高千穂ーーこの地の領主である土雷の館にて、柊は薄暗い回廊を歩いていた。  
やがて一つの重厚な扉の前で立ち止まると、少し遠慮がちに声を掛ける。  
「失礼致します」  
備え付けられた閂を外し、ゆっくりと扉を開ける。  
狭くもないか、決して広くはないその部屋を見渡せば、少女が一人、鏡台の前に佇んでいた。  
「柊…」  
名を呼び、こちらを振り返る少女の髪は黄金色。その一部は緩く結われ、玉造りの繊細な装飾が添えられている。  
見つめる瞳は深い蒼。覗き込めば、吸い込まれるかのような錯覚を覚える。  
少女は淡い蒼を貴重とした衣を纏っており、その唇にはうっすらと紅が引かれている。  
その姿は、頼りなく灯る燭の光により、淡く白く、闇に浮かび上がる。  
「もうじき我が主がお戻りになられますゆえ、こちらにもお伝えせねばと馳せ参じたのですが…。  
もう準備はお済みのご様子で」  
目を細め、ゆっくりと少女に歩み寄る。  
少女に近づくほど、どこからか甘い香がたゆたう。  
「…」  
少女は何も言わない。ただじっと、俯いて無機質な石の床を眺めるだけだ。  
「いけませんね、その様なお顔をされていては。主の…レヴァンタ様の不興を買うことになる」  
その頬にそっと触れれる。  
少女は一瞬驚いたように蒼眼を瞬かせたが、その瞳はすぐに、虚ろなものへと変わっていった。  
「…ええ」  
「主はあと半刻もすればこちらに参られます。それまでにはどうぞ、心の準備もお整え下さい」  
そう言って恭しく一礼すると、少女を振り返ること無く、柊は扉の向こうへと消えていった。  
 
 
「お帰りなさいませ、ご主人様」  
柊が部屋を去ってちょうど半刻の後、この邸の主であり、高千穂の領主である男が帰還した。  
男の名はレヴァンタ。重税を民に課し、圧政をしく。  
帰宅するとレヴァンタは直ぐに、邸の最奥にある少女の部屋を訪れたのだった。  
 
「顔を上げろ」  
頭を垂れ、床に伏していた少女がゆっくりと表を上げる。すると男は、口の端を上げてニヤリと笑った。  
「ほお。なかなか似合うではないか、千よ」  
『千』というのは十日ほど前、男によって少女に与えられた名だ。  
真の名を奪われ、新たな名を与えられる。それはその者に支配されることを意味する。  
加えて、今少女が身に着けている衣装や装飾はこの男によって与えられたもの。  
そのすべてが、少女は男のものであるという、所有の証。  
男の視線に、全身をねっとりと舐められるかのような感覚を覚え、少女は衣の裾をぎゅっと握りしめた。  
「…恐縮に、存じます」  
「美しい金の髪に蒼の瞳、あの叛徒共が姫と仰ぐだけのことはあるか」  
男のごつごつとした指先が少女の長い髪を遊ぶ。  
「なあ千、一体どのようなことをして、奴等を信じ込ませたんだ?」  
と、不意に髪を掴まれ上向かされる。  
「…っ!」  
「なあ?」  
ゆっくり、ねっとりと頬を舐められ、耳朶に舌を這わされる。  
「お…お願いします。どう…か、皆のことは…」  
「…ふん。またそれか?千、何度も教えたはずだぞ。奴隷が主に頼みごとをする時はどうするのか。  
…何をすれば良いのかをな!」  
「きゃっ」  
掴んでいた髪を乱暴に放され、千は再び床に伏す。  
男はドカッと寝台に腰掛けた。  
「千!」  
急かすように男に名を呼ばれ、千は小さくコクリと頷くと立ち上がった。  
ゆっくりと、寝台に近づいていく。  
そっと、威圧的な瞳でこちらを睨み付ける男の頬に手を掛ける。  
そして躊躇いがちに、男の唇へ自らのそれを重ねた。  
「んっ…」  
教えられた通り、千は男の唇を弄る。  
ねっとりと口の端を舐め、舌を侵入させ、歯列をなぞり、吸い上げる  
初めは千のなすがままになっていた男も次第に応戦を始め、互いに舌を絡ませ合う。  
「んん…ん、ふ…う…」  
ぴちゃり、くちゅりと淫靡な水音が室内に響き、少女の口からくぐもった吐息が漏れる。  
「んぁ…、はぁ…はぁ…」  
耐えきれなくなり唇を離せば、だらしなく開いた千の口の端を銀の雫が濡らす。  
熱に浮かされ潤んだ蒼の瞳、上気して薔薇色に染まる頬…。  
多少の幼さを感じるながらも、その表情はまさしく「女」であり、ひどく扇情的なものだ。  
荒い息をなんとか抑え、千は男の首に腕を回して抱きついた。  
「お願い…します、ご主人様。私の仲間達を…どうか自由に…」  
 
