通りゃんせ 通りゃんせ  
ここは冥府の細道じゃ  
鬼神様の細道じゃ  
ちっと通して下しゃんせ  
 
 
 
「戦なんて嫌いだよ。  
オレ、人を殺すのも嫌いだけど  
何より死ぬのが怖いんだ…臆病者だからね。  
でも、それよりもっと望美ちゃんが死んじゃう事の方が怖い。  
怖くて怖くて、何度も夢に見るんだ。  
だから、いつも勇敢な君の勇気をわけてくれないか。  
大切な君を護る為の勇気を、オレに頂戴。」  
 
戦場に赴く前夜。  
男は、真実を隠して少女に縋った。  
少女はただ、男を胸に抱きしめた。  
 
「良いですよ、景時さん。でも勇気をわけるってどうすればいいんでしょう。」  
「それはね、こうやって。  
……嫌、だった?」  
「いやじゃないです。私、景時さんのこと好きだもの。」  
 
不意に口づけた男の不実を、少女は咎めない。  
それどころか、額をつけ男の眼を覗き込む。それだけで良いのかと問うように。  
 
「景時さん、まだ顔色悪いですよ?  
足りないんじゃないですか。私、もっともっとわけてあげなきゃ。」  
「望美ちゃん…わかって、言ってるのかな。」  
 
口づけだけでも充分、と思っていたはずの男を少女は煽る。  
意図的にか、それとも無意識にか。  
押し込めた醜い欲を見透かされているようで、眼を瞑ろうとしても  
視線に絡めとられてそれも適わず。  
男は願いを…少女に己を刻み付けたいと願う心を隠すのを、諦めた。  
 
「え、何?」  
「ん、もっとわけて貰おうと思って。」  
「んんっ…。」  
 
もう一度少女に口づけ、男はその身体を褥に倒した。  
ぱさり、と艶やかな髪が床に広がる。  
少女を組み敷いた男は、低く甘い声で否やは返らぬ問いを落とす。  
 
「嫌…?」  
「いやじゃ、ないです。  
でも私、こういうの経験無いからどうしていいか。」  
「望美ちゃんは、何もしなくていいから。  
力抜いて、オレの事感じてて。」  
 
見上げる視線は戸惑いに揺れている。  
安心してと笑いかけ、男は少女の耳朶を食んだ。  
本当に慣れていないようで、身を縮める仕草は男の心に深く暗い悦びを齎す。  
それに促されるまま、耳朶から首筋に口づけを落とした。  
 
「なんだかくすぐったいです。」  
「くすぐったいだけ?」  
「ん、ちょっと変な感じ…あっ。」  
「ここ、弱いのかな。」  
 
首筋を吸い上げながら、器用に少女の装束を剥ぎ取る。  
露になった白い胸元に口づけをおとすと、軽くその身体が震えた。  
誘われるように男は頂を吸い上げ、柔らかい膨らみを手で愛撫する。  
 
「望美ちゃん…凄く可愛い。」  
「なっ、そんな事言わないでください!」  
「やだ。だってホントに可愛いんだよ。  
もっと、見せて。」  
 
頬を染め顔を背ける仕草に愛おしさを覚えつつ、  
男は少女の全身に赤い花を次々と咲かせた。  
口づけを落とす度、慣れぬ感覚に身じろぐ様に欲情を掻きたてられて  
少女の足を割り開き、秘裂に口づける。  
されるが儘だった少女の身体が竦み、伸びてきた手が男の頭を押しのけた。  
 
「あっ、や、やだっ!!」  
「恥ずかしいのかな、ごめんね。  
でも、ここ解さないと望美ちゃんが辛いからさ。  
我慢して欲しいな…いいかい?」  
 
頭にかけられていた手の力が抜ける。  
精一杯の返事を受け取り、男はもう一度少女の脚の間に顔を埋めた。  
慣れぬ感覚ははっきりとした快感を齎すまではいかなかった様で、  
それほど濡れていない秘裂に舌を差し入れ、少しでも潤そうと動かす。  
花芯に指を添え、舌の動きに合わせて刺激すると少女の身体が跳ねる。  
 
