「あぅぅ…こわいよぉ……。」  
 
あかねは今晩何度目かの寝返りを打った。  
すでに夜もふけ、起きているものはいない時刻だ。  
 
「うぅっ、イノリくんの馬鹿……。」  
 
いつもならとっくに寝息を立てているはずなのだが、今日はそうはいかなかった。  
物忌みの付き添いでやってきたイノリが、面白がって始めた怪談話の所為で、目が冴えてしまっている。  
 
「怖い話は駄目って言ったのに…。」  
 
あかねは昔から怪談の類が苦手であった。その手の話が始まると、適当に理由をつけて逃げまわっていたくちなのだが、さすがに相手が物忌みの付き添いでは逃げるわけにもいかない。  
結局最後まで聞いてしまった挙句、眠れなくなって現在に至る、である。  
照明器具の発達していないこの世界では、部屋の中は完全に闇に閉ざされてしまう。  
かえって外のほうが月明かりに照らされて明るいくらいだ。  
周りからひしひしと迫ってくるような闇に、耳鳴りがするようにさえ感じる静寂に、あかねは最早半泣き状態であった。  
ぎゅうっと自分の身体を抱きしめて掛け物を頭からかぶって耐えているが、緊張の糸は限界まで張り詰められている。  
 
かさり…。  
 
そんなあかねの状態を見計らったかのように、得体の知れない音がどこからともなく聞こえてきた。恐らくねずみか何かであるのだろうが、なにぶん暗闇である。  
 
「ひゃっ!?な…何?」  
 
ほんのかすかな……いつもなら気にも留めない音が、今のあかねには充分過ぎるほどの恐怖を与える。  
全身全霊の神経を耳に集中させて、辺りをうかがうが、原因を突き止めることはできない。  
 
「……やっぱり、誰か女房さんにでも言って傍についててもらおうかな……。」  
 
堅苦しい形式を好まないあかねは、普段から傍近くに人を置いていない。あまりにも無防備だと藤姫辺りは良い顔をしないが、夜まで起きていてもらうのに申し訳なさを感じて、夜はそれぞれの局に下がってもらっている。  
その主義に反するようで気がとがめるが、彼女にとってこれは非常事態だった。  
 
「このまま眠れなかったら、明日に響くし……。いいよね?」  
 
自分自身を納得させるように頷くと、あかねは意を決して掛け物をはねのけると、妻戸を押し開け部屋を出て女房たちの住まう局のほうに足を向けた。  
月が明るい分、庭木が濃い影を張りつかせて夜の庭を演出している。  
広い庭のそこかしこに散らばる闇が、引力すら感じさせる凄みであかねを脅かす。  
 
「……怖いのは今だけ、怖いのは今だけ…」  
 
呪文のようにつぶやきながら歩を進めるあかねは、傍から見てかわいそうなほど怯えきって緊張していた。  
だから、突然庭先から掛けられた声にこんな反応をしてしまっても、彼女を責めることはできまい。  
 
「……神子殿?」  
「うきゃあぁぁっ!?何っ…何!!??」  
 
びくうっと身をすくませて素っ頓狂な悲鳴を上げたあかねを、長い黒髪を後ろの高い位置にまとめた長身の青年……源頼久は困ったような表情で見つめた。  
 
「はぁぁぁ……何だ、頼久さんか……。」  
 
一瞬恐慌状態に陥ったものの、相手が頼久だとわかって、あかねは安堵の息を漏らした。  
そのままぺたん、とその場に座り込んでしまう。  
 
「驚かせてしまって申し訳ありません。しかし、このような夜更けに如何なさいました?」  
 
丁寧に謝罪しつつ、頼久はあかねのいる端近に近寄った。  
そして、主の少女の身体が細かく震えていることに気付く。  
 
「神子ど…。」  
「う、ううぅっ……頼久さ〜ん。」  
 
ぽすっ…とあかねの身体が、頼久にもたれかかってくる。  
 
「み……神子殿!?」  
 
柔らかい少女の重みを感じて、頼久が慌てたような声を出す。  
しかし、あかねにはそんなことに構っている余裕はなかった。  
 
「こ…怖かったよぉ……」  
 
今にも泣き出しそうな表情で頼久に縋りつき、彼の服の端をきゅっと握り締める。  
(か…可愛い……。)  
目じりに涙をためて、伏し目がちに頼久の服の端をつかんではなさないその様子は、頼久でなくとも心臓の辺りにずきゅーんときてしまう類のもので、おもわず力いっぱい抱きしめたくなるのを持ち前の自制心で押さえつける。  
これが某少将や熱血刺青少年などではとっくに押し倒しているところである。  
 
