ぎり、と奥歯を噛み締める音が自分でも聞こえた。  
目の前にいるのは、憎んでも憎み足りない男。最初の運命で、あの五条大橋でこの男に敗北したことが、  
その後の全てを変えたのだ。  
あの時の自分の弱さが、望美は今でも許せない。  
 
――なんで、ここでこの男に会うの……っ。  
 
望美が会いたかったのは、追いかけたのは、銀――重衡だ。  
生田の森で見かけた彼の姿を追って陣を離れたのに、遭遇したのは彼によく似た男。  
同じ血を持ち、同じ色の髪と瞳を具えていて、よく似た美貌を持ちながら、ほんの一欠片も似てはいない男――  
平知盛だった。  
 
「これはこれは……噂に高い源氏の神子殿か」  
福原を陥とされ、不利であるはずの自軍の状況を知ってか知らずか――否、この男にそんなことは関係ないのだろう。  
笑いを噛みながら、知盛は値踏みするような視線で遠慮なく望美を見つめた。  
純粋に、強い者への好奇心だけに彩られたそれは、いっそ無邪気な子供のようにも見える。  
だが、この男の無邪気さは、躊躇のない殺戮に直結している。自分の退屈を凌ぐ為なら、一族の滅びさえ何とも  
思っていない。そのことは、望美もよく知っている。  
 
「平……知盛」  
 
低く呟いた望美の声が届いたのか、知盛は軽く目を瞠った。そんな表情は銀に尚更似て見えて、望美の胸が小さく痛んだ。  
「ほう……神子殿は我が名のみならず、姿までもご存知か」  
怪訝そうな顔をしたのは一瞬だけで、知盛は両手の剣を構えた。  
「ならば一差し、舞っていただこうか。……このまま退くのはつまらん」  
「戦う必要はないよ。この戦は源氏の勝ちだもの。あなたは逃げて、そうして壇ノ浦で私に  
殺されればいい」  
半ば唾棄するような望美の言葉は、知盛を煽る結果になったらしい。  
 
「そう言われて引き下がれるほど、俺はこの戦を楽しんでいない」<br>  
「楽しみの為に戦うの?」  
「ならば、お前は何の為に戦う?」  
問い返されて、望美はきつく知盛を睨み据えた。  
「失くなさない為だよ。怨霊に、平氏に、清盛に、あなたに。私の大切な人達を奪わせない為」  
「嘘だな」  
あっさりと否定し、知盛は薄く笑みを刷いた。  
「お前の瞳の中には、それだけでは語れぬものがある」  
言い当てられた気がした。  
望美が逆鱗を使ったのは、確かに八葉達を救う為だった。だが、今は……?  
八葉達が守られ、白龍が力を取り戻したあの平泉から逆鱗を使ってこの時空に戻ったのは。  
――銀を……重衡の心を、守りたかったからだ。  
「お前は、他人の為に生きるような女じゃない。己の欲望の為だけに生きる女だ」  
俺と同類だ。  
そう嘲笑い、知盛は静かに切り込んできた。  
舞うような剣技。  
そう言われてきたけれど、他人のものとして見るのは初めてだった。美しいとさえ言える流れだ。  
 
打ち込まれた剣を受け止め、ぎりぎりのところで交わした。  
その動きに満足したように、知盛の舌が獲物を見つけた獣のように唇を舐める。  
「さっき、俺を見た時、動揺したな」  
びくりと望美の体が震えたのを、知盛は見逃さなかった。剣戟の音を響かせながら、  
睦言のように甘い気だるげに囁く。  
「重衡とでも見間違えたか?」  
今度こそ決定的に動揺した望美に、知盛は剣を引いた。  
「今宵は十六夜。……重衡が言っている『十六夜の君』とやらはお前か」  
あれが言うには、花のように愛らしい月の姫らしいが。  
「お前は俺を知っていたな。だが俺はお前を知らん。だが重衡は、お前が俺を知っていたと言う」  
剣を引いた知盛は、一瞬にして間合いを詰め、片手に残してあった剣で望美の剣を叩き落した。  
「どうした…? 動揺が剣に現れている。……つまらん」  
急に気が削がれたとでも言うように、知盛は望美の腕を拘束した。そのまま、慣れた手つきで両の  
手首を縛り上げる。  
「な……!?」  
「何をする、と問いたいのか? ……知れたことを」  
くくっと笑って、形のいい長い指が望美の顎を持ち上げた。  
「夜に、男と――敗北した女がすることは、ひとつだろう?」  
 
