目の前に出されたのは大きな箱だった。
すっごく綺麗な箱。
絵や細かい細工とかが彫られてて、なんだかキラキラしてて
きっと、とても高価なものなんだろう。
それくらい私でも分かる。
分かるんだけ、ど。
私は目の前で微笑む男の子にやっとの思いで口を開いた。
「あきふみくん、これ、何?」
「箱ですよ。貴女の為に作らせました」
にこにこ、笑う彼はとても可愛い。
そんな彼のことを私は好きになって、この世界に残ることを決めた。
でも、その顔の裏に何か有無を言わせないものを感じるのは気のせいだろうか。
「……箱。うん、箱だよね。綺麗だと思う」
「気に入ってくださったなら、良かったです」
別にそこまでは言ってないんだけどな。
「確か私、誕生日に欲しいものはないかって、聞いたんだけど」
今日は彰紋くんの生まれた日だと知ったのは、ついこの間だ。
この世界では誕生日を祝う風習は無いとは知っていたのだけれど
好きな人のそれくらい、やっぱり祝いたい。
そう言ったら、彼は考えておくと言ってくれたのだけれど――。
「だから考えて、これを作らせたんです」
「へ?」
何だろう、鈴の音が遠くから聞こえたような気がする。
「僕が欲しいのは貴女だけですから。……だから、入って頂けますよね?」
言われたことを理解するのに、ちょっと時間がかかった。
ええと、つまり、私がその中に入って、って、ええっ!?
「大丈夫ですよ、ちゃんと大きさは測ってありますから」
いやそういう問題じゃないから。
「貴女を他の誰の目にも触れさせたくない。僕だけのものにしたいんです」
……だからってこれは、ちょっと。
「貴女のことが大切で、大好きだから」
ぎゅっと手を握られて、そんなこと囁かれて。
大好きな人に(例え表現方法はどうであれ)そんなこと言われて
嬉しくない女の子はきっといないと思う。
彰紋くんは東宮だから、普通の付き合い方とか知らないから
ちょっと変な方向に思考が行っちゃっただけだよね、きっと。
きっとそうだよ!
「あのね、私も彰紋くんのこととっても好きだよ。そうでなかったら
残ったりはしない。ずっとあなたの傍にいる。それじゃあ駄目かな?」
私も彰紋くんの手を握り返し、囁き返す。
同じ気持ちなんだよって、伝えたいから。
「花梨さん……」
彰紋くんの顔がもっと近付いてきて、私は目を――。
「でも良かった。貴女が快く了解して下さって」
え?
ってああっ!気が付いたら、箱の中に私入ってる!?
蓋閉まってる!?しかもなんか運ばれてる!?
「これからはずっと一緒ですね」
すごく優しい声で嬉しそうに彰紋くんが話しかけてくる。
私はこれから待ち受けることを想像し、頭を抱えずにはいられなかった。