翡翠は花梨を拘束する紐を解くことなく酷薄に嗤うと  
 
「静かにしておいで……愛しい人」  
 
 そう言って床に落ちていた袿を花梨の肩に掛け、花梨のその姿を几帳で囲むと  
そばの灯りを総て移動させて闇の中に花梨を隠した。  
 花梨は翡翠の考えている事は分からなかったが、少なくとも縛られたうえ秘所に  
筆筒を挿し込まれたままの自分のこの痴態を那智に見せるつもりはないのだと少しだけ  
安堵した。  
 
「入っておいで」  
「はい」  
 
 言われて入って来た那智を花梨が几帳の隙間から覗き見ると、意外な事に許嫁の  
狭霧を連れていた。  
花梨は翡翠が何をしたいのかますます分からなくなる。  
 
「那智。今日は花梨が随分世話になったね」  
「いえ」  
「私も何かお礼をしなければと思ってね」  
「……いえ、そんな」  
 
「…………狭霧にね」  
「――っ!」  
 
 その含みのある言葉の意味は、鈍いと言われる花梨でも分かる。現に狭霧は  
「えっ?」と言ったまま固まり、那智は信じられないといった目で翡翠を見つめ、  
唇を戦慄かせて躊躇いながら言った。  
 
「お、お頭。オレは、別に奥方様に……」  
「分かっているよ。那智。…………さぁ」  
 
 そう翡翠に顎で戸の方を指されては、那智が何かを言う事はできなかった。  
ただぎゅっと拳を握り締め、そして狭霧を見返る事もなく部屋を出て行った。  
 花梨は信じられなかった。海賊の頭にとはいえこんな理不尽を許す那智とそれに  
従う狭霧。二人はやっと想いが通じ許嫁になったばかりではなかったのか?  
 そして何より自分の夫がそれを強要したということが信じられずにいた。  
 だが、花梨が信じようと信じまいと現実は容赦なくそこにある。  
 
「お…お頭」  
「狭霧。自分で脱いでくれまいか?」  
 
 少しの沈黙の後、狭霧は震えながら帯を解き袷を握りしめると最後の抵抗のように  
口を開く。  
 
「…こんなの……お頭らしく…無いです」  
「そうだね。私らしくないのだろうね。とても無粋で…。けれど、とても私らしい  
 とも思うのだよ」  
 
 狭霧は怪訝そうに翡翠の眼を覗き込む。翡翠は狭霧の手を退けさせるとそっとその  
 胸に手を忍ばせ、やわやわと揉みしだきながら言葉を続ける。  
 
「私の総ては花梨のためにあるのだよ」  
「……だったら――っ!」  
 
 翡翠は指先で狭霧の胸の蕾をぎゅっと抓んだ。  
 
「何を言っても無駄だよ。やめる気はないのだから」  
「…………」  
 
「……そう、狭霧はいいこだね」  
 翡翠は狭霧への愛撫を続けながら時折花梨の居る方に視線を向け、花梨を忘れて  
いる訳ではないと…これがお仕置きなのだよと知らしめる。  
 花梨は翡翠の行いが、自分のした『手が触れた、微笑みを向けた』事と同等で  
あるとはとても思えなかった。  
 
「ひっ! お頭そっちは!!」  
「今宵はこちらの花を愛でようかと思うのだよ」  
「……でもっ!」  
「――花梨もね。こちらは抵抗があるのか指一本触れさせてはくれないのだよ。  
 あぁ、大丈夫。油も用意してあるし、ゆっくり解してあげるから。それに……  
 前の華では那智に悪いだろう? さぁ狭霧」  
 
 那智に悪いなどと思っているわけがない。それなのに翡翠はそんな言葉を何の  
躊躇いもなく口にする。  
 翡翠はわざと花梨からよく見えるような位置に狭霧を四つん這いにさせ、用意した  
油を狭霧の菊花に塗りこめて行く。  
 
