岐は複雑な気分だった。
千尋は夕飯の支度を終え、キャミソールと短いスパッツと言う無防備な姿で雑誌を読んでいる。雑誌に集中しているのか、咥えたアイスの持ち手から白い液体が胸の上に垂れていた。
「アイス、溶けるよ」
「うん」
そう言いながらもページを捲り続けている千尋。そんなに面白い記事でも載っているのか、と那岐は思う。
「6時間目体育だったろ。風呂入っちゃえば?」
「…那岐はいいの?」
「僕は千尋と違って手抜きしてるし。後盛り付けだけだから、やっとくよ」
千尋は少し考え、そうだねと言い片手で雑誌を閉じた。アイスでベトベトになった指を舌で舐める。
直視することが出来なくなり那岐は窓の外を見た。オレンジ色の夕焼けが見える。
「今日は佐藤先生の送別会があるので遅くなります。千尋の事は頼みましたよ」
風早の言葉を思い出す。丁度風早もいないし注意するには良い機会かな、と那岐は考えた。
「千尋が風呂入ってる間に洗濯かけちゃうから、洗濯もの出しといて」
そう言うと千尋が不思議そうに那岐を見た。
「……どうしたの那岐?」
何時もは家の事なんてしないのに、と千尋は言う。
「…たまには働くさ」
そう言いながらダルそうにテレビを付ける。5時のニュースです、とアナウンサーの声が聞こえた。
「洗濯出来ないから早く入ってよ」
そう言うと千尋は慌てて部屋に向かった。
服を洗濯機に押し込み洗剤を入れる。適当にボタンを押すと洗濯機が動き出した。洗濯機の水音にシャワーの音が紛れる。
那岐は千尋の影を見ない様に居間に向かった。ニュースを聞き流しながら外の夕焼けを眺める。
自分は千尋にとってどんな存在なのか。家族であり、きょうだい。そんなものなのか。
ここ2・3年ずっと考えてきた。
大事なものを作らない様にしてきたが、既に大事になってしまったものはどうすれば良いのか…
那岐はこの気持ちを持て余していた。
何かが落ちる音がし、那岐は視線を巡らせた。千尋の読んでいた雑誌。きっと友達から借りたのだろう。
拾いに行くと、偶然開かれたページの文字を見て固まった。ページにはこう書かれていた。
那岐っ!!」
ダカダカと足音を立てながら千尋が入ってきた。やはり怒っている様だ。
「…っ!千尋……なんて格好で…」
那岐は視線を反らした。
千尋はバスタオル一枚だった。いつもは結わている長い金髪が首や肩に張り付いている。
「なんで着るものまで洗っちゃうのよ!」
「ああ…、ごめん。洗剤ついちゃったから」
嘘だ。
「…そっか。じゃ仕方ないね」
そう言うとぺたぺたと流しに向かう。歩く度にバスタオルの裾が捲れて、見えそうだ。
千尋が水を飲んだ事を確認して、那岐は立ち上がった。
「千尋さ、ちょっと無防備すぎ」
そう言うと目を丸くして此方に歩いてきた。白い肌が薄赤に上気していて、視線が離なくなる。千尋はそんな那岐の様子に気付かない。。
「そうかな?」
「そうだよ、この前も着替え途中に宅配便に出てたし」
「那岐が寝てたからじゃない」
「…その時は叩き起こしてよ」
そうじゃなくって、と那岐は続ける。
「僕も風早も男なんだからさ、薄着でいるの少し危機感とか持たない?」
言いながら近付くと千尋は本能的に察したのか、じりじりと後退する。さらに那岐が近付くと追い詰められる様に冷蔵庫にぶつかった。
「……那岐?」
千尋の両手を冷蔵庫に押し付ける。背中にドアの冷たさを感じ千尋は体をすくませた。出した声も震えている。
「怖い?」
冷静な那岐の顔が目の前にある。
こわくない。そう言おうとした唇は、那岐に塞がれた。
触れていたのは一瞬だったが、千尋にはやけに長く感じられた。何か言わなきゃと思い、考えを巡らせる。しかし上手く考えられない。
