深夜。  
有川家で雑魚寝を決め込む八葉の中に、寝苦しそうにうごめく影があった。  
景時である。  
長身を出来うる限り縮めて毛布にくるまり、右を下に左を下にしてみても、眠れない。  
それというのも、遠慮会釈なしに両手足を伸ばして場所を取りながら眠るヒノエと、  
寝ていてもなお寝笑いを絶やさない弁慶の間に、彼が挟まれているからだった。  
 
(狭いなぁ…)  
 
このクセの強すぎる二人に挟まれてしまっては、もう耐えきるしか道はない。  
無理にヒノエを動かそうものなら寝ぼけ眼で『姫君姫君』言いながら抱きつかれるという恐ろしい返り討ちにあうのが関の山だ。  
そして、弁慶の方は絶対見たくない。  
菩薩の顔で微笑んで寝てはいるが、一体何を考えているのか…。弁慶の腹の色を見てはならない。起きていてまで悪夢を見る必要などないのだから。  
結局、景時はどうあっても耐え忍ぶしかないのだった。  
 
横にはなってみるが、まんじりとせず夜が過ぎていくうち、のどに渇きを覚えた。  
皆を起こさないように床を後にする。  
といっても景時以外の者は各々が広々とスペースを占有して寝ていたのだが。  
ソファの上の譲。テーブルの上のリズ。椅子の上に将臣と白龍。  
床は、九郎、ヒノエ、弁慶。そしてヒノエと弁慶の間に申し訳程度の景時の寝床。  
そして部屋の隅の簡易ベッドに、うずたかく積まれた羽毛布団に埋もれるようにして敦盛が安らかな寝息をたてていた。  
あからさまな敦盛の厚遇っぷりに景時はむなしさを覚えた。  
 
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、グラスに注ぐ。  
この世界にもだいぶ馴染みはじめたため、台所の勝手は知っていた。  
つめたい水で喉をしめらせるうちに、ふと窓越しに春日家の方へ目をやった。  
望美が起きているはずはない。それは分かっている。  
景時がそこへ目を向けたのは、他意あってのことではなかった。  
ひそかに想う神子が、どんな姿で、どんな息をして眠りについているのか、  
ただそんな疑問が頭をよぎる。  
神子である望美と八葉である自分の間に確かに絆はあるものの、親密な関係にはなっていない。  
景時が多くを望まない性格であるためだろうか。  
望美の笑った顔を見ると、それだけで満たされてしまい、これ以上の欲が出てこない。  
 
(違うな…)  
 
景時は闇の中でひとりごちる。  
欲が無いわけではないのだ。欲求を満たそうとすれば、望美の笑顔が壊れてしまうかもしれない。  
それが景時は怖かった。  
結局のところ、怖気づいているだけだと自嘲した。  
 
窓からは望美の部屋が見える。少女らしい色合いのカーテンは、当然のことながら閉まっていた。  
グラスを流しに置こうと景時が視線を戻しかけたとき、視界の端に何か映った。  
思わず視線を戻して、目をみはる。  
望美の部屋のカーテンがゆらゆらと藻がゆらめくように動いた。  
先ほどまではただ静かに景時と望美とを隔てるのみだったカーテンに、白いものが絡んでいた。  
よくよく目を凝らせば、それは手だった。  
夜の闇にも映える白磁の指が、狂おしくカーテンを手繰り寄せて襞を作っている。  
まるで白い五本足を持つ美しい昆虫のような手は、苦しんでいるようだった。  
それを目の当たりにしたとき、景時は奇妙な心境にいたった。  
見たことのない生物と遭遇し、交流を試みようとするかのような緊張と期待があった。  
しばしの時間が経ち、指が悶えながらカーテンから離れると、自分がたった今まであの指に心を奪われていたことにようやく気付いた。  
 
今のは一体何だ。  
 
考えるより先に景時は行動に移していた。  
望美に何かあったに違いない。  
表に駆け出し、真向かいの春日家の玄関のドアに手をかける。  
勢い込んでノブを掴むと、手ごたえが軽かった。夜のしじまにガチャリと音が響いた。  
 
(開いている…)  
 
景時はここにきて急に我に返った。  
一人で眠る女が施錠もせずに夜を迎えるはずはない。  
大体、鍵も持っていないのに望美の家のドアに手をかけておいて、ここで開かなかったら自分はどうするつもりだったのか。  
とにかく望美の身によからぬ事が起こっているに違いないのだ。  
あの苦しみもがく白い指を思い出してしまうと、奇妙な感じに気が急いた。早く望美のもとに行かなければ。  
しかしどうしたことか、景時の階段を踏む足は性急な気持ちとは裏腹にゆっくりと動き、音ひとつ立てない。  
 
足音は忍ばせなければならない。階上に望美に害をなす輩がいるかもしれないのだから。  
その考えはどこか自分自身への言い訳のようでもあった。  
 
 
 
景時は、望美の自室と思しきドアの前にいた。  
半端に開いており、そこからはくぐもった声が漏れていた。  
体をずらせば、中が見えるだろう。  
あと少しで全て見える。  
理性は『よせ』と警鐘を鳴らしているのに、何か得体の知れないものが景時の体を突き動かした。  
屈みこんで部屋を盗み見る。  
 
 ひそかに想う神子が  
 
長い髪を持ち、丸みを帯び始めた少女の肢体は、まごうことなく白龍の神子。  
 
 どんな姿で  
 
しなやかな両脚を開いたあられもない格好で。  
下着からこぼさんばかりにしている乳房は、まだ硬さの残る若い果実のようだった。  
 
 どんな息をして眠りについているのか  
 
眠るための夜を過ごしてはいなかった。望美は息と一緒に喘ぎも零していた。  
 
 
「あぅ…っあん!だめ…!!」  
 
 
考えないでもなかったのだ。  
頭の隅では考えていた事態だった。誰かが望美と夜を過ごしていると。  
だが、結局は否定した。  
何故なら、八葉も白龍も全員が眠っていたのをこの目で見たのだから。  
しかし、心のどこかでこの光景を思い描いていたのかもしれない。  
だからこそ足音を忍ばせた。  
階段を駆け上がって音を立ててしまったら、望美たちに気付かれてしまうから。  
だがこれは…、目の前の行為は、景時が心の隅に思い描いていたわずかな光景をいともたやすく凌駕してくれた。  
息遣いがじっとりと濡れてさえいるような生々しさがあった。凄まじいまでに望美は貪られていた。  
そこで、望美の上で、  
身体を動かしていたのは朔だった。  
 