「んっ……」  
「もっと力を抜きなさい」  
「……はい。ふぅ…ん……」  
「そう。いいよ……もう一本入るかな……?」  
 
 翡翠の長い指が狭霧の菊花を押し広げるように淫らに蠢き抽挿を繰り返す。  
 
「あっ、ああ…お頭っ!」  
「ふふ……好いのだろう? 花梨にもこうして私の知りうる限りの悦びを教えて  
 やりたいのだがね…私の情熱総てを受け取るにはまだまだのようでね……ふっ」  
「あぁはぁ……ああ……んぅ……」  
「もうすぐ達しそうじゃないか? 狭霧? 花梨の事もこうして私以外の事を  
 考えられなくしてしまいたいのに何時もつれなくされてばかりで……」  
 
 翡翠のつぶやきなどもはや狭霧の耳には入らない。彼女はただ嬌声だけを上げ  
続ける。  
 
「あの花梨の可能性を閉ざす道徳心を壊すにはどうしたらいいか色々考えたのだよ。  
 私の見ている前で他の男に犯させてみようか……とか  
 ――でも、そんなことできるわけ無いじゃないか?  
 だってそうなる前に私が我慢しきれずに相手の男の喉首を掻き切ってしまう  
 その自信が私にはあるのだから……」  
 
 翡翠は狭霧を弄ぶ指の動きを止めることなくとても楽しそうに言葉を続けていく。  
 
「最高の快楽を与えられるのは私だけだと、花梨の躰に刻み込みたいのだよ。  
 そうして私から離れられなくなってはくれまいかと…浅ましくも思ってしまう。  
 この私が……まったく、無粋なことだ……」  
「あぁあ、お頭。 もう…もう……」  
「あぁ、狭霧……達きたいのだね。 ……さぁ此処だろう?」  
「あはぁぁぁぁぁあああ。お頭ぁあっ!!」  
 
 狭霧の体は弓なりに反った後、どさりと床に崩れ落ちた。  
 翡翠は床に突っ伏し肩で息をしている狭霧に衣を掛けるとその上に何の感情も  
持たない声を掛ける。  
 
「もう、お戻り」  
「――お頭?」  
「分かるね? ここであった事、聞いた事は誰にも言ってはいけないよ」  
 
 狭霧は自分の“役目”が終わったことを知った。  
 
 狭霧が部屋を後にして直ぐ翡翠もどこかへ出て行った。  
 残された花梨は纏まらない思考をそれでも必死に纏めようと足掻いていた。  
縛られたままの腕や脚の感覚は既に鈍く袿を掛けられただけの躰は冷えきっていた。  
その冷たさが花梨をますます惨めにさせる。  
 翡翠のこの暴挙はただの嫉妬心からだけではない気がする。花梨に厭きてしまった  
のでもないだろう。……では、どうして?  
 
『あの花梨の可能性を閉ざす道徳心を壊すにはどうしたらいいか……』  
 
「わ、私のせいなの……? 私が翡翠さんのする事を受け入れなかったから……?」  
 
 誰もいない空間に花梨の問いだけが空しく響く。応える者などいるわけもなくて、  
だけどこのままでは何かを喪いそうで……それが恐ろしくて涙だけが花梨の頬を  
伝って落ちた。  
 そうして泣きながらも花梨は考える。  
かつて背負った役目である白龍の神子の象徴する物は進む力、変える力。  
ここでただ泣き暮れることは花梨自身が許さない。  
 このままここに放置されるとは思ってはいなかったが、いつ帰ってくるとも知れない  
翡翠をただじっと待っていることなど花梨にはできなかった。  
 唇をきゅっと噛むと、花梨はこの期に及んでも挿されたままの筆筒を抜き去るべく  
縛られた紐で肌が擦れるのも構わず、可能な限り身を捩った。  
 程なく筆筒は花梨の胎内の熱を連れてぬるりと抜けおちた。こんなに簡単に出せるの  
ならばとっとと押し出してしまえばよかったと花梨は妙に悔しい気持ちになる。  
 次はこの“解ける筈のない紐”を解くべく思案を巡らす。どこか一箇所にでも口が  
届けば少しずつでも噛み切って解いてみせるのに、と花梨が思ったところで、  
戸がカタカタと鳴って翡翠が戻って来たことを知らせる。  
 