「小学校の頃、よくキスしてたよね」
いつからしなくなったんだっけ?と千尋が聞く。
そんな言葉に那岐はがっくりと肩を落とした。深いため息も聞こえる。
「もう子供じゃない」
那岐の傷ついた顔が近付き唇が触れ合う。千尋は自然に目を閉じた。
先程とは違い、口内に那岐の舌が入ってくる。入って来た瞬間千尋の肩がびくりと震えた。そのまま舌を絡めても、千尋は抵抗しなかった。
唇を離すと唾液の糸が引いた。千尋の顔が少し残念そうに見えたのは気のせいだ、と那岐は思った。青い目が涙で潤み、眩しい。
「千尋さ、好きなヤツいるんだったら抵抗しなきゃ駄目だよ」
千尋の胸元を見ない様に、那岐は視線を反らした。その言葉に千尋の頭が冷静になってゆく。
「好きな…人?」
「雑誌。男を誘う方法って書いてあった。誰か…誘いたい男でもいるんじゃないの?」
確かに、そんな記事はあっと千尋は思った。しかし記事は流し読みしただけで、熱心に読んでいたのはハムスターの観察記だ。
「……やきもち?」
「なっ……!」
那岐の顔が耳まで赤くなる。真っ赤になった那岐を見て千尋は笑った。
「…千尋、状況分かってる?」
赤い、怒った様な那岐の顔が胸元に降りてくる。口でバスタオルをくわえ引っ張るとタオルは足元に落ち、那岐の前に全てを晒した。千尋は赤くなって慌てたが押さえ付けられた手はびくともしない。足も閉じようとしたが閉じる前に那岐の足が間に割り入った。
「なっ、ななな那岐!!」
ごくり、と那岐が唾を飲み込む音が聞こえた。
「抵抗しないの?」
耳もとで囁かれ、肌が粟立つ。千尋が何も言えずに固まっていると、那岐が首に口付けた。軽い口付けを落としつつ鎖骨を舐められる。
「…っあ…ん」
声が押さえられない。千尋の甘い声を聞くと那岐の体が震えた。
「もう…やめられないよ?」
那岐の声も震えている。
千尋はうつ向き、かすかな声で呟いた。
「………」
「聞こえない」
意地悪。千尋は顔をあげて那岐を睨んだ。
「…那岐なら、好きだから、いい」
「………………本当に?」
不安そうな那岐の顔が近付く。自分から「やめられない」と言った癖に拒んで欲しいようだった。
千尋は答える代わりに、那岐に口付けた。
那岐は千尋をベッドに優しく横たえた。後の事を考えると千尋の部屋が良い。
「やっぱり那岐も男の人なんだね」
私を軽々と抱き上げちゃうし、と千尋は照れながら言う。
「千尋、緊張感なさすぎ」
上着を脱いだ那岐が言いながら千尋の胸に触れる。
「ひゃ…!」
「でも、やっぱりドキドキしてる」
「ひゃっ……ぁ…はっ……あ……っあう…」
那岐の手で胸を揉みしだれ、胸の先を吸われる。自分の体じゃ無い様な感覚。熱い指が気持良い。
「那岐も…脱いで」
もっと触れあいたい。
上目使いで懇願されては那岐も断れず、服を脱ぎ始める。千尋は手伝おうとしたが「それだけは止めて」と那岐に止められた。
裸のまま抱き合うと、互いの体温が心地よい。
「足、開いて」
那岐の声に素直に千尋は従った。そのまま体を千尋の足の間に滑らせる。足の付け根を撫でられて千尋は体を震わせた。
「痛くしないようにするから」
そう言い、千尋の入り口を探る。何度も撫でられ、甘い声が漏れた。
「っふぅ……!」
指を入れると千尋の体が跳ねた。それでもゆっくりと指を動かすと、少しずつ水音が響いてゆく。
「あぁ…んうっ……は、ああ……っあ…あぁ…」
指を増やしても千尋に抵抗は無く、与えられる快感に身を任せている。
もういいかな、と那岐が指を抜こうとすると千尋の体が跳ね、内側を引っかいてしまった。
