夕餉を済ませ一刻ばかり経ったであろうか。コンコン、とノックをする音が鳴る。
「どうぞ、入って下さい。おや、望美さんでしたか。」
「お仕事中ごめんなさい。お邪魔じゃないですか?」
相変わらず書物や巻物が山のように積まれている。弁慶の部屋だ。
「仕事じゃないんです。さすがに散らかり過ぎだと思って少し整理をしていただけですよ。」
見ると足の踏み場もなかった部屋に2畳ほどのスペースができている。掃除もしたのか綺麗だった。
「良かった。少し退屈だったからお話でも、と思って。」
「嬉しいですね。可愛いお嬢さんと語らうのは心が癒されますから。」
弁慶はいつもの柔らかい笑みで望美を迎える。
この笑顔がエロカッコ良くて堪らんのですよ。内心そんな事を思いつつ望美は弁慶の隣に腰をおろした。
「ねぇねぇ、弁慶さん。ずっと思ってたんですけど…そのマチコ巻き、ダサくないですか?」
聡い弁慶は望美がたまに使う元の世界の言葉はニュアンスである程度わかるようだ。
「そうですか?僕は気に入っているんですけど…」
「うーん、悪くはないんですけど…。ちょっと私に巻かさせて下さい。」
そういうと望美は弁慶に巻かれた布を解き始めた
顔が、近い。
着物に焚き込められた香と、望美自身の香りが混じって弁慶の脳を刺激する。
「…望美さん、嬉しいですけど、やはり遠慮しておきましょう。」
「え?でも…もうちょっとですから。もう少し我慢して下さい。」
香りの出所は望美の袂だろうか。甘い…不思議な香り。
「いけない人ですね。そんな風に僕を誘惑するなんて。」
肩と腰に手を掛け、望美を優しく横たえる。
「えっ。べ…弁慶さん?」
――計画通りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーー!!!!!!
望美は心の中で絶叫した。
そそくさと夕食を済ませ、とっとと風呂に行き丹念に体を磨き、無駄毛の処理もおぅけぃ。
それに前もって朔に頼んで分けてもらっていた香を焚いた甲斐があったというものである。
「…?。何が計画通りなんですか。」
どうやら興奮しすぎで軽く声に出してしまったようだ。ガッツポーズまでしている。
「あ…あのいや…。私の世界のデスノートっていう戦術書の言葉でしてぇ…」
意外と隠し事が出来ない性質なのかもしれない。
「デスノート、ですか。意味はわからないですけど、何やら僕の心の琴線に触れる響きですね。」
何か魂レベルで惹かれ合うものでもあるのかだろうか。さすが腹黒軍師。
「べっ弁慶さん!私、弁慶さんの事が好きなんですっ。だから…」
あまり突っ込まれる前にコトに運んでしまえと抱きつく望美。
「僕もです、望美さん。ずっと隠しておくつもりでした。でも、もう…」
そういうと優しく望美の頬に口付けし、そのまま望美の唇を貪る。上下の唇をついばみ、舌を割り入れ
丹念に歯列をなぞり、望美の舌を吸い出し暖かい感触を味わう。
くちゅくちゅとお互いの唾液が混じり合い、長い事吸いあっていた。
「ん、ふ…べんけ…さ…うますぎです…」
さすが破壊僧弁慶。永遠のプレイボーイの名は伊達じゃない。
望美の目に狂いはなかった。
「望美さんこそ、どこで覚えたんです?清らかなはずの神子が…いけない人ですね。」
予想外の望美の反応に少し驚きながらも、遠慮はいらないかと望美の帯を解き袂に手を入れる。
「あ…明かり、消して下さい。やっぱりちょっと恥ずかしい。」
「だめですよ。望美さんを良く見せて下さい。髪の先からつま先まで、隠す事なく、ね。」
意地悪な笑みを浮かべるとそのまま着物を脱がせた。
望美の裸体が露になる。蝋燭の仄かな明かりが余計に淫猥な雰囲気を醸し出している。
弁慶は望美のちょうど手に収まるサイズの、綺麗な形の胸を優しく手で包んだ。
「とても綺麗ですよ、望美さん。」
「や…言わないで…。恥ずかしい。」
そう言いつつも望美の胸の頂は早く触れて欲しいと硬く尖っている。
触れるか触れないか、絶妙な力加減で触れる弁慶。
「はぁっ…う…んんっ…」
緩慢な触れられ方では物足りないのか、自ら弁慶の指に胸を寄せる。
「おや、望美さんは少し強めなのがお好きなんですか。」
