夜も遅く、外から土蜘蛛の歌が風に乗って聞こえてくる。
日中政務に追われて疲れているにも関わらず、
アシュヴィンは飽きもせずに千尋と抱き合っていた。
「あの……ね、アシュヴィン」
「どうかしたか?」
「アシュヴィンは、子供欲しくない…の?」
「なんだ、いきなり」
シーツを上まですっぽり被った千尋が、不安げな表情を覗かせて尋ねる。
アシュヴィンはその発言を訝しく思いながらも、
月光に照らされて輝く金の髪を弄りつつ次の言葉を待った。
「実は……」
そう言って、千尋は躊躇いがちに話し始めた。
『皇と妃殿下は結婚して一年も経つというのに、未だ懐妊の兆しが無い。国の為にも四つ木が必要だというのに、皇は妃殿下と子を成す気が無いのか。あるいは、妃殿下は子が産めないのか』
遠夜を伴って回廊を歩いている時、偶然そう話しているのが聞こえてしまった。
千尋は鈍器で頭を殴られるような衝撃を受け、自分が王族としての義務を果たしていないことに罪悪感を感じると同時に、アシュヴィンが自分の与り知れぬ所で子供を作っているのではないかという焦燥に駆られた。
『……大丈夫。……黒雷には、子供はいない』
千尋の感情の変化を敏感に察知した遠夜は、千尋を安心させる為に言う。
彼女の蒼瞳を翳らせた輩を懲らしめようと鎌を持てば、
千尋にその手を抑えられ無言で制される。
遠夜の言葉は正しい。でも、千尋は不安だった。
だから、千尋は話しながら自然と涙が溢れてくるのを止められなかった。
アシュヴィンを困らせるのは間違いないのに。
あるいは、馬鹿馬鹿しいと一蹴されるか。
しかし、アシュヴィンの反応は違った。
「――そうだな。確かに、子を成すのは王族の義務だ。
だが、そう焦る必要はないさ」
普段のアシュヴィンからは想像もつかないほど優しい声で、
指で千尋の涙を拭い、舐め取ってやる。
「俺たちの"初婚"は、お前の気持ちが定まらないまま執り行われた。
だから、子供くらいは俺の花嫁が望む時に作ればいいと思っているんだ」
未だに"花嫁"と呼ばれることに千尋はくすぐったく感じながらも、
アシュヴィンの気づかいに嬉しくなる。
「アシュヴィン…」
「それに、世継ぎなどシャニに任せればいい。
あれはあの歳でなかなか女好きだからな。期待できるだろう?」
アシュヴィンは悪戯っぽく笑い、ウインクする。
千尋は出雲での出来事が思い出されて、自然と笑みが浮かんだ。
「……やはり、お前には笑顔が似合う。
幽宮のつまらない者の言葉にお前が傷つくのは見たくないものだ」
「アシュヴィン?」
「―――子を成そうか、千尋」
褐色の手が、千尋の驚きに満ちた顔を優しく包み込む。
赤銅色の瞳に真っ直ぐと射抜かれる。
「な…っ!さ、さっきと言ってることが違うわ!
