褥の上に二人は横たわっていた。
日のぬくもりを感じさせる様な橙色と、淡く繊細な紫色は対照的でありながらも、確かにほんの数刻前までは求め合い、そして緩やかにその髪を揺らしては慈しみ合っていた。
この二人、晴れて夫婦になったものの、体を繋げたのは今回が初めてである。
互いに恥ずかしさと照れが先立ち、敬語も呼び方も初めて会った時から変わっていないのだった。
「っ、くしゅっ」
満ち足りた微睡みの中に居た二人の肩にひやりと冷気が掠めていく。
すると思わず一つくしゃみをしてしまった花梨は、直ぐに、目の前で眼を開いた泉水を見る。
「ごめんなさい、起こしてしまって」
「…いいえ、寒いのですね、可哀想に」
にこと微笑んで、腕の中にいる花梨を更にぐっと抱き締める。
「あなたの髪は、まるで日溜まりの様…暖かくて、美しい」
泉水はもう一度目を閉じて、花梨の髪に顔を埋め呟く。
彼はとりわけ彼女の髪を気に入っていた。
明るく前向きな性格に相応しい、優しい光をたくわえたかの様な髪色は、泉水の憧れそのものだったからだ。
「泉水さん…」
頬を赤らめて名を呼ぶと、返事の代わりに額へ口づけが降りる。
それは額から鼻先、そして唇へと進み、より深いものになる。
するとまた、外から冷たくひんやりとした空気が流れてくる。
花梨はその空気である事に気付き、途端に唇を離した。
「ん、…泉水、さん、あのね」
「どうしました、神子」
「雪が降ってきたんじゃないかな」
ふわりと無邪気な笑顔を見せて、花梨は言った。
口づけを途中で止められた事に全く怒る様子もなく、泉水もつられて笑顔になる。
「庭に出ましょうか」
簡単に着物を着て、真夜中に庭先に出てみれば、言った通りに上空から深々と降る雪。
「わあ…綺麗!」
「ええ、本当に」
「ホワイトクリスマスですね!」
「ああ、これがそうなのですね…」
遅れて背後から来た泉水は、花梨の肩にもう一枚着物をかける。
「雪は美しいものですが、ひとたび肌に触れれば体温を吸われてしまいますよ」
派手にはなりすぎず控え目な色合いだが、一つ一つの模様が華々しく、それは花梨にぴったりの生地から出来ていた。
「綺麗な着物…でも、雪に濡れちゃいますよ」
「あなたへの『プレゼント』ですから、どうぞお好きなようにお使い下さい」
泉水は、ホワイトクリスマスの事と一緒に教えて下さったでしょう、と微笑む。
「あんな、ちょっとした話だったのに…覚えててくれたんですか…!?」
嬉しさで声を震わせ泉水の胸に飛び込むと、体がしっかりと抱き締められる。
優しい腕、けれど男の人なのだと感じさせる肩幅や腰、ふわりと香る黒方、花梨はその全てが愛おしかった。
「嬉しいです…!あの、お返しに何か欲しい物はありますか?私ってば、まさか覚えてくれてるなんて思ってなかったから…何にも用意してなくて。ごめんなさい」
「お返しなど…」
泉水は少し驚いた顔をしてそう言ってから、ふと何か思いついた様に笑み、呟いた。
「それでは、…花梨を」
二人の頬は寒さのせいか、いつもより大胆な泉水の言葉のせいか赤く染まって、寒さなど感じる筈もない。
何よりも暖かい、幸せの温度に包まれながら、雪の降る聖なる夜にもう一度口づけをして、心と心を寄り添わせるのだった。
後日、花梨はお返しとして紫色の髪をいっそう引き立てる、髪を結うための紐を送った。
花梨もまた、泉水の髪をとても好いているのだ。