それは突然の雷雨だった。  
少数精鋭で進軍していた千尋達は、たちまち白く煙ってきた森の中で互いに離れ離れになってしまった。  
不可思議な力が働きかけたのだろうか、間近にいる仲間の姿さえも霞んで見える。  
「姫!」  
布都彦や葛城の呼ぶ声が聞こえたが、すぐに雨音に紛れて消えてしまい、己の居場所さえも分からなくなった。  
「みんな!」  
咄嗟に手を伸ばして足を踏み出した千尋の足元が急に崩れた。  
「危ない、姫さん!」  
すぐ後ろに居たサザキが千尋を抱え上げて飛び退る。  
次の瞬間、大きな音を立てて大木が崩れてきた。  
「ああっ…」  
その光景を目の当たりにし、、千尋は無意識にサザキの肩へとしがみついた。  
「ひとまず安全な所に移動するぜ、落ちないようにな」  
普段、軽口を叩いている彼も珍しく真剣な表情であった。  
ばさり、と大きく翼を羽ばたかせると、風の勢いに逆らわないよう器用に高い枝の間を渡っていった。  
 
 
 
「ここならしばらく雨をしのげるだろう」  
古い小屋だが、中に入ると意外に広い。  
「勝手に入って大丈夫かしら」  
ずかずかと入っていくサザキの後ろからそっと足を踏み入れた千尋は薄暗い中を彼の背中からそっとうかがった。  
「なあに、困った時はお互い様さ」  
さっそく室内をがさごそとひっくり返し始める。  
使えそうなものをいくつか見つけたのか、乾いた布やら枝やらを抱えていた。  
「火を起こせばマシになるかな」  
そう言って、サザキは小屋の中にあるもので燃やせそうなものを部屋の真ん中に積み、火を起こし始める。  
「姫さん、濡れた上着は脱いだ方がいいぜ」  
自分の肩にかけていた布も外して火の近くへ乾かすようにして広げた。  
体が冷えると体力が奪われる、とサザキは言い、千尋にもっと近くに来るよう手招きする。  
「…でも……くしゅん!」  
「ほら、そのままだと風邪引くぜ」  
「うん…」  
確かに雨の中を移動した体は芯から冷えているようだ。  
裾からぽたりと雫を垂らす白い衣を脱ぐと、水気を絞って部屋の中に掛けた。  
「もっと火の近くに来たらどうだい、姫さん」  
サザキは翼についた水滴を払うと、少し離れた所に立ち尽くす千尋を呼んだ。  
「隣に行ってもいい?」  
「俺は大歓迎だぜ」  
にっと笑う彼につられて、千尋も強張った頬を少しだけ緩めた。  
 
「こうしていた方が手っ取り早い」  
隣に座ろうとした千尋の手を取ると、サザキは胡坐をかいた自分の膝の上に彼女を抱えた。  
「サザキ!」  
「…ここなら誰の目も気にしなくて良い」  
千尋の髪を擽るサザキの声は心地よく響く。  
彼の腕と翼に包まれると、爪先まで冷え切っていた体に少しずつ温もりが戻ってくる。  
「あたたかい」  
「姫さんに風邪でも引かれたら大変だからな」  
ははっと笑いながら、千尋を抱きすくめる。  
耳朶をぺろりと舐めながら、肩へと置いた手に力を込める。  
「やだ、くすぐったいよぉ、サザキ!」  
「それだけじゃないだろ」  
膝の上に抱えた千尋の顎を捉え、柔らかな唇へとそっと触れるように口付けた。  
「…な?」  
まるで子供のように笑うサザキの顔を間近で見て、千尋は更に顔を赤らめた。  
するりと彼の手が青衣の袷に触れ、その上から胸をなぞるように指を沿わせる。  
それだけで胸の先にジンと痺れるような刺激を感じる。  
白い腕を回してサザキの首に抱きつくような形で体を預けると、今度は千尋の方からサザキへ口付けた。  
「少しだけだからね」  
そのまま彼の額へと唇で触れ、サザキの長い髪へと触れた。  
「わかっているって」  
サザキの手は千尋の纏う衣の帯を緩めながら、その隙間から肌に触れていく。  
彼の膝の上に抱えられた状況では本格的に抵抗するのも難しいが、千尋とて彼に触れられるのは嫌ではない。  
むしろ、久方ぶりの逢瀬を与えてくれたこの雷雨に感謝したいぐらいだ。  
「サザキ…」  
「…綺麗だ、千尋」  
目の前にある彼女の白い首筋へと淡く痕を残すように吸い付き、舌先で喉元を擽るように舐める。  
びくりと肩を竦めた千尋の肩から、既に肌を覆う役目を果たしていない衣を取り去り、下着も一緒に脱がせていく。  
「や…待って」  
「千尋の体はそう言っていないぜ?」  
ほっそりとした白い体が、ぱちぱちと揺れる赤い炎に浮かび上がる。  
あらわになった胸を片方の手で優しく揉み解しながら、もう片方の手は足の合間へと下りていく。  
千尋を膝立ちさせて軽く足を開かせると、しっとりと湿り気を帯び始めた秘所へと指を走らせる。  
くぷり、と指先でぬかるんだそこを軽くつつくように刺激する。  
「あっ……うん…んっ…もうっ!」  
その姿勢を保つのも辛いのか、胸をサザキの顔に押し付けるようにして体を預ける千尋の声は、次第に甘くとけていく。  
つん、と固くなっている乳首を唇と舌で転がしながら、腰を抱き寄せて秘所に這わせた指を深く突き入れた。  
「…はぁっ…あああっ!」  
体を支えきれなくなった千尋が悲鳴にも似た声を上げて達すると、秘所からとろりと零れた蜜が内腿を伝い落ちる。  
「そろそろ良いか?」  
答えを返すのも億劫なのか、彼の腕の中で千尋は小さく頷いただけで黙り込む。  
ちゅぷり、と指を抜き去ると、サザキは自分の服を寛げて、天を向いて勃つ己のモノを千尋のそこへと押し当てた。  
 
