「敦盛さん!ここにいたんですか」
「神子。どうした?私に何か用か?」
「用はないんですけど、敦盛さんがいなかったから。きっとこの廃寺にいるだろうと思って」
「そうか。心配かけたならすまない」
「そんな、謝らないでください。ただ敦盛さんの側にいたいと思っただけなんですから」
「…では皆の元に参ろう。雨も降りそうだ」
「戻ることはないですよ。私が一緒にいたかっただけだから…。もう少しここにいませんか?」
二人で並び境内に座っているだけで会話といえるようなものはない
雲行きの怪しい空を眺めながら、時間だけがゆっくりと進んでゆく
敦盛のひんやりとした手が望美の手の体温でだんだん温かくなっていくことだけが、時間の経過を表しているようだ
ただ寄り添うだけで安心できる相手は望美には敦盛しかいない
自分の存在意義とは?この戦いの後、帰る場所はどこにあるのか?
そんな不安を漠然と抱くとき、同じような境遇におかれている敦盛の存在は望美の中で大きくなっていった
ただ側にいる。ただ存在している。それだけで心が安らぐ。
一番欲しい「安らぎ」をくれる大切な人。
「…神子は良い香りがするな。雨が近いせいだろうか、周りの空気が浄化され神子の香りが近く感じられる」
「そうですか?敦盛さんもいい香りがしますよ。ほら、首のこのへんとか…敦盛さんの匂い、すごく好きだな」
敦盛と望美の視線が合った。
「! 神子、これ以上近づかないでくれ。私は穢れた存在だ。神子を穢してしm」
「敦盛さん!!…お願いだから、私から離れていこうとしないで!穢れているなんて言わないで!
敦盛さんが私の手に触れてくれる、側にいて笑ってくれる、存在してくれる、それだけで私は…」
まっすぐに見つめた望美の目から大粒の涙がこぼれた
曇天の空からも大粒の雨が降り出す
「…すまない。あなたを悲しませるつもりはなかったのだ。悲しみという穢れまで与えてしまった」
敦盛の華奢な冷たい指が望美を涙をぬぐう
「私はあなたに穢れを与えることしかできないのか」
そういった敦盛の目にも涙が溢れた
「そんなことありません!敦盛さんは私に安らぎをくれる。私が一番欲しい安らぎをくれる。
穢れなんてどうでもいい!私が一番欲しいと思うものを今、ここでください。
…欲しいんです…お願い…」
絞り出すような涙声で敦盛の頬にそっと手を伸ばし、望美も敦盛の涙をぬぐった
どちらからともいうわけではなく、自然に唇が触れ合う
遠慮がちな労わりあうような優しい口づけを何度も交わし、次第にお互いの涙も唾液も貪るようキスの雨も降り出していく
「・・んッ…ぁ、敦盛さん… ずっと一緒にいたい」
「はぁッ・・・私もだ。あなたの側にいたい」
敦盛がそっと望美の体を倒し、戸惑うような手つきで、耳、首筋、鎖骨、胸へゆっくりと望美の体を触れる
やわやわと遠慮がちに服の上から胸を触っていると、望美からかすかに甘い吐息が漏れ出した
一枚づつ衣を剥いで柔らかな肌に触れ、ゆっくりと胸の頂の赤い蕾に口付けると嬌声と共にぴくんと体が跳ねた
「んぁ…あぁ…」
「あなたは…本当に美しい」
片方は繊細ながら力強い敦盛の手で形を自由に変えられながら頂をこねられ、もう片方は舌で甘く啄ばまれ転がされる
その度に甘い声が上がり、徐々に女の甘い色香も立ち上った
内腿からなぞり上げるように指を這わせ、下着の上からそっと蜜のありかを確かめる
「…触れても良いだろうか?」
「ッあぁ…触って、ください はぁッ、あっ敦盛さん…好きです」
「私も…あなたが愛おしい」
その刹那。
雷鳴が轟いた。近くに落ちたかのような轟音
熱に浮かされたような肉感的な熱情は一瞬、落ち着きを取り戻し視線を交えた
「!…雷、近いみたいですね」
「あぁ、そのようだな」
二人の中に瞬時に広がっていく羞恥心。愛おしいと思う感情。
衣がはだけ半裸になっている望美をそっと敦盛が抱きしめた
「こんなことをしてしまってすまない」
「いいですよ。敦盛さんが浄化されること以外を望んでくれた。敦盛さんのままの私を求めてくれた」
驚きで体を離した敦盛に泣きそうな笑顔で望美は微笑みかけた
「敦盛さんが怨霊だったとしても、私は敦盛さんが好きなんです。一緒にいたいんです。
だから浄化だけじゃない方法をきっと探してみせます。見つかるまで何度でもこの運命を繰り返してもかまわない。
あなたの存在が私の安らぎなんです」
二人の目にいつものような慈愛に満ちた表情が宿った。だがそれは以前よりももっと優しくて強い
「あなたの浄化の力に頼るだけではなく、あなたのためにできることを私も考えよう
あなたを幸せにできるのならば私は存在していてもいいのだろうか」
まだ雨は止みそうにない
雨が止んだらきっと綺麗な虹がかかるだろう
まだ二人の運命は新しい一歩を踏み出したばかりだ