「那岐も一緒にいこうよ」  
「行くなら一人で行ってきなよ」  
「だって、みんな那岐が来るのを楽しみにしてるんだよ」  
「…ますます、面倒くさい」  
 
夏休みに入って早々、学校近くの神社では大きな祭が開かれる。  
一緒に行く約束をクラスメイトとしたけど、那岐も連れて来てというリクエストは  
どうにも難しいようだ。  
 
「じゃあ、待ち合わせているからそろそろ行くけど、おかしくないかな?」  
「浴衣で行くの?…そんなんじゃ、着く頃には着崩れていそうだね」  
「うっ、やっぱり締め方が甘いのかな」  
「ふーん…、直してあげようか?僕が昼寝をしてても文句言わないなら、ね」  
「文句言ったって気にせず昼寝してるじゃない」  
「直すの、直さないのどっち?」  
「わかった、文句言わないから、早く直して!」  
 
器用に帯を締め直す那岐に感心しながら、千尋は取り留めのない話題を続ける。  
 
「風早も今日はお祭りに行くので遅くなるんだって…と言っても生徒指導での巡回だけど」  
「一緒に行けなくて残念なの?千尋の風早離れはまだまだ先だね」  
「そういうことじゃなくて」  
「ほら直ったよ、ついでに髪も直してやるから座って」  
「うん」  
 
千尋の髪をいつもより低めの位置でまとめなおし、  
青い花飾りのついたシンプルな簪で留め、手早く仕上げていく。  
畳敷きの那岐の部屋には、濃い夕陽の色が差し込み、  
東の空は半ば暗く、藍色の中で星が一つ、二つと瞬き始めていた。  
 
「ねえ、やっぱり那岐も一緒にお祭り行かない?」  
「行かない。はい、髪もお仕舞い」  
「ありがとう」  
「じゃ、僕は昼寝するから」  
「え、ちょっ!那岐ってば」  
「…文句は言わないんでしょ、うるさくされると寝れない」  
「だって」  
言葉の続きを千尋は飲み込んだ。  
 
(――これじゃ出かけられないよ!)  
 
規則正しい寝息とともに、那岐の頭が千尋の膝の上にある。  
色の薄い髪と、長い睫…  
愛想のない割に、何だかんだと文句言いながらも、世話好きな那岐…。  
 
千尋はふっと、あきらめの溜息をひとつ吐き、手元のポーチから携帯を取り出し  
待ち合わせの友人に連絡を入れた。  
「ごめん、ちょっと家の用ですぐに出られなくなっちゃったの  
みんなで先に楽しんでいて…うん、そのときはまた電話するね、じゃあまた」  
 
「フッ…ククッ…真面目すぎじゃないの?」  
電話を切った途端、那岐が堪えきれないようにクスクスと笑い出していた。  
 
「僕のことなんか放っておいて、さっさと出掛ければ良かったのに」  
「那岐っ!?だって那岐が寝ちゃうからっ!」  
「それで?昼寝の邪魔をしないように、座ったまま固まっていたの?」  
「――う…それは…」  
「今からでも行ってくればいいよ、それとも僕の昼寝に本当に付き合うの?」  
 
時々、那岐はこんな悪戯みたいな我儘を千尋にする。  
なぜかそんな時ほど、一瞬でも那岐を見失ったら、  
二度と会えなくなってしまいそうな心細さを千尋は感じるのだった。  
 
膝上の那岐の重みは大したものではないが、  
浴衣の布越しに感じる規則正しい呼吸の吐息が、千尋の中で次第に熱に変わっていく。  
思わず身をすくめた千尋の膝が揺れ、那岐が目を開けた。  
 
「…僕を寝させたくないわけ?」  
半身を起こした那岐の目前で、伏し目がちな千尋が居心地を悪そうにしていた。  
那岐が千尋の腕を引き、二人の唇が重なり合う。  
 
まるで手順のひとつとでも言いたげな口付けなのに、  
決して千尋を逃さず、唇を割り、歯列を撫ぜ、舌先を追い絡めて逃れることを許さない。  
「ん…、は…ぁ」  
早まる鼓動に息苦しさを感じ、呼気を求めて離れたものの、  
力が抜けた千尋は、那岐に凭れることしか出来なかった。  
 
身を捩ったために座り崩れた裾から差し込まれた手が、腿を撫で上げ指先が秘所を割り、  
弄いに合わせてクチュクチュと音を上げ、潤みをおびたことを示す。  
「那…岐…あ…んっ」  
「千尋はさ、人の言うことを素直にしすぎるんだよ…まったく」  
 
ほら、と那岐に手を引かれて、千尋は傍らのベッドに身を移した。  
帯を緩め、合わせを広げると白い胸乳がこぼれ出す。  
肉付きの薄い鎖骨から、胸の膨らみへと唇が落とされながら着物は脱がされ、  
千尋の頭から簪がはずされた。  
薄暗さの中、そこには横たわる千尋の白い裸身が浮かび上がっていた。  
 
手のひらで覆われた柔らかな膨らみが揉みしだかれ、指と指の間に挟まれた  
薄紅の突起が固く立ち上がる。  
「…ふ…ぅんっ」  
「無理することないよ、声を出しでも大丈夫だから」  
「だって」  
千尋の上気しきった頬色を認めると、膝を押さえて脚を開く。  
秘されていた場所が露わにされ、寄せ返す波のような指の動きにヌチュヌチュといっそう濡れそぼっていった。  
引く波が、埋もれた小さな実を押し上げる。  
 
「あん!あ…ぁ、那岐…そこはだめ…」  
身を貫くしびれるような刺激に、千尋は堪えきれず嬌声をあげた。  
「千尋、大丈夫だから力を抜いて…」  
「…でも……ふぅん…っ…あっ!あぁん」  
くり返し擦られて受け膨らんでいく芽を、逃さぬようにさらに小刻みな刺激を与えられ、  
千尋は追い立てられていく。  
「…な…ぎ…もうだめ……はぁん、あ、あん!あぁっ!」  
 
達した千尋の心身から力が抜け、頼りなげに潤んだ瞳で那岐を見上げる。  
那岐が体を割り入れると、やがて床に広がる千尋の長い髪が、  
波間に映る月の光のように律動に合わせて揺れていった。  
 
緩やかに、また深く突き上げられ体の深奥がうずき、白い体が震える。  
こみ上げる思いが千尋を駆り立て、腕を伸ばして那岐に縋り付く。  
 
――好きなのか大切なのか…何が違うのか、もう…よく分からない…  
ただ、心ではなく魂が、離れがたいものを知っている――那岐の隣が居場所だと  
 
やがて涯がおとずれた。  
 
 
…少し窓を開けたのだろうか、風を感じて千尋を目を開いた。  
「…那岐」  
そっと伸ばしてきた千尋の手に、那岐も手を組み重ねてつなぎ合せる。  
「無理しないで少し眠りなよ、ちゃんと起こしてあげるから」  
 
遠くから花火の音が聞こえ出す。  
窓の外を覗いたとしても、建物越しに所々しか見えないだろうけど、  
色とりどりの花が夜空を賑わす気配は二人だけの世界に伝わってくる。  
 
宵闇の中で寄り添い眠る二人の姿は、幼子のような安らぎに満ちていた。  
 
(終わり)  
 

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