足音が近づいてくる。  
 
朦朧とした意識の中で身体を動かそうとすれば、  
足の間からごぽり、と音がして白濁した液が太腿に新たな筋を作る。  
結局身じろぎもできずに私はただその音だけを聞いていた。  
ガチャリ、とさびた錠前が落とされる音がして、  
ふわりとかすかにこぼれる香がやってきたのがここから救い出してくれる助けではなくて  
この場所を知る唯一の人物である事を告げた。  
 
「こんにちは、望美さん。さぁ、今日もはじめましょうか」  
 
毒のない笑顔の裏にこれ以上ないほどの毒を含ませて。  
彼は微笑んだ。  
 
舞台で黒龍を倒した日、弁慶さんの懇願に私は頷く事が出来なかった。  
「残ってほしい」そうすがるような瞳で見つめられたのに。  
私は、自分がいた世界を捨てる事が出来なかった。  
家族、友達、全てを捨ててこの世界で生きていく事が出来たら――そう思ったけれども  
懐かしさで胸が一杯になる、私を育んできたいとおしいものを捨てることなんて出来なかった。  
「ごめんなさい、弁慶さん。私、どうしても私の世界に帰りたいの…」  
告げた瞬間ふ、と彼が冷たい目をしたのは今にして思えば気のせいじゃなかった。  
「早く、帰ってください。僕が貴方を帰すまいと謀をしてしまう前に」  
そう言って瞳を逸らしてしまった彼はそれ以降一度も目をあわそうともしてくれなかった。  
 
 
結局、最後の決戦の日から、現代に変える日まで3日もかかってしまった。  
白龍の中での五行のバランスがと整うのを待っていたのと、  
朔や九郎さん、お世話になった他の八葉のみんなにちゃんと挨拶をしておきたかったから。  
どうしても弁慶さんにもう一度一言でも謝りたかったけれど、  
彼は比叡山にあるらしい彼の隠れ家に篭ってしまったきり、  
一度も会おうとしてくれなかった。  
 
「アイツ、一度言い出したら聞かないから。  
源氏の神子の帰還を見送らないなんて俺も許せないんだが…  
すまん、望美。力になれなくて。」  
九郎さんが本当にすまなさそうに頭まで下げるから  
それ以上沈んだ顔を皆に見せているのが申し訳なくて  
帰る日までは笑顔でいよう。  
自分の世界に戻ったら、お気に入りのベッドカバーに突っ伏して思い切り泣こう。  
誰でもない、彼を選ばずに自分の世界を選んだ自分だけを攻め立てて。  
それだけを思ってすごした3日間は本当にあっという間に過ぎていった。  
 
 
そして、その日がきた。  
どうしても泣いてしまうから時空を越える瞬間を見られたくない、と  
朔達とは京の梶原邸の前で別れた私たちは、神泉苑で懐かしい世界に戻ろうとしていた。  
 
「…望美さん」  
 
この3日間、一番聞きたかった声に思わず振り返ると、愛しい彼が微笑んでいる。  
「ごめんね、譲君。先に帰ってて。  
私、どうしても弁慶さんと話がしたい。後からすぐ追いかけるから」  
「…わかりました。先輩、必ず帰ってきてくださいね」  
ちょっと心配そうな顔をしながら譲君が時空の壁の向こう側に消えた。  
「弁慶さん、来てくれたんですね。私、どうしても貴方にもう一度会いたかったんです。」  
「僕もですよ、望美さん。あなたにどうしても会いたかった…」  
思わず駆け寄った私の背中に強く回された腕。  
抱きしめられた瞬間にかぎ慣れた彼が好んでつける香が鼻先を掠める。  
彼の唇に触れる、その感触を思う存分確かめると、精一杯の笑顔を作る。  
「ありがとう、来てくれて。あのね、私、弁慶さんが好き。  
向こうの世界に帰っても、絶対に弁慶さん以上に好きな人なんか作らないからね。  
…弁慶さんのこと、忘れ…ないから…」  
最後は涙で詰まって言葉にならないけれど、彼に見せる最後の顔くらい笑っていたい。  
そう思ってへへ、と笑いながら彼の瞳を見上げた瞬間、くらりと目の前が暗くなるのを感じた。  
「それは光栄なんですけれども。  
生憎、その言葉を信じて貴方を帰してしまうほど、僕は素直な人間ではないんですよ。」  
遠のいていく意識の中で弁慶さんが微笑んでいる。  
それはさっきまで確かに見ていた私の大好きなもののはずなのに  
どうしてだろう、今はとても酷薄なものに見える。  
「言ったでしょう?僕が謀をめぐらす前に帰ってください…、と。  
それなのに貴方は僕に3日も猶予を与えてしまった。  
恨むなら自分自身をお恨みなさい」  
抱き上げられた感触がする。  
それが、見知った風景の中で覚えている最後の記憶だった。  
 