「どうされたのです\か?」  
 
内心の動揺など露ほどにも見せず、頼久は真摯な表情で尋ねた。  
多少のぎこちなさは伴いながらも、その手はちゃっかりとあかねの震える細い両肩に乗せられている。  
 
「…怖くて、眠れないの……。昼間、イノリくんに散々怪談話を聞かされて……。」  
 
緊張の糸が切れてしまったのだろう、あかねは頼久に尋ねられるまま、事情を明かしていった。  
(イノリ……おのれ許すまじ……!)  
それを聞いて、頼久はひそかに怒りで心を震わせた。  
(物忌みで二人きりなのを良いことに、神子殿を怖がらせて楽しむなどと……。)  
実際には今日一日あかねと共にすごしたイノリがうらやましいだけなのだが、その点は敢えて無視する。  
あかねがこちらに召喚されてそろそろ3ヶ月。京の常識には当てはまらない、この闊達な少女に頼久は心を奪われていた。  
頼久だけではあるまい。何かと浮名の多い左近衛府少将を筆頭に、幾人もの男たちが彼女に惹かれてその心を欲している。  
 
本人にその自覚がないことが、また犠牲者の数を増やすことになっているのだが、頼久としては、そんな男どもの内の誰かがやがて強硬手段に出るのではないかと気が気ではない。  
あかねの気持ちが誰にあるのかも不明であるし、彼女と二人きりになれる物忌みはいろいろな意味でチャンスなのだ。  
今回呼ばれなかった頼久は、落胆しつつも万が一の事態に備えてあかねの部屋のすぐ近くで警備にあたっていた。  
日が暮れて呼ばれた八葉が帰った後も、なんとなく戻る気になれずに彼女の部屋の辺りを巡回しながら悶々と思いをめぐらせていたところに、なにやら辺りをうかがいながら廊下を渡るあかねの姿を見つけたのである。  
 
「しかし、このような刻限では誰も起きてはいますまい。お送りいたしますゆえ、お部屋にお戻りください。」  
 
あくまで常の姿勢を崩さずに、あかねに部屋へ戻るよう促すが、あかねはますます頼久の服を握り締める手に力をこめ、いやいやをするように首を振った。  
目尻に涙をためたまま、上目遣いに見上げるあかねの表情は昼の光の元で見るのとは違った艶を帯び、頼久の神経に直接働きかけてくる。  
まして、今の彼女は薄い夜着一枚しか纏ってはいない。  
その気がなくともほっそりとした肢体やまろやかな腰のラインがくっきりと目に飛び込んでくる。  
 
「だって…怖くて、私……。」  
 
駄々をこねる幼女のような仕草にさえ愛しさを覚え、身の内から湧き上がってくる衝動に、頼久はおもわず目を閉じた。  
不意に黙り込んで目を閉じてしまった頼久の様子を、あかねは不思議そうな眼差しで見た。  
肩にかかっている頼久の手にわずかに力がこもり、それに呼応するように、眉間にしわが寄せられる。  
 
「……頼久さん?」  
 
あかねの気遣わしげな声に我に返り、頼久ははっと目をあけた。  
目の前にあかねの心配そうな顔がある。  
互いの息がかかるほどの距離・・・・・潤んだ瞳は月の光を弾き、わずかに開かれた桜色の唇から漏れる吐息が、頼久を誘っているようにさえ思える。  
 
