十六夜記銀ルート2章のイベントのもしも話です。  
選択肢で「どうして〜」を選んだ時の重衡の台詞から色々妄想。  
絆の関は開けたけどED見るのに失敗したのでやりなおしてる話です。  
 
捏造感溢れる話なので、苦手な方は「もしもの話」をNGにしてスルーよろ。  
 
 
 
十六夜の月が照らす、満開の桜が舞う六波羅の屋敷。  
御簾越しにしか会ったことの無い相手の指に触れたとき、望美の眼からは涙が零れていた。  
 
「姫君…どうして、泣いているのですか?」  
 
「ごめんなさい…約束、守れなかった…」  
 
 
こうして彼と十六夜の月の下で出会ったのは、これで三度目。  
 
一度目は彼が誰なのかも、何故自分がここに導かれたのかもわからなかった。  
二度目はその姿もその声も、紛れも無く自らの想い人であると認識できた。  
 
今度こそ、間違えない―――そう思って、離れる前に彼の名を呼んだ。  
遠く平泉の地で出会い、想いを重ねた相手の真の名前―――重衡の名を。  
 
 
必ず助けると約束したはずの相手と、三度こうして出会ったのは、龍の逆鱗の悪戯なのか。  
銀を、重衡を救うために時空を巡り続けた望美は、気付けばまたこの桜の庭に降り立っていた。  
次に会う時は彼を救い出す時、そう自らに誓ったはずなのに、自分はまたこの時空にいる。  
 
二度目の平泉でも、運命を変えることは出来なかった。  
悲劇にしか向かわない二人の運命に、堪えていた筈の涙が溢れたとき、望美は再び「重衡」の前に居た。  
いつかの時空で会った時と変わらぬ場所と声音で望美を「十六夜の君」と呼ぶ男。  
 
どうしてここに居るのか、最早自分にもわからない――  
そう正直な想いを零すと、御簾の向こうの相手はほんの少しだけ言い難そうにして、望美に告げた。  
偶然が呼んだ突然の逢瀬ならば、せめて姿だけでも留めさせてはくれないか、と。  
 
 
「重衡」の誘いは、甘い。  
望美の知る「銀」と同じ声、同じ姿のまま彼には有り得ないような言葉を紡ぐ。  
だがそれは紛れも無く望美の愛した「銀」という男で、望美が知りえない彼の本質の姿だった。  
忠実なる神子の守り手だった銀とは違う、重衡と言う一人の男としての言葉。  
 
弱りきった心に、抗う術などあるはずもなかった。  
求めて止まない愛しい男の声が求めるままに、望美は御簾を上げて重衡との邂逅を果たした。  
 
「重衡さん…」  
 
「……貴方は私を御存知なのですか、十六夜の君」  
 
「遠い…きっと凄く遠い時空で、あなたに会ったから」  
 
「…こんなに可愛らしい姫君との出会いを知らないだなんて、今の私は大層不幸な男ですね」  
 
どこか言葉遊びのような、それでいて酷く哀しげな色を含んだ望美の言葉に、重衡は本心からそんな言葉を返す。  
 
「…あなたはやっぱり優しいね…それから、やっぱり少しだけずるい」  
 
言葉を紡ぎながらも、重衡の手は慣れた様子で望美の衣服にかかる。  
望美も、重衡の誘いの意味を知らないほど子供ではない。  
すべて分かった上で、誘いに乗ったのだ。  
 
一世限りの夢を見せようとでも言うのだろうか。  
龍の鱗はすっかり輝きを失っている。  
 
「その卑怯な男の誘いに乗って下さるのですか?十六夜の姫君」  
 
「…答えを聞く気、あんまり無いでしょう…」  
 
「……すみません、逸りすぎているでしょうか…」  
 
手の早さに似合わず、少し申し訳なさそうな重衡が可笑しくて、  
望美は小さく笑いながら重衡の腕に身体を預けた。  
 
 
「……はぁ…っ」  
 
「もう少し、声を聞かせては下さいませんか」  
 
「……っ、恥ずかしいこと、言わないで下さい…」  
 
首筋から腰までを舌と指でなぞりながら、重衡が囁く。  
着物を脱がす手つきも、甘く肌に触れる愛撫も、全てが手馴れている――正直、望美はそう感じた。  
お互い合意の上での行為、抵抗があるわけでもない。だが、何となく声を上げ難い。  
それが嫉妬と気付いているのかいないのか、望美は意地を張って無理矢理言葉を返す。  
 
「……申し訳ありません、ただ、貴方が余りに可愛らしかったから…」  
 
「…ん…ぁ…だから、そういうこと…っ」  
 
「姫君、よろしいですか…?」  
 
この人、やっぱり結構ずるい。  
望美は翻弄されながらもそんな事を思って小さく重衡を睨んでしまう。  
余裕で人を喘がせて、気遣う振りをしていても結局は好き放題に遊ばれている感覚。  
 