そういうと今度は硬く力を入れた舌で舐めあげる。もう一方の頂は指の腹で転がすように弄ぶ。
「あんっ…ああっ。いい…よぅ…」
「ふふっ。淫らな望美さんも素敵です。さあ、もっと乱れて下さい。この僕の手で…」
ちょっと厨二病っぽいけど…だがそれがいい。望美は満足だった。
口で胸の頂を味わいながら、手はどんどんと下に降りてくる。
ゾクゾクとする柔らかいタッチで細い腰をなぞり、下腹部を撫で、茂みに到達する。
「あっ…」
すでに自分でも濡れているのがわかっている。
ばれているとは思うが、思わず足に力を入れ手を拒んでしまった。
「どうしたんです?嫌なら止めましょう。無理をする事はありませんよ。」
そういうと手を止めてしまった。しかし舌は執拗に胸を攻め続け歯を軽く当てている。
本気で止める気はないようだ。
「あっ…。違うんですっ。嫌とかじゃなく…」
「ならどうして?拒んだ理由を教えてもらわなくては続きはできません。」
顔を上げ、整った美しいともいえる顔で覗き込んでくる。あのいつもの笑みが、恐ろしく意地悪だった。
やっぱり弁慶さんはこうでなくちゃ。と、意地悪奉仕型に堪らなく萌える望美。
「あ…あの…。私…もう、凄く濡れてて…それを知られるのが恥ずかしくて…だから…」
「ふふっ、やはりあなたは可愛い人ですね。ちゃんと言えたご褒美をあげないと。」
そういうと今度は力を抜いた望美の足を大きく開き、茂みの中に顔を埋めた。
「望美さんはとてもいい香りがしますね。ここも…とても甘い。」
すでに十分潤っているそこに口を付けると、溢れる泉の元から膨張した肉芽まで一気に舐め上げる。
「ひぅっ…あ…んぁ…そこ、そこ気持ちいいっ」
思わず大きく仰け反ってしまう。
望美の反応はわかりやすい。弁慶は望美が反応する場所を的確に攻めていく。
「あっ…だめぇ…。そこ、攻められると、イっちゃうから…」
「そろそろ…僕も限界です。いいですか?望美さん。」
「あ…はい。やっぱ弁慶さん的にそろそろ怪しい薬とか使いたくてウズウズしてくる頃ですよね!」
弁慶さんはそうでなくっちゃ!と、指を組み目をキラキラさせて見上げてくる。
「あ、いえ…。そういう限界ではなくて。」
それにそんな薬に頼らなくとも、満足させてさしあげる自信はありますから。
そう言うと着物を脱ぎ、細身ながらも引き締まった体で迫る。
「僕の…こっちが、限界なんです…」
―ちょっwwwでかすぎワロタwwwww
それなりに経験のある望美も、一瞬身を硬くする。
「大丈夫、優しくしますから。力を抜いて僕に任せて下さい。」
十分濡れそぼったそこにあてがうと、そろそろと挿し入れる。
弁慶の大きさと、暫くご無沙汰だったせいだろうか、
ちょっとした抵抗感の後、ぬぷ…と卑猥な音と共に弁慶が進入してきた。
「んくっ…はぁっ…ん…おおき…」
「僕が思ったほど…経験があるわけではなさそうですね。」
望美の耳元でそう囁くと、ゆっくりと動き出す。
「参ったな…。僕もそんなに持ちそうもない。
望美さんの中がこんなに気持ちいいなんて、予想外です。」
ソ/フト/バ/ンクかよwwww
と、一瞬頭をかすったが、もうそんな事はどうでも良かった。
さすが満足させると自負するだけあって、大きさだけでなく、弁慶のテクニックは流石のものだった。
浅く、緩く。深く、激しく。
休みなく攻め続ける弁慶。優しく激しい攻めに望美の限界も近かった。
「もう…だめぇ…。あっんんっ、イク…イっちゃうよぉぉ!」
「僕も、もう…!」
動きを早めると、答えるように望美もしがみついてくる。
「あっんっ…。べんけ…さんっ…イクっ!!」
「望美さっ…ん…くっ!」
望美の中に、かつて味わった事のないような快感が走った。
長い間抱き合った後、繋がっていたそれを抜き取ると、弁慶の放った精が望美から流れ出てきた。
「折角お掃除したのに。汚しちゃいましたね。ごめんなさい。」
照れながらも幸せそうに望みが呟く。
「ふふ、いいんですよ。それにこうなった時の為の掃除をしていたのですから。汚されて本望です。」
えっ、と驚いた表情を浮かべる望美。こうなった時の為?
