「あ、あの…景時さん?」  
「ん、なぁに望美ちゃん。」  
ついさっき、披露の宴で酔っ払ったヒノエ君に  
「アンタ、本当に姫君を満足させる事ができるのかい?しっかりやんなよ。」  
とからかわれ、あたふたしていた人とこの人は本当に同一人物なのだろうか。  
初めて、なわけないけれど…洗濯中にちょっと抱きついただけで真っ赤になる景時さんは  
そちら方面には疎いとしか思えず。  
最悪、元居た世界に氾濫していた知識を総動員してリードするしかないかもなんて  
考えていた私の予想を遙かに裏切り、あっという間に衣は脱がされ褥に組み敷かれてしまった。  
 
「…怖い?大丈夫、優しくするから。」  
オレに任せちゃってよ、と台詞だけはいつも通りなのに。  
耳元に囁かれる声はいつもと違って低く甘く、聞いてるだけで腰が抜けそうになる。  
さっきされたキスだって、いかにも「慣れてます」な大人のものだった。  
ゆっくり肌の上を伝っていく指にも迷いは無く、何と言うか…余裕、なのだ。  
(何かイメージが、私の知ってる景時さんと違う…)  
拭いきれない違和感に、背中がむずむずする。思わず大きく身を捩ると  
丁寧に耳朶を食んでいた口が離れ、浅葱色の眼が覗き込んできた。  
「どうしたの望美ちゃん。やっぱり、嫌?」  
止めようか、と首を傾げる仕草。眼の奥に揺れる不安。  
見慣れた姿を見つけ、安心してしまった私は違うんですと直ぐに首を振った。  
「嫌じゃなくて…その、景時さんがいつもと違う感じだから吃驚しちゃって。」  
 
捨てられた子犬のようにシュンとしていた顔が、安堵の笑みを浮かべる。  
「そんなに、いつもと違う?」  
声のトーンと笑い方が、さっきまでの見慣れない景時さんに戻った。  
男の人を艶っぽいなんて表現するのは初めてだけど、  
でもそうとしか言い様が無い雰囲気に圧倒されてコクコクと頷く。  
すると眼を細めて、景時さんは私の髪を一房掬い上げた。  
「そっか、でも望美ちゃんもいつもと違うよ?  
とても色っぽくて、食べちゃいたいぐらい…可愛い。」  
ちゅ、と髪にキスされながらとんでもない事を言われて顔に血が上る。  
(やっぱり違うっ!!こんなの景時さんじゃないよぉ…。)  
背筋をぞわぞわと這い登る感覚に身体を震わせても、今度は解放されることもなく。  
「…ね、食べちゃっていい?」  
駄目押し、とばかりに良いお声で囁かれ…眼をぎゅっと瞑って頷く事しか出来なかった。  
 
(これって、二重人格なのかなぁ?もしくは誰か取り憑いてるとしか思えない…)  
 
 

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