 先刻動かした灯りを戻しながら現れた翡翠は花梨の有り様を見て眉を顰めた。  
 
「なぜ大人しくしてなかったのかな…白菊?」  
「…………」  
 
 翡翠のあまりにいつもと変わらない様子に今までとは違った怒りが花梨の中で  
沸々と湧き上がって来る。  
 そんな花梨の感情を知ってか知らずか、翡翠は花梨を縛る紐を解きながら、  
その赤く血の滲んだ擦り痕に口付ける。  
 
「――っ!」  
「沁みるのだね? 待っておいで、今薬を――」  
「……ないで…」  
 
 ついぞ聞いたことのないあまりに低い花梨の声に翡翠は聞き返してしまった。  
 
「花梨?」  
「――私にっ! 触らないでっ!!」  
 
 花梨は唸るように叫ぶと宥めるように伸ばされた翡翠の手を激しく払いのけた。  
 翡翠の瞳に残忍な翳りが差したのを花梨は瞬時に感じ、即座に床に打ち捨てられた  
単衣を掴むとまだ痺れが残り震える脚で床を蹴って戸の方へ走る。  
 それを悠長に見逃すほど翡翠は優しくもなく、余裕もなかった。  
 花梨はほんの数歩で翡翠の長い腕に絡め取られてしまう。  
 しかし、何としてもそのまま大人しく捕まってしまうわけにはいかない。  
そう思わせる何かが今夜の翡翠にはあった。  
 
「大人しくおし、まったく貴女は毛を逆立てた仔猫のようだね」  
 
 瞬間、言われてカッとなった花梨の右手が翡翠の頬に炸裂する。  
 
「――ッ!」  
 
 避けられない訳はないのにわざと叩かれる翡翠のその余裕が、花梨には腹立たしくて  
ならなかった。  
 だが、翡翠の頬に朱色の線が一筋現われて花梨はハッとする。叩いた手が振り切れる  
時に爪が傷を刻んでいた。そしてこんなに怒っているのに『傷、残ったらどうしよう』  
などと思っている自分自身が情けなくなる。  
 わざと花梨に叩かせ隙をついて花梨を腕の中に閉じ込めた翡翠は満足げにその耳元で囁く  
 
 
「――私を拒んではいけないよ……花梨。 ――誰でもない貴女だけは」  
 
 
 勝手な事を言うなと言おうとして開いた口を翡翠の唇で塞がれる。  
 一瞬その唇に噛みついてやろうかと花梨は思ったが薄く開いた眼で捉えた翡翠の頬の  
傷がそれを思いとどまらせた。  
 翡翠の髪はほんのり湿っていて肌からも侍従の香りに混じって水の香りがした。  
さっき出ていたのは湯殿へ向かったのかと思い到り花梨はなんとも虚しい気分になる。  
 翡翠は先ほど狭霧に触れた手や体を洗いに行ったのだろう“潔癖な”花梨が嫌がると  
……そう思って。  
 嫌なのはそんなことじゃない、人の心を見透かすように生きているこの人がなぜ  
自分の事をこれっぽっちも分かってくれないのかと花梨は思う。  
 それと同時に何かを心に抱えている翡翠の事が理解できない自分を情けなくも思った。  
 
 翡翠は大人しくなった花梨を褥に降ろすと二階厨子から薬を取ってきて花梨の  
赤く擦れた紐痕にそっと塗り込んだ。  
 
「…………」  
「すまないね。こんな痕を付けるつもりじゃなかったのだよ。……治るまでは朝晩  
 これを塗って……私が塗って差し上げたいのだけれど、また明日から海に出るからね」  
「…………」  
「……花梨。……愛しい人。もう、口をきくのも厭になったのかな?」  
 
