京で愛しい人の元で暮らすと決めた時  
さすがにこのまま梶原邸で居候し続けるわけにもいくまいと  
どこか手ごろな家を探し移ろうとした望美だが、その場にいた全員に反対されてしまった  
まだ戦が終わったばかりで『源氏の神子』として名も顔も有名な望美を一人で  
住まわせるのは危険過ぎた  
 
それに正式にまだ結婚をしていないとはいえ弁慶は源氏の軍師  
源氏の神子としてだけではなく望美はその妻という立場でもあるのだ  
弁慶は多忙で一日の殆どを一人で過ごさねばならない望美をみな心配したのだ  
梶原邸なら警備もしっかりされており一先ず安心といえよう  
それでも迷惑はかけられないと言う望美を納得させたのは朔だった  
「ねぇ、望美。ずっと戦の中にいてまだ京の日常ってわからないんじゃない?  
それにあれだけ賑やかだったのに急にみんないなくなってしまったら寂しいし、  
弁慶殿が落ち着くまでここに居たらいいじゃない。焦る必要はないわ。」  
 
確かに朔の言う通りである。こっちへ来てからは常に戦の中にいて、  
そうでない時も一人で日常を過ごした事など殆どなかった  
平時でのごく普通の生活ルールがまるでわからなかったのだ  
朔は気を利かせて今の部屋ではなく梶原邸の離れに望美と弁慶の部屋を用意してくれるという  
それに最後の一言が効いた  
「ね、そしたら料理や裁縫のイロハをみっちりと教えてあげられるわ。」  
無言で頷く八葉ズ。弁慶も穏やかな笑みを浮かべつつ揃って頷いている  
痛い所を突かれた望美は申し訳ないと思いつつも、もう暫く梶原邸で過ごす事になった  
 
徐々に京の日常に慣れてきた頃である  
望美はふぅ…と幸せのため息をつき、弁慶の少し癖のある髪を指で弄ぶ  
弁慶は愛おしそうに何度となく望美の頭を撫で髪を梳く  
薄暗い月明かりに見えるのは天井だけ  
終えたばかりの行為の余韻に夜の風が吹き抜けていった  
 
「こんなにゆっくりできるの久しぶりですね。」  
望美は穏やかに流れる時間と何度も愛された体の痺れを心地よく感じていた  
「今日は九郎の計らいで、たまには家でゆっくり過ごせと早く帰してくれましたから。  
おかげで望美さんをたっぷりと満足させる事もできましたし。」  
いつものからかう調子で弁慶はふふ、と笑った  
「もう!そういう意味じゃないです。弁慶さんってば…」  
応龍が復活してもすぐに京が落ち着くわけもなく、未だ弁慶は後処理に追われていた  
執務室に泊り込んでしまった方が楽だろうに毎日必ず望美の元に帰ってきてくれた  
昼間は朔と過ごしているというものの、やはり寂しかったのだろう  
望美はゆっくり語らえる時間を作ってくれた九郎に感謝した  
 
 
ふと会話が途切れた時に、望美は聞きたかった事を口に出した  
「あの、ちょっといいですか?ずっと聞きたかった事があるんです。」  
こんな切り出し方に弁慶は少し身を構えた  
望美が自分のそばにいる選択をしてくれた事がまだ心から信じきれていないのかもしれない  
「前に弁慶さんは一つわからなかった事があるって言いましたよね。」  
「ええ。望美さんがなぜ危険を冒して時空を遡ったのか、とね。  
ふふ、腹の底の知れない策士と言われ続けましたが一番分からないのが自分の気持ちとは…」  
身構えていた弁慶の力が抜ける  
 