「・・・・とにかく、戻っていただきます。」  
 
絞り出した声に、どこか苦しげな響きが混じってしまう……。  
それに気付いたのだろう、あかねが怪訝そうな顔でふっと小首をかしげる。  
 
「……失礼致します。」  
「きゃっ!?」  
 
これ以上、この状況に耐えられそうにないと判断して、頼久は問答無用であかねを抱き上げた。  
そのまま庭を横切ってあかねの部屋に向かう。  
 
「ちょっ…頼久さんっ!!」  
 
少女は驚いてわずかに身をよじるが、頼久は彼女の抗議を無視して歩を進める。  
彼女に触れている部分が、ひどく熱い。  
少女の重みが、甘い香りが直に伝わって、頼久は限界が近いことを感じ取っていた。  
思いもよらない頼久の行動に真っ赤になってしまったあかねが、身をよじるたびに彼女の存在を強く感じ、そのまま理性を解き放って想いを遂げてしまいたくなる。  
早く彼女を部屋に送り届けてしまって、自分はすぐさま井戸に向かおう。  
冷たい水の2杯や3杯もかぶれば、この汚らわしい想いもしばしはおさまってくれるだろう。  
腕に残る感触が、今夜はまとわりついて眠れはしないだろうが。  
 
「……頼久さんってば!」  
 
いつもに増して無口で、やや強引な頼久の行動に、あかねは違和感を覚えていた。  
沈黙は、この寡黙な青年には珍しいことではないが、何かいつもとは違う雰囲気を漂わせている。  
普段なら、もう一歩下がったような態度で丁寧にあかねの意思に従おうとするのに、いきなり抱き上げたりして……。  
怒っているのだろうか…といろいろ考えをめぐらせるが、心当たりはない。  
(でも、これって結構ラッキーかも。)  
影のようにいつも付き従って彼女を守ってくれているこの長身の武士に、あかねは少なからぬ好意を抱いていた。  
それが恋愛感情と呼ばれる類の物であることを彼女は自覚していたが、なにぶん奥手で恋愛経験などというものはないに等しく、どうすれば良いのか分からないといった現状であった。  
分からないまでも、想い人に抱かれて部屋に戻るというこの状況は、恥ずかしさももちろんあるが嬉しいことに変わりはない。  
あかねは力を抜いて完全に体を預けてしまうと、頼久の胸に頬を寄せ、甘えるように目を閉じた。  
梅香の香りが鼻腔をくすぐり、ふわふわとした幸福感が身体を満たす。  
結果として頼久の鍛えられた胸板に顔を埋めるような形となって、その吐息すら感じる体勢となってしまい、頼久は己の身を焼く渇望に痛むほど唇をかんだ。  
 
「どうか、もうお休みください。私が警備しておりますので、怪しきものも近づいたりはいたしませぬ。」  
 
そうこうしているうちにあかねの部屋の前につき、頼久はあかねを簀子縁にそっとおろすと身を離して下がろうとした。  
 
「……あ…。」  
 
くんっと小さな抵抗がかかり、頼久の動きが止まる。  
彼の服をつかんでいたあかねの手が、今だ離れることなく握り締められている。  
 
「……神子殿…。」  
 
困り果てたような頼久の口調に、あかねは頬を染めた。  
心細げに俯く様子が保護欲をそそり、彼女の傍を離れたくない想いでいっぱいになるが、別の想いもまた強く、このまま傍にいることがどれほど危険かということが、頼久にはよく分かっていた。  
彼女の不安を取り除き、傍にいて安心させてやりたいという想いと、その細い身体をかき抱き、口付けて自分を刻み込みたいという想い……。  
相反するが故にどちらの想いも激しく頼久を揺さぶり、理性をきしませる。  
そんな頼久の苦悩に気付くことなく、あかねは残酷な願いを口にする。  
 
「もう少し……こうしていちゃ駄目ですか?」  
 
先程感じた違和感も気にはなったものの、今の彼女にとっては、また一人で部屋の闇に戻る恐怖のほうがより重要で、優先すべきことであった。  
それに先程の幸福感の余韻もまだ残っており、頼久と離れたくなかった。  
 
「いけません。早くお休みにならなければ、明日お身体に障ります。」  
 
苦しい言い訳であかねの手をはずそうとするが、あかねはますます泣き出しそうな顔になる。  
手を離すどころか、彼女の手をはずそうと伸ばされた頼久の腕を抱きしめるように縋りついてしまう。  
 
「ほんのちょっとでいいから……お願い、一人にしないで……」  
 
意識してのことではないが、あかねに捕らわれている頼久の腕には薄い夜着を通して彼女の柔らかい肢体の感触が……それも丸みを帯びた二つの膨らみが押しつけられるような格好で、頼久はかぁっと頭に血が駆け上ってくるのを感じた。  
 