その言葉の意味を理解した瞬間、望美は脱兎の如く駆け出そうとして――あっさり、捕まった。  
「心配することはないさ。重衡は俺の手がついた女でも気にしない」  
何でもないことのように告げると、知盛はいきなり望美の衣服を剥いだ。  
外気に晒された形のいい白い胸が震え、鴇色の乳首がつと色を増す。  
その様を喉で笑いながら、ゆっくりと腕の中の獲物を土の上に押し倒した。  
「やだ……っ」  
「神子殿は男をご存知ないようだ」  
笑みを崩さないまま、知盛は望美の乳房を掴んだ。慣れた手つきで、  
五指を巧みに使い分けて刺激を与える。時折、熟れた乳首を舌先でつつけば、  
必死に噛みしめていた望美の唇から甘い声が漏れ始めた。  
「っん……あ……」  
「ふん……『素直で愛らしい、月の姫君』か……」  
弟がそう称して憧れていた十六夜の君とやらは、今、己の腕の中でただの女になりつつある。  
重衡とこの女の間に何があったのか知る由もなければ知る気もないが、自分と同じで  
女に執心しない弟が焦がれてやまぬ『十六夜の君』には、僅かに興味を持っていた。  
そんなことを考えながらも、知盛の手は乳房をまさぐり、唇は細い首筋に所有印を刻む。  
 
――首筋に口づけるのは割合好きだ。  
 
体を繋ぐ快楽より好ましいとさえ思う。  
相手の呼吸の音、血が流れる音。生きている音を、直接感じ取れる。  
「ふぁ……ぁん……っ」  
「嫌がっていた割に、随分と感じておいでのようで光栄だ」  
嘲る言葉をかけられることで、望美の体は一層過敏に反応する。  
「重衡に抱かれているとでも思え。幸い、俺達はよく似ているらしいからな」  
「……って、な……い……!」  
それまで快楽に溺れて、とけていた少女の瞳に、不意に苛烈な光が戻った。  
 
生理的なものか、又は快楽の為か――濡れた瞳は扇情的といっていいが、  
それよりも、清冽な矢に射抜かれたような錯覚が知盛を煽った。  
「あなた、なんか……あの人に、ぜんぜ……似て、な……っ」  
絶え間なく与えられる愛撫に震え、怯えてさえいながら、源氏の神子と崇められる  
少女は吐き捨てた。  
「……ならば、お前は重衡の何を知る? 六波羅で一夜――いや、一夜にも満たぬ時間の  
逢瀬だったと聞くが」  
「あなたに関係ない」  
「――――神子殿は」  
すうっと、知盛の紫紺の瞳が眇められた。そこに宿る光が、怠惰から関心へと変わる。  
 
 
「今の自分の立場もお忘れか?」  
次の瞬間、望美の秘部に知盛の指が入り込んできた。慣らすことさえしない。先ほどまでの  
愛撫でほんの少し濡れてはいたが、それだけだ。  
「痛いっ!」  
「重衡と俺が違うと言ったのはお前だ。俺はあいつのように優しくはない」  
尤も、あれの優しさも上辺だけだがな。  
女達を丁重に扱うのは、重衡の単なる性格だ。相手を愛し、思いやってのことではない。  
 