「さ、朔…好きなの、朔…!」  
「私もよ望美」  
 
望美は耐え切れないというようにカーテンを握る。  
それはまさしく景時が見た白磁の指だった。  
 
星が地上にさんざめいているように、夜でも暗闇は薄く、景時はこの世界で真の漆黒を見た事がない。  
望美が手繰り寄せたカーテンは隙間が開いており、そこからは電灯や街明かりの淡い光が室内を照らしていた。  
ほのかな明かりは、美しい少女たちが繰り広げる淫行の細部までをも、景時というたった一人の傍観者のために見せていた。  
 
景時はその場を立ち去る事が出来ずにいた。あまりに美しい光景だった。  
彼女らの着衣は無きに等しく、下半身を覆うものは何もない。二人は夜気に白くなまめかしい下肢を晒していた。  
そこを覆っていたと思われるものが二人分、無造作に床に打ち捨てられていた。  
さらに望美の方はブラジャーのカップ部分から乳房を零していた。だらりと肩からずり落ちて垂れ下がったストラップは用途の意味をなしていない。  
おそらくは朔によるものだろう。この景時の妹が、小さな手で包み込み、思うさま揉みしだくさまを想像させるに足る、みだらな乳房だった。  
望美が全身で快楽を享受すると、その乳房がときおり弾むようにプルッと震える。  
ドアの隙間からその様子を伺う景時は、自分の下半身に血が集まるのを自覚したが、どうしようもなかった。  
いかにして逆らえというのだろうか。この禁じられた同性同士の肉欲の饗宴に、男として反応してしまうのを。  
 
横たわった望美は惜しげもなく両脚を開いており、その合間に上に乗った朔が顔を埋めていた。  
朔が艶やかな絹質の髪を千々に乱して一心に舌技にふけると、望美からあられもない嬌声が上がる。  
その合間を縫って、望美も懸命に目の前の朔の下腹部に唇と舌で愛撫をほどこす。  
朔の白い臀部に愛しげに腕を絡ませ、決して離すまいとするように引き寄せる。  
互いが互いを貪る体位だった。そこからはじっとりと湿った淫蕩な吐息が零れて景時に届き、彼の鼓膜を舌先でくすぐるように愛撫した。  
朔が巧みな性技を惜しげもなく望美の全身に浴びせているのに対し、望美は翻弄されがちで技巧もつたない。  
はたから見ている景時にはそれがよく分かる。  
けれど、望美は匂い立つような不思議な色香をただよわせていた。清楚さと肉感的な魅力が混在しているといってもいい。  
この体を、両手で思うさま揉みしだいて造形し、自分だけの理想の肉体にしてやりたい。そんな妄想を抱かせる体だった。  
そして、何よりも望美は朔に感じてもらいたい一心で愛撫に耽っており、懸命さがなんともいえずいじらしかった。  
これでは朔が溺れてしまうのも無理はない。  
一方、朔は女として完成に近い肉体をしていた。尼僧の身でこれだけの体をもてあますとなると、持ち主にとってはいかに残酷なことだろう。  
兄である景時の目から見ても、壮絶な色香があった。この体では、納得するしかない。  
望美の朔への思慕が憧憬や羨望といったものから性愛に変わるのに、邪魔になるものは無かっただろう。  
唯一あるとしたら同性同士という背徳が二人を苛んだかもしれない。  
 
やがて、朔は名残惜しそうに顔を離すと、望美を下にしたまま身体の向きを変える。  
二人は互いの指を絡めて向かい合った。  
朔がぴたりと下腹部同士が合わさるように自らの女陰を押し付けると、望美は心得て脚を開き、潤んだ目に期待を宿した。  
 
「かわいい、望美」  
 
うっとりと朔は呟いた。妹が心の底からそう思っているのだと景時が確信したのは、悦楽を与える濃厚な腰部の動きを目の当たりにしたときだった。  
湿った水音をあげながら秘唇を擦りあわせる。丹念で、望美を気遣っている。それでいて容赦がない。  
 
「あっ、ううっ…!朔…朔ぅ!」  
 
望美もまた大きく腰を動かして秘裂を朔のそれとあわせる。  
クチュクチュという生々しい音がする。景時は両の耳腔をそれぞれ朔と望美に舐られているかのような錯覚にとらわれた。  
 
「あっ、朔、朔キスして…キス」  
 
最中に、望美が上気した顔で景時の知らない言葉で何かを欲しがった。  
だが、望美が必死になって朔を求めているのがその表情と声とで分かった。  
 
「キスしながらじゃなきゃやだぁ」  
「フフ、本当に望美は接吻が好きなのね」  
 
汗ばんだ顔ながらも朔は涼しげな目元で笑った。  
何よりも接吻を望んでいたであろう望美の口唇が、朔の薄く形のよい唇で覆われると、望美は安心したように目を閉じた。  
朔も満足そうにうっすら開けた目でそれを見届けると、あとはもう溺れるように行為に没頭した。  
耽溺の果てに、互いの花芯を押し付けるようにして、二人は同時に気をやったようだ。  
神子たちは横たわって息を整える。景時だけが一人取り残されて、いまだ肉体の開放がかなわずにいた。  
二人の愛欲の深さを見せ付けられた今、それはどんな責め苦よりもこたえた。二人ともそれぞれの意味で景時の愛する女だった。  
やがて、景時の心情など知るよしもなく、けだるい顔ながらも望美は下着を履いて胸も直し、身を整えた。  
朔は、まだ余韻にひたるように目を閉ざしていたので、望美は気を利かせたのか床に落ちていた朔の下着に手を伸ばした。  
 
「さてと…」  
 
この一言と共に朔は身を起こすかと思われた。  
しかし、続いた言葉はあまりに信じがたいものだった。  
 
「兄上」  
「あっ、うん何?」  
 
あまりに意表をつかれて、返事をしてから景時は青ざめた。  
 
(なに返事してんだオレ…!)  
 
