「ヒノエ君、どう?今日こそ均等になったかどうか、確かめて?」  
神妙な面持ちで帯を解いて衿を開き、堂々とヒノエに己が乳房を見せながら望美は言った。  
「まあ待ちなよ。…どれ、ちゃんと見せて」  
内心、可笑しくて仕方がないヒノエは、もったいぶるように、望美の衣をさらにはだけた。  
同年齢の少女達の平均的なそれよりもやや大きめの乳房が、プルンと揺れる。  
望美はヒノエがそんな事をしている間も、そわそわと落ち着きなく自分の左右の胸を見比べていた。  
「ねぇ、早く…お願い。心配で仕方がないの」  
ここまで切なげ…もとい切実に言われては望美を待たせるわけにはいかない。  
ヒノエは心得たとばかりに望美の乳房を鷲掴みにした。  
「あっ、んんっ…」  
遠慮なしに大味に揉み込むヒノエ。手のひら全体を乳房に押し付けて揉みしだき、指を柔肉に沈ま  
せる。パン生地をこねるかのように大胆に、揉んで、揉み抜く。  
「ヒ…ヒノエ君、どうかな?私…の胸、あっ…そろそろ左右とも均一の大きさになった?」  
「うーん、そうだね…」  
激しい愛撫に瞳を潤ませ、熱い息の合間に問いかける望美にも、ヒノエはわざと気のない返事をする。  
ヒノエの目に悪戯心たっぷりの輝きが宿っている事を、快楽を享受するので精一杯の望美は知らない。  
「残念だけど姫君、また左の方を大きくし過ぎてしまったようだね」  
「ええっ、そんなぁ…」  
「しょうがないよ。同じ大きさにするって、なかなかどうして手間のかかるもんなんだぜ」  
「ヒノエ君お願いだよ、はやく左右のバランスが整った胸にしてよ…」  
「“ばらんす”って釣り合いの事かい?いいぜ、オレとお前みたいな釣り合いのとれた恋人同士みたく、  
差異のない胸にしてやるよ」  
「あっ…はぁ…んっ…」  
「……ここで無視しないでよ、寂しいね」  
ヒノエは意趣返しとばかりにいっそう指に込める力を強くした。  
ついでにここ数日で知り尽くした望美の胸の中で、最も攻め甲斐のある急所たる乳首を弾いた。  
「あーっ、だめっ…!」  
望美から甲高い声があがり、ヒノエの手に己が手を添えた。  
が、ヒノエの手は止まらない。  
望美も嫌がっているのは口先だけで、ヒノエを拒絶するそぶりはいっこうに見せない。  
実は、ヒノエは望美本人から胸の管理を一任されていたのだ。  
 
 
そもそもの発端は、数日前の晩の事だった。  
湯殿を使った望美は濡れ縁の何もない所で派手に転んで、その拍子に着慣れぬ単衣から乳房を露出させた。  
あたかも出場者1名のみの水着運動会のようにポロリと出た胸を、慌てて隠そうと四苦八苦していた矢先に、  
「おっ、シャッターチャンス!」  
「ひゃっ」  
あっと思う間もなく、どこからかやってきたヒノエに両胸を揉まれた。  
どう考えても近くに潜伏していた出現確立に、望美はヒノエあなどりがたしと、仮にも神職であるこの少年を睨んだ。  
「ヒノエ君…“シャッターチャンス”って…そのろくでもない横文字どこで知ったの?  
しかも何か使い方間違ってるし」  
胸を元通りに単衣におさめて恨めしげに言うと、ヒノエはまるで罪悪感もないように気さくに笑った。  
「将臣が言ってたんだよ。神子姫様の世界の事が知りたくて、言葉を習ったんだ。  
女が心ならずも自分の肌を露出させてしまったとき、“シャッターチャンス”っていう無礼講の言葉を叫べば、  
男は何しても許されるらしいじゃんか」  
「許されないでしょ。しかもそういう意味じゃないし、それ以前に写真におさめるとか最低だよ。  
……というか、それより何より、セクハラしないでよっ!」  
「せくはら?しゃしん?…まぁいいや。そんな事より姫君、」  
尊厳とか人権とか何か大切なものを『そんな事』呼ばわりされたような気がして望美はブツブツ言っていたが、  
ここでヒノエの真剣な表情に気付いた。  
 