すがりつくような声で哀願し、男の耳をはむ。  
「…まだ足りんな」  
低い声でそう囁かれると、突然胸を鷲掴みにされた。  
「痛っ!」  
ささやかだが張りのある胸を、衣越しにぐにぐにと揉みしだかれれば、悲鳴はやがて、媚声に変わる。  
「やぁ…ん。ご…主人…様、お願い…」  
「ほら、次はどうするのだ、ん?」  
強い刺激にに悶えながら、緩慢な仕草で顔を上げれば、男はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。  
「かしこまり…ました」  
男の意図を読み取り、絡めていた腕をほどいて一度寝台の下に下りる。  
ひんやりとした床に膝をつき、男の下半身に手を触れると、そこはもう、痛いほどに張り詰めている様だった。  
そっと、恐る恐る慎重にそれを取り出す。  
赤黒く独特の匂いを放つモノが完全にその姿を目の前に現わすと、千は思わず息を呑んだ。  
今から自分が行う行為は、これまでに何度か経験させられていること。  
だがやはり、醜悪なそれを前にすると抵抗を感じてしまう。  
「…っ」  
そろりと両手をモノに添え、震えながらも舌を伸ばそうとすれば、いきなり後頭部を掴まれた。  
「んんっ!!んふっ…」  
不意に圧倒的な質量のそれを無理矢理口に押し込まれる。  
息苦しさに、眉根を寄せた。  
「俺は気が短いんだ!さっさと続けろ、千!」  
「ん…は、ひ…」  
返事をするように上目使いで男を見上げ、千は改めて、その白く繊細な指をモノへと絡ませた。  
チロチロと舌で刺激を与えながら、唇を擦らせて熱い塊に更なる熱を煽る。  
それと同時に、強弱をつけて手で睾丸を揉む。  
「んぅ…ちゅる…くちゅ…」  
次第に、千はそれを口内に出し入れしだし、遂には上下に動かし始めた。  
美しい少女が膝を尽き、己へ懸命に奉仕を行う姿は、男に目眩にも似た快楽を与える。  
「くっ!限界か…。ほら千、全部受け取れっ!」  
決して逃れられないように、しっかりと頭を固定される。  
「んん!…ん〜っ!!」  
怒張がドクリと震え、熱いものが放たれる。  
「んん…、んぐっ、ん…」  
しかし千は白濁のそれを全て飲み込むことはできず、口の端を白い筋が伝う。  
勢いを失ったモノから千の唇が離れると、互いに荒く息をついた。  
「も、し訳…ございませ…」  
余すところなく飲み込めと教えられていたのに、それを実現できなかった。  
贖罪の意味を込めて、千は何度も萎えたモノに口付ける。  
「ご主人様…」  
 
「何度も言わせるな!どうすべきかは、教え込んだだろう!?」  
男の言に、千はもう一度モノにちゅっ、と音を立てて接吻すると力無く頷く。  
「…はい。ご主人様のお望み通りに」  
口の端を拭い、立ち上がる。  
寝台に膝をつけば、ギシリと音がした。  
「ご奉仕…致します」  
そう言って、トン、と軽く肩を押せば、男は何の抵抗も無く寝台に沈み込む。  
千は男の体に馬乗りになり、再び口付けを施した。  
「ん…ちゅっ、くちゅっ…」  
貪欲に、弄るように舌を絡ませるうち、屈強な男の手が千の柔らかな体に触れ始める。  
「は…んっ」  
するり、と滑らかな肌をなぞり、薄い衣をたくし上げ、  
背から胸、腿から足の付け根へと、指が体中を這い回る。  
「ぁ…、んん…。あぁ…」  
焦らすように、煽るように敏感な箇所を愛撫され、千は甘く切ない吐息を漏らす。  
「もどかしいか?」  
秘所の周辺で遊んでいた指が、淡い茂みを掻き分ける。  
つうっ…と秘裂をなぞられれば、とろりとした蜜が溢れ出る。  
「ひあ…、あぁ!」  
花弁を悪戯に引っかかれれば、蜜は流れ落ち、腿を伝う。  
「ご主人…様ぁ」  
指が花弁を弄ぶ。  
押し潰すように、こねまわすようにして、じれったい刺激を与え続けられる。  
「何だ?はっきりと告げよ」  
「んん…っ。あぁ…。ど…どうか、中心にも…、私の濡れた中にも、触れて…くださいっ」  
男が望む通り、羞恥に耐え、潤んだ瞳を向けて懇願する。  
しかしそれに反し、男の手は秘所からスっと引かれた。  
すべらかで丸い尻を掴むようにして撫で回される。  
「奴隷のお前には過ぎた願いだ、千よ。  
快楽が欲しくば自ら弄れ。その身を震わせ、よがり、狂う様を見せてみろ!」  
「ん…は…い。ん…んっ」  
命を受け、千は自ら裳の裾をたくし上げると、  
既にまた立ち始めている男のモノに秘所をあてがった。  
ゆっくりと腰を動かし、蜜の滴るそこに男の熱いそれを擦り付ける。  
「あぁ…ん、はぁ…」  
腰を揺らす度、千は溜め息のような喘ぎと、官能的な水音の響きを醸す。  
しとどに流れ出る淫靡な蜜は、とろりと男根を伝う。  
「ははは…。そうだ千!もっともっと、お前のいやらしい姿を見せてみろっ!」  
男はいきなり、下から勢い良くモノを突き上げた。  
「ひあぁっ…ん!あぁーー!!」  
突然剛直をねじ込まれ、過ぎた快楽に千は一瞬、放心しそうになる。  
 
