「私みんなの所帰らなきゃ。じゃーね、また明日ね!」
「おう、また明日な望美」
望美がばいばいと元気に手を振り、雑踏の中に消えたのを見届けると、
将臣と知盛は宿に戻ろうと、日も傾きだし、少し薄暗くなった道を引き返した。
(…元気そうで良かった)
そんな望美を見て、久々の再会をした将臣は安堵の表情を見せる。
「幼馴染み殿、ねぇ…有川?」
「…あぁ。」
しかし、望美が素直にまっすぐ帰った、というのは将臣の思い込みだったというのは後で分かる話である。
「今日は酒が進みそうだ…なぁ有川」
「…はぁ?」
その晩。将臣と知盛も酒が入り、眠りについた…筈だった。
しかし寝苦しく蒸す熱帯夜とあってか将臣はうまく寝付けずにいた。
うつらうつらとしているとギシ、と床がしなる音がした。
「…来ちゃった」
「ちょ、お前…!」
「しっ、大きな声出さないで」
暗闇の中、望美の口角がニッと上がるのが分かった。
現代と違い戸や窓に鍵をかける習慣などない時代、宿さえ見当をつければ忍び込むのは簡単で。
護衛の平家の兵がいないのも好都合だった。
しかし、いくら剣の心得があるとはいえ、薄い浴衣で女が夜道を歩くのはいくら何でも無防備すぎると小声で怒る。
しかしそんな事は全く意に介さない様子で寝床の将臣を跨ぎ、口付ける。その間にも布団や寝間着を解いていく。
「だって…久々に将臣君の顔見たら」
「…のぞ」
「欲しくなっちゃったんだもん…」
言うか言わないかの間に自らスルリと浴衣の帯を解く。下着は付けておらず、将臣を見下ろす白い裸体が闇に浮かんだ。
将臣の手を取り、指を己の秘部に寄せる。秘部は既に湿り気を帯びており、クチュリと湿った音がする。
手を引こうとする将臣の手を握り、指を中へと進めさせると望美はますます甘い声を出す。
「…んっ…んんっ、あっ」
「…望美!」
「駄目?」
下の唇がヒクつき、熱い愛液が将臣の指を絡める。
しかしやはり心の中に残る羞恥心か良識か、指を休め引き抜こうとすると望美が縋るような視線で将臣にねだる。
「やだ、辞めちゃうの?」
望美は口をへの字に曲げ、乳首を軽く噛み舌で弾くようにして攻め立てる。
「やめっ…のぞっ」
「…ここは正直みたいだよ?」
薄い布団の下から立ち上がる硬い物を見逃さない。
将臣は昼間「望美が元気でよかった」と素直に安堵したことを軽く後悔した。
…元気がよすぎるにも程がある。
「あっちでしてくれたみたいに…して?将臣君が、欲しいの」
こちらに来る直前にも、望美と将臣は体を重ねた事がある。
しかし将臣はこちらに来てから、還内府としてひたすら生き抜くのに必至で、
そんなことは二の次、ましてや望美の感触を思い出す事は困難の極みだった。
なにより横で寝ている人間がいるのにここでしようという望美に呆気をとられた。
望美はそんな事はお構い無しにいよいよ布団を剥ぎにかかっている。
「…望美っ!」
勃った物の裏筋を優しく撫でるとますます硬くなる。
音を立て吸い付き、ざらりとした舌を這わせると将臣も快感に声を上げる。
息を荒くする将臣に、望美は満足げに畳み掛けに入った。
「…触ってみて…もう我慢できないよ…」
股を広げ、ますます濡れた秘部を指で広げると、太腿まで伝う愛液が糸を引き、闇に光る。
さすがにここで引いたら男が廃る。というより遂に体の欲望の方が理性に勝ったという方が正しかった。
唾液で濡れたそこに身体を埋め込もうとした望美を将臣は止めた。
こうなったらいっそもう望美の身体を味わい尽くしてしまおうと。
「…手加減しないぜ?」
形勢逆転させ、望美を組敷くと広げた秘部に昂りを一気に根元まで押し込む。