 
目が醒めた私を待っていたのは知らない天井だった。  
ひょっとしたら天井なんてものはないのかもしれない。  
薄暗くて目が薄闇に慣れてきた今でもそこにあるのが天井かどうか確証はない。  
あるのは格子戸からかすかに差し込む陽の光と、そこにかかる錠前が落とす影だけ。  
その戸を押し開けて、弁慶さんが入ってくる。  
「ああ、目覚めましたか。思ったよりもきつく効き過ぎたみたいですね。  
君の身体は僕の薬と相性がいいらしい…。」  
クスクスと嬉しそうに笑う彼に弁慶さん、と声をかけようとしたけれど声が出ない。  
そういえばさっきから指先に感覚が戻らないことにもやっと気付く。  
どういうことか、と向けた視線を察して弁慶さんの目が細められた。  
「少しだけ、薬を盛らせてもらいました。時機をうかがうつもりだったんですが、  
まさか君の方から薬を貪ってくれるは思いませんでしたよ。…嬉しい誤算ですね」  
あの時。弁慶さんに私からしたキス。  
あのときから私は彼の謀略に絡め取られていたんだ。  
身体を起して彼を問いただしたいけれども、どこにも力が入らない。  
「無理をしないで下さい、声くらいはすぐ出せるようになりますから。  
もう少しだけ痺れが残るかもしれませんが、大丈夫。  
僕の子を産んでくれる君に、毒になるものなんか飲ませませんよ」  
 
最後の言葉が、彼の意図は予想していたものの中でも最悪のものであることを教えてくれる。  
シュ、という乾いた音と共に帯が解かれた。  
その時初めて自分が着ていたものが薄衣一枚だった事に気がつく。  
「子を、成しましょう。―――そうすれば、君は帰るなんて二度と言い出せない」  
舌がねっとりと顎の輪郭をなぞり、首筋を這い、  
露になった胸の膨らみを手で包みながらその突起を啄ばまれた。  
唇がそこから離れて空気に晒されるとひやりとした空気が気持ち悪い。  
思わず腰をよじって逃げようとしたけれども体が言う事を聞いてくれない。  
「…っ…ぁッ…」  
情けなくて思わず涙が滲んだ目で思い切り睨み付けても  
「ふふ、可愛いですね。どんな逆境にも屈しない君の瞳、好きでしたよ。」  
君は本当に頑張り屋さんだったから、と囁いた優しい声音が鼓膜をくすぐる。  
初めてそう言って誉められた日は、しゃがみこんでその場から動けなるくらい嬉しかったのに。  
声と同じくらい優しい手つきが、それでも的確に私が弱い場所を責める。  
舌がねっとりと顎の輪郭をなぞり、首筋を這い、乳房の突起をはじく。  
「ああ、ちゃんと感じてはくれているみたいですね」  
思わず息を詰めると、首筋に口元を寄せて、何度も吸い上げられた。  
「そろそろ、こちらの方もさわってあげないといけませんね…」  
そう言われて身を固くする。  
「これは…」  
「…や…見な…ぃッ…で…ぇ…お、願…ぃ…」  
やっとの思いで掠れる声を絞り出しても、それすら弁慶さんの耳には届かない。  
股の間に身体を割って入られ、  
抵抗のしようと足を閉じようとしても思うように動かない体は  
あっさりと彼の前にその全てをさらされた。  
自分でもしっかりとその状態を予測できるくらいに、濡れきった姿を。  
 
「君がこんなに濡れやすい身体だとは思っていませんでした。  
…これなら今後もコトが運びやすい…」  
そういう弁慶さんは表情こそは見えなかったけれど、その声にはどこか不機嫌さが混じっている。  
嫌な予感がした。  
「本来なら服薬すべきものなんですが、  
こんな状態なら直接塗ったほうが君も嬉しいでしょう」  
そういって懐紙に包まれた粉状のものを取り出すと  
私の股から滴る雫をすくった指にまぶした。  
つぷり、と弁慶さんの長い指が秘書に予告もなく差し込まれる。  
「ぁ…あ…ゃ…そこッ…さわらないでッ…」  
指の腹で上の壁をなぞられると思わず声が漏れた。  
嫌だったんじゃない。痛かったのでもない。気持ち、よかったのだ。  
何度か中を往復した彼の指が出て行こうとすると、私の内壁は追いすがるように彼のそれに纏わりつく。  
なんだか体がとても熱い。異様に速くなった自分の鼓動が耳鳴りのように頭で鳴り響いてる。  
「…べ…けい…さ…」  
「即効性の媚薬です。よく効くでしょう?  
 ああ、この肉芽もこんなに大きくしてしまって…」  
「っっやぁぁああぁぁッッっあ…ん…」  
そう言って親指でクリトリスを刺激されると、体中に電流が走る。  
とろり、と私の中から何かが湧き出るのがわかった。ビクビクと腰が震えるのも。  
波がひとしきりおさまっても、最奥の疼きが消える事はなかった。  
「…そんな目で見ないで下さい。僕ではなくて、悪いのは君ですよ?  
僕の愛撫に君が勝手に感じているだけ。それだけです」  
そういう彼の微笑みは、勝浦で平家の残党を滅ぼした時よりも残酷で、美しかった。  
 
