―SPIRAL―  
 
スパイラル(spiral)――渦巻線  
  転じて、渦巻を描くように状態が進みブレーキが掛からない様子のこと。  
 
             出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』  
 
 
 
 花梨が翡翠によって攫われるように伊予に来てまもなく3年になろうとしていた。  
 花梨が伊予に来た当初、島の住人達は、訊いた年よりこんなにも幼げで華奢な  
少女が海賊の――しかも翡翠の奥方など務まるのかとみな危ぶんでいたが、花梨が  
その華奢な印象とは違い意外と活発で、そうかと言ってガサツでは無く、誰にでも  
分け隔てなく細やかな気配りのできる少女だとすぐに分かるとあっさり島の人々に  
受け入れられた。  
 もう一つ危惧されていた翡翠に関しても、今までの行状からは想像もできないほど  
花梨のみに執着し、みなを呆れさせる事となった。  
 
「お頭…奥方が可愛いのは分かりやすが、ほどほどにしやせんとあんなに華奢なんだ。  
 そのうち体を壊しちまいやすぜ。」  
「ああ、分かっているよ。 分かってはいるんだ……けどねぇ……。」  
 
 ふぅっと憂いを含んだ溜息をつく翡翠を見つめる古参の手下、鳶が心配している  
のは花梨だけの為ではない。花梨の健康状態に問題が起きると、それでなくとも花梨  
べったりの翡翠が海賊稼業をほったらかしにして支障を来たすことは火を見るよりも  
明らかだからである。  
 海賊仲間全員の安定した生活のためにもここは苦言を呈しなければならない。  
 
「お頭、どんなにいい薬でも一気に飲んだら毒ですぜ。」  
「お前の言いたい事は分かっているつもりだよ。だからいつも花梨をもっともっと  
 愛し尽くしたいと思っても私はぐっと我慢してだねぇ…。」  
 
 我慢? あれでか? と鳶は思った。食事も摂れないほど疲弊してやっと昼ごろに  
「お水を下さい」とふらふらと起きてくる花梨を何度見たことか。  
 もう少し我慢の度合いを増やしても罰は当たらないんじゃないのかと鳶が思って  
いることなどお構いなしに  
 
「花梨も もうそろそろ慣れてもっと色々受け入れてくれると嬉しいんだけどねぇ。」  
 
 などと不穏な事を言い放つ。  
 
「お頭っ!」  
「はいはい。分かったよ。」  
「…本当ですかい? 明日からまたひと月くらいの航海だから……」  
「大丈夫。 ほどほどにするから。 さてと明日の準備でもするかな……?」  
 
 と翡翠は艶を含ませた言葉を吐いて鳶を脱力させると、明日の準備の“手伝い”を  
してくれるはずの花梨を探しに出て行った。  
 
 
 その頃花梨は、来月に迫った翡翠の誕生日に細い紐に浜で拾った綺麗な石を組み  
込んでストラップのような物を作って贈ろうと考えていた。  
 組み込む紐の縛り方として船で使う縄の縛り方を、花梨は忙しい翡翠の代わりに  
自分とそう年の違わない海賊の一人、那智に教えて貰うことにした。  
 
「ねぇ、那智くん。 これって私はすぐには無理だけどみんな一瞬で結べるよね?」  
「はい。」  
「片手でもできるよね?」  
「はい。」  
 
 そう、確認しなくても片手でもできる。それは花梨も嫌というほど知っている。  
なぜなら翡翠に何度か“お仕置き”と称してこの結び方で自由を奪われたことが  
あったから…。  
 それならば、傾向と対策。  
 
「じゃぁ、さ、逆に一瞬でほどく方法とかあるんじゃない?」  
「無理ですね。そんな直ぐに解けるようじゃ意味ないですし。」  
「……そっか、まぁ、そうだよね。」  
「?? でも、花梨様でも練習すれば片手で結べるようになりますよ。」  
 
 花梨がなぜ落胆したのか分からない那智は花梨をとりあえず適当にはげました。  
 花梨としては、一瞬で結べようが結べまいが関係なかったのだが、励まされて  
しまった手前そうとも言えず作り笑いで「ありがとう」と言った。  
 