「ひあぁ…!んぁっ、やんっ、そこっ…ん、ん、ひぁっ」
その間にも、硬くなった胸の色づいた尖りに吸い付く。
舌で転がし、軽く歯を立てきつく吸いあげると甘い声のトーンが一段と高まった。
「あっ…そこ、そこがいいの…っ…あぁん!んっ、ひぁ…気持ち…いい…んっ」
将臣も引いては奥まで深く押し付け、望美の中の感触を味わうと同時に、柔らかい胸を揉みしだき、指先で桜色の尖りを転がす。
次第に(…ああ、望美はここが弱いんだったな)と思い出しながら、
まさかこちらで、しかもこんな状況下で関係を持つ事になるとは、とまだ酒の残った頭で考える。
「…将臣君っ…」
快感でとろんとした目つきでになっている望美は、将臣を見つめると、息も続かない様子で続けた。
「ねえ、将臣君…一緒にあっち、帰ろうね」
「…望美」
「私、本当に将臣君と帰れるのか、不安で」
夜中に押し掛けてくるのはタチの悪い冗談だと思っていたが、
本当は再会してもなかなか一緒にいられない将臣と少しでも一緒にいたい。
…そんな気持ちもあったのだろう。
激しく押し引きをする将臣のものを、望美はますます強く締め付ける。
「いやぁ、んんっ、あっ」
「望美っ…!俺、もうっ…」
大量の熱いものを、望美の胸と腹部に放つ。
「熱ぅい…」
望美も汗ばむ額を拭い、満足げに呟く。
「…しかしお前声出しすぎだろ…いくらこいつでも寝こけてるなんてことは…」
「…曲者に気付かないと思われてたとは甘く見られていた物だな」
「とっ、知盛!?」
思わぬ声に慌てているのは将臣だけだった。
「クッ、黙っていれば、大胆な…寝るに寝られない」
「でも最初から気付いていたよね、知盛は」
「…はぁあ!?」
面食らっているのは将臣一人で。…さっきからしていたあんな事やこんな事が
筒抜けだったかと思うと頭が真っ白になり、頭の酒もすっかり飛んでしまった。
「私、聞かれていると思ったら…もっと濡れちゃって…」
望美も故意だと言い出すから始末に負えない。
「この獣みたいな…いや、獣はちっとやそっとじゃ満足しないだろうな…手加減無しなのだろう?助太刀、するぜ?」
知盛までこんな事を言い出す。部屋に明かりを灯すと自らも帯を緩める。
「と、ともっ…お前それでいいのかよ…」
「お前と神子殿さえ良ければ?」
いつもの通りクッと笑うと望美のまだ冷めやらぬ身体を見て言い放つ。
「…そうだな。まずは自分で広げて…達してみせろ。…見られていると感じるのだろう?」
「…いいよ」
一瞬望美も流石の難題に難色を示したが、2人に向け足をM字に開き、自ら肉芽を摘む。
先ほどの交わりでの興奮が覚めやらぬ肉芽を指先で転がし、
刺激すると望美の体に再び快感が走り…次第に肉芽だけで飽き足らず、痴肉に指を滑り込ませる。
体中体液まみれのこんなはしたない姿でする自慰を2人に見られている。そう思うとますます愛液が溢れた。
―――絡み付く視線が、気持ちいい。
望美は痴態を見られる快感に気付いてしまった。
「ひぁあ…あっ…こんなになってるっ…んっ…ああぁっ!やぁん…っ!」
望美は快感に喘ぎ、乱れた。次第に指の本数が2本、3本と増える。
甘く艶のある声とともにグチュリと卑猥な水音が室内に響く。
「ねぇ…っもう…っだめぇ」
「…まだ、だろう?神子殿…」
将臣はお前、Sだなと一人呟きつつも、薄明かりの中、惜しげもなく痴態を晒す望美の姿は昼間の姿とはほど遠く、そのギャップに身体が疼く。
なにより先程出したばかりなのにまた頭を上げている己の物にギョッとする。
そんな姿を横目で見る望美の火照る身体は絶頂を迎えようとしていた。
「我慢できないよ…ひあぁっ、ああんっ!やっ、いっちゃう…っ!」