「景時さん!?」  
 
驚愕した望美が、発せられた景時の声をたどってドアを見た。  
景時の見るドアの隙間の幅は、きっちりと望美の全身を収めている。  
この隙間が申し分のない配置にあるからこそ二人の行為を余すところなく見る事ができたのだ。  
同時にそれは彼女らからも景時を見える機会があった事を示していた。  
行為に完全に溺れていた望美はともかく、朔は気づいていたらしい。  
 
「どうして…」  
 
こちらを見た望美から目を逸らすことなど出来る筈もなかった。景時もまた望美と同様に硬直していた。  
瞬きひとつ出来ないでいる中、望美の顔が驚愕から羞恥と絶望に色を変えるのを見た。  
こんなときまで曖昧に笑うしか出来ない自分に、景時は嫌気がさした。  
男の膨らみを認めたらしい望美が耳まで赤くして俯いたのを目にすると、更にやりきれなかった。  
望美にとっては行為を見られていた事の何よりの証拠だったろう。  
景時の脳裏には、この後に及んで取り繕うための言葉が飛び交っていた。  
それを全部停止させたのは、望美の凛とした潔い声だった。  
 
「景時さん、私が朔を篭絡したんです。私が無理に朔に言う事を聞かせてるだけなの」  
 
きっ、と睨み付けるかのような強い視線だった。  
目の中に火花があるかのような望美の目に景時は魅入った。  
 
「望美…、違うのよ。私の話を聞いて」  
 
朔が、とりなすように望美の丸い肩に手を置く。そこで景時は我に返った。朔は何を思って景時を呼んだのか。  
そのまま景時が立ち去るの待っていれば、望美に恥をかかせることなくやり過ごせたはず。  
長年兄妹で居たのだ。景時がいつまでもここに居るわけがないと、その程度の機微が読めない朔ではないだろう。  
一体、何故。  
 
望美は朔を制すると、なおも景時に向き直った。朔は朔で、物言いたげに望美を見る。  
互いをかばい合うようにしている神子たちは、美しさの種類こそ違えど何故かよく似通っていると景時は思った。  
清楚だが地味をよそおうには滲み出る輝きを隠しきれていない朔。  
一方、挫けぬ強さを持つ望美は、枯れることのない大輪の花のようだ。  
よくよく見れば身につけているものも色が違うのみで、まったく同じ下着だった。どこまでも仲の良い神子たちだ。  
望美は白、朔は黒い下着を身に付けていた。が、朔の方は胸を覆い隠すのみだ。  
景時の不躾な視線に気づいた望美が、自分を省みずに朔の半裸を毛布で包んだ。  
その上で逃げも隠れもせずに朔を守るように前に身を乗り出す。  
 
「望美、あなたって人は…」  
 
朔はもどかしそうに言うが、望美への心酔が滲み出ていた。  
 
「あのさ、望美ちゃん。  
ちょっとびっくりしたけど、オレはそんな事で二人を見る目は変えないよ」  
 
景時はようやく一番言いたい言葉を言えた。  
しかし望美はかぶりをふる。  
 
「違う。朔はそんなんじゃないんです」  
 
本心から景時は言ったのだが、必死になって庇おうとする望美が聞く耳を持つには、少し冷静さが足りなかった。  
どうしたものか、と途方にくれるうちに、朔が感情の無い声で言った。  
 
「そうね。望美が悪いのかもしれないわ」  
 
俯いて、どんな顔をしているのか分からなかった。  
驚いたのは景時だった。  
望美を心底好きな朔から発せられた言葉とは、とても思えなかった。  
望美も困惑顔で朔を振り返った。  
 
「…朔?」  
 
異様な雰囲気を嗅ぎ取ったのか、おずおずと望美は問いかけた。  
望美が最も恐れているのは朔を失う事と、朔の信頼を失う事だろう。  
他人の機微に聡い景時は即座に見抜いた。  
それなのに、無情にも朔は望美をかえりみることなく言葉を続けた。  
 
「ですから、兄上」  
 
嫌な予感がした。  
 
「望美を好きなように罰してあげて下さい」  
 
朔の言葉は、明らかに景時に性的技巧を織り交ぜた『罰』を示唆していた。  
 
「出来ないよ、そんな事」  
 
景時の嗜好を尽くして望美を自分のものにしろと、朔は言っているのだ。こうしている間にも心細そうに朔を見ている望美のその意思を無視して。  
到底優しい妹の言葉とは思えない。冗談だったらどんなに良かったことか。  
朔が酔狂を言っているのではないことが、実の兄だからこそ景時には分かっていた。  
きらりと朔が光らせた目には、有無を言わせない鋭いものすらあった。  
だからこそ、真っ向から朔を見据えて景時は滅茶苦茶な提案を否とした。そうしなければ気圧されそうだった。  
しかし、朔も退かない。  
景時の返事を何ら意に介していないのが、スッと細められた目で分かった。  
胡乱げに景時を眺める顔は言っていた。『兄上は本当は望美を抱きたがっているんでしょう』と。  
 
「見ていて、兄上」  
 
朔は景時を見据えたまま、盾に取るように望美を引き寄せた。  
急に腕を捕まれてグラついた望美は、体勢を保てずそのまま床にへたり込んだ。  
それが朔が望美にさせたい姿勢だったらしい。  
身を翻しての一連の動作はどこまでも優美で、尼僧になっても朔の体は舞を忘れてはいなかった。  
背後から望美に腕を絡める。いっとき、さも愛しそうに抱きしめると、朔のぬくもりを感じたのか望美のこわばりが僅かにとけた。  
その隙をついて、朔は望美の両の膝裏に手を入れた。  
 
「何?何するの朔?」  
 
ようやく自分の身に降り掛かりつつある事態を察した望美が身体をひねって朔の腕をかわそうとした。  
だが朔はほどけない。艶然と微笑んでいる朔がたいした力を込めているはずがない。しかし、実際には望美はもがくばかりだった。  
怯えた望美の目は心中を物語っていた。何かよからぬ事を朔にされる。これはいつもの朔ではない、と。  
訴えかけるような、明らかに助けを求める目線さえ景時に寄越した。  
呆然としている景時がどうする事も出来ずにいる中、朔はゆっくりと望美の両脚を開いていった。  
 
「だめ、こんな…」  
 
景時に向けて開かれた望美の両足。そのつま先が、ピクリと慄くように動いた。  
望美のあられもない格好を目の当たりにして、景時はしばし息すら忘れた。  
うっすらと青い静脈が浮き出ているのが見える、透き通るような太腿。  
その中心を申し訳程度に覆う白い薄布。景時の視線から逃れようとする望美の羞恥に苛まれた顔。  
その顔を見ていると、先程から心の奥底で感じていたある種の孤独感が消えていった。  
今のこの状況は、朔と望美の行為を盗み見ていたときのように、一人熱を持て余すのとは違うのだ。  
望美は自分という男の存在を認めて意識している。その上で恥じらっているのだ。  
今このとき、景時と望美は互いに意識しあっている。そんな不思議な安堵感があった。  
朔が微笑するのが見えた。景時の心境を深く理解しているかのような様子で。  
奇妙な兄妹の絆がそこには介在していた。  
 