 
 ―――その様子を翡翠が見ていたとも知らずに。  
 
 
 夕餉を終え翡翠と花梨、ふたりで寛いでいる時に、花梨を後ろから抱きかかえ  
るようにして座っていた翡翠が花梨の随分と伸びた髪を弄びながら耳元に囁く。  
 
「ねぇ、白菊。今日は何をして過ごしたんだい?」  
 
 『翡翠さんの誕生日プレゼントを作ってました』などと言えるわけもなく、かと  
言って『縄の結び方を…』などと言ったら『私が(白菊の躰を使って)教えてさしあげ  
るのに』と良からぬ状況になるのは容易に想像できた。  
 
「え? 浜の子ども達と遊んだり、“小物”を作ったり、夕餉の支度を手伝ったり…?」  
 
 嘘はない、嘘はないのだが翡翠の欲しかった言葉もそこにはなかった。  
 
「そう。随分楽しく過ごしたようだね。」  
「…うん……?」  
 
 翡翠の手が少しずつ花梨の髪をまとめ上げていく。  
 そして酷薄な笑みを浮かべる唇から次に紡がれた言葉は  
 
「……那智と」  
 
 瞬間、花梨が目を瞠るのと翡翠が花梨の髪をぐいと引き上げるのは同時だった。  
 
「痛っ!! 翡翠さん!?」  
「花梨。私はね隠し事は嫌いだよ。」  
「か、隠し事なんか……。」  
「そうかい? 私の愛しい白菊。あまりに愛しすぎて私はどうにかなってしまいそう  
 だよ。」  
 
 囁かれる言葉は情熱的なのに肌を粟立てるようなこの冷え冷えとした空気は  
何だろう。  
 怯える花梨の瞳を覗き込むと翡翠は薄く嗤って花梨に深く口づけ、その袿を  
パサリと肩から落とした。  
 
 ――今夜自分は、また酷く抱かれるのだろうと閉じた瞼の裏で花梨は思った。  
 
 紐はキシキシと軋む音を鳴らし柱や据え付けの家具に花梨を繋いでいた。ほんの  
少し、身を捩る程度のゆとりが残されているのは果たして花梨を案ずる翡翠の優しさ  
などではなく泣きながら身を捩る花梨を翡翠が楽しむためのものだった。  
 一糸まとわぬ花梨の白い肌に紅い紐が幾重にも絡みつき脚は大きく開かれたまま  
固定され秘所さえも隠す事は許されていなかった。  
 
「ひ…翡翠さん。 ごめんなさい。」  
「何の事かな? 白菊?」  
 
 涙をためた花梨の懇願も聞く気はないのだと取り付く島もない返答が教えていた。  
 
「いけない子だね。私をこんな気持ちにさせて。」  
「……翡翠さん。…お願い、話を…。」  
「話? …私は最初に聞いたじゃないか? 白菊? 違うかい?」  
「……でも。」  
「『でも』は無しだよ。愛しい人。」  
 
 そう言って自分の唇に軽く口付ける翡翠の貌が酷く綺麗だと……頭のどこかで  
花梨は思っていた。  
 
「わ、私は翡翠さんだけなのにっ!」  
「そう? ねぇ白菊。その言葉を信じられるほどの自信が私にはないのだよ。」  
「――っ!」  
 
 伊予の海賊を束ねる頭で、どこから見ても自信満々のこの美丈夫が何を言うかと  
花梨は思う。  
 花梨は自分の夫が意外に嫉妬深い事をこの3年で嫌と言うほど知った。だから  
相手にもならないだろう駆け出しの海賊のその中でも最近許嫁ができたという那智を  
選んで紐の結び方を教わったのに…。  
 だが、花梨は翡翠の不安の芽がどこにあるか測り間違えていた。  
 
「若い男の方が良くなった?」  
「違っ―――きゃあぁっ!!」  
 
 反論など赦さないとばかりに翡翠の指先が花梨の花芽をいきなり抓りあげる。  
 
「那智に手を触れられて、微笑んで…。」  
 
 触れたといっても紐の結び方を習うのに何度か押さえていて貰ったり、間違った  
時に直して貰ったりのほんの一瞬のことなのに……。  
 信じて貰えない悲しさにぽろぽろと涙を零す花梨の事をわざと無視して翡翠が  
続ける。  
 