「なりませんっ!!!」  
 
不意に声を荒げた頼久に、あかねはびくっと身を震わせた。  
怒っているような、そうでないような……あかねが今まで見たことのないような表情の頼久がいる。  
紫苑色の瞳に映るのは、切なさと、激しさ……そして危険な光。  
細く冷たい今宵の月をそのまま映しこんだようなそれは、先程とは違った怯えをもたらし、あかねは身を固くした。  
 
「どうか……お願いですから、お戻りください。このままでは……危険、なのです。」  
 
絞り出すような頼久の声。  
言われずともあかねの頭の中に警報が鳴り響いている。  
しかし、揺れる瞳に魅入られたように、あかねは頼久から視線をそらすことができない。  
身体の隅々から神経にいたるまで見えない鎖か何かで縛られ、指一本動かすことが叶わない。  
カタカタ…と歯が触れ合う感触がして、あかねははじめて自分が震えていることを知った。  
思考回路がうまくかみ合わず、何かを考えようにも混乱するばかりだ。  
どうすればよいのか分からないまま、あかねは震える声で最後の言葉を口にしてしまう。  
 
「…な……にが…?」  
 
すぅっと頼久の瞳が細められる。  
そこに宿る危険な光はいよいよ力を増し、空いている方の手がつうっとあかねの頬を滑った。  
凶暴な獣が、理性の鎖をひきちぎる……。  
 
「私が、です。」  
 
その手があかねの頤を捕らえると、顔を上向かされ唇が重ねられる。  
ぴくり、と強張って反射的に抗おうとした身体は逞しい腕によって抱きすくめられ、完全に閉じ込められる。  
 
「…んっ……」  
 
驚きで目を見開いたままのあかねが、くぐもった声を漏らす。  
押しつけられる頼久の唇の感触……。  
触れ合わせているだけなのに、ひどく熱い。  
何度も角度を変えて口付け、少女の唇を堪能すると、頼久はようやく顔を離した。  
かくんっと力を失ってずり落ちかける身体を腕一本だけで支えながら、あかねの耳元に唇を寄せ、熱くささやきかける。  
 
「……お慕いしています、神子殿。……お許しを…。」  
 
そのまま耳を甘噛みし、ねっとりと舌を這わせて首筋まで滑り降りる。  
 
「…あ……っ…」  
 
ぞくり、と肌が粟立つような感覚に、あかねはかすかな声を漏らした。  
その反応を確かめるように頼久は幾度となく舌を滑らせ、口付けて赤い華を散らす。  
いよいよ自分で支えられなくなった身体を簀子縁に横たえ、覆い被さるようにあかねの顔の両側に手をつく。  
 
「……抵抗、なさらないのですか?」  
 
重力に引かれた前髪が、あかねの顔にかかろうかという距離。  
わずかに残った理性がそうさせるのか、頼久はあかねの瞳をのぞき込むようにして尋ねる。  
大きく目を見開いて、頼久を見つめてはいるものの、あかねに抵抗する気配はない。  
つっ…と不意にあかねの手が動き、頼久の顔へと伸ばされる。  
 
「……本…当に?……わ…たしのこと、好き?」  
 
存在を確かめるように、彼の頬に手のひらを押しつける。  
 
「お慕いしています。」  
 
間髪いれずに答える頼久の表情は真摯なもので、虚言の入り込む隙などない。  
 
「……ふ……。」  
 
あかねの表情が変わる。  
大きな瞳から湧き出すように涙が零れ落ち、美しく光を反射させる。  
 
「わ……私も、頼久さんが…好き…です。だから、嫌じゃな…んんっ」  
 
震える声で告げる言葉は、頼久が再度重ね合わせた唇によって遮られた。  
一度目とは違う、深い口付け。差し込まれた舌が、歯列をなぞり吐息までも絡めとる。  
見つけ出された舌をきつく吸い上げられて、あかねは苦しげな息を漏らした。  
 
「あなたという方は…。もう、止められません……よろしいのですね?」  
 
そう告げる言葉は、確認ではなく宣言。あかねは潤んだ瞳でこくん、と頷き、小さな声で付け加えた。  
 
「でも……ここじゃ、嫌です。」  
「……御意。」  
 
甘い笑みを浮かべて、頼久は短く答えた。  
確かにほとんど外といっても差し支えのない簀子では、羞恥心もひとしおである。  
頼久は履物を脱ぎ、縁に上がるとあかねを抱いて開け放たれた妻戸をくぐった。  
しつらえられた閨に少女の身を横たえると、かき抱くようにその細い肢体を引き寄せて唇を寄せる。  
 