「やっ…あ、はぁっ…」  
 
くしゃり、と少女の手が男の髪をかき混ぜた。  
その手で、零れ出る嬌声で、とろりと湧き出してくる潤みで。  
男を感じている、と伝えてくる様が理性を揺さぶり、欲情を煽る。  
狭い中に指を差し入れ、湧き出す蜜を舐めとると少女の声が啜り泣きに変わった。  
 
「ひゃっ…あ、んぅ…」  
「望美ちゃん、ホントに綺麗…。」  
 
頭を上げ、顔を覗き込めば熱に浮かされた瞳にまた捉えられる。  
誘われるまま額に口づけ、指を引き抜くと男は己の下衣を取り払った。  
そのまま少女を抱きしめようとすると、伸びてきた手が男の陣羽織を握る。  
 
「景時、さん…衣ちゃんと脱いで下さいっ…。」  
「え、全部脱ぐの。」  
「私だけ裸なんていや。衣越しじゃなくて…ちゃんと景時さんを感じさせて。」  
 
羞恥に真っ赤に染まった顔で、それでも真っ直ぐ見つめてくる眼に乞われ。  
望まれるまま、男は身に纏う陣羽織を脱ぎ捨てた。  
そっと少女に覆いかぶさる。男の裸の背に手を廻し、少女はほぅ、と息をつく。  
 
「これでいいのかな。」  
「はい、ありがとうございます。  
…暖かい、ですね。」  
 
冬の冷気に晒されていたにも拘らず、微笑む少女の柔らかい身体も暖かい。  
己が与えた熱のせいだ、と気づいた男の身を劣情が走る。  
もうそれを抑えることも出来ず、男は少女の顔を覗き込んで希う。  
 
「ごめんね、望美ちゃん。  
凄く痛いと思うし、とっても辛いことなのはわかってるんだけど。  
…いい、かな。」  
 
こくり、と強張りながらも頷いてくれた少女に、思いを込めて口づける。  
先程解した秘裂に熱をあてがい、ゆっくりとその身に沈めていった。  
 
「いっ…いたぁっ…やぁっ!!」  
「ごめん、ごめんね…。」  
 
少女から女にされて、身を裂かれる激痛に涙を零す。  
狭く慣れない女の中は男をきつく締め付け、快感より痛みを齎した。  
それでも女は男の背に縋り、男は女を求める事を止めない。  
 
「う、あぁっ…」  
「望美、ちゃん。望美っ…」  
 
男は泣き叫ぶ女の身体中に口づけ、  
擦れた声でその名を何度も何度も囁いた。  
好きだとも、愛しているとも言の葉に出来ない代わりに。  
 
女の乱れた呼吸が治まり、深い寝息に変わったのを確認して  
男はその寝顔を覗き込む。  
起きている時には決して表せない思いが、口から零れ落ちる。  
 
「ねぇ、望美ちゃん。  
オレが君の前からいなくなっても。  
お願い、忘れないで。  
ずっと、オレの事覚えていて欲しいんだ。  
……ごめんね。」  
 
男の残酷な願いは、眠りにつく女に届くことなく。  
降り始めた雪と、月明かり差し込む冬の空気に溶け込んでいった。  
 
 
 
ちらちらと粉雪が舞い落ちる空の下。  
屋島に向かい、波を切る軍船の上。  
舳先から振り返って、女は男に笑いかける。  
 
「景時さん、私も戦うの嫌いです。死ぬのも怖いですよ。  
でも、独りだけ置いていかれるのはもっと怖いです。  
だから、二人とも生き残ればいいんですよ。そうでしょう?」  
「そう…そう、だね。望美ちゃん…。」  
 
でもね、と男は言葉に出さず呟いた。  
 
『でもね、望美ちゃん。  
オレが生き残っちゃったら、いつか必ず君をこの手で殺さなきゃならない。  
本当は…オレ、それが一番怖いんだ。』  
 
戦場へとひた走る船の上。  
男は独り、女を生かすために還らぬ決意をする。  
女は何も知らない顔で、男と生き抜くのだと笑う。  
 
 
 
生きはよいよい 還りはこわい  
こわいながらも  
とおりゃんせ とおりゃんせ  
 

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