 花梨は翡翠の持つ薬に手を伸ばし指に少し付けると翡翠の頬の傷に塗った。  
 けして厭になったのではない、ただ赦せない事があるのだと、それは無言の抗議。  
 薬を塗り終えて離れて行く花梨の手を取って翡翠はそっと唇を寄せ、その手を  
引いて花梨の躰を抱き寄せる。  
 
 花梨が意地を張って拒んだ所で、抱かれる事は避けられないだろう、翡翠がそう  
しようと思えばどんな手だてを用いてもそうするだろうし、その手だてを使わせたなら  
――二人は修復不可能なところまで傷つけ合ってしまうだろう……  
そんな気がして花梨は敢えて抗わなかった。  
 
 
 ――それは儀式のように  
 軽く合わせた唇から浸潤するように優しく深い口づけに変えていく。  
 暫く帰れない時はいつもそうするように花梨の口腔の隅々までを舌でなぞる。  
まるで出かける前に一つ一つの扉の鍵を確かめるように。  
 そうして丁寧に歯列を辿り口蓋をなぞり花梨の舌を攻めたて吸い上げ甘く噛んで、  
何もかもを奪うように花梨の唇を覆い隠し銀糸を繋ぐことも許さないほど花梨の  
総てを吸い上げてからゆっくりと唇を離す。  
 翡翠は花梨の唇がしっとりと紅く熟れているのを、その長い指でなぞって確かめた後、  
満足げに笑んだ。  
 それから唇を花梨の耳に移し、ぴちゃりと小さな音を立ててその総てを舌で  
堪能した。翡翠の唇はそのまま花梨の白い肌に紅い跡を残しながら首筋をたどって  
胸へと降り下る。  
 とたんに花梨の冷えた躰は熱を持ちはじめ吐息の中に甘い声が漏れそうになる。  
花梨はそれを必死で抑えた。  
 そんな花梨の様子に気づかぬ翡翠ではなく、新しい悪戯を見つけた子どものように  
不敵な笑みを唇に刷いた。  
 
「本当に…白菊は……私を楽しませてくれるね」  
 
 翡翠の指先が躰に触れる感覚がいつもより焦らすように優しく感じるのは花梨の  
気のせいではないだろう。  
 胸の先端だけを羽根でなぞるように翡翠の指がかすめ、舌先でチロチロと反対の  
頂を嬲る。そうしてチリチリと焼けるような疼きが花梨の胸の頂に凝り、秘められた  
泉に潤いを齎す。  
 翡翠はふっと嗤うとそれまで弄ぶようにしていた花梨の胸の頂を舌を這わせながら  
吸い上げた。反射的に花梨の背が弓なりに反る。その背に手を這わせながら憐れむ  
ように囁く  
 
「貴女がつらいだけだろうに……我慢するだけ無駄だよ。最後にはどうしたって  
 啼く事になるのだから……」  
 
 恐らく翡翠の言うとおりなのだろう、現に漏れ出そうになる声を堪えようとすると  
息さえもままならない上に、普段声によって解き放たれる熱が出口を求めて花梨の  
躰を過剰に跳ね上げさせる。  
 それでも……それでも花梨は耐える。  
 
「…………」  
「……ふっ……なかなか情の強い姫君だこと……」  
 
 翡翠はクスリと嗤って花梨の手を取る。そうしてその指1本1本に舌を這わせて  
じっくりと愛でる。それだけでも花梨の呼吸は乱れてくるというのに、その様子を  
愛撫の間にチラリチラリと盗み見てくる翡翠の視線がまた一段と花梨の躰を熱くする。  
 指の愛撫が終わると唇と舌を使って二の腕の白く柔らかな処を掠めて腋の下までを  
辿る。翡翠はひとしきり腋の下に唇を寄せて花梨の身を捩る姿を堪能すると、  
もう一度とばかりに反対の手の指からまた愛撫を始める。  
 
