどの快楽が押し寄せるのに、  
更には内部に挿し入れられた舌がぬめるように蠢いて、望美は息も継げないほど喘ぎ、悶えた。  
「や、駄目……ゃん、いや…………っ!」  
 望美は頭を振りながら拒絶の言葉を吐いた。けれど細い脚はもっと、とねだるようにヒノエの身体に絡みついている。  
ヒノエが殊更にゆっくり舌を引き抜こうとすると、望美の内壁はそれを惜しんで淫らに吸いついてきた。  
 
「姫君の言葉はオレを拒むけど、身体は離れないでって縋りついてくるね。どちらがお前の本心かな」  
 ふふ、と甘く微笑いながら、ヒノエは少し上体を起こして望美の顔を覗き込む。扇情的に染まった頬は  
あでやかに艶めかしく、瞬間、目を奪われた。  
 囚われかけた意識を取り戻そうと、きつく唇を噛む。微かな痛みによって意識を自制下に取り戻し、  
ヒノエはその指で望美の秘花を暴いた。  
「……っ、あ……っ」  
 埋め込まれた指が、濡れた水音を奏でる。それが示す意味を悟り、望美はきつく眉を寄せて羞恥に耐えた。  
望美が視界を閉ざしていても、ヒノエが何も言わなくても、彼の視線がそこに注がれていると、感覚が伝えてくる。  
 ――どれほど感じて濡れているかなんて、自分が一番わかっていた。  
 押し殺すほどに零れる嬌声を必死に殺し、身体の中で荒れ狂う快楽を受け流そうと努めてみても、ヒノエの指が  
少し動きを変えるだけで、それは徒労に終わる。  
 あの綺麗な指が自分の中で動いていると思うと、眩暈がしそうだった。過ぎる快楽は、恐怖にさえなる。  
「ヒノ、エ……く……っ!」  
 もうやめて、と泣きたいのに、言葉を紡ぐことも出来ない。ヒノエの指が与える快楽は、繊細でいて荒々しい。  
「……ぃや……!」  
 掠めるように触れただけで、望美が鋭い快感に貫かれる一点を探り当てたヒノエは、そこを重点的に攻め、  
擦り上げるように刺激した。その度に、望美の唇から乱れた悲鳴が甘く漏れる。  
 ――彼の指先ひとつに、踊らされている。  
「いや、そこ……や、あ……ぁん、いや……っ」  
「へえ……嫌?」  
 くっと喉の奥で笑って。  
 ヒノエは、望美の中に埋める指を増やした。二本の指が狭い路を押し広げるように蠢くと、妖しく蠕動する襞が  
それに絡み、きつく締めつける。  
「……っ、凄いな」  
 引きちぎられるかと思うほどの締めつけに、ヒノエは思わず呟いた。しかしその声は、深い快楽に呑まれて彷徨う  
望美の意識に届くことはなかった。  
「あ、あ……っあ……」  
 がくがくと痙攣する望美の限界が近いことを見て取ると、ヒノエは彼女の細い脚に宥めるようなくちづけを落とし、  
蜜に濡れた指をゆっくり抜いた。とろりとした銀の糸が、儚く二人を繋ぐ。  
 滴るほどに濡れたその秘花に、ヒノエが自身を宛がって蜜を絡めさせると、そんな緩やかな刺激にさえ反応して、  
花は甘い芳香を振りまいた。  
「ぁ……ヒノエ、くん……」  
 その香りよりも甘い声に縋るように呼ばれ、ヒノエは更に自身の熱が高まったことを悟る。  
 