「ねぇ、望美。悪いのは望美なのよね」  
「うぅ…」  
「私達に逆らってはダメ」  
 
私達とは、朔と景時の兄妹の事だろう。  
朔は、命じるというよりは、駄々っ子をあやすかのように言い含めていた。  
誘うように、望美の耳元で蠱惑的に囁いて抵抗する気力を削ぐ。それは力づくよりももっと効果的なやり方だったに違いない。  
望美は逆らえずに、脚の力を抜いて朔に身を委ねたようだった。  
両の膝裏を持っていた朔の片手が、そっと離れた。  
朔が片手を離しても、望美は開脚を維持しつづけた。ただし、頬は上気している。  
目を閉ざし、さいなむ羞恥に耐えているのが見てとれた。  
離れた朔の片手は宙をさまよう。しなやかな白蛇を思わせる手が行き着いた先は、望美の脚の中心だった。  
望美の陰部を隠す僅かな白い布の上を、朔の手指はゆっくりと行き来した。二度三度と往復させるうち、ときおり指の腹でふくらみを擦る。  
長い指が中ほどを押さえつけると、指と指の間にうっすらと突起が浮き出た。それほどまでに下着は薄かった。恥毛のうねりが透けて見えるほどに。  
朔は人差し指と親指の腹でグリグリとそこをつまみながら摩擦した。  
 
「うっ、あ…はぁん」  
 
刺激を与えられるたびに望美はハァハァといっそ辛そうに息を漏らす。  
思わず景時は喉を鳴らした。  
先程は決然とした態度で魅了した望美が、今は実に卑猥な姿で景時の心を鷲掴みにしている。  
 
「望美、兄上はあなたの事食い入るように見つめているわ。それはもう怖いくらいに…ね」  
「やぁ…見ないで…景時さん」  
 
望美の懇願を聞き入れることは出来なかった。  
この痴態から目を離すなど出来ようか。  
朔が人差し指を下着の隙間に入れるのを、景時は固唾を呑んで見た。  
指の関節を折って肌と布の境目を器用に挟んでいる。  
それを上から下へ、下から上へとじらすように行き来させて、ついに望美のふっくらとした恥丘の中ほどあたりで止まる。  
その位置で下着をたくしあげ、真横にずらした。望美が目を強く閉ざして顔を背ける。  
望美の女の割れ目が覗いた。  
景時の雄はすでに興奮状態を維持していたが、これを目に入れてしまっては、痛みすら感じるほどに猛った。  
 
「兄上、こちらへ来て」  
 
景時は急に我に返った。  
朔はいつの間にか懇願するかのような瞳をしていた。  
望美には見えない。見せないようにしている。  
声は平静を装っているが、揺らいだ瞳は隠せない。ましてや景時と朔は血が繋がっているのだ。  
何を内に秘めているというのかこの妹は。いっそ哀れなくらいに悲愴な決意を宿した目で。  
 
「分かったよ」  
 
景時は観念するように立ち上がった。こんな朔を放っておけるはずがない。  
望美が打たれたようにビクッと身を震わせて景時を見上げた。  
 
「望美ちゃん…」  
「だ、だめです。こんな事して良いはずないよ」  
「大丈夫だよ」  
 
何を保証できるのか自分でもよく分からないままに言う。  
危害を加えるつもりは勿論ないが、一夜が明けたとき、望美の貞操は無事ではないことだろう。  
望美は無論それを悟っている。だからこそこんなに怯える。  
無責任にも上辺だけの安心感を与えようとしたが、望美には通用しなかった。  
それでも部屋に踏み入り、景時が身に付けているものを次々に床に落としていくと、怯えより羞恥が勝ったのか、震えは止まった。  
下着を下ろすと、望美は小さく鳴いて目を背け、自分を守るように、両手を首のあたりに絡めた。  
指の間から覗く白い肌が、体中の血液がそこに行き着いたのかと懸念するほど、真っ赤に染まっていた。  
まるで子犬が丸くなって眠っているかのような姿勢に、景時は湧き上がる保護欲を抑えきれない。  
望美に手を伸ばしかけると、朔がその手を勢い良く叩き落とした。  
この期に及んで手ひどい仕打ちだ。  
じんじんと痺れる手をさすりながらうらめしげに朔を見ると、つんと澄ました顔で手振りでベッドに腰掛けるようにしめされた。  
自分に任せろというつもりらしい。悲愴さが消え失せているのにどこか景時は安心した。  
 
「望美」  
 
打って変わって優しい声で朔は呼びかける。  
弱々しくはあるものの従順に自分の方を向いた望美の頬に、朔は手を触れる。  
いまだ朱に染まったすべらかな頬を指でなぞったり、手のひらで包み込んだりしながら望美の緊張をほぐしている。  
そのうち、頬を撫でるそぶりで、望美が決して見ないようにしていた景時の方に顔の角度を少しずつ変えて、うまく誘導するようになった。  
景時は内心舌を巻いた。そんな手管を何故尼僧である朔が知りえているのか。  
屹立が再び目に入るや否や、そらそうとした顔を朔はやんわりと包んで制した。  
いつの間にか望美は所在なげに毛布の端をいじっていたのだが、朔はその手を取り導いた。  
 
「あっ」  
 
小さな手が景時の猛りに当たった瞬間、望美が声をあげた。  
無意識に逃げをうとうとする手を朔は決して離さない。  
望美の緊張が脈打つ強張りから伝わってくる。  
辛抱強く望美の手を包み込むようにしていると、やがて望美に変化が起きた。  
そっと朔が手を離しても、逃げないようになっていた。  
 
しばらくして、望美の指が徐々に曲がって丸みをおびた。景時の陰茎に指を沿わせる。ぬくみを確かめるように。  
景時が手を伸ばして望美の頭を撫でると、手が触れた瞬間こそ動きを止めたものの、拒絶は見えなかった。  
手のひら、指先、手の甲の順でつやつやした髪に触れる。  
おずおずと見上げた望美の顔から恐れが消えていたのが嬉しくて、景時は笑いかけた。  
途端、望美が頬を染める。それは羞恥とは種類が違う気がした。  
 