望美が少しでも違った反応を見せると絶対に見逃さない。  
素で人を席面させるような台詞を吐くのは、どうやらもともとの性格らしいと言うことも分かった。  
 
そして、同意を得ようと声を掛けられても返事をする余裕がないことにも気付いている。  
それでも敢えて聞いてくる上、答えを待たずに手が出る。  
 
ああ、この人に嵌まったら苦労するかも知れない。  
まともにものを考えられない思考の中でも、それだけは確かに感じた。  
すっかり嵌められた今となってはもう、遅いけれど。  
 
「……っぅ…!」  
 
「…大丈夫、ですか?」  
 
全身を貫く慣れることの出来ない異物感と痛みに、望美は思わず唇を噛む。  
だが、悲鳴を上げる身体とは裏腹に、望美の心はさらなる痛みを求めているかの様に高鳴る。  
 
貫く痛みが教えるのは、彼が確かにそこに存在し、「神子」ではないただの女として自分を求めているという事実。  
望美の愛した一人の男の、人形としてではない本質。  
 
「すみません…お辛いですか」  
 
「いい、の…平気だから、…離さないで…っ」  
 
「姫君…」  
 
身を裂く様な痛みより、その腕と熱が離れて行くことの方が余程耐えがたい。  
そうとでも言うように、望美の指は重衡の指を握り締めたまま離さない。  
 
 
「…んっ…重衡、さん…」  
 
「……ここに居りますよ、姫君…」  
 
痛みを堪えながら懸命に自らを受け入れる望美の耳元に、そっと口付けを落とす。  
初めて会ったはずの少女がどうしてこんなにも愛おしく、離し難いと感じるのかはわからない。  
だが、理屈ではなく心が、身体がこの少女を求める。  
優しく抱いて慈しみたいという想いと同時に湧き上がる、正体の分からない感情。  
このまま酔わせて快楽に狂わせてでも、月が導いた姫君を現世に縛り付けてしまいたい衝動。  
 
約束を守れなかったと嘆く少女を見て湧いたのは小さな嫉妬心。  
少女は自分の姿を見て、銀と言う名を呼んだ。  
否定せずにおけば、こうして肌を許して離さないでと縋ってくる。  
重衡、と呼ばれては居ても、彼女の心を捕らえて離さないのは自分ではなく「銀」なのだろう。  
 
 
なるほど、少女にとって確かに自分は銀なのかもしれない。  
だが、自分にとっての銀とはまったく知らない、何処の誰かも分からない存在でしかない。  
可笑しな話だと重衡自身思ったが、少女を抱きながらも彼は「銀」という男がたまらなく憎いと感じていた。  
 
「……よろしいのですか、姫君」  
 
そんな思いが過ぎった瞬間、重衡はふと望美を抱く腕を止める。  
 
「……え…?」  
 
「私は貴方の銀ではありません…それでも、貴方は構わないのですか」  
 
その言葉に、望美は思わず重衡の表情を覗き見てしまう。  
彼のこんな表情を見るのは初めてだった。  
一見すれば優しく微笑んでいるように見えても、その瞳は笑っては居ない。  
どこか拗ねているようなその表情は、今まで見た顔の中で一番人間らしい表情だと望美は思った。  
 
「……ごめんなさい、一番ずるいのは私だよね…」  
 
重衡の言わんとする事を理解した望美は、自嘲気味な笑みを漏らして息を吐く。  
 
「でもね、私は重衡さんに覚えておいて欲しいの」  
 
「私に、ですか?」  
 
「そう、あなたに…私、本当のあなたを手に入れるためならなんだってするから」  
 
運命を変えて、銀―――重衡を本当に救うためなら。  
この身が切り裂かれようと、どれだけ心が傷ついても。  
 
「絶対諦めないから…ごめんなさい、今だけ甘えさせて下さい…」  
 
だから今だけは、心が折れそうなこの時に出会えた今の時空でだけは。  
一時の甘い夢に酔わせていて欲しいと、卑怯とは分かっていても求めてしまう。  
愛した人の――重衡の声と、腕を。  
 
「十六夜の、君…」  
 
「………っ!?」  
 
そこまで言ってまた泣き出しそうになった望美を、重衡の腕が強く抱きすくめる。  
 
「ど、どうしたんですか重衡さん」  
 
「自分でも分からないのですが…申し訳ありません、抱き締めずに居られないのです」  
 
「あはは…そういうところ、やっぱりあなたはあなたなんだね…」  
 
心が出す命令に逆らってでも、この人はこうして自分を甘やかす。  
そんな行為に、幾度救われたかわからない。  
 
「今は貴方が望むままに…一夜の逢瀬ではありますが、私の心を差し上げましょう」  
 
「……重衡、さん」  
 
「…ただし、約束してください……必ず、また会って下さると」  
 
「うん、絶対…きっと本当のあなたを捕まえて見せるから」  
 
 
見つめあう視線が絡み、どちらからともなく目を閉じる。  
一夜の夢で交わした口付けは、この上なく甘い、蕩けるような味がした。  
 
 

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