「ぁ…あぁ、ん…あぁっ」  
 
深夜、静寂に満たされた幽宮に少女の媚声と卑猥な水音が響きわたる。  
燭の僅かな光を受け闇夜に浮かび上がる白い四肢は、息を呑むほどに美しい…。  
 
「…っ!あぁ…ん、やあぁぁっ!」  
 
執拗に弱い所を突いてやれば、  
千尋は一際艶めいた声を上げ、身体を弓なりに反らせる。  
熱に溶かされたその表情はこの上なく艶めかしく、淫らな女のそれだ。  
 
「…良い貌だ」  
 
今のアシュヴィンにとって、千尋のこの恍惚とした貌と  
絶え間なく響く鳴き声こそが救いだった。  
 
千尋を初めて抱いたのは一月程前、  
アシュヴィンの率いる軍が凱旋先でいざこざを引き起こし、  
この幽宮に戻るのが些か遅くなった夜のこと。  
何事も無かったかの様に悠然と振る舞うアシュヴィンに、  
澄んだ蒼眼を涙で滲ませ、彼女は訴えた…「心配した」のだと。  
 
己の存在が、千尋にとってそのように大きなものであったことにアシュヴィンは驚き、  
その潤んだ瞳に、その想いに、湧き上がった焦燥感には抗えず、  
岩戸に閉じこもろうとする千尋を捕らえ、事を成した。  
 
最初は抵抗していた千尋だったが、幾度も睦び合ううち、  
徐々にそれも無くなっていった。  
今ではアシュヴィンの成すがまま、  
与えられる快楽に素直に応える。  
しかし、それだけなのだ。ただ、それだけ。  
何度身体を重ねでも、彼女への愛を囁いても、  
見えない「何か」によって千尋の心は頑なに閉ざされている…。  
 
ふと、千尋の頭に手を回し、繋がったまま腰をさらう。  
強引に引き寄せれば、決して小さくはない悲鳴が上げる。  
 
「!?」  
 
突然襲った強い刺激により、千尋は暫く瞳を伏せ、荒い呼吸を繰り返していたが、  
今更己の状態に気付いたらしく、驚ろいた様子で大きな蒼い瞳を見開く。  
その様がおかしくて、アシュヴィンはくつりと笑うと、  
自分の上で狼狽する少女の稲穂色の髪をそっと撫でる。  
 
「…動けよ。お前が、自分で動くんだ」  
 
「そ…んな…こと」  
「できないのか?…なら」  
 
そう言うと、アシュヴィンは勢いよく、下から千尋を突き上げた。  
 
「あぁ…っ!!」  
 
「俺が動いても構わんが、手加減は無しだ。…それではお前の身体は保つまい。  
さて、どうする?龍の姫」  
 
試すような眼差しを向ける。かつて戦場で邂逅したあの日のように。  
それを受け、千尋は涙に濡れた瞳でこちらを軽く睨み付けると、  
ゆっくり細い腰を動かし始めた。  
 
「…っ、んっ…んぁあ…あぁっ、はぁ…」  
 
最初こそ躊躇いがちに動いていた千尋だったが、  
徐々に激しさは増していき、懸命により強い快楽を得ようとする。  
闇夜に舞う金糸が、白く輝く滑らかなはだが、絶え間なく響く甘い声が…、  
千尋という少女の存在全てが、アシュヴィンの身体を、心を震わせる。  
 
「千尋…千尋」  
 
堪らず、アシュヴィンも下からの律動を開始する。  
互いの肌と肌がぶつかり合い、そこにまた新たな熱を生む。  
そしていつしか、蜜と白濁により、純白の絹は染め上がってゆく…。  
 
ーー…この戦いが終わった後、自分が彼女を繋ぎとめられるという確証はどこにも無い。  
所詮は政治的な意図から生じた脆い関係、  
彼女がただ一言「帰りたい」と発せば、周りは躊躇い無くそれに応じるだろう。  
 
ーーだから…今はただ、熱と甘い痛みを与え続ける。  
千尋が自分から離れられないように。自分無しでは、いられなくなるように…。  
 
そうして囁く、「愛している」…と。幾度も、幾度も。  
刻みつけるように……。  
 

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