「先日、朔は望美さんが興味を持ってるみたいだからと、香を求めに買い物へ行ってましたね。
今日望美さんが使ったのと同じ種類の…僕の好きな香です。」
「あ…」
「そうそう、この前譲君が布でぐるぐる巻きにされたまま『これではまるで拷問だ』と呟きながら
泣いてましたよ。あれ、僕の為の練習だったんですか?」
「あの…それは…」
天使のような笑みで望美を追い詰めていく。
「それに、いつも寝る直前に風呂に入る望美さんが、今日に限っては最初に入ってましたっけ。」
「……」
そんなところまで観察されていたとは思いもよらなかった。
「ですから、今日辺り何かあるのではないかと、こうして部屋を整理して待っていたんです。
僕の自惚れでなくて良かった。こうして望美さんが来てくれて嬉しいですよ。」
すべて弁慶にはバレていたようだ。望美涙目。
「だって弁慶さんの事が好きだったから!諦めたらそこで試合終了ですよって安西先生が…!」
「どうやら少し意地悪が過ぎました。すみません。望美さんがあまりに可愛いからつい。」
そういうと望美を抱きしめ、もう一度優しく口付けをした。
「ふふっ、望美さんがどう行動するか、全て僕の描いた通りだったんですよ。でもこんなに上手く行くとは。
源氏一と謳われる軍師を策に嵌めたつもりだったのなら、まだまだですね。」
そういうと少しだけ望美から目線を外し、弁慶は部屋の隅に追いやられた机の上の物を見ると独り言をつぶやいた。
―『アレ』は本物だったか…―
弁慶は「あの顔」をしていた。いつもの笑みは消えている。
望美もその視線の先を追う。
そこには、一冊のノート。
どこかで、見た事があるような気がした。
弁慶の外套よりもなお暗い色をした表紙。
まさか…そんな物あるはずがない。
あれは漫画の中の作り話だ。
私は私の意志で動いたはず。
…わからない。
でも、そこにあるのは
――BK NOTE
「ふふっ、明日も来て下さいね。望美さんご所望の『怪しい薬』でも用意しておきましょう。」
カタカタと震える体を両手で抑え、もう一度弁慶の顔を見る。
いつもの、弁慶の微笑みに戻っていた。
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一気に書き上げ、やっと一息つけた。
軽く伸びをし、改めて読み返してみる。
「今回は世にも奇妙な物語風にしてみたのですけど…少し強引だったかしら。」
書き上げてみたものの、いま一つ出来に納得がいかない様子だった。
聞きなれた足音が聞こえる。が、いつもより荒いようだ。
「精が出るな。邪魔するぞ、政子。」
前回と同じ登場の仕方な上、あまり語録のない頼朝である。
「閨に呼んだのになぜ来ぬのか。」
「まぁ、怖い。」
さして恐れる様子もなく、うふふと笑った。
「つい夢中になってしまいまして。でもようやく完成いたしましたわ。」
試しに読んで感想を聞かせて欲しいと本を差し出す。
「ん…む。私にはよくわからぬ世界だな。」
「そうですわよね…。困りましたわ。今回は少し卑猥な部分を多めにしたのですけれど。」
「まあ余り根を詰めるな。」
「ええ、でもこんな出来でみなさまに喜んで頂けるか心配で。」
本当に困っている様子である。こんな政子にはなかなかお目にかかれない。
意外な一面を見たようで、政子に対して新たな愛しさが込み上げてくるのを感じた。
「作者名が『北条政子』では、みな畏怖して手に取らないのではないか?」
異世界の事はわからなくとも、頼朝は何か協力したいらしい。
「さすが鎌倉殿ですわ。もっと柔らかい響きの方が良いかもしれませんわね。」
暫く思案するも、良い案が浮かばない
「では、こんなのはいかがでしょう?」
何か思いついたのか、政子はさらさらと筆を走らせる。
『MA☆SA☆KO』
「おおっ、音はわからぬが何やら可愛げのある文字になったではないか。」
「うふふ、鎌倉殿に褒めて頂けるなんて。ではこれで参りましょう。」
すでに手段の為に目的を忘れ始めている頼朝夫婦だった。
―おしまい―