 両腕の愛撫が終わった段階であちらこちらに妙に力を入れ過ぎた花梨の躰には疲労が  
溜まりつつあった。  
 
「随分とお疲れのようだね? 白菊?」  
「…………」  
 
 忌々しい翡翠の唇は花梨の脇腹や腰骨の辺りに場所を変え花梨を責苛む。あまりの  
甘い責め苦に花梨はだんだん自分一人我慢しているのが馬鹿らしくなってくる。  
 そこへ来て花芽を甘く噛まれては堪らない。  
 もしも翡翠の次の言葉がなかったら花梨はここであっけなく陥落しただろう。  
 
「――私の白菊は、まだまだ頑張るのかな?」  
 
 花梨は酸欠になるのも構わずに息をつめて、こぶしが白くなるまでぎゅっと握って  
耐えた。  
 翡翠の罠は密やかに花梨の心を絡め取り、その行動を抑制する。  
 
「ねぇ、花梨。新枕を交わした時、貴女は此処をこうして愛でる事を厭うておられた  
 けど近頃では此処を愛でて欲しいと思うようになったのではないの?」  
「…………」  
「あぁ、今ひくりと動いたね。此処は貴女のお口よりも色々とお話くださるようだ」  
「――ッ!」  
 
 翡翠は性質の悪い笑みを浮かべると花梨の秘められた小さな花弁に舌を這わせ溢れ  
出た蜜を思うままに嘗め啜る。時折蜜壺に差し込まれる舌がもどかしい熱を花梨に  
付加する。  
 
「ふふっ。此方もこんなに戦慄かせて……」  
 
 翡翠は時折ふるえる花梨の太腿にも舌を這わせながら秘裂をなぞっていた指先を  
蜜壺に侵入させる。  
 その刺激を花梨は攣りそうなくらい力を入れて腰を反らすことで逃す。そんな  
花梨の反応も翡翠は楽しくて仕方がない。  
 
 翡翠はそのまま指の抽挿を繰り返し、花梨の好い処をじわりと攻める。  
そうして触れられるのを心待ちにして膨らんだ花芽も舌先で嬲り、花梨の必死で  
耐えている様子を存分に楽しむ。  
 花梨の常であればここまで来る間に何度かは絶頂を迎えているはずであった。  
が、意識がふわりと浮こうとすると“このままでは声が出てしまう”という考えが  
頭をもたげ、達きたいのに達けない切ない状況に落ち込んでいた。  
 翡翠にすれば当然そんなことは百もお見通しで、それだけではなく、そろそろという  
頃にわざと声を掛けたりして花梨の気を散らすようにしていたのだ。  
 
 頃合いを見て翡翠が花梨の蜜壺から指を抜き去り、代わりに自身をゆっくりと  
沈めて行く。そうして既に知り尽くした花梨の好い処、弱い攻め方を存分に与える。  
 
 ハッハッと繰り返される浅く短い花梨の吐息と翡翠の少し早く荒い息、そして  
二人の交わる秘められた場所からの水音だけが響く異様な空間で、呼吸もままならず、  
ただ脚をひくひくと震わせる自分はまるで断末魔の獣のようだと花梨は思った。  
 
 翡翠は緩く腰をくねらせて花梨の震える脚を撫で擦りその爪先に手を這わせて自分の  
口元に引き寄せる。そのまま足指の先を端から口に含んで時折ちゅっと音を立てながら  
舌で隅々まで舐る。  
 花梨の観察をしながらもう片方も同じように愛で終わると、翡翠は花梨の腰を持って  
くるりと回し、四つん這いにさせてしまう。そうして浅く深く花梨を穿つと花梨の  
花からはぽたぽたと蜜が滴り落ちる。翡翠はそれを指に絡めると花梨の花芽を捏ね始めた。  
 そうなると花梨はもう上体を支える事がかなわず、腰だけを高く揚げた状態で  
指を組んで唇を寄せた。  
まるで何かに祈るように……。  
 翡翠が花梨の背に沿うように身を屈める。くねる腰の動きで翡翠の髪がさらさらと  
花梨の躰を撫でて滑り落ちる。  
 翡翠は花梨の花芽を捏ね続けながら寄せた唇で耳に囁く  
 