細い腰を支えるようにして、千尋の中へと己を納めると、サザキは膝の上に抱えた千尋の体をしっかりと抱きしめた。  
「……サザキ」  
自らの体重でいつもより深く繋がっているため、千尋は少し苦しげに眉を寄せた。  
「今日は私が…ね?」  
胡坐をかいたサザキの上に跨り、少し足の位置を直す。  
「言うねぇ」  
ぎゅう、と絡み付いてくる粘膜とその熱さに、こちらも蕩けそうだとサザキは呟く。  
千尋は彼の首に回した腕を支えに、ゆっくりと腰を動かした。  
じゅぷり、じゅぷりと自らが発する濡れた音がやけに大きく響く。  
腰に添えられたサザキの腕が、千尋の動きを支えるように動くと、彼のモノで奥の方を突き上げられる感覚に襲われる。  
ばさりと彼の翼が揺れ、千尋の頬を掠めた。  
「ひっ…あっああっ……やだっ…」  
いつの間にか、サザキに揺らされる形で激しく抽送を繰り返され、千尋の声も一際高くなる。  
「うん、いつもより…絡み付いてくるぜ、千尋の中」  
「ば、馬鹿ぁっ!」  
ぐいっと押し付けられるようにして、一層深く繋がると、ひくひくと千尋の中が蠢く。  
「サザキ…あああぁっ!」  
弱い一点を攻め立てられた衝撃で頭の中が白くなる。  
きゅうっとサザキを締め付けるように収縮する中へ、どぷりと熱いものが注がれる。  
「はぁ…」  
蜜と混じった白濁した精が繋げられた所から溢れてとろりと零れる。  
「まだいけるか?」  
「…いいよ、サザキの気が済むまで付き合ってあげる」  
雨の勢いは弱くなってきているのだろうか。  
そんな事をふと考えたが、しばらくはこの場を動けないのだから、大丈夫だろう。  
今だけは、こうして居たい。  
二人の想いを交わすように、それから何度も抱き合った。  
 
 
幾度目の絶頂を向かえたのだろうか。  
心地良い倦怠感にくたりと体を預けながら、千尋はサザキの唇へと軽く触れるようにキスをした。  
「ん、疲れたか?」  
汗ばむ頬を撫でるように手を添えると、サザキは千尋に優しくたずねた。  
行軍の最中、無理を強いてしまった事を詫びる。  
「……少し」  
このまま抱いていて欲しい、とねだるような甘い声に、サザキは小さく笑みを零した。  
「温かいよ、千尋」  
触れる肌から伝わる熱と、とくとくと脈打つ鼓動に安堵する。  
「うん」  
小屋の戸をぱらぱらと叩く雨音を遠くに聞きながら、千尋はサザキの腕の中でまどろむ。  
「………最高の、」  
「何?」  
「…いや、そのうちに、な?」  
彼が言いかけた事は何だろうかと思いつつ、そのまま意識は眠りの底へと落ちていった。  
 
 
「いやー、綺麗に晴れたな」  
一晩経ち、すっかり雨もあがった朝、晴れ渡った空を見上げたサザキは千尋の方を振り返った。  
「霧も晴れているし、良かったね」  
比較的新しい小屋だったので、幸いな事に雨漏りもせずすごす事が出来た。  
千尋はサザキの顔を見るのが何となく恥ずかしくなり、ぷいっと横を向く。  
「じゃ、いっちょ皆を探そうか」  
そう言って彼は千尋を横抱きにして地を蹴った。  
「しっかりつかまっていろよ、姫さん!」  
ばさばさと背中の翼をはためかせ、サザキは空へと飛び立った。  
すぐに遠くなる地面に不安を感じながら、千尋は彼の首へと腕を回してぎゅっと捕まった。  
「好きだよ」  
小さく呟いた千尋の言葉は、風を切る音に紛れてすぐに消えた。  
「…ん、何か言ったか?」  
「……速いね、って言ったの!」  
聞き返されたが、同じ事をいうのが恥ずかしくなった千尋は照れ隠しにそう答えると、サザキの肩口へと顔を埋めた。  
 
Fin  
 

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