「もう怖くない…かな?」  
 
話しかければ、どこかぼうっと呆けていた望美は、慌ててこくんと首を縦にふった。  
 
「望美、濡れてるわ。いつのまに?兄上に触れている間に?」  
 
景時の両脚の間にひざまずいている望美は無防備に下腹を突き出していた。  
そこにしたたりを確かめたらしい朔が揶揄するように望美に微笑みかけた。  
 
「それとも兄上が笑いかけたとき?」  
「朔…」  
 
それまで決して逆らわずにいた望美が、ここにきて初めて咎めるような目線を朔に送った。  
随分とひかえめではあったが、朔にその先の言葉を続けて欲しくない、という明確な意思がみえた。  
朔はそれでも優位を確信しているのか、笑みを崩さず望美の耳元で何事かを囁いた。  
景時には聞こえなかったが、望美の様子からすると、それは状況をくつがえすような何かしら決定的なものであったらしい。  
景時が次に見た望美は明らかに女の顔になっていた。  
じわりと瞳を潤ませ、まなじりをうっすらと赤く染めている。静かだが確かな情欲を景時に向けていた。  
望美の体の中を通る女の芯を、朔がくすぐったのだ。  
性への興味と本能を上手く誘導して、淫蕩な雰囲気に流してしまう。実に望美の性愛の方向を操舵するのに長けていた。  
望美が何をするつもりなのか、その淡い色のつやつやした唇がピクリと動いたのを見て、ようやく悟った。  
期待していなかったといえば嘘になる。  
ふっくらとした望美の下唇が景時の先端に当たる。手とは明らかに違う、乾いていてあたたかい感触。  
粘膜でもあり皮膚でもあるようなものだ。望美の身体の内側でも外側でもないものが、男が好きな女に最も触れて欲しい部分をくすぐる。  
唇で形を確かめるようについばんでいたが、次第に興味が勝ったのか、唇で皮膚の張りを確かめるように雁首の部分を挟むようになった。  
景時が息を詰めた音を、望美は聞いただろうか。  
歯を当てられていないので、甘噛みというには硬さが足りない。  
けれどただひたすらに柔らかく食まれるのは生殺しにも等しく、このもどかしささえクセになりそうだ。  
望美が意図的にこうして景時を焦らしているのだとすれば末恐ろしいことだが、まずそれは無いだろう。  
望美は、おそらくは彼女にとって初めて目の前にしたであろう雄への興味がつきない様子で、夢中だった。  
不意に望美が目線を上に上げた。望美の行動の一部始終をじっと見詰めていた景時と目があう。  
途端、我に返ったように望美は唇を離した。  
 
「どうしたの?」  
 
望美の背後から、彼女の身体を愛撫していた朔が聞く。  
ここで咎めるような声を決して出さないのが、朔が甘く淫蕩な雰囲気を作れる理由のひとつだろう。  
 
「私、変かな…。そんなに見ないで下さい」  
 
景時が凝視していたのが気になったらしい。  
望美が躊躇するような恐ろしいまでに真剣な目をしていた自覚はあった。全身全霊で望美に魅入っていたのだから。  
男のものを玩具同然にしていた望美は、それは淫乱の素質が垣間見えて可愛かったのだ。  
 
「ご、ごめん」  
 
反射的に謝り、思わず顔を逸らした。  
急いで逸らしたのは、なるべく早く望美に行為を再開して欲しい下心があったからだ。  
だが、朔がぐいっと景時の顎を掴んで元の望美が見える位置に戻した。  
先程望美を誘導したような優しさは片鱗もない。微塵の容赦もなかった。  
 
「恥ずかしいのね望美。じゃあ、私も一緒だったら、恥ずかしくないでしょう」  
 
一体何を言い出すのかこの妹は。  
冗談めかしていれば景時も望美も取り合わなかっただろう。  
しかし、口を開けて迎え入れるそぶりを見せた朔に、望美は慌てた。  
 
「だめ!私一人でちゃんと出来るよ」  
 
望美の言葉に即座に引っ込んだ朔に、やはりその気はさらさら無かったらしい。  
焦った望美はそれでも作為に気づかなかったようだ。  
実の兄に対しそんな事をさせまいという意図か、景時の脚の間に更に身体を入れて朔の割り込む隙を封じる。  
その様子がまるで望美が貪欲に景時の陰茎を独り占めしたいかのようにみえる。  
勿論景時の欲目だろう。しかし…、  
 
(か、かわいい…)  
 
朔の届かないところへという一念か、『一人でちゃんと出来る』といった言葉どおりに望美は口を開け、景時の亀頭全体を迎え入れた。  
口におさめる瞬間、赤い舌がちらりと覗いた。  
裏筋にぴたりとそれが当たると、いかに熱を持っているかが分かった。  
口に含んでしまえば誰にも奪えない、とばかりにあたたかく湿った頬肉で景時を受け入れた望美が、どこか満足そうに見えるのは妄想なのだろうか。  
彼女の両手は肉茎をあますところなく包み込み、全体が口内か手の中におさめられ、望美が触れていない箇所がなくなった。  
あたたかい唾液がちゅくちゅくと対流しているのが分かる。  
 
懸命に景時に奉仕しようという望美に朔は微笑んだ。その顔は掛け値なしに嬉しそうだった。  
望美の頭に唇をよせ、愛情のこもった口付けをする。  
望美の髪をそっとかきあげて耳にも同じようにキスをほどこした。  
朔がそのまま耳たぶを甘噛みすると、景時を口に含んだまま望美はびくりと身じろいだ。  
その勢いで喉の奥までを先端が突いて、まなじりに光るものをにじませる。  
そんな状態であっても、望美は息だけでうめいた景時に気づいたようだった。  
偶然成し得た自分の動作を思い出しながらそれになぞらえ、試すようにゆっくりと口腔の奥まで景時を侵入させた。  
 
「っく…望美ちゃん…」  
 
望美の潤んだ目が理解を宿した。  
 
「景時さん、気持ち良いの?」  
「うん…でも、無理しなくてもいいんだよ」  
「気持ち良いんだ…」  
 
抑えてはいるようだが、望美のほころんだ顔は喜びを隠しきれていない。  
望美は再び、いまや自らがほどこした愛撫で濡れそぼった陰茎を咥える。  
唇を強く絞ってあわや外れんばかりに先端まで引き抜くと、景時が再び呻いた。  
無心に景時のものを舐る望美が、このような愛撫を自然に行えるのは、ひとえに性技の才能があるからなのだろうか。  
それとも、一心に景時に快楽を与えたいがためなのか。朔と睦みあっていたときのように。  
いずれにせよ、望美の技巧には徐々に工夫がみられるようになった。  
亀頭部を強く吸われ、鈴口に尖らせた舌が割り入ってくる。  
本当に、このいかにもあやうい覚醒を経た神子はどこに行き着こうというのか。  
景時は、手を伸ばして望美の頬を撫でてやった。すると、頬を摺り寄せてくる。  
それを認めた景時は、頬からずらして望美の耳の横の髪に手櫛を入れて、いたずらに弄んだ。  
少し意地の悪い愛撫に望美がわずかにうろたえる。  
さらに景時は両手で望美の耳をそれぞれ塞いだ。  
こうすれば、喉を鳴らす音ひとつ、透明な唾液の音ひとつが、頭蓋の中を反響して、まるで水の中にいるように感じるだろう。  
まるで現実のものではない水音は、いかに淫蕩な状態であっても望美に、羞恥を与えるだろう。  
景時の思惑は功を奏した。両手に挟まれた望美は、急激に羞恥心を思い出したように顔を赤くした。  
そのまま小指で望美のうなじのあたりを悪戯心を込めて引っ掻くと、被虐の目で見上げる。  
これはまずい、と景時は思った。  
望美がどこまでいたずらに耐えるのか試したくなってしまう目だ。  
驚いたことに、自分にも僅かばかりの嗜虐心があったらしい。  
上気して、じっと無言で景時を見詰める目から逃げられない。追い詰める側は景時であるはずなのに。  
見上げているという事は、待っているのだろうか。景時のさらなる行為を。  
 