「ねぇ、花梨。こうした時に此処に触れる事も『そこは強すぎて駄目』と言っていた  
 のに、今では好いのだろう? そうやってどんどん快楽を貪ればいいのだよ」  
「…………」  
 
 翡翠はふぅとため息を花梨の耳に吹きかけると時を移さずに花梨のうなじにかぷりと  
噛みついた。いつもならどんな場合でも『きゃぁぁんっ!』と花梨の嬌声が聞ける筈  
であった。  
 それなのに、見れば花梨は涙を零しながらも自分の親指を噛んで必死に耐えている。  
 そうかと…それほどまでに自分に声を聞かせたくないのかと、先ほどまでの楽しみは  
昏い残忍なモノを連れて翡翠の中で渦を巻いていた。  
 
「貴女はそうは思ってくださらないかもしれないけれど、これでもね……今宵は酷い  
 事をしたと思っているのだよ」  
「…………」  
「それに…明日から暫く逢えなくなるのだから、無理をさせずにできるだけ抑えて  
 優しくして差し上げたいと思っていたのに……」  
「…………」  
 
 それでも応えぬ花梨に翡翠の顔が歪む。  
 
「……やはり、私という男は非道い男のようだよ。こんな頑なな貴女を見ては、  
 どうしても優しくなどできそうもないねぇ」  
 
 言うなり翡翠は自身の抜き挿しで花梨の蜜壺から掻き出されてくる蜜を指先に  
絡め取り花梨に抵抗する間も与えずにその菊花に指をずぶずぶと埋めた。  
 
「やぁぁぁっ! い、痛いよっ!! 翡翠さん!!」  
「おや? やっと貴女の声を聞かせていただけたのかな?」  
 
 今の今まで我慢していた声ついに上げさせられてしまった屈辱よりも、脊髄を駆け  
上る焼けて攣れるような痛みの方が花梨の意識をより支配した。  
 
「ひ、翡翠さん……もう…だめ……」  
「あぁ、私とした事が随分と性急にしてしまったようだ。すまないねぇ白菊」  
 
 涙をこぼして頭を振る花梨にも同情の欠片すら見せずに言葉を続ける。  
 
「締め付けては駄目だよ。余計に痛んでしまうだろう? さぁ力を抜いて……」  
「うっく……」  
 
 翡翠は花梨を自身でゆっくり突き上げながら、花梨の後花の痛みが引くのを待って  
少しずつ指の抽挿を始める。  
 指が滑らかに抽挿できるようになると、翡翠はそれまで抑え気味にしていた蜜壺への  
攻めを元に戻し花梨の奥の好い処を突き始める。  
 
「さぁ、花梨。此処が貴女の好い処だろう? そしてこちらの花の…此処が  
 
 ――その真裏になるんだよっ!!」  
 
 翡翠の指先がくりんと腸壁をくねる。  
 
「ひゃぁぁぁぁぁあああああああん!!」  
「あぁ、思ったとおり此処を攻められた貴女は良い声で啼くね」  
 
 堰き止められていた花梨の理性は翡翠の手技という濁流にあっさりと呑まれ  
押し流されてしまった。  
 いくら口で嫌だといったところで花梨の蜜壺からとめどなく掻き出されてくる  
蜜がその快楽の度合いを如実に語ってしまう。  
 
 
**********  
 
「あぁぁん……はぁあ…翡翠…さん」  
「どうしたの? 可愛い人?」  
 
 翡翠は指と自身の抽挿を休めずに、花梨の首筋を舐め上げながら問う。  
 
「もっ…と……」  
「もっと?」  
「うふぅぅ…動……かして…」  
「…何を…かな……白菊?」  
「あぁ…はぁ……あぁん。……指ぃ」  
「……そう…指…ね。 こう…かな?」  
「あぁあん…ぃぃ……いいのっ!」  
「ふふふ、愛しい人。いつもより肌がしっとりとして甘いよ。こんなに蜜も滴らせて…  
 貴女はなんて淫らで……美しいのだろうね。 ……あぁ…はぁっ……私も達きそうだ」  
「翡翠さんっ! 私…も、もうっ!! あああぁぁぁぁぁぁぁあんっっ!!」  
 