その方が後腐れがないことを、あの弟は本能的に悟って、そう行動しているだけだ。  
 
「嫌!」  
秘裂にあてがわれたものの正体を悟り、望美が体を捩って逃れようとする。無意味だと  
わかっているだろうに、抵抗しないと気が済まないものなのか。  
「お前が、俺を煽った」  
短く囁いて、知盛は望美の花を一気に散らした。  
「や……いた……っああああああっ!」  
殆ど濡れていなかった秘部は、それでも破瓜の血の助けを借りてぬめる。  
「いた……やだ、嫌……っ」  
泣きじゃくりながら首を振る姿は、これはこれで加虐心とやらを煽るものらしいと  
知盛は他人事のように思った。強引に女を抱いたことなど、今までなかった。  
宮中で、都で。重衡と間違われたことも、もう数え切れない。その度に適当にあしらい、  
 
気が向けば体を合わせた。そういった時は、重衡として振舞ってみることが、知盛なりの  
退屈しのぎだった。  
戦に出て、その高揚を知ってからは、そんなものには関心がなくなったが。  
だが、この女は何処か違う気がする。  
腰に力を入れ、掻き回すように動かせば、ぐちゅりと音がした。  
ちらりとそこを見れば、血の赤だけではないものがある。  
 
「クッ……」  
望美の体を片手だけで支え、空いた手を結合部分に伸ばす。限界まで押し広げられた花を掠め、  
蜜と血に塗れた中から、花芽に触れた。  
「あ……っぁん!」  
途端に望美の声が耳を打った。  
嬌声とまではいかないが、確かに快楽を感じた響きが、そこに宿っている。  
――他とは違うと思ったのは錯覚か?  
自問しながら、律動する。その度にくちゅくちゅと濡れた音が溢れ、望美の内部が熱く狭くなる。  
先ほど花に触れた指先を見れば、蜜と血が少し付いていた。  
「味わってみるか、神子殿? ――お前の痛みの味を」  
 
「や……いた……っああああああっ!」  
殆ど濡れていなかった秘部は、それでも破瓜の血の助けを借りてぬめる。  
「いた……やだ、嫌……っ」  
泣きじゃくりながら首を振る姿は、これはこれで加虐心とやらを煽るものらしいと  
知盛は他人事のように思った。強引に女を抱いたことなど、今までなかった。  
宮中で、都で。重衡と間違われたことも、もう数え切れない。その度に適当にあしらい、  
 
気が向けば体を合わせた。そういった時は、重衡として振舞ってみることが、知盛なりの  
退屈しのぎだった。  
戦に出て、その高揚を知ってからは、そんなものには関心がなくなったが。  
だが、この女は何処か違う気がする。  
腰に力を入れ、掻き回すように動かせば、ぐちゅりと音がした。  
ちらりとそこを見れば、血の赤だけではないものがある。  
「クッ……」  
望美の体を片手だけで支え、空いた手を結合部分に伸ばす。限界まで押し広げられた花を掠め、  
蜜と血に塗れた中から、花芽に触れた。  
「あ……っぁん!」  
途端に望美の声が耳を打った。  
嬌声とまではいかないが、確かに快楽を感じた響きが、そこに宿っている。  
――他とは違うと思ったのは錯覚か?  
 
「え……」  
快感と痛みに支配され、虚ろだった望美の瞳が戸惑うように揺れた。  
その薄く開いた唇に、知盛は指を捻じ込んだ。  
「ぅん……っ」  
急に呼吸を奪われたことで眉を顰めた望美は、次いで、初めて味わうものと血の味に  
嫌悪の色を見せた。  
「そう嫌がるものでもあるまい? どちらもお前のものだ」  
冷笑した知盛は、これが情交――一方的な強姦だが、その最中にある男かと思わせるほど  
静かだ。だが、望美の胎内にある雄が彼のものであることも事実だった。  
「…………っ」  
知盛の笑みが一瞬、不可解そうに歪んだ。望美の口内から指を引き抜き、そこについた  
 
