困ったことになった。  
望美は頭を抱えていた。幾つもの時空を越えて、知盛を生かす運命を作れたはいいものの、まさかこんな事になるなんて――……。  
 
「神子様、いえ……十六夜の君。貴方が兄上を想っていようと構いません、私は貴方をお慕いしております」  
「やめておけ、重衡。こいつは俺しか眼中に無いらしい。――なあそうだろう? 神子殿」  
知盛に背後から問いかけられ、腕を引き寄せられる。  
「あの時のお前は、俺を最高に湧き立たせる程に熱かったぜ……?  
クッ、あんな情熱的に乞われては、応えないわけにはいかないな」  
「と、知盛!!」  
「神子様……既に兄上とそのような仲に?」  
蒼白い顔を浮かべ、目を見張る銀。  
「ち、違う! 違うからっ! もう、そんな云い方したら誤解されちゃうでしょ」  
さっきからずっとこんなやり取りが続いている。  
ああ、もう困った……。  
望美は深々と溜息を吐く。  
 
源氏、平家の和議が結ばれ、世は平穏を取り戻した。  
知盛を助ける為に、何より争いのない世界の為に戦い続けた望美の行いが報われたのだ。  
知盛を引き連れ、京都の家まで帰ってきた望美だったが、良いのか悪いのかそこに兄を引き戻しに参上した銀が現れてしまい、――――今に到る。  
 
銀は「十六夜の君」である望美に横恋慕、兄の知盛は勿論、自分と対等に闘い、その闘いの最中心酔した望美を手放す気などなく、不毛な三角関係の争奪戦が始まったのだった。  
 
「兄上も神子様を慕っていると申されるのですね」  
「まあ……な。俺の為に時さえ越えるような女だ。渡したくないと独占欲が湧いても……仕方ないだろう?」  
「私が、神子様を渡して欲しいとお願いしてもそれはお変わりありませんか」  
「ない、な。お前も一人前の男なら――惚れた女を容易く譲ってしまうのは面白くないと分かるだろう?」  
双方の狭間で望美は狼狽えて、どうすればいいのか考えあぐねていた。雰囲気は陰陽のように真逆であるのに、言っても聞かない頑固具合はそっくりだ。  
「はい。兄上の覚悟は分かりました。ですが――私とて神子様を誰かに渡す気などありません。例え神子様……貴方が他の誰かを求めていようとも」  
「埓が明かない……な。やるか」  
抜刀し、剣と槍を手に向かい合う二人。張り詰めた緊迫が昇る。  
「や、やめてよ!!」  
望美は慌てて二人の仲裁に入った。せっかく平和への道を辿れたのに、兄弟喧嘩なんて見たくもない。悲しげに眉を寄せる望美を見て、冷静さを取り戻したのか銀は槍を下ろす。  
「……神子様……貴方にそのような顔をさせてしまうとは……申し訳ありません」  
「ううん、別にいいよ。でも、もう喧嘩しないでね」  
「それは――神子様……いくら貴方様の願いであってもお聞き出来ません」  
「何で?!」  
「決着は着けなくては……必ず兄上を倒して貴方を手に入れてみせます」  
呆れた強情さに望美は益々頭痛を覚えた。  
 
そういえば小さい頃、譲君と将臣君が喧嘩を始めた時も決着が着くまで止めなかったっけ。男の子ってそういうものなのかなあ。  
 
「う〜ん……しょうがないなあ。分かった。でも武器で戦うのはやめてね。穏便な方法で決着を着けるならいいよ。ゲームとか」  
「げーむ……とは何だ?」  
「えっと、決まり事を決めて行う遊びみたいなものかな。おはじきとか、かるたとか」  
「おはじき……ね。重衡、神子殿は子供のお遊戯で奪い合われることをご所望のようだが、どうする」  
「構いません。それが神子様の望みならば」  
「俺も構わない、と言いたい所だが……生憎、この歳で子供の遊びをする気はないな。どうせするならば同じお遊戯であっても――」  
口唇が艶めかしく蠢いて、続きを形作る。  
「大人の遊戯がいいだろう?」  
低く擦れた声と、乞う視線。  
全てが誘うように妖しく映り――望美は思わず顔を赤くする。  
「そう……だな、神子殿に選んでもらうとするか。どちらがより“神子殿”の意に沿うのか」  
知盛の抽象めいた比喩に望美は、疑問符を浮かべる。  
知盛の話は、赤面するくらい直球の時もあれば、首を傾げるほど難しい時もある。勿論、今は後者だ。  
「兄上……」  
が、聡い弟は気付いたらしい。  
本気かと言いたげに知盛を見据える。  
 