「ああもう、望美」  
 
たまらない、と思ったのは景時に限ったことではなかったらしい。  
朔は景時から望美を奪うと、辛抱できなかったのか、そこかしこに口付けの雨を降らせた。  
先程まで望美をたくみに誘導していた朔とは思えない。  
だが確かにそれほどまでに望美の表情にはそそるものがあった。  
朔は貪欲に首筋や、うなじや、いたるところを吸い上げてから、深く唇を重ね合わせる。  
望美も朔に応じて、歯列の先を許した。舌を吸い合う濡れた音がする。  
間近で濃厚な接吻を繰り広げる二人を見るうち、気が付くと景時は口走っていた。  
 
「望美ちゃん、オレにもキスしてくれないかな〜」  
 
望美ばかりではなく、唇を合わせたまま朔まで景時の方を見る。  
朔の方は無粋な申し出に明らかに一瞬憮然とした。  
事の起こりに、望美を好きにしていいと自分に言っておきながら、この妹ときたらひどい仕打ちだ。  
 
「…なんて、あはは」  
 
ごまかすように要望を引っ込めた景時だったが、望美がじっと物欲しそうに自分を見詰めているのに気づいた。  
ためしに両手を広げてみると、立ち上がって、灯明に誘われる蛾のようにふらふらと景時のもとへやって来た。  
そういえば、と先程望美が朔との睦みごとの最中にしきりにキスして貰いたがっていたのを思い出した。  
望美は中腰になり景時の首に両腕を回す。目は陶酔しきっており、明らかに景時に期待していた。  
薄紅色の望美の唇がゆっくりと近づく。近づきるその前に、我慢できずに望美を抱き寄せて唇を奪った。  
 
「あ、んっ…」  
 
望美が小さな舌をおそるおそる、しかし懸命に動かしてくれるのが可愛くて嬉しくて、景時は無我夢中で口内を侵した。  
捕らえて吸うと、クチュッという唾液の音と共に望美の舌が跳ねた。  
唇を合わせながら、景時は望美の太腿を撫で下ろし、膝を折り曲げるように言葉を使わずに示した。  
ギシッときしませて、片膝をベッドのシーツの上に付けさせてやる。  
そうすると望美は景時の意図するところを理解し、もう片方の膝も自発的にベッドの上に乗せた。  
景時の膝の上に足を開いて座り、対面してキスの応酬にふける。  
ときおり望美は両の太腿をすり合せるようにして景時の脇腹になすりつけた。  
そういうときは決まって激しく舌を絡めているときだった。  
 
「んん、ぅん…」  
 
さらに強く望美の舌を吸うと、くぐもった声を喉の奥で鳴らす。  
そしてあるときを境にして望美の体から一切の力が抜けていくのが感じられた。  
景時の腕にぐったりと身を預けて弛緩しきっているくせに、ときおりピクピクと小刻みに動く。  
それは間違いなく快楽を享受しているという事だった。  
唇を離すと、突然失われた快楽に不服そうに見上げてきた。  
その瞳の熱っぽさといったらなかった。  
 
(うわ…なんて顔するんだ望美ちゃん)  
 
望美のおねだり顔に平伏して何でも言う事を聞いてやりたい衝動に駆られる。  
朔が言うところの望美を好きにしていいとか、罰がどうのなどといった勝手な許可は、景時にとっては実はあまり意味はない。  
朔はこの点に関しては確実に失敗していた。  
景時にしてみれば、望美に意地悪をしたいと思う反面もあるにせよ、逆に望美に振り回されたいと熱望してしまうのを止められない。  
先程のように、被虐的な様子の望美にそそられるときもあれば、  
いまこのときは、望美の欲しがっているものを与えて、ひたすらに可愛がりたい。まるで発作だ。  
望美に悪戯をしたい。望美に構ってもらいたい。  
相反する矛盾した気持ちで、望美に翻弄されて、わけが分からなくなってしまう。  
だから、一貫性をもって望美を辱めながら抱くことなど到底できないだろう。  
 
「景時さん…」  
「な、何かな?」  
 
望美は相変わらず口付けの続きを欲しがっていた。  
指を咥えてじっと菓子を見つめる子供みたいだ。  
 
「もっと…」  
「うん…」  
 
しなやかに、しかしがっちりと望美は首に腕をまわした。そのまま景時の背中に手を這わせる。  
無意識だろうが、やわらかい指の腹で背をなぞられるとぞくぞくする。たまらない。  
二人は、ほとんど奪い合うようにして舌先を吸い合った。  
望美が背中を波打たせる。朔が下着を脱がせながら望美の背筋を舌でくすぐっていた。  
下半身のまといも左右の足をひとつずつ外して床に落とす。  
胸も同じ要領で露わになり、望美は一糸まとわぬ姿となった。  
 
「兄上、望美の乳房はかわいらしいでしょう」  
 
朔は誇示するかのように後ろから手を伸ばし、望美の双丘を下から包み込んでみせた。  
量感を楽しむように揉み込む朔の指の合間から、張りのある白い柔肉がのぞく。  
 
「本当だ」  
 
望美は照れたように笑った。  
その笑い方が少々曖昧だったので、景時は望美が賞賛をどう受け止めていいのか分からないでいるのだと瞬時に悟った。  
純粋な賛美を受け止めきるには自分の身体の魅力を分かっていないらしい。  
 
「本当にかわいいよ、望美ちゃん」  
 
真っ向から目を覗き込んで真剣に言うと、驚いたように景時を見たあと、ふいっと視線をあらぬ方に外した。  
その顔がほんのりと染まっていたところを見ると、少しは伝わったようだ。  
 
「私の手のひらには余るのだけれど。…望美、もう少し膝を立てられるかしら」  
 
朔が望美にシーツをすねで踏んで膝立ちになるように促した。  
望美がまごついていると、爪の先で乳首を擦って急きたてる。  
喉の奥でひくついた声をあげて、うらみがましそうに朔を振り返った。  
 
「もう、朔…」  
 
その目は本気で怒ってはいない。  
楽しげに笑う朔に、望美もつられて微笑んだ。  
望美は姿勢を安定させるためか、何気なく景時の肩に手を置いた。それが景時にはこの上なく嬉しかった。  
望美が自分を恐れてはいないという事を意味していたからだ。  
景時の目の前に、膝立ちになった望美の両の乳房があった。  
吸い寄せられるようにして、つやをはなつ乳輪に乗った突起を口に含んだ。  
 