「何をしているのだ、続けろ!!」  
男の怒声が響く。  
「は…はい。くっ、ふぁぁ…、あぁ…んっ」  
ゆっくりと腰を落ち着け、上下に動かし始める。  
「はあっ!あぁ、あぁん!」  
自らの弱い所を探り当て、擦り上げ、媚声を漏らす。  
ガクガクと足は震え、窒は男根をきゅうきゅうと切なく締め付ける。  
「くっ…、淫乱だなぁ千よ。それで神子をかたるなど…とんだお笑いぐさだっ!」  
千の拙い仕草に焦らされたのか、男も下からの律動を開始した。  
逃がさぬように腰を掴まれ、欲望のままに突き上げられる。  
「あぁっ、あっ、あっ…あぁっ!」  
媚声は一際高くなり、互いに狂ったように腰を振るう。  
激しく揺れる度、千の肩から流れるさらさらとした長い金糸が、互いの肌を擽る。  
「さあ…言え。お前の望みは、何だ?…もう一度はっきり言えたなら、聞き入れてやらんでもないぞ」  
「やぁ…んっ!は…わ…、たしのっ…願い?…あぁっ」  
ぐちゅぐちゅと、絶え間無く響く水音は更なる情欲を煽り、  
男の加虐心を加速させ、千の理性を奪っていく。  
「そうだ。ほら何だ?よく…聞こえんぞ!」  
「み…なを、たすけ…てっ、…ひぁっ、あぁん!」  
「ほうら、ちゃんと言え。でないと…」  
不意にぐっと腰を掴まれ、繋がったままのそこからはずちゅり、と音がした。  
「っ!?ああぁーっ…!!」  
窒内に強い衝撃を受け、また腰には軽い衝撃を感じる。  
反射的につむった目を恐る恐る開けば、自らを見下ろす男の姿があった。  
息は荒く、その唇は皮肉げに歪み、ギラついた眼光が千を捕らえる。  
小さく身をすくませた瞬間、強引に唇を塞がれ、同時に内壁にモノを乱暴に擦りつけれた。  
「…んんっ!ふぁ…あ、けて…っ…くださいっ。み…なを…。あぁ…やあぁっ」  
「ふはは…、そうだ。足掻け、鳴け、もっともっと喘ぐがいい!!そうら!」  
ズンズンと強く腰を打ち付けられ、猛ったモノに欲望のまま中を掻き回される。  
「んああっ!あぁ…ひぁ…、ぁあ…んっ!」  
薄衣はビリビリと破かれ、淡い蒼の合間から白磁の肌が覗く。  
中途半端に露わにされた胸は乱暴に揉みしだかれ、もはや原型を留めない。  
指の腹でぐりぐりと先端を押し潰すように何度も何度も刺激される。  
 