わ、私の意思を尊重するんじゃなかったの?!」
千尋は顔を真っ赤にして叫ぶ。
思った以上に挟まれる手は強く、アシュヴィンから目を離すことが許されない。そ
れが余計に焦らせる。
「嫌じゃないだろう?」
「……嫌じゃ、ない、けど」
「なら、問題ない」
自信たっぷりな夫を腹立だしく思いながらも、千尋は小さく頷く。
「そうと決まれば、今宵はいつも以上にお前を可愛がってやろう。お前の従者が言っていたが、
異世界では妻が気持ちよくなると男が生まれやすくなるのだろう?俺の腕の見せ所だな!」
「…っ!?か、風早のばかー!」
獲物を見つけた獣のような顔をして組み敷く夫を見上げながら、千尋は恨みがましく風早の名を叫んだ。それを可笑しく思いながら、
アシュヴィンは千尋の耳元に掠れた声で囁きかける。
「さあ、励もうか?千尋」
×
小鳥が啄ばむ様な口づけから始まり、段々とその激しさを増していく。
ぬるりとして僅かにざらついた舌が千尋の口内を蹂躙し、
別の生き物のように絡み合う。唾液が送られ、送り返す。
「ふぁ…ぁ、あ…んっ」
息継ぐ暇すら与えられず、口づけだけで千尋は脳みそが蕩けだしそうだった。
その間にもアシュヴィンの手は休むことなく、千尋の体中を愛撫していく。
アシュヴィンの寵愛により大きくなった乳房をこね回し、
快楽にそそり立った突起を押しつぶし、もみ潰す。
「千尋…」
「ぁ…」
名残惜しげに唇が離れ、二人を銀の糸が繋ぐ。
アシュヴィンは首や胸に赤い花を散らせながら、唇が下へと下がっていく。
「…っは、…やぁ!アシュ…!あぁぁ…っきたな…い…よ…んぁ!」
やがて望の場所に到達し、千尋の言葉も無視し、濡れそぼった秘所に顔を埋めて舐めまわす。
舌を愛液がとめどなく溢れるる膣にねじ込み、攻め立てる。
「ぁ…あぁ…!ひぁ!」
アシュヴィンの下を逃すまいと蠢く膣の動きに満足して笑みを零す。
「そろそろ頃合、だな」
ひくひくと痙攣する女陰を満足気に身、快楽に染まった千尋の姿を見る。
赤く上気した頬に、煌く蒼瞳は焦点がぼやけ、口の端から零れる唾液、
白い椀の上でつんと自己主張する桃色の突起に、体中に散らされた赤い印。
「欲しいか?千尋」
片手で千尋の両手を頭上に押さえつけ、空いた手で己の肉棒を秘裂にこすりつける。
「ほし…い…っ、い、いじわる…しないで…っ」
理性を失った千尋は、涙目になって懇願する。
無意識に腰を揺らし、快楽を欲す。
アシュヴィンに慣らされた体は、その清楚な容貌に反して淫らになっていた。
「俺の奥方のたっての望みとあらば」
笑みを浮かべ、アシュヴィンは肉棒の先端を膣にあてがい、
ぐちゅちゅと淫靡な水音立てながら一気に貫いた。
「アアァァァァ!」
最奥まで貫かれ、千尋は宮中に響き渡りそうなほどおきな嬌声を上げて弓なりになる。
目の前が真っ白になり、脳が焼ききれ、火花が散る。
「まだだ…っ!千尋!」
「いやぁ!ああ…っひぃ…、まだ…ぁっ…いって…るのにぃ!あぁぁん!」
搾り取るような膣の収縮に耐えながら、
アシュヴィンは背中の後ろでおさげが揺れるのも気にせずに、抜き差しを繰り返す。時折、谷間に顔を埋め、乳房を可愛がったり、妖しく蠢く女陰を指で撫で回したり弾いたりする。
規則正しい腰を打ち付ける音と、ぬちゃぬちゃという水音が部屋を満たす。
「ンッ…ア、アシュ…ヴィン!ッァァアアァァァ――!」
「くっ…、孕め!千尋!」
千尋の絶頂と同時に、アシュヴィンも果てる。
子宮へと強く押し付け、
一回り大きくなった肉棒から、
脈打ちながらびゅっびゅっと勢い良く精液が注がれた。
×
あれから五回ほどまぐあった後、ようやくアシュヴィンは千尋を解放した。
疲れ果てた千尋の寝顔を見ながら、
アシュヴィンは一滴も精液を漏らすまいとまだナカに己を入れていた。
まだまだ出来たが、明日の千尋の身のことを気づかって眠らせてやることにした。
(『アシュヴィンのバカ!絶倫!』となじられるのも悪くは無いが…)
眠る千尋の頬に口づけを落とす。
(これで明日愛し合えなかったらつまらないからな)
そして、ふと真剣な顔つきに変わる。
あの発言をした者は――あれは先日娘を差し出すと言ってきた豪族ではないかと。
(俺の奥方を傷つけた罪は重いぞ?
だが、まあ。この位子種を仕込んでけば、嫌でも孕むだろうがな)
そう考えながら、アシュヴィンも千尋の夢路を追うように眠った。
――後日、その豪族の娘はアシュヴィンの計らいにより他の豪族と婚姻した。
更に、その二ヵ月後、
アシュヴィンの読みどおり千尋が妊娠したことが分かったのだった。
終