「んっ、ひぅっ」  
 
こりこりと刺激すると、肩に置かれた望美の指に力が入る。  
舌の上に乗せて歯をうすく当てると、望美は痙攣するように身を震わせた。  
景時がなぶる程に声はかすれていく。  
 
「あっ、は…んん…っ!」  
「いい声」  
「可愛いわ望美」  
 
朔は望美を背後から抱きすくめるようにして胸を揉んだ。ときおり二本の指の腹で乳首を摘む。  
二人がかりで執拗に責めるうち、望美は懇願にも似たすすり泣くような声を漏らした。  
 
「兄上、そんなに吸い付いては、腫れてしまうわ。  
望美が衣をまとったときに擦れて痛いんじゃないかしら」  
 
朔が咎めるように指摘するが、その目は笑っている。  
 
「そっか、ごめん望美ちゃん」  
「うっ、ああん…いいの、痛くなってもいいから…はぁんっ!」  
 
言葉尻をひときわなまめかしい声でしめくくったのが気になり、至近距離から望美の顔を盗み見ると、彼女はしきりに下を気にしていた。  
見れば朔が望美の秘裂を弄り、今まさに出入りさせている指を増やそうとしていた。  
 
「っ…!くぅっ…ああっ…」  
 
望美が腰をくねらせる。景時の猛ったものに、望美の恥部が当たる。  
望美のしなやかな恥毛の叢がやわやわと亀頭部をこすった。その中でときおり固くしこった熱いものが当たる。  
それが望美の女芯だと即座に気付き、景時は息を詰め、いっそう半身を硬くした。  
 
「望美ちゃんごめん、もう我慢できそうにないよ」  
 
望美の膣内に受け入れを促していた朔が頷く。  
 
「望美、こっちを見て」  
 
息を弾ませている望美の頬に手を添えて、その目をひたりと見据える。  
 
「兄上が好きね?」  
「好き…」  
 
陶然としてはいても、きっぱりと望美は景時への好意をしめした。  
いっそ潔いまでに即座に答えられて、景時の方が気恥ずかしくなるくらいだった。  
思わず頬を掻く景時に、釘を刺すように朔が言う。  
 
「望美は私のことはもっと好きですから」  
「そうなんだ…。いや、やっぱりね」  
 
望美の腰を両手で支えて落としていく。  
腰は細かった。景時の両手の親指の間隔が狭い。  
こんな身体が剣をとるのだ。  
望美と繋がりたい。けれど、この小さな身体が挿入に耐えうるのか、傷つけてしまわないか。  
 
「望美ちゃん、大丈夫だよ。大丈夫」  
 
半分は自分に言い聞かせるように呟くと、望美はこんなときだというのに、笑った。本当に可笑しそうに。  
ああ、そうだった。  
この顔を壊さないようにしたかったのだ、と胸の奥底に浮きつ沈みつしていた願望が表面にまで浮上してきた。  
 
「景時さんの『大丈夫』ほど大丈夫じゃないものはないなぁ」  
「ひどいな」  
「でも『大丈夫』って言ってくれるだけで、私頑張れますから」  
 
望美は景時の首にかじりついた。鎖骨の間にある宝玉に望美のぬくみが触る。  
 
「だから景時さん、私大丈夫です…」  
 
『優しいから、景時さんは…』  
耳元で望美は囁いた。  
小さな声は発するのにわずかの吐息で事足りるのに、何故望美が囁くとこうも大きな真実味を帯びるのか。  
望美の笑顔を壊さないようにしたい、など思い上がった願いだったのかもしれない。  
壊さないようにしたいのではなく、自分には絶対に壊せない。  
望美は自分に傷つけられるような女ではなかったのだ。  
それどころか、わが身を省みずに景時を思う女だった。  
だからこそ、自分のものにしたい。  
 
「いくよ、望美ちゃん」  
 
首に絡む指先に力が入った。  
望美の目は揺らいでいた。  
朔がその背に、首筋に口付けてあやしているが、とうてい恐れは隠しきれるものではない。  
猛りを望美にあてがい、愛液のぬめりを借りて徐々に貫いた。  
望美の呼吸を読んで、息が整った頃合を見計らって少しずつ進める。  
全てをおさめてしまうと、景時は息をついた。額に汗が浮き出ていた。確かに熱い。  
もうすでに、どこからが自分の熱で望美の熱なのか分からない。  
望美の中は、やわらかいけれど、硬い。  
粘膜は十分に濡れて包んでくれているのに、その薄いぬかるみを隔てて、ゆるみを知らない内壁が激しく景時をしめつけた。  
この柔軟なくせにひどく硬くて、あたたかい潤みが、実を言えば思わず自在に腰を打ち付けたいほどに気持ちよかった。  
しかし、今は何よりも望美を気遣いたい。  
 
「痛い…よね、ごめん」  
「あっ、は…入ったんですか、ぜんぶ…」  
「そうだよ。望美ちゃんの中にオレが入ってる」  
 
望美の目じりにたまっている涙を、朔が舐めとった。  
あとからあとからこぼれてくるらしく、朔は直接唇を望美の瞳に寄せた。  
頬に添えられた朔の手に手を重ね、しばらく望美はそのままでいた。  
朔のぬくもりを確かめて、感じ入るかのようだった。  
 
「朔、大丈夫」  
 
荒く息をつきながらも、望美は気丈にも答えた。  
 
「景時さん、私平気ですから。…平気だけど、は、はやく終わ…っ」  
 
その先は声にならなかった。  
痛みに耐えながらも受け入れてくれた望美が、あまりに愛しかった。  
片手を望美の手と重ね、指の間に指を入れ、そっと握った。望美もすぐに握り返す。  
景時はゆっくりと抽送した。  
 
「んっ、あ…」  
 
ときおり望美の身体が景時がもたらす律動とは別に揺れる。  
朔が望美の耳腔に差し入れ、丹念にそこを舐めていた。  
目を閉じて一心に愛撫を施している。  
どんなに懸命になっていることか。艶やかな髪がひとすじ、汗で顔に張り付いていた。  
的確な愛撫は、望美の苦しみを確実に和らげているようだ。  
望美の声が、苦痛一色に染まっているものではなくなっていた。  
朔が愛撫して望美が感じる。そのたびに景時を受け入れた望美の女の部分が収縮してひくついた。  
 
「望美…」  
 
呼びかけられ、望美は顔をひねって朔の唇を求めた。  
これこそ、望美が最も苦痛を和らげる手段だろう。  
望美は溺れるように朔に口付けた。  
揺さぶられながらも、決して離れることなく口唇は合わさる。  
 