 花梨の肉襞が翡翠をきゅうきゅうと締め付ける。  
 
「あぁ、花梨、花梨。凄いね…あぁっ、いいよっ!」  
 
 その大きな波に巻かれるように翡翠は花梨の最奥で何度も叩きつけるように  
欲望を迸らせた。  
 
 荒かった息が少し落ち着くと翡翠は花梨の菊花から指を引き抜き、続いて自身をも  
抜き去った。その度に花梨はひくりと微かに震える。  
 
 そうして熱が冷めれば花梨の胸に去来するのは自分への嫌悪感でしかなかった。  
花梨はゆっくりと手を伸ばし袿を手繰り寄せる。震えながら伸ばされるその華奢な  
白い手が翡翠の罪悪感を揺り起こす。  
 袿をすっぽり被って声を殺して泣く花梨に翡翠の胸は酷く痛んだ。  
総て己がしたこと、ここまでするつもりは…追い詰めるつもりはなかったと…  
言った所で虚しい事だと翡翠は識っている。悲しいかなそれだけの年齢は重ねて来た。  
 翡翠は袿の覆いから零れた花梨の髪を梳きながら、花梨の頬があるであろう辺りに  
袿の上から口付ける。  
 
「愛しい人。声を殺して泣くなんて、そんな悲し過ぎる泣き方をしないでくれまいか。  
 それならいっそ詰られた方がましだというものだよ」  
 
「――――もう………たぃ……」  
 
 翡翠は嗚咽の混じる間に紡がれた花梨の言葉を拾いそこねた。  
 この時、直ぐに「何だい白菊?」とでも問えば良かったのだ。だが一瞬、その  
欠けた言葉が「帰りたい」であった場合、自分はどうすればいいのだろうかと  
躊躇った。瞬時の判断に命がかかる生業にして何時でも滑らかに言葉を唇に乗せて  
来た翡翠にしてはなんと拙劣なことだろう。  
 一度機会を逸してしまった問いは翡翠の心に翳りを醸して沈んだ。後に翡翠は  
この時の自分を深く後悔することになる。  
 
 朝の気配が迫っていた。だが、こんな花梨をこのままにして出航などできようか?  
出発を遅らせようかとの考えも翡翠の頭を掠めるが、既に翡翠の“個人的な理由”で  
ギリギリの日程になっていた。翡翠は梳いていた花梨の髪に口付けると祈りを込めて  
静かに言った。  
 
「……花梨。私のしたことを赦して欲しいとは云わない。云ったところで赦される  
 とも思わないし、そう願った事で貴女を苦しめてしまいそうだしね。  
 ただ……貴女を想う心が止められなくてしたことだと……私の為す事は総て  
 貴女ゆえなのだと…それだけは云わせて頂きたいのだよ」  
 
「――そう…だ…よね。翡…翠さ…んは…い、いつも…私の事を…考え…て、くれる  
 …よね」  
 
 しゃくり上げながらの肯定に、責められているように思うのは翡翠の罪悪感が  
成せる業か。  
 
「…泣いている貴女をこのままにして行くのはとてもつらいよ。そうでなくとも私は  
 いつでも貴女の元を離れたくないと思っているのだからね」  
 
 翡翠は袿から覗く花梨の頭を撫でてから口付けを落として、名残惜しそうに身を  
起こすと支度を始める。  
 翡翠の立てる衣擦れの音を聞きながら花梨は島の女たちの言っていた心得を  
思い出していた。  
 