「ねぇ、可愛い人。貴女は私だけと言うけれど、こうしてここを弄られれば誰でも  
 迎える淫乱な方なのではないの?」  
「――っ! 酷――っ!!」  
 
 花梨はまだ然程濡れていない蜜壺にいきなり指を突き入れられて痛みのあまり  
言葉を詰まらせた。  
 
「……酷いよ……翡翠さん。」  
 
 荒い息の中で紡ぐ花梨の抗議も気にせずに翡翠は指の抽挿を繰り返し、もう知り  
尽くした花梨の好い処を攻めていく。  
 
「あぁん…はぁん…はぁ……あん。……本当に…翡翠さん…だけなのに…あぁぁぁん。」  
「――どうかな? 白菊が自分を知らないだけじゃないのかな?」  
 
 そう言って不穏な嗤いを浮かべるとゆっくりと花梨の蜜壺に埋めていた指を引き  
抜きわざと花梨に見えるように指に絡んだ花梨の蜜をねっとりと嘗める。  
 
 そうして翡翠は物陰からゆっくりと何かを手に取った。灯りの元に晒されたそれは  
花梨のために翡翠が作らせた細工も細やかな筆筒だった。  
 翡翠は嗤う。ただ花梨の怯える瞳を見つめながら。  
 
「ねぇ、可愛い人。 私が証明してあげようじゃないか。貴女は淫乱だと――。」  
「や、やめて翡翠さんっ! そんなのやだっ!!」  
 
 翡翠が何をしようとしているのか察知した花梨が懇願してもやめようとはしない。  
 泣きながら身を捩る愛しい妻の濡れた花弁に指を這わせて無理に開いた蜜壺の中に  
ゆっくりと筆筒を挿し入れて行く。  
 
「あぁぁぁぁ……。 どう……て……?」  
「さぁ? どうしてかな? でもね、花梨。貴女の此処はとても悦んでいるご様子  
 だよ?」  
「嫌……やめて……。うぅふ……。」  
「声を我慢することはないよ。どうせ直ぐに良い声で啼くことになるのだから。  
 まったく貴女は此処をこんなにひくひくとさせて。なんと淫らなことだろうね?」  
「……あん…はぁん……。」  
 
 耐えきれずに花梨の声が漏れ出すと、翡翠は不機嫌な顔を隠さずに筆筒を花梨の  
秘所でくねらせ挿抽を繰り返し、花梨の弱い処を容赦なく攻めたてた。時折、筆筒の  
細工を使って捩じ込むようにされると花梨はたまらなくなり身を捩って懇願した。  
 
「翡翠さん止めてぇっ! い…イッちゃ…イッちゃうよぅ……。」  
「ほらごらん。白菊は淫乱だろう? 私でなくとも、こんな物でも構わないのだから。  
 さぁ、イッておしまい。」  
「こ、こんなので…イキたくないよぉぉ…嫌ぁぁぁぁああああっっ!!」  
 
 願いが聞き届けられることなく無情にも筆筒で達かされた花梨は泣きながら荒い  
息をして、まだピクリピクリと余韻を貪る自分の躰を嫌悪していた。  
 そして、いつもと違う翡翠の様子に不安になる。  
 いつもならば、もう「お仕置きは終わりだよ」と拘束を解いて甘い言葉を囁き、  
優しく抱いてくれるはずなのに。  
 
 花梨がそう思っているのが通じたのか翡翠は花梨の髪を梳きながら耳元で囁く。  
 
「ねぇ、花梨。愛しい人。お仕置きはまだ終わってないのだよ。」  
「――っ!」  
 
 その時、戸の向こうから声がした。  
 
「お頭。」  
 
 声の主は那智だった。  
 花梨はまさかと思う。翡翠が何をする気なのかまったく読めない。花梨は目を瞠り驚愕の表情で翡翠を見つめた。  
 そんな花梨を見つめながら翡翠は貌を歪めて戸の向こうの那智に声を掛ける。  
 
「那智、少し待て。」  
「はい。」  
 
 声を潜めて花梨が翡翠に問う。  
 
「翡翠さん。いったい何を……?」  
「那智の事が心配かい?」  
 
 そうではない、いや、そうなのだが、その心配の内に翡翠の思っているような  
感情は無いのだと、どうしたら翡翠に分かってもらえるだろうかと花梨の瞳は揺れる。  
 それを翡翠は誤解した。翡翠とて花梨と那智がどうこうと考えていた訳ではない。  
なのに事態はどんどん思いもよらない方向へ転がり出して行く。  
 

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