「夢のようです。……あなたのそのようなお言葉を頂けるとは……。」  
 
歓喜に震える声でささやき、いたるところに口付けの雨を降らせる。  
 
「あっ……ん…わたし……も…です」  
 
未知の感覚に包まれながらもけなげに言葉を返そうとするあかねに、胸を熱くしながら頼久は次の行動を開始する。  
しゅるりとあかねの夜着の帯を解き、合わせ目を押し広げて白い肩を露出させる。  
 
「あ…。」  
 
同時に大きくはないが形のよい胸がこぼれ出て、あかねは恥じらいの声を上げ、腕で隠すように覆ってしまう。  
そんな仕草が頼久をよりいっそう煽り立てる。  
 
「隠さないでください。あなたのすべてを見たいのです。」  
 
情欲に声をかすれさせ、頼久はあかねの腕を引き剥がし、夜着を滑り落として彼女の身体を隠すものすべてを取り払ってしまう。  
 
「…や…恥ずかし……よぉ……。」  
 
両手を頭の上で固定され、生まれたままの姿をさらけ出したあかねを、頼久は食い入るような視線で見つめた。  
何とか彼の視線から逃れようと身をよじるが、抵抗はやすやすと封じられる。  
 
「きれい……ですよ。とても…。」  
 
夜目にも白い肢体が闇に浮かび上がる幻想的な美しさに、頼久はうっとりとつぶやいた。  
羞恥にそれがほんのり桜色に染まり、頼久を誘うように揺れる。  
 
「神子殿……。」  
 
感極まった声で呼び、頼久はあかねの絹のようにきめこまかい肌に唇を這わせる。  
胸元に幾つも華を刻み込み、二つの膨らみに手を添える。やわやわと包み込むようにして揉みしだくと、かすかな声とともに少女の体を染める桜色がいっそう艶を増す。  
 
「…あ…あんっ」  
 
手のひらですりつぶすように中心にある桜色の先端を愛撫し、屹立させると、頼久はすかさずその一方を口に含んだ。  
ぴくんっと身を震わせるあかねの反応を楽しむように、舌で舐め転がし、もう一方を指で弾く。  
 
「ふぁっ…あ…。」  
 
自分の口からこぼれ出る甘い喘ぎ声に、ひどく恥ずかしいものを感じてあかねは何とか声を抑えようと手で口に蓋をしようとする。  
それに気付くと、頼久は口に含んだ胸の飾りに軽く歯を立て、いっそう強い刺激を送り込んだ。  
 
「……っ!」  
 
声もなく仰け反ったあかねの細い腰に腕を巻きつけ、逃げられないように固定すると、痛いほど存在を主張する蕾をつまみこねながらささやく。  
 
「駄目です。もっと聞かせてください…こんなときにしか聞けないあなたの声を……。」  
「……や…」  
 
いやいやをするように首を振るあかねが、愛しい。  
今にも泣き出しそうな、その表情が『そそる』のだということに気付いていないのだろうか。  
 
「それでは、抑えられないようにして差し上げます。」  
 
蕾を弄んでいた手がすっと滑り、下肢の方へと伸ばされる。  
慌てて膝を閉じようとするが、一瞬遅く内股の間に侵入を許してしまう。  
潤みを帯びた秘所に到達すると、頼久の指は持ち主の思うがままにそこを嬲り始めた。  
秘裂をなぞり、花弁を一枚一枚丁寧に掻き分けて最も敏感な花芽を探り当てると、指の腹を使って擦り上げる。  
 
「…や……んっ…」  
 
耐えきれずにかすかな声を上げてしまい、あかねは真っ赤になって顔を覆う。  
しかし、その程度で満足するような頼久ではない。  
舌で胸の蕾をつつくようにしながら、花芽に集中的に愛撫を加え、息をつく暇さえ与えずにあかねの身体に快楽を教え込む。  
びくびくと身をのたうたせ、頼久の指から逃れようと身を捩じらせるが、しっかりとあかねの腰を抱きこんだ腕は日ごろから鍛えられているだけあって力強く、完全に彼女を捕らえてしまっている。  
 