以前は殆ど見る事のなかった弁慶のはにかんだ、それでいて照れた表情が  
望美には手に取るようにわかった。そんな所がまた愛おしいのだと思いつつ疑問をぶつけた  
「私にも一つわからない事があるんです。弁慶さんっていつから私の事を好きだったんですか?」  
弁慶の思惑を超えるあまりにストレートな疑問だった  
「全く…。君は可愛い人ですね。」  
そう言って弁慶は望美を抱きしめた  
「もう。そうやって誤魔化そうとしてますね。ちゃんと弁慶さんから…」  
最後まで抗議させてもらえず口を塞がれる  
「君は本当に可愛くて…僕をいつも困らせる。いけない人ですね。」  
 
こうされるともう完全に力が抜けてしまう。望美はこれに弱い  
そしてそれは弁慶もよくわかっていてつい利用してしまう  
口を閉ざさせる為にした軽い口付け、のつもりだった。しかしそれだけで止める事が出来なかった  
愛しさが溢れ出て止まらない。理性で自分を押さえ込む事が今の弁慶には  
どんな事よりも難しかった  
これに弱いのは僕も同じか…。そう心の底で自嘲してしまう  
 
口を塞ぎ、唇を吸い、舌を入れる  
歯列をなぞり、わずかな隙間に舌を割りいれ望美の欲望を誘う  
「ん…ふ…べんけ…さ…」  
もう何度したかわからない口付け  
最初はどうしていいかわからなかった望美も今では応えられる  
弁慶の巧みな舌使いに拙いながらも望美も舌を絡ませる  
くちゅくちゅとお互いの水を絡め合い、吸いあい、溶け合っていく  
「ふふ、嬉しいですよ望美さん。口付けは随分と上手になりましたね。」  
「や…そんな事…言わないで下さい。」  
恥ずかしさのあまり望美は目を潤ませて弁慶の胸元に顔を埋めてしまう  
 
「そんな仕草をされたら…ますます苛めたくなってしまいますよ。  
さあその可愛い顔をもっと見せて下さい。望美さんが僕のものだって確かめさせて下さい。」  
いつもの優しげな口調なのに、望美は逆らう事ができない  
顔を上げると弁慶の琥珀色の目をしっかりと見ながら言った  
「私は弁慶さんだけの人です。弁慶さんの傍から離れません。もう二度と失いたくないんです。」  
望美は一度弁慶を失っている。それも望美自身の、神子の力を使って目の前でだ  
今ここにいる弁慶ではないが、その次元の弁慶が望美を悲しませた事はわかっている  
「ええ、僕も望美さんの傍を離れません。離しません。  
君がどんな気持ちで僕の傍に残ってくれたのかよくわかっています。」  
わかっているつもり…なのに  
 
罪を背負って応龍の復活と共に消えるのが罰なのだと贖罪の為に望美を利用し、  
自分勝手な都合で望美に重責を背負わせ消えてしまったもう一人の弁慶  
それを助けるために危険を承知で時空を巡った望美  
生まれ育った世界を捨て、家族を捨て、幼馴染と永の別れを告げた望美  
その決意は如何ばかりの物であろうか  
「でも…時々不安になるんです。  
僕の前に突然現れた時のように、また突然消えてしまうのではないかと。」  
やはり弁慶はとても優しくて、そして心の中にひどく弱い部分がある  
望美はそれを補ってあげたかった  
終わることのない贖罪の旅に自分も付き添ってあげたいのだ  
「弁慶さん…。私はもう決めたんです。弁慶さんの傍が私の生きる世界だと。  
弁慶さんと共に歩んで行くんだって。ね、私を信じて下さい。  
私にも弁慶さんの荷物、背負わせて下さい。」  
 
神子であった頃と変わらない強い意志を宿したまっすぐで美しい瞳  
初めて会ってこの瞳に絡めとられた時から、もう弁慶は逃げられなかったのかもしれない  
 
「もう二度と、弁慶さんを失いたくないんです。」  
「もう一度確かめさせて下さい。ここに望美さんがいるのだと。」  
そう言うと弁慶はもう一度望美を強く抱きしめた  
 

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