自らの手で浅い絶頂を迎えた望美ははあはあと肩で息をつくと力が抜けたのか肩を落とした。
「さて…その艶かしい身体で…もう一舞いしてもらおうか?」
横になった知盛の上に望美を乗せる。尻まで愛液が伝う望美の身体はすんなり知盛のものを受け入れた。
下から二、三軽く突き上げると、望美は身体を反らせ喘ぐ。
「やぁんっ!あっ、やぁん!」
「自分で動かないと駄目だろう?神子殿…艶やかな舞を期待したいものだな」
知盛の上で望美はゆっくりと腰を使い始める。腰をくねらせ、次第に動きは速さを増す。
押し寄せる快感と結合部からの卑猥な水音が望美の正気を飛ばしてしまった。
好きな相手の見ている前で別の男の上で腰を振る…
そんな本来なら常軌を逸した行為にすら意識を溶かし、快感を見いだす。
今まで知らなかった世界に溺れているだけでも十分気をやってしまいそうだが、貪欲に望美は更なる快感を求めてしまう。
「ま、さおみくんっ…おしり…欲しいの…っ」
「…望美!?」
「おねがい…指、入れてみて…?べとべとで、疼くの…欲しいの…っ」
もちろん今までした事などない。しかしこれ以上に乱れる望美が見てみたいのも正直あった。…ここまできたら引く理由もない。
背後から抱きとめ、胸を揉みしだく。将臣の荒い息がうなじにかかると望美は一層高く、甘い声で喘いだ。
将臣は指にぬめり気を纏わせると、望美の菊門に侵入した。
「っ…い、やぁあん!あっ、ああっ!あああっ!」
「くっ、締まる…」
上下の動きは止めてしまったが、望美の花芯はきゅうきゅうと知盛のものを締め上げた。
恍惚の表情で息を乱しながら2つの乳房を上下に揺らす望美に知盛はとんでもない女だと口元を上げ、問いかけた。
「そろそろ限界だが…まさか中に出す訳にはいくまい?」
「う、うん…」
「悪ぃ知盛。望美、一旦抜くぞ」
四つん這いになるように下肢を後ろから抱えると今度は将臣が根元まで一気に押し込んだ。
望美は知盛の昂りを口に含む。じゅる、と音を立てながら舌で裏筋から亀頭部分まで伝うように舐め上げ、吸い付くと思わず呻く声が上がる。
後ろから突く将臣も、息を乱しながらふたつの膨らみを揉みしだき、頂の尖りを摘むと、望美の喉の奥から喘ぐ声が漏れた。
「望美…っ!」
まさに獣のような姿勢で貫かれる望美の顔、そして背を2人の白い液体が汚す。
「っ…ああ…っ!」
2人から熱い液体を受けるとともに、望美は意識を手放した。
意識を戻した望美が外を見遣ると外はうっすら白んでいた。
(やっば…九郎さんとかもう朝稽古してるかも…)
「望美?気がついたか」
体液にまみれた床は寄せられ、縁側で将臣に腕枕をされて転がっていた。
よくよく見ると身体はきちんと拭かれているようだ。来たときの浴衣もきちんと着ている。
「一緒にあっち帰ろうね、約束だよ?」
「おう。…望美、今回みたいのは勘弁な?」
うん、と元気に返事をするとその横でまどろんでいる知盛に声をかけた。
「あ、そうだ。知盛も来る?」
「…はぁあ!?」
将臣が素っ頓狂な声を上げる。さっきの切なげな声の約束は何だったのか。
口をぱくぱくさせる将臣を望美は不思議そうな顔で見つめる。
「え?私『将臣君と2人で帰る』なんて言ってないよ?だって譲君も一緒に帰るでしょ?」
「そ、そりゃそうだけど…知盛!?こいつも連れてくのか!?」
「駄目かな?」
「くっ…面白い女だ…」
「知盛…あのなぁ」
―――残念ながら『この宴を知っている』知盛と現代へ行く事はないのである。
それどころか、恐らく望美だけが、熱帯夜の幻として記憶に残すだけとなるのであろう。
このときはまだ、誰も何も知らないけれど。