「あ……ああっ…。」  
 
押さえた口から切れ切れに嬌声が上がる。  
何かを訴えかけるように背が反り返り、すんなりとした脚が指先まで伸ばされる。  
(やだ……。何か…変…。)  
頼久の触れている個所が熱い。そこから溢れ出した蜜が頼久の指を濡らし、ぬらぬらとした感触がさらに熱を呼んでくるのが分かる。  
切なげに床を滑る脚の動きに、あかねが感じていることを見て取って、頼久は淫靡な笑みを浮かべた。  
体勢を入れ替えると、あかねの膝を割り広げ、愛液でとろとろに溶けた秘所をさらけ出させる。  
 
「やぁ……駄目っ!!」  
 
おもわず声を上げたあかねに、頼久はわざとくちゅくちゅと卑猥な音を立てるように指を動かしながら言う。  
 
「何が駄目なのですか?ここはもう、こんなになっているというのに…。」  
 
つんと立った花芽を擦りたてられ、神経が甘く痺れるような快楽に全身を貫かれる。  
もはや羞恥心など気にしてはいられないほどの激しい快感が、あかねの理性を押し流していく。  
 
「ふぁっ…あああんっ……。」  
 
あかねの唇からこぼれ落ちる喘ぎから、羞恥の響きが抜けてきたのを見計らって、頼久はつぷりと蜜壷に指を差し入れた。  
 
「ひっ!?…ぁぁあっ……。」  
 
まだ何者の侵入も許したことのないあかねの秘所は指一本でもきつく、締め上げてくる。  
この様子では、今指を動かしても痛みしか生まないだろう。  
そう判断して、頼久は差し入れた指はそのままに花芯に顔を近づけた。  
 
「あああぁぁんっ……あっ…ああっ!!」  
 
秘華に吸い付かれ、あかねがあられもない喘ぎを上げて悶える。  
蜜を啜り舌と唇を使ってあかねを翻弄し、乱れる動きに合わせて少しずつ指を慣らしていく。  
 
「…いやぁっ…へ…変…なの…ぉっ…。」  
 
頼久の熱い吐息と舌の動きによって与えられるものとは、また違った感覚が体奥から生まれてくる。  
次々と開発されていく自分の身体……未知の感覚に、あかねはただ翻弄されて、よがり声を上げるばかりだ。  
声を殺すことなどとうの昔に忘れ果て、意識は快楽にほとんど支配されている。  
愛しい少女のこんな姿を見せられて、頼久の欲望はいや増し、下半身の猛りははちきれんばかりに漲っている。  
すぐにでも貫いて思うさま突き上げたい……。  
それでもなお、あかねの中を掻き混ぜて、異物に慣らすのに専念するのはひとえに彼女に対する愛情ゆえだ。  
 
「あぁ…く…っ…はぁぁんっ…!」  
 
すでに瞳は焦点を結ばず、朦朧としたまま啼き声を上げるあかねの中では三本まで増やされた指が好き勝手に動き回っている。  
あかねの中が充分にほぐれたことを確認すると、頼久は仕上げとばかりに張り詰めた花芽に軽く歯を立てた。  
 
「あああああぁんっ!!!!」  
 
瞬間、電気が走ったような衝撃があかねの全身を貫き、あかねは頼久の目の前で生まれて初めての絶頂を迎えた。  
こぷっと音を立てて蜜をあふれさせる秘所から指を引き抜き、服を脱ぐのももどかしく己自身を取り出す。  
先走りに濡れて雄雄しく漲る自身を、絶頂の余韻で敏感になったあかねの秘所にあてがうと、これからすることを感じ取ったのか少女の身体がびくり、と強張った。  
 
「力を抜いてください……神子殿…。」  
 
2、3度慣らすように入り口を擦ると、頼久は一気に自身を少女の中に沈めていった。  
 
「あああっ!!!痛…っ…!!」  
 
慣らしてあるといっても指とはまったく質量の違うものを受け入れるのである。悲鳴を上げて逃れようとするあかねの身体を、頼久はしっかり抱え込んだ。  
 
「いやっ…いやぁぁ…痛い……の……!」  
 
ぽろぽろと涙をこぼして泣くあかねに胸をいためながらも、こればかりはどうしようもない。  
 
「いま少し…ご辛抱を。すぐに良くいたします故……。」  
 
暴れる身体を抱きすくめて、最初の嵐が通り過ぎるのを待つ。  
涙に濡れた瞼に口付け、少しでも痛みが遠ざかるように全身を愛撫していく。  
 
「…あ……ああ……。」  
 
痛みと快楽の入り混じった奇妙な感覚に、あかねは戸惑ったような声を上げる。  
頼久が身じろぎするたびにあかねの中に入り込んだ部分が内部を擦り上げ、熱を生んでいく。  
身体は頼久の腕の中に包まれ、内部は頼久で満たされている。  
 