「何?まだ何かあるの?」  
「うーん…」  
「どうしたのヒノエ君」  
「実に言い難いね…」  
「ええっ、何?言ってよ。気になるじゃない」  
「姫君、驚かずに聞きなよ」  
ヒノエはここで一拍置いた。どんな深刻な事を言われるのかと、望美の喉がゴクリと鳴る。  
「お前の胸…少し、ほんの少しだけどさ、…その……右の方が若干小さくないかい?」  
「ええっ!?」  
ヒノエは遠慮がちに言った。遠慮がちに言うせいで、逆に真実味が増す。  
後世の歌を鎌倉時代に先取りして、暮らしが楽にならない人のように手をじっと見詰めるヒノエ。  
その様子は真に迫っていた。  
一方の望美はたまったものではなかった。自分の胸にケチをつけられたのだ。  
しかも心当たりなどまるでない。  
単衣の木綿布を押し上げる左右の胸を見比べてみるが、どちらも同じように見える。  
右だけ特別小さいようには見えない。  
「今まで自分で気付かなかった?まぁ無理もないか。本当に、ほんの少し、だしね」  
『ほんの少し』のところで親指と人差し指でわずかな隙間を作って、度合いを望美に示す。  
「気付くも何も…だ、だって見た目なんて全然どっちも同じじゃない」  
「あくまで“若干”だよ。触った感触の事を言ってるんだ。微々たるものさ」  
「そ、そうなの…どうしよう、私の胸おかしいのかな…」  
「おかしくなんかないさ。すごく綺麗だよ。……でもさ」  
「で、でも何?何!?」  
望美はこれ以上ないくらいにうろたえてヒノエに食いついた。  
内心でヒノエはニヤリとほくそ笑む。  
「治す方法ならあるよ」  
「教えて、お願いヒノエ君!」  
よしきた、この言葉を待っていた。とばかりにヒノエは邪気のない笑みを浮かべた。  
「要は、右胸を大きくすればいいんだよ。揉めば大きくなる。  
こうやって…手にとって、ねんごろに可愛がってやるのさ…いてっ!」  
「ばっ…ばかっ、自分で出来るよそんな事!」  
近寄って、当たり前のように懐に手を入れようとしていたヒノエだったが、我に返った望美に耳朶を引っ張られた。  
「オレが揉んだ方が絶対いいって。上手くやれるぜ」  
「う、うるさいな…。でも、教えてくれてありがとう。……でさ、ヒノエ君ちょっとあっち行っててくれる?」  
はやくも矯正するためにか、今にも自分の胸を揉み出さんばかりの望美に、至極冷静な声でヒノエは言った。  
「姫君、ちょっと自分で揉んでごらんよ」  
「うん。そう。揉むから。揉むの。恥ずかしいから向こうに行ってくれないかな?」  
「オレはお前の事ちゃんと見てないと。ほら、単衣の上からでいいからさ」  
ヒノエが立ち去る気配はない。  
頑として濡れ縁に両の脚を付けており、望美がいつまで待っても動く様子はない。  
望美はこの際自分からヒノエの居ない所に行こうと、彼の脇を通ろうとした。  
すると、ヒノエが目の前に立ち塞がる。ムッとして更にすり抜けようとすると、再び通せんぼをされた。  
「うぅ〜…なんなのよヒノエ君」  
通れない。睨みつけたが、無言で飄々としたヒノエに口の端を上げられただけだった。  
なんだか悔しい。ヒノエのその目が『出来ないのか?』と挑発していた。  
(できるよ!)  
その明らかに喧嘩を売った眼差しを捨て置けるほど、望美は大人ではなかった。  
自分の胸に手を当て、これみよがしにもみもみと揉んでみせた。  
ヒノエは顎に手を当てて、それを興味深そうに眺める。  
望美は、自分の胸を確かめながら思う。本当にこれは左右非対称なのか、と。  
 