「やっ…やだぁっ!!」
千尋が体をしならせ、内部が締まる。千尋の弱い所を見付けた那岐は笑った。
「イイんだ?ここ」
力を入れすぎないように、千尋の内部を擦る。
「…っ!なぎっ…だめ!…ひっ…うぁ……だめっ!あ、あ!あぁ!うぁああっ!!」
強すぎる快感にどうして良いか分からず、千尋は那岐にしがみ付く。那岐は千尋の頬に口付けを落としながら、開いている手で入り口の上をなぞってゆく。
「…ひっ…ぁああ!…あ、あうっ!はあっ…ぁあああああぁっ!!!!」
入り口の上の突起を撫でると千尋は体を大きくしならせ、内部が激しく痙攣した。しがみついた腕が弱弱しく震える。指を引く抜くと、千尋の蜜が那岐の手首まで濡らしていた。
「…感じすぎだよ」
荒い息のまま青い瞳が那岐を睨む。だるく感じる腕を伸ばし、那岐に触れた。
「那岐だって…こんな……」
那岐自身に指を絡めると熱く、心臓の鼓動のような震えが伝わってくる。
「…っ千尋!」
慌てた那岐に手を引き剥がされ、両手を頭の上に纏められる。千尋から考えれば「那岐ばっかり触ってずるい」と思っただけだったのだが。
「…はぁ。……千尋、入れるから」
言いながら千尋の入り口に自身をあてがう。入り口がひくりと震えた。
ずっ…と濡れた音をたてて狭く熱い内部に飲み込まれてゆくが、引っ掛かりを感じて那岐は動きを止めた。声も無く震えシーツを握り締める千尋の手を離し、背中に回させる。
「僕にしがみついてて」
そう言い、最奥まで一気に貫いた。
「いっ……」
千尋が眉根を寄せ、那岐にしがみ付く。背中に感じる微かな痛みが少し罪悪感を那岐に与えた。
「大丈夫?」
「だい…じょぶ」
千尋はゆるゆると頭を振る。金の髪がシーツに散らばった。
「…痛いのも記念だって、友達に聞いたし」
背中に回していた腕を首に回し、那岐に口付ける。
「動いていいよ?」
その言葉のまま、那岐は千尋に口付けると、ゆっくりと抜き差しを始めた。
少しずつ速くなっていく動きに千尋の腰が揺れる。1度高みを向かえた体は快楽の回りが速いのか、悲鳴のように高い声を上げ続けている。
「あっ!あ、はぁ…っあぁ!やっ!ああぅ…ん、んぅっ!あ、んぁ…ひああぁっ!!」
先ほど見つけた千尋の弱い場所を擦る度、内部がきつく痙攣する。
もう、あまり持たない。
那岐は動きを更に激しくしながら額の汗をぬぐった。時折千尋の内部を深く突くと、声も無く体が仰け反る。千尋も限界だろう。
「…千尋…もう……っ」
「…あ!っな、那岐っ…なぎぃ…っあ!!あぁ、だめぇ…は…ぁああああああっ!!!!」
千尋が那岐の首に縋り付く。その瞬間、千尋の内部が激しく痙攣した。体ごとがくり、と何度も震えながら那岐を締め上げる。
「ち、ひろ…っ」
その締め付けに耐えられず、那岐は千尋の奥に熱を注いだ。
「だるい?」
そう聞くと千尋は少し身を起こした。
「うん………」
白い胸が見えて那岐は視線を逸らし、服を着始めた。駄目だ。またしたくなる。
「…あまり薄着で出歩かないでよ。どうなるか……よくわかっただろ?」
「うん………」
千尋はぼんやりと那岐の言葉に頷く。まだ頭が上手く働かないようだ。
「次は無理やりにでもするからね」
「…那岐なら、いいよ」
千尋は着替えている那岐に抱きついた。柔らかさに鼓動が跳ねる。
「…っ!水、持ってくるから」
千尋の腕を優しく解き、那岐は台所に向かった。
薄着を注意するどころか勢いであんな…と反省したが、結果として千尋も自分の事を思っていた事は良い収穫だった。
ただし、風早を誤魔化せる自信は今の所、ない。
ため息を付きながら、コップを持ち千尋の部屋に向かった。
(終)