「どうした? 臆したのか重衡。ならば勝負はここで終わり……だがどうする、やめるか」  
「いえ……受けて立ちます兄上」  
「だそうだ、神子殿。――文句はないな」  
二人の眼差しに迎えられて、望美は軽い気持ちで「うん」と頷いた。  
知盛が妖笑を滲ませる。  
生け捕りになった鳥を愉しむ目付きだ。渦中の鳥――望美は罠にかかったことさえ自覚せずにいた。  
知盛の意味ありげな視線、それが何を意味するか――分からぬままで。  
 
「では、参りましょう神子様。私共の邸にご案内致します。勝負はそこで執り行いましょう」  
「うん、わかったよ」  
 
二人に連れられて、望美は平家の邸にやってきた。豪奢で広い室内に、望美はキョロキョロと視線を彷徨わせる。  
大きな屋敷だ。  
望美がいた邸も広々としていたが、慎ましい質素さがあった。  
平家の邸は広いだけでなく煌びやかで、飾り立てられている。館主――清盛の趣味なのだろう。  
仕度があるからと銀は消えた。  
暫くしてから邸内の奥、人気のない間に通された。  
 
「神子様、どうぞこちらへ」  
銀に手を引かれ、中に入る。  
 
「ありがとう、銀……じゃなかった、えっと重衡……さん」  
「いいのですよ、神子様のお好きな呼び方で構いません」  
「じゃあ銀」  
「はい」  
 
久しぶりに見た銀の柔らかい笑みに、知れず鼓動が高く鳴る。  
それに目ざとく気付いたのは知盛だ。  
「おや、神子様は移り気なことだ、昨晩は……あれ程激しく俺を求めていたのに――もう心変わりと見える。女心と秋の空とは言ったものだな」  
「なっ……、そんなんじゃないってば!!」  
「兄上、神子様が困るようなことは申されぬよう」  
「……クッ、俺は、悪者……か」  
知盛はクツクツと笑って、望美に目を向ける。知盛は望美の視線を「射ぬくような火花」と形容したが……望美は知っていた。  
この眼差しこそが、射ぬくような刃だと。刻まれれば目を逸らせなくなる。身体が縛される。いつかの日が甦る。  
「人払いも済んだことだ。ではそろそろ始めるとするか……」  
「えっ……?」  
知盛が望美の前に立つ。影が頭上を覆う。屈み、望美の腰に手を回す。するすると衣服の結紐を解いていく。  
 
「ちょっと、知盛っ……何するの!!」  
「あまり暴れないでくれよ、神子殿? ついついその柔肌に傷をつけてしまいそうになるからな」  
 
「……っ!!」  
両腕を押さえられて、望美は動きを封じられる。それをいいことに、知盛は紐を口に啣え、望美の羞恥を刺激するように見せ付け、服を脱がせていく。  
シュルシュルと絹布が擦れる隠靡な音がする。  
「やっ、やだ……しっ、銀!! 知盛を止めて!!」  
 
銀の方に顔を向けると、あろうことか銀は背後から望美を抱きすくめた。脇の下から通された手が、腹部で交差し、がっちりと望美を固定する。  
「申し訳ありません……神子様……」  
「これは……どういう事?」  
「兄上と私の勝負です」  
「えっ?」  
「大人の遊戯で、さて、どちらが合うか……お前に選んでもらう」  
いくら鈍い望美であっても、ここまでくれば知盛の言っている事がはっきりと分かった。  
つまり二人は、望美と事に及んで、身体の相性で選んでもらおうと言っているのだ。  
「……そんな」  
 
何て安請け合いをしてしまったんだろう。今更ながらに望美は後悔した。……だが既に時遅し。  
知盛は望美の前掛けを剥ぎ取り、上着を床に落とすと下着を着用したままの胸に手を伸ばした。  
「やだってば、知盛っ……あっ」  
びりいっ。  
乱暴に胸を覆う布を剥ぐと、切れ端を床に放る。白い肌が二人の前に曝け出された。  
望美は恥ずかしさに耐えかねて目をつむる。こんな風にされるのは勿論、男性の前で肌を晒すのも初めてなのだ。  
胸の鼓動が二人に聞こえてしまうのではないかというくらいに煩い。  
「み……見ないでっ……」  
必死に声を絞りだして言うと、知盛はそれを一笑の下に伏す。  
「クッ、その願いは――聞けないな……」  
「や……あっ」  
真正面からまじまじと視姦され、恥ずかしさに目が眩む。  
「目が離せないほどに、綺麗だぜ?…神子、殿」  
知盛は望美のたわわな乳房に、五本の指を食い込ませた。  
「あっ」  
逞しい指先が望美の乳房を包みこみ、ぐっと力を入れる。形を変える胸。指の隙間から零れた乳房は、歓喜するようにぷるぷると震えた。爪先が胸の先端に触れた瞬間、望美はびくりと身体をよじらせ反応してしまった。  
「あっ……!!」  
 
