「神子様、神子様の世界ではやや子はどこから来るのですか?」  
 
たらららーたらーらららー。  
「ツィゴイネルワイゼン」をBGMにしたくなるような紫の衝撃発言に固まる花梨。  
まさかこの少女の口からこんなことを尋ねられる日が来るとは  
――いやこの少女以外の誰でも想定したことのない質問だが――  
信じられない状況だった。  
 
「神子様?…あの、どうかなさいましたか?」  
「あ、ううん。何でもないよ。…急にどうしたの?」  
「はい。私の母は昔、龍神様にお願いをして兄と私を授かったのだと教えて  
くれたことがあります。けれど神子様の世界には龍神様はいらっしゃらないとか。  
ならば、どのようにして神子様の世界ではやや子が生まれるのでしょう」  
 
余りに純粋な紫の問いに、更に花梨は固まってしまう。  
ここはどう説明すべきなのか。  
キャベツ畑かコウノトリか。  
それともきちんと性教育に進むべきなのか。  
いやしかしこの京での子供の作り方が保健体育で教わったものと同じかどうかは分からない。  
……不意にそんな考えに、花梨は至ってしまった。  
花梨自身そのような実体験はないし、持っている知識も乏しい方だと思う。  
ちゃんとこの世界の人間に、確認すべきではないのだろうか?  
 
「み、神子様?!」  
急に俯いた花梨に、どうしたのかと紫は不安を覚える。  
何しろ花梨はいつになく真剣な表情で拳を握り締め、その手が小さく震えていたのだから。  
「どうかなさったのですか!?」  
「――紫姫」  
「はい!」  
「待ってて。ちょっと聞いてくるから!」  
実にイイ笑顔でそう告げられ、思わず紫も笑みを返してしまう。  
今のBGMを例えるなら、「革命」辺りだろうか。  
手を振りつつ駆け出した花梨のその未来にどんな八葉が待ち構えているのか。  
それはまだ、誰も知らなかった。  
 
了  
 

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