 
 
 
 
 
 
望美と朔の唇が不意に外れたのは、行為の果てに望美が熱い吐息と共に明らかな嬌声を放ったときだった。  
 
「あっ、ああん…何これ、…っ」  
「望美ちゃん…!」  
 
望美の声に絶頂の片鱗を見出しながらも、景時も同時に果てた。  
自分の息がやけにうるさい。望美の最も近くで呼吸しているから、互いの息が肺の中で入り混じっていることだろう。  
こんなに近くにいるのに、離れなければならない。  
朔は、息を整える望美の阻害にならないよう、けれど決して緩みなく、疲れ果てた彼女を抱きしめていた。  
景時は、慎重に望美の中から退いて、酷使してしまった膣口を清めた。  
しばし遠くを見るようにぼうっとしていた望美だったが、朔の抱擁と景時の手から逃れると、シーツの上をのろのろと這った。  
何をするのかと朔も景時も見守る中、裸のままその場で横になり、気だるそうに言う。  
 
「つ、疲れた…もう動けない…」  
 
色気のかけらもない言葉に、兄妹は思わず吹きだした。  
 
「でも、最後の方だけちょっと気持ちよかったんでしょう」  
「うっ…そ、それは」  
「そんな顔をしていたわ」  
 
朔がじわじわと追い詰めると、望美は逃げ場を失ってしどろもどろになる。  
望美がどんなに膝をかかえて丸くなっても、追求する朔から身を隠すことにはならない。  
 
「どうしてそんな意地悪言うの…」  
 
望美は、結局はそんな言葉を言うしかなかったらしい。  
唇を尖らせてふてくされている。  
望美が白旗をとっくにあげているにも関わらず、さらに追い詰めてやりたい、と思ってしまう。  
景時は思わず朔の方を見た。  
すると、朔もこちらを見ていた。同じことを考えているのが笑みを隠し切れていない顔で分かった。  
 
「可愛いからよ」  
「可愛いからだろうね」  
 
顔を見合わせたあとで、二人から同時に言われては、望美もたじろぐしかなかった。  
朔は望美の傍らに腰かけ、その頭を撫でていた。景時もその場で横になる。  
何でもない事のように自然にぽつりと望美が言った。  
 
「三人で、ずっと一緒に居ようね。絶対だよ」  
「…それはどうかしら」  
 
驚いたのは景時だ。朔が望美に異を唱えるとは思ってもみなかった。  
いや、異を唱えるなどという生易しいものではなく、信用が見えない。  
朔に目をやれば、自嘲気味に笑っていた。  
一方の望美は、景時ほどうろたえてはいなかった。  
 
「朔を一人にするはずないよ」  
 
先程とは打って変わった強い視線を朔に送る。  
見据えられて朔は微動だにできないようだった。  
ふと呪縛をとくように望美は微笑すると、おざなりに置かれていた毛布を手に取った。  
横たわる景時の腹に着せると、自らもその腹の上の毛布に頭を横たえた。  
心地よい頭の付け方を探るためか、すりすりと頬をこすり付けてくる。  
そのまま望美は朔を手招く。  
 
「なぁに、望美?」  
「……」  
 
近づいた朔の耳元で、望美は何事かを囁いた。  
二人してクスクスと笑う。  
仲良くしている二人に、何となく仲間はずれにされたようで、ほんの僅か拗ねた思いをしていると、望美の声が消え入るように徐々に沈んでいった。  
眠りに落ちたようだ。  
朔が景時に向き直り、さもおかしそうに口元に手を当てて言う。  
 
「望美ったら、さっき何て言ったと思う?『これって、へそ枕だね』ですって」  
 
(オレ!?)  
 
絶対に寝ぼけている。なんという暴言だろう。  
起きながらにして寝ぼけていなければそんな事は言えまい。  
朔は込み上げる可笑しさをこらえきれない様子で、ずっと顔を隠して笑っていた。  
やがて景時に背を向けた。その肩が震えていた。  
 
「泣いてる?」  
「違うわ」  
「望美ちゃんの言葉が嬉しかった?」  
 
朔は返事をせずに、ずっと背を向けていた。  
景時も朔を見守って、しばしの時間が流れる。望美の寝息だけが聞こえる。  
次に振り返ったときには、目じりの赤みを抜きにすれば、いつもの朔だった。  
 
「いいですか兄上。望美を離さないでください。私たちの世界に連れ帰るんですからね」  
「えっ、出来るのかなぁそんな事。オレ、ただでさえ望美ちゃんにはこの先頭が上がらないと思うし、  
何より望美ちゃんの言う事なら何でも聞いてあげたいからさ…、嫌がる事はしたくな…うっ!」  
 
景時の腹に、強烈な一撃を繰り出した朔だった。  
見事に望美を避けている。  
 
「朔、今のみぞおちに入ったよ…」  
 
痺れる局部をかばいながら泣き言を言うと、朔は呆れたようにため息をついた。  
 
「細かいことでめそめそしないでください。大体、そんな弱気でどうするの。  
兄上には、私には出来ない方法で、望美を幸せにするという重大な責務があるんですからね。  
望美は、兄上をきっと幸せにしてくれるわ。だから、この子の事不幸にしたら私が黙ってませんからね」  
 
強気でこそあれ、その顔は慈愛に満ちていた。眠る望美の頬を撫でている指先はどこまでも優しい。  
独占欲を露わにしながらも、深い愛情を秘めている。そんな顔を景時は今まで見た事がなかった。  
朔は心底望美が好きなのだというのが分かった。  
 
「朔!望美ちゃん…!」  
「何です、急に」  
「わっ、何…!?」  
 
景時は突き動かされるようにして二人の女を両手に掻き抱いた。  
冷ややかな反応を見せる朔と、眠りを妨げられて驚く望美。  
 
(二人とも可愛い…オレは…、オレは…!  
 
世界一幸せだ。生きてて良かった…!)  
 
誰に何と言われようと、この二人を幸せにしてみせる、と景時はかたく決意した。  
 
 
 
 
景時は夜明け前に有川家に戻った。  
やはり、全員雑魚寝している。  
ソファの上の将臣。テーブルの上のヒノエ。椅子の上にリズと九郎。  
床に、譲、白龍、弁慶。そして白龍と弁慶の間に申し訳程度の景時の寝床。  
さらに羽毛布団の山に敦盛が安らかな寝息をたてていた。  
微笑していない寝顔の弁慶のその隣。窮屈なスペースに落ち着いて景時は目を閉じた。  
短くとも、望美と朔の夢が見られるよう願いながら。  
 
 
 
おわり  
 

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