望美の反応に気分を良くしたのか、知盛は再びそこを重点的に責める。  
 
「重衡……やるんだろう?  
お前も神子殿を悦ばせてやるといい。優しく、な……」  
銀は微かに頷いて、跪くと望美のスカートをそっと脱がしていった。ぱさりと乾いた音を立てて床に落ちる衣服。  
 
「あっ……銀っ」  
「神子様……」  
裸体になった望美を目の当たりにして、銀はうっとりと傅いた。  
「ああ……恥ずかしがることなどございません、貴方はこんなにも美しくあられるのですから……どうか貴方に触れて愛しむことをお許し下さい」  
「銀……、ああっ」  
 
股下で屈む銀が、望美の陰部へ顔を近付ける。生暖かい舌先が茂みを掻け入り、花弁へと到達した。  
くちゅっ……くちゅっ、ちゅぱ……。  
巧みに舌で花弁をなぞり、望美を高ぶらせていく。時折強く吸いたてては、望美の嬌声を誘った。  
「んっ、ん……はあっ」  
ちゅるっ……ぐちゅっ……。  
卑猥な水音が望美を耳から犯していくようだ。  
 
「神子様……ふふっ、もうこんなに濡らして……気持ちよかったですか?」  
「……っ!!」  
望美の太腿を、透明な液体が流れてていく。それが自分の出した愛液であることに気付いて望美はますます羞恥した。恥ずかしいと思えば思うほど、内側の一番熱い部分が感じてしまう。銀はそれを唇ですくい、口に運んだ。  
「神子様……もっと気持ち良くなって下さい。貴方が私を求めるまで――」  
「し、銀……あっ、ああん!!」  
ぐちゅっ……ちゅるっ…ぐちゅっ……。  
舌が秘部への愛撫を繰り返す。  
中まで入ってきた舌は、内側で生物のように蠢く。  
ざらついた舌が望美の愛液を啜っては、刺激をもたらす。  
「おやおや……俺を前にして、よそ見とは随分余裕だな」  
胸を弄っていた知盛が、指にいっそう力を込める。  
「痛あ……っ」  
望美は顔を歪めた。  
胸に刻まれる赤い跡。  
知盛はそれを満足そうに見やって望美の耳に言葉を注ぎ込む。  
「お前は、俺のモノ……だろう?」  
 
知盛は胸を乱暴に捏ね回しながら望美に口付けをする。  
「――――んん!!」  
 
斬りあった時を思わせる激しい口付け。呼吸すら許さないように、知盛は望美の咥内を犯していく。  
 
「んむ……んっ!」  
「っ………はあ」  
唾液が交わる。望美の口の端からは光る水が垂れて流れる。  
 
「はぁ……はぁっ……」  
潤んだ瞳で知盛を見上げると、知盛は自身の唇を、ぺろりと舐めた。  
「――いい眼だ。そそる、な……もっと……見せろよ。その乞うような眼で俺を貫け」  
「……っ」  
悔しい。  
嫌だったのに、もっとして欲しいと思ってしまう自分がいる。  
望美は沸き上がる情欲と、逃れたい気持ちの狭間で揺れ動く。  
 
「神子様、こちらに……」  
銀に背後から身体を支えられ、腰を下ろす望美。膝をついたままの態勢で、足は大きく開いた。  
ぴん、と胸の先が天を向いている。知盛が戯れに人差し指で、弾くと望美は腰を揺らして声をあげた。  
「ふああっ!!」  
「……神子様は敏感だな。もうここが硬くなっておいでだ。絶頂を迎えたらどうなってしまわれるか――」  
「あっ……ん!!」  
銀は相変わらず秘部に舌を挿入させている。上下を同時に責められて頭がおかしくなりそうだ。  
 
「……さて、神子様はどのように愛でられるのがお好みか」  
「や……だあ、離して……え」  
「神子様……嫌がらないで下さい。ここはこんなに悦びで蜜に溢れていらっしゃいます」  
「ふううっ……!」  
 
今度は銀が望美の口を塞いだ。背後から望美の顔を引き寄せて、口を重ねる。  
知盛とは打って変わって粗暴さのない優しい口付け。  
 
「ん……っ、ん……」  
望美はぼうっとした思考で銀を見上げる。  
「神子様……十六夜の君。ずっとこうして貴方に……触れたかった……御簾越しではなく――本物の貴方に」  
 