ヒノエが言う『右の方が小さい事実』の確証は得られなかった。右も左も同じ気がする。  
ぼんやりと考えていると、いつの間にかヒノエが息の触れ合うほどの距離にいた。  
「ちょっといい?」  
「あっ…!」  
望美の了承を形の上では聞いた一言だったが、許可もなしにするりと手を差し入れられた。  
自分で触るのとは明らかに違う。甘い吐息が望美の唇からこぼれ出た。  
「んっ…はぁ、くぅっ」  
緩急をつけて堪能されるようにゆっくりと右胸を揉まれると、何かじんじんと体の中心が熱くなってくる。  
(気持ちいい…)  
「な?オレが揉んだときの方が気持ちいい…じゃない、効いてる感じがするだろ?  
自分で揉むと、無意識のうちに手加減しちまうのさ。その違いだよ」  
耳元でヒノエは囁く。  
「そ、そうなの…」  
ヒノエの手が休まると、望美は大きく息をついた。  
地に足がついていないかのように、平衡感覚が危うくてふわふわとしていた。  
どこか夢を見ているような心地のままにぼんやりと思う。  
(言われてみればヒノエ君って経験ありそうだもんね。今までヒノエ君が揉んできた数々の胸の中で、私だけ…  
そう私だけ右と左の胸の大きさがほんの少しとはいえ違うんだよね…。そんなのヤダ…)  
ヒノエに貸した耳が甘い囁きを忘れる前に、そしてヒノエの手の心地よさが乳房から消えてなくなる前に、  
再び熱のこもった胸への愛撫が始まった。  
「あっ、あ…っ」  
「声、我慢しなくてもいいよ。神子姫はかわいいね」  
「…っ、好きで出してるんじゃないよ」  
ヒノエの手の中にあって翻弄されていても反抗的に言うと、彼は何故か嬉しそうに笑った。  
簡単に望美が陥落しない事を楽しんでいるかのようだ。  
「んー…っ、あっ、あぅ…」  
不意に乳首に指を絡められ、望美はビクンと背をそらした。叫び出したいほどの快楽を懸命に堪える。  
とはいえ、ヒノエの手技は、他人の接触を初めて受け入れる望美にとっては、身が蕩けそうな至上のものだった。  
果たしてどこまで我慢出来るか、自分でも分からない。  
ありあまる刺激に、身をよじって、あるいは唇を噛んで耐える。  
それから随分長い時間、そんな事が繰り返された。  
右胸を執拗に揉まれ続け、ヒノエがようやく手を離したと思ったら、ばつの悪そうな笑みを浮かべていた。  
「あーあ…悪い。どうも右の方を揉み過ぎたみたいだ」  
「!?」  
何だって?と言いたげな望美の視線を受けても動じたふうもなく、ヒノエはいかにも残念そうに言った。  
彼は、望美の両方の乳房を揉み、均一具合を確かめている。  
「今は、右の方が左より大きくなったよ」  
「そんな…!」  
「大丈夫大丈夫。今度は左を揉めばいいんだって」  
「えーっ、また…?」  
「不満があれば、オレはやめてもいいけど」  
ヒノエは余裕たっぷりに言った。  
望美から手を離して腕組みすらしている。  
「どうする?」  
「くっ……お願いします」  
望美はこれ以上ないほどの折れ方をヒノエに見せ、頭を下げた。  
 
   
   
こうして、ヒノエは、右を揉んでは左より大きくなったと言い、  
左を揉んでは右より大きくなったと言い、結局は望美を揉み続けた。  
そのうち、望美は羞恥心がなくなったのか、疲れたのか、数日後には堂々とヒノエに胸を露わにするようになったのだ。  
ヒノエにとっては複雑な誤算だ。  
望美の恥じらいを見たいし、第一、男として意識されていないような気がする。  
事の始まりから数日が経ったここいらの時点で、次の段階に進もうか、とヒノエは思った。  
股間のものも痛いことだし。  
「望美…」  
甘い声を出して望美を抱いたまま、少女の下半身に手を伸ばした。  
「あっ…何…?」  
望美は熱にうかされたようにしていたが、臀部を這う手に、弾む吐息を途切れさせ、  
「ヒノエ君!おしりはダメ、大きくしないで!」  
「…!?」  
べしっと実にいい音を立ててヒノエの手を平手で打った。  
『揉む=大きくなる』の構図が頭に叩き込まれている望美にとっては、尻を揉まれる事はヒップ維持の死活問題だった。  
あたかもハエ叩きのハエの気分になれたヒノエだが、懲りずに別の場所に手を繰り出す。  
「太腿もダメ!脇腹もダメ!」  
たて続けにぺしぺしと抵抗される。  
半ば焦れたヒノエは強引に望美の足の間に手を伸ばした。  
「そ、そんなところ大きくなっちゃったら恥ずかしくて死んじゃうよ!」  
熱い花芯を探り当てると同時にこれまでにない最大級の平手打ちを受けて、ヒノエは遠のく意識の中呟いた。  
「これは…参ったね…」  
計算外の事態だった。やはり白龍の神子は、一筋縄ではいかない。  
望美の胸以外には、指一本も触れることのかなわぬ身となったヒノエであった。  
これではまるで…そう、まるで生殺しだ。  
 
それから望美の胸に最初から差異など無く、すべてはヒノエの嘘であった事実を告白し、望美に殴られ、  
望美に謝って、望美を拝み倒し、晴れて胸以外の箇所も触れるようになったのは、ED近くになってからだった。  
 
 
 
おわり  
 

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