「あぁっ!あっあっあ…、お…かしくなるっ、こ…んなの嫌…」  
過度の熱と欲に浮かされ、悦楽の波に呑まれそうになる。  
腰を揺らし、更なる快楽と刺激を得ようとする。  
しかし口からは喘ぎとともに、それに反する言葉が漏れ始めた。  
「嫌だと?嘘をつくな。  
お前は先程からずっと、自ら腰を振り、鳴き、喘ぎ、よがっているではないかっ!」  
「ち…違っ、はぁ、いやあ…っ!たっ、…たすけて…」  
「千?」  
不意に様子の変わった千に、男は怪訝そうに眉を寄せる。  
「嫌ぁっ!…誰か、た…けてぇ、…助けてっ!!」  
突如、千は叫び出し、抵抗し始めた。  
我を忘れ、組み敷かれた四肢を遮二無二に動かし、逃れようとする。  
決して与えられるはずの無い、助けを求める。  
「ちっ」  
男は舌打ちすると、暴れる千を力ずくで押さえつけた。  
「!?うぁああ…っ!!」  
ギッチリと埋まっていたそれをギリギリまで引き抜かれ、ガンっと一気に突き立てられた。  
衝撃に、千は息を呑み、徐々に我に帰っていく。  
「こうなること望んだのはお前自身だろう!!違うか!ああ!?」  
「ひっ…。うぁ…あ…、も…し訳…ありませ…きゃあっ!」  
パシっ、と乾いた音がする。  
男の手が千の頬をぶったのだ。ほどなく、千の口内には血の味が広がる。  
「どうやらまだまだ調教が足りないようだな、千っ!  
覚悟しろ、お前が従順になるまで、またたっぷりと躾し直してやる!」  
そう吐き捨てると、男は再び律動を開始する。  
「ご…主人様。や…めてくださ…あぁっ!」  
容赦なく、ガンガンとほふるように剛直を突き立てられれば、  
千の意志に反して、体は痛みではなく快楽を感じる。  
新たな蜜は絶え間なく湧き出で、おぞましい程の喘ぎを発し、  
内の肉はモノをくわえて離すまいと絡みつく。  
「んぁあっ、いやぁっ!  
や…めて…嫌だぁ。…いや!いや…いやーーーっ!!!」  
悲鳴と媚声、男の怒声と、淫虐な蜜の響きが狂宴を彩る。  
快楽と絶望の果てに、哀れな少女の叫びは闇へと呑まれていった。  
 
 
「…我が君」  
夜半、土雷邸から少し離れた場所に、柊は一人佇んでいた。  
鬱蒼とした木々が風に揺れ、月明かりに影が躍る。  
「柊、といったか」  
名を呼ばれ振り返れば、そこには黒衣の青年が佇んでいた。  
紅玉の瞳で、値踏みをするかのようにこちらを見つめている。  
青年の長く結われた特徴的な赤い髪が、風に棚引く。  
今まで直接に言葉を交わしたことは無かったが、柊はその青年をよく知っていた。  
「これは、黒雷様…アシュヴィン殿下ではございませんか」  
柊は軽く一礼し、目を細めて笑みをつくる。  
「まさかこのような所においでとは…」  
「余計なおしゃべりはいい。  
それよりも、土雷は随分と、面白い玩具を手に入れたようだな?」  
皮肉めいた笑みを浮かべ、アシュヴィンは土雷の邸のある方向へと視線を向けた。  
「…ええ。それはもう。じきに壊してしまうのではないかと案ずるほどに…」  
毎夜毎夜、彼の少女は不浄な男に犯され続けている。  
快楽を植え付けられ、歪んだ悦楽を知り、いつしか底知れぬ闇へと沈んでいくのだろうか。  
「ふん。愚かで…そして哀れだな。土雷もその玩具も、お前も」  
「…」  
柊は何も言わなかった。ただじっと、目を伏せて木々の葉擦れの音に耳をやる。  
「…さて、俺はあまりここに長居するつもりはないんだ。ではな」  
短い沈黙を破り、興味が失せた、と言わんばかりにアシュヴィンはきびすを返そうとする。  
「お待ち下さい…黒雷様。あなたはこれから、どうなさるおつもりですか?」  
問えば、アシュヴィンは肩越しに、視線だけをこちらに寄越した。  
「…さあな。また次の手を考えるさ。…宛ても外れたことだし、な」  
そう言うと、常世の皇子は外套を翻して漆黒の闇へと紛れていった。  
 
柊はその様をじっと見送った後、ふと夜空を見上げる。  
木々の間から幾千の星々を眺めれば、紅い月に目が止まる。  
あの日、紅い黄昏の中、時空を越えた世界で彼女を見出した。  
その瞬間から、止まっていた運命は動き出したのだ。  
清らかで純粋。美しく、それでいて果敢な少女。白き龍に愛されし希有なる存在。  
アカシャによれば、少女と世界は幾度も、同じ運命を繰り返している。  
戦いの果て、少女はやがて王となり、世に一時の幸いをもたらす。  
この時空でも、きっとそうなるはずだった。  
そうなるのだろうと、柊は信じていた。  
「…しかし、この様なことは規定伝承には無い」  
討ち果たすべき者に敗れ、少女は捕らわれの身となり、その真名と純潔さえ奪われた。  
繰り返されてきた、繰り返されるはずの伝承とは異なる、新たな現実。  
その末路には…いったい何が待つのだろうか。  
捕らわれた少女に、荒んだ世界に、神は…。  
「天の意志は、どう下るのだろうか」  
 
 

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