「それに、どんなににらんでも君の此処は正直ですよ?  
絶頂を迎えたばかりだというのに、もう次の刺激を待ち望んで震えている」  
フフ、と笑いながら息を吹きかけられると思わず腰が跳ねる。  
ツ、と割れ目を舌がなぞっている感覚が異様にリアルだった。  
「どうしてほしいですか?」  
「あ…」  
「僕は別に、このまま終えてしまっても構いませんが。  
あなたは、つらいのではないですか?」  
「………て、……さ…ぃ」  
「聞こえませんよ。人に物を頼む時は、もっと大きな声で言わないと」  
「弁慶さんのモノを、私のなかに挿れてくださいっ」  
言ってしまってから涙が出た。口惜しい。口惜しい。口惜しい。  
でも私はこの人のことが、好きだ。どうしようもなく。  
「自分からおねだりするなんて…いけない人ですね」  
そういいながらも、自分が身に付けていた帯を取り払って、熱い塊を濡れそぼった入り口に宛てがう。  
「あぁ…んッ…」  
待ち望んでいた以上の確かな質量と熱に思わず安堵にも似た吐息が漏れた。  
すぐにでも動いてくれると思っていた弁慶さんは、奥まで差し込むとそのまま動いてくれない。  
「弁慶…さん?」  
「やはり…」  
ちらり、と一瞥をくれる。その視線は凍るほど冷たかった。  
「薬を塗ったときにもしや、と思いましたが…望美さん…初めてではありませんね?」  
私は、処女じゃなかった。将臣君も譲君も知らない事だけど。  
高校一年のとき、二歳年上の先輩に告白されて付き合った。  
彼が特別好きだったわけじゃない  
私のことを好きだって言われて舞い上がってしまったのと、…セックスへの興味があったから。  
結局週に2.3回会うだけで、その度にエッチばかりをしていたその人とは三ヶ月も持たずに別れてしまった。  
 
「君は、いつも清廉な神子のフリをして、その下でこんな淫乱な身体をもてあましていたわけですね」  
私を見下ろす弁慶さんの瞳は、今まで見たこともないくらい鋭い。  
「君が、自分の世界に帰りたい、と願うのも、誰か恋い慕う人がいるからではないのですかっ!」  
一旦ギリギリまで引き抜かれたものを一気に奥まで刺し貫かれた。  
「あぁ…っ!!ち…ちが…ぁぁあッッ!!」  
「これでは、ますます君を帰すわけには行かなくなった」  
ズンズンと奥の入り口まで突かれて、私は言葉が紡げない。  
違うのに。私が今好きなのは、本当に好きなのは弁慶さんだけなのに。  
「初めてでない、と知ってかえって安心しましたよ。手加減もせずに済みますね」  
そういうと私の両足を肩にかけて一層深い場所まで繋がった。繋がっている部分までが見えてしまう。  
こんな体位は初めてで息が詰まりそうなのに、もっと弁慶さんが与える快楽が欲しくなる。  
じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てる私の秘所に弁慶さんが入ってる。そう思うと今にも意識が飛びそう。  
「べ…ん…ぃさんっ!もっと、突いて…!!」  
「やはり…君は…いけない人だ……ッ!」  
最奥まで差し込まれた弁慶さんをキュゥと私の奥が締め付ける。  
弁慶さんが息を詰めて、熱いものが私の中に放たれるのがわかった。  
こんなに体が満たされたセックスは初めてだった。  
こんなに、心が引き裂かれそうなセックスも初めてだった。  
 
「そうそう、さっきの薬、一度使うと中毒性があるので、また僕がお慰めしてあげますよ」  
そう言って弁慶さんが去ってから、声も立てずに私は泣いた。  
 
 
足音が近づいてくる。  
 
朦朧とした意識の中で身体を動かそうとすれば、  
足の間からごぽり、と音がして白濁した液が太腿に新たな筋を作る。  
結局身じろぎもできずに私はただその音だけを聞いていた。  
ガチャリ、とさびた錠前が落とされる音がして、  
ふわりとかすかにこぼれる香がやってきたのがここから救い出してくれる助けではなくて  
この場所を知る唯一の人物である事を告げた。  
 
 
でも本当は助けなんて私は待っていないのかもしれない。  
彼が来るのを心待ちしにしている自分がいる。  
早く、この身体に熱い楔を打ちつけて、私をこの世界に閉じ込めてしまって欲しい。  
 
 
「こんにちは、望美さん。さぁ、今日もはじめましょうか」  
 
 
私も微笑んだ。  
毒のない笑顔の裏に、これ以上ない毒を含ませて。  
 
 
 

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