「……神子姫、か……」  
 ヒノエの口元が嘲笑の形に歪む。  
 こんな『神子』がいるものか――これは既に、ただの女だ。  
 こんな甘い声で、艶めいた表情で男を誘うモノは、斎姫ではなく淫蕩な『女』以外にあり得ない。  
 何となく、望美の唇が欲しくなった。その声と同じく、吐息まで甘やかな唇が欲しい。  
 噛みしめられて紅みを増した唇に、自らの薄い唇を緩く合わせた。当然、合わせるだけでは足りず、深く重ねて貪る。  
 呼吸だけでなく、身の内にあった異物感と快感を奪われたことが物足りなくて、望美はヒノエにしがみつきながら  
彼の舌を追った。  
 それに応えるように深く激しくなるくちづけに、望美の意識の全てが集約した瞬間。  
 下肢に、灼けるような熱が走った。  
「――――……っ!」  
 大きく見開かれた望美の瞳が瞬時に力を失い、露に濡れて潤んだかと思うと、大粒の雫になる。  
 すべらかな頬を伝い流れるそれは、ヒノエが動く度に揺さぶられる望美の身体を彩るように、きらきらと舞い散った。  
「……っ、力、抜けって」  
 少しだけ唇を離してそう囁くと、ヒノエは再び望美にくちづけながら細い腰を抱き、きつい抵抗を押し開くように  
彼女の最奥に当たるほど深く抉った。  
 望美の中は不規則に蠢いて、時にきゅうっと絡んでくる。ヒノエ自身のかたちを確かめるように、なまめかしく  
纏わりついたかと思うと、それに反応して硬度と大きさを増したヒノエを挑発するように、きつく締めつけた。  
 事前に存分に濡らした効果か、破瓜の出血の為か――望美のそこは、ヒノエの動きを滑らかにさせようとするかの如く、  
熱くやわらかく、淫らにぬめる。  
 唇を塞がれて痛みを訴えることも出来ず、呼吸さえままならない。そんな中で、望美はヒノエに抱かれた。  
 いつしか麻痺したのか、身体は貫かれて翻弄される痛みに慣れてきた。腰の奥からは、時折、疼くような快感が走る。  
 微かな快感を追い始めた望美の身体から力が抜けたことを感じ取って、ヒノエはくちづけを止めた。  
「……悪い。止まらない」  
 一言だけ詫びる。  
 望美が初めてなのはわかっていたから、そこそこに楽しむつもりだった。  
 熊野にとって、大切な神子姫。壊さないように傷つけないように愛しむつもりだったのだが、男の本能も、  
またどうしようもないものだ。  
 この姫君とは、随分と身体の相性がいいらしい。  
 それはそれで結構なことだと胸の内で笑って、ヒノエは快楽に集中することにした。律動を速めながら、  
目の前で果実のように揺れる乳房を揉みしだく。  
「あ……ヒノエく……っ」  
 望美の耳朶を、ヒノエの荒い息遣いがくすぐる。その吐息に煽られ、胎内にあるヒノエをきつく締めつけた。  
 きつくて熱くて、――心地よい。  
 隙間なく絡みつき、擦り上げる動きが、ヒノエに強い悦楽を感じさせる。  
 
 惑溺するようにヒノエは深く穿ち、鋭く抉る。望美の最も奥深い部分を突いて、ギリギリまで抜く。  
ただその繰り返しなのに、絶妙に変化をつけた動きを繰り返すほどに、快感は強くなる。  
 喘ぐ望美の吐息が、更なる相乗効果をもたらしていた。  
 縋るように、ヒノエの背中に手を廻した。触れる肌は微かに汗ばんでいて、彼が快楽を感じていると教えてくれた。  
 それだけで、望美はこの上なく幸せだった。  
「あ……っ、ん……っ……っああああああっ!」  
 そしてその想いに誘われて、望美の秘花は今までになくきつくやわらかく収縮してヒノエを絡め取り、奪い尽くす。  
「……く……っ」  
 とけるような快楽に逆らわず、低く呻いて、ヒノエは抑えていた熱を望美の中に解放した。  
 行為の最中、望美の手はずっと握り締められていたことに――自らの手のひらを傷つけるほど爪を立てて  
耐えていたことに、ヒノエは気づかなかった。気づけなかった。  
 彼女がいなくなった、その日まで。  
 
 
 

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