『海の上じゃあ、ちょっとしたことが命にかかわるだろ? 気がかりな事がない  
 ようにって、にっこり笑って送り出してやるんだよ』  
『そうそう、前の晩どんなに腹が立ってたとしてもさ』  
『それに邪険にして送り出した後、亭主が鱶の餌にでもなった日にゃもっと優しく  
 しときゃ良かったなんてガラにもなく後悔ばっかりしちまうしねぇ』  
『海の男と暮らすんなら、色々覚悟は必要だよ。板子一枚下は地獄ってね。海が時化て  
 亭主が二度と戻って来なくてもカラカラ笑って子ども達をしっかり育てて生きて  
 いけるようにならなきゃね』  
 
 花梨は躰のあちこちが軋むように痛んだが翡翠をきちんと送り出したいとの想いから  
ゆるゆる起き上がると単衣を身に付けた。  
 
 起き出した花梨の気配に逸早く気付いた翡翠はさっと花梨の元に戻ると、  
その頬を軽く曲げた指の背で撫で上げた。  
 
「こんな私を見送って下さるの? …貴女は本当にいつでも優しいのだね。  
 こんなに泣かせてしまって……悪かったね」  
 
 花梨の眦でまだ光る涙を翡翠は親指で拭ってそこへ唇を寄せる。  
 
「花梨。随分疲れさせてしまったし、見送りはここでいいよ」  
 
 確かに眼を開くのもつらいほど、泣いた瞼は腫れ上がり重たくなっている。  
こんな顔を皆に見せたら立場上翡翠に迷惑を掛けてしまうだろう。それでなくとも  
翡翠の頬には花梨の付けた傷があるのだから。  
 
「うん。わかった」  
 
――『気がかりな事がないようにって、にっこり笑って送り出してやるんだよ』  
 
 正直、笑える状況では無かったのだが夫を送り出すために必死で笑顔を作る。  
そんな花梨の無理は直ぐに翡翠に伝わり、そしてそれは花梨も意図していない  
漣を翡翠の心に立てる。  
 花梨のこの何か秘めた重たい作り笑いが心に言い知れぬ不安を呼び翡翠の瞳を揺らす。  
 
「花梨……」  
「私……翡翠さんの事…好きだよ……」  
「――っ!」  
 
 翡翠の不安を感じとってそれを拭えるようにと花梨が発した言葉は、泣き顔を  
歪めて微笑む花梨そのままに、その想いを翡翠へまっすぐには届けてくれなかった。  
 手下への指示のためにも翡翠が出かけなければならない時刻は迫っていた。  
行かねばならぬ事と今ここでしたい事に翡翠の心は引き千切られそうに痛んだが  
翡翠は意を決して己の弱さからくる不安に眼をつぶる事にした。  
 そうしなければ決して前へ進むことはかなわないと翡翠は知っていたから。  
 
「花梨。……愛しい人。無理をしては駄目だよ。大人しくしていておくれ。  
 でないと私は気が気ではなくて仕事にならないからね」  
「……うん」  
「では、行ってくるよ」  
「はい。気を付けて」  
 
 花梨の唇に口付をひとつ落とすと部屋の戸口に花梨を残し、まだ明けやらぬ暗い  
渡廊を翡翠は歩む。そして先ほどの花梨の様子と言葉を反芻していた。  
 
『私……翡翠さんの事…好きだよ……』  
 
 翡翠には花梨のその言葉、無理に微笑む表情には覚えがあった。  
 あの後も幾夜となく翡翠に悪夢を見させたあの……花梨を失うことに震えた神泉苑での  
あの日の情景がまざまざと思い出され翡翠はつぃっと昏い渡廊を振り返る。  
 夜目の利く翡翠にさえも遠く後ろになってしまった花梨の表情は読めない。  
 今二人を結んでいるのは朝闇だけだった。  
 
 ――あの花梨の涙の微笑みは……何かを諦めた?  
 ――っ! まさかっ……私をかい? 白菊!?  
 
 
 
 翡翠は島に残る手下達や花梨の傍にいる女達にいつもより細かく厳しい指示を出した。  
――――花梨の一挙手一投足すべてを報告せよ。花梨を決して海岸に近付けてはならない。  
 
 そして伊予で起こった漣は遠く京へと寄せることになる。  
 

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