懐かしい記憶が望美の脳裏をかすめていった。  
朧月夜に出会ったあの時を。  
「あの時、御簾から抜け出して貴方を手に入れてしまえばよかった。そうすれば貴方は今頃――」  
「はっ……あ、銀っ……」  
呼吸は乱れて、擦れる。  
 
「よそ見はするなと言ったろう……?」  
望美は知盛によって真正面に引き戻された。  
「俺だけを、見ていろよ……」  
「あ……」  
知盛の足が望美の股を割って入ってくる。開かれた秘部は、熱い猛りを待ち望むように蜜で潤み、しとどに濡れそぼっていた。  
 
「俺が欲しいんだろう?」  
「知盛……」  
そうだ。私はこの人が欲しい。欲しくて欲しくてたまらない。  
気が狂いそうなほど彼を殺した。それが嫌で。いくつもの運命の中、何度も繰り返してようやく手に入れたんだから―――。  
 
望美は、こくん、と頷いた。  
「来て……っ」  
 
「行く……ぜ? しっかり捕まってろよ? 腰が砕けたくないならな」  
熱い猛りが望美を貫く。望美はあまりの衝撃に声を荒げた。  
知盛の腕にしがみついたまま、知盛が内部で蠢めくのを受け入れる。  
「はっ……ああんっ……!!」  
「っく、……狭い……な」  
「あっ、あっ、い……っ、はあっ……ああっ」  
 
知盛が動く度に、望美の膣内では愛液が入り交じり泡を立てる。  
皮壁が知盛を包んで張り付いては圧迫する。  
あまりの狭さに知盛の額に汗が滲む。それでも徐々にほぐれてきたのか、望美は時折、苦痛の中に甘い声を混じらせるようになった。  
「あっ、あっ、知盛……いっ!!」  
「いいぜ、神子殿……もっと俺を感じて……悦びと……痛みに狂え……俺にもお前を……感じさせてくれ」  
「あっ、ああんっ、はあっ」  
享楽に喘ぐ望美の、形のいい尻に銀は手を這わせる。  
「神子様……私も感じてください。私が貴方をどれだけ愛しているのか――貴方に知って欲しいのです」  
ひやりとした指先が、望美の後孔を割って入ってくる。  
「あっ、銀え…っ! 駄目え、そこは……はああんっ!!」  
制止しようとするも、知盛の動きに翻弄されて腰を自ら動かしてしまう。指先は自然と望美の後ろにくわえられて、奥へと抽入される。十分拡げた所で、銀は自身のものを取出した。  
「神子様……愛しています。誰よりも」  
ずぶっ……!  
「ひゃああんっ!!」  
銀は後ろから望美を貫いた。  
前を破瓜された時よりもなお強い痛みが望美を襲う。  
「はあ……っ、ああっ、はあっ、うっ……ん、ああんっ!! 銀……っ、銀えっ……」  
痛みは続けられるうちに、圧倒的な悦楽へと変わっていく。望美は快感の波に思考を飲まれ、ただ欲望のまま二人を受け入れてよがり狂う。  
 
「銀……気持ち……いいっ……もっと来て……奥まで来てえっ……!!」  
「神子様……!! 神子様あっ……!」  
ずちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ……!  
「ああん!! ああっ、はああんっ……はあっ」  
 
後ろでは銀が、前では知盛が休むことなく律動を続けている。  
そろそろ限界だった。足が震え、立っていられなくなる。  
「――行くぜ、神子殿」  
「――行きますよ神子様」  
兄弟は同時に告げると、律動を速めていく。  
「ああっ、あああああん!!」  
最後に望美を強く貫き――熱い飛沫を望美の中に放った。  
 
 
 
 
 
 
 
 
月が姿を見せていた。  
襖を少しだけ開き、縁側から空を仰ぐ望美。  
 
 
結局あの後――正気を取り戻した望美が「どちからがいいか」と質問してきた二人に拳骨をくわえたことは言うまでもない。  
勝負は一先ず、延長戦という形で保留になった。  
 
 
「神子殿?」「神子様?」  
 
振り返ると、知盛と銀が望美を見下ろしていた。姿はそっくりだが性格は全く違う兄弟。全く違う?  
――否。  
 
「……やっぱりちょっと似てる、かな」  
 
「何がだ?」  
知盛の不思議そうな顔に、笑みで何でもないと望美は答えた。  
 
今はまだこのままでいるのも楽しいから、いっか。  
 
戦って戦って――その果てにようやく手に入れたのは穏やかな平穏。  
その中で二人が笑っていられるなら。  
仲良く三人で過ごす日々も悪くないかな――そんな気がした。  
 
 

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