小さな歯型を見ると、彼は嗤った。  
「あなただって、私を知らない」  
嗤い続ける知盛を睨みつけ、望美は告げた。  
望美が知っているのは、確かに、銀――重衡の、一部分だけかもしれない。  
「でも私は、あの人のことを、本当に大切なことを知っているもの」  
「……なるほどな」  
低く呟くと、知盛は望美の言葉を遮るように口づけた。不意を衝かれた望美の唇を割り、  
たやすく内部に侵入して舌を絡めた。官能を高めるような口づけは、より深くなっていく。  
 
「…………ん、……っん……!」  
広い背中に縋り、爪を立てる。けれど略装とはいえ鎧を纏ったままの知盛の肌を傷つけることはなく、  
却って望美の指先が朱に染まっていく。  
そのことに気づいた知盛が、唇を離した。  
しどけなく投げ出され、律動の度に震える望美の腕を取ると、その指先に口づける。  
薄く滲んだ血を舐め、癒すように舌でくすぐる。  
「……や……」  
抗う声をあげることさえ疲れた望美が、弱々しく反応する。  
「黙っていろ。剣を持つ者が、手を損なうな」  
思いがけず、真剣な声だった。  
知盛は望美の手を取ったまま、指先を舐めていく。  
「……だったら……こんなこと、しないで、よ……」  
「確かにな」  
それはそうだと素直に頷く知盛は、やっぱり重衡――銀に似ている。  
「だが、……お前とは、剣だけでなく肌を合わせてみても面白いかと思ったが。  
俺はやはり剣の方がいい」  
だから、お前自身は重衡にくれてやる。  
そう言うと、知盛は自身を引き抜いた。精を放っていないそれは未だ硬さと太さを保っている。  
「重衡に、気を遣らせてもらえ」  
いっそ優しいほどの声で告げ、知盛は露にされたままの白い胸に己を挟んだ。  
 
「まあ、俺もこのままでは終われんのでな。少しはご協力願うが」  
言いながら、柔らかな――男にはない暖かなふくらみを自身を添わせ、挟み、擦る。  
生々しいその感触が、何故か望美の体を熱くさせた。  
知らず、それに望美の手が伸びる。粘液が滲んでいる先端に、指で塗り込めるように触れた。  
瞬間、更に大きくなったそれに驚きながらも、太い幹にも指を這わせ、自分の乳房と合わせて刺激を送る。  
 
知盛が驚いたような顔をしているのがおかしくて、望美は笑った。  
それは、銀にも八葉達にも、朔にも、白龍にも――誰にも見せたことのない、  
女の笑みだった。  
まろい乳房の柔らかな刺激と、拙い指の不規則な動き。何より、望美が時折見せる、  
全てを射抜くような瞳。それらが、知盛を一気に追い上げた。  
「…………くっ」  
知盛が低く呻き、同時に、白い精が望美の胸と顔に散った。  
 
「……熱い……」  
ぽつりと呟いた望美の頬に散った己の精を擦りつけながら、知盛も言葉を返した。  
「お前もな。――お前自身より、お前との剣の方が熱い」  
そして、何処かぎこちない手つきで望美の髪を梳いた。  
「……もう間違うなよ、神子殿」  
「…………うん」  
知盛の言葉は、重衡と見間違えたことを指しているのだろうが、望美は逆鱗の使い方を  
間違うなと言われた気がした。逆鱗を使い、先刻の――彼らを見間違えた時間まで戻ることは  
可能だ。でも、そうする気は起きなかった。  
 
何故だろう。自分は、この男に犯されたのに。  
昇りつめることはなくとも、純潔を破られ、肌を穢されたのに。  
 
――この男の方が、銀よりも誰よりも、自分を理解している気がするなんて。  
 
去っていく知盛の後ろ姿を、望美はいつまでも眺めていた。  
 

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