「神子殿……。」  
 
熱に浮かされたような声と共に、首筋に唇が落とされ、赤い華が追加される。  
ぎゅぎゅっと締め付けてくるあかねの中は、頼久を夢中にさせて余りあるもので、行為に慣れないあかねを気遣って緩やかにしようとする意志を、どんどん浸蝕していく。  
知らず知らずのうちに抽挿のスピードが上がって、頼久自身が快楽に溺れてしまいそうになる。  
 
「ああぁぁんっ……はぁ…あっ!」  
 
いつしかあかねが上げる声にも、快楽を示す喘ぎが色濃くなり、頼久の余裕のなくなった思考に頃合いを告げていた。  
勢いをつけて捩じり込まれた頼久自身があかねの体奥を貫く。  
そのまま激しく打ち付けられる腰の動きに、あかねの身が反り返り、かかげられた脚がゆらゆらと揺れる。  
 
「ああっ……あっ…あっ…ぁぁあはぁんっ!!」  
 
部屋に響く嬌声も艶を帯び、その切羽詰ったリズムが頼久を駆り立てる。  
ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて中をこね回せば、溢れ出た蜜が床に滴り落ちてしみを作る。  
あかねの弱い部分を探り当てては、集中して責めたて、息がつかぬほどに愛し尽くす。  
 
「やあぁぁっ!だめぇ…駄目なのっ!!」  
 
激しい快楽に涙を流しながら、あかねが啼く。  
それさえも媚薬となって、頼久は欲望のままにあかねを責めたて続けた。  
 
「くっ…!」  
 
どくんっと頼久自身が脈打ち、熱いほとばしりがあかねの中に放出される。  
膣の内壁をたたく頼久の想いを受け止め、あかねがびくびくと身を震わせる。  
 
「…は……う…」  
 
ずるり、と頼久自身の引き抜かれる感触に、あかねはかすかな声を上げた。  
水の中を漂うような頼りない感覚に、朦朧とした意識をまかせていると、不意に体が持ち上げられ、ひっくり返されて床に手をつかされる。  
 
「やっ…!?何…」  
 
四つん這いになったあかねの腰を掴み、引き上げると頼久は背後からいきなり貫いた。  
 
「ああっ!?よ…頼久さんっ……」  
 
抉り上げるような動きで突き上げられる。  
 
「神子殿…神子殿……」  
 
しきりに呼びかけながら腰を動かす頼久に、もはや理性は残されていなかった。  
ただ、目の前にある愛しい女の身体を貪りつづける。  
最初の行為の余韻も収まらぬうちに、今度は背後から太く逞しい頼久のもので貫かれ、壊れんばかりに突き上げられて、あかねの意識も快楽に染め上げられていく。  
 
「あぁぁんっ…ぁぁはっ…あくぅっ…!!」  
 
痛いほど乳房を強く揉みしだかれ、背中からうなじにかけて何度も舐め上げられる。  
激しい愛し方についていけず、激流にもまれる木の葉のように翻弄され、あられもない声を高く上げさせられる。  
悲鳴を上げても、許しを請うても頼久の耳には届いていない。  
いや、届いていたとしてもそれは彼の欲望を刺激する媚薬にしかならない。  
獣のように中を蹂躙され、何度も何度も受け止めさせられる。  
溢れ出した精が太腿をつたい降り、白い四肢が汚れても頼久の打ちつける腰の動きは止まることを知らない。  
まるで今まで押さえて、忍んできた想いの丈すべてを注ぎ込むように・・・・。  
狂った時間はあかねがついに意識を失うまで続いた。  
 
「…ん…頼久さん…?」  
 
あかねが目を覚ましたのは、朝女房が起こしに来る時刻の少し前。  
すでに頼久の姿は無く、何時の間にか服も着せられている。  
昨夜の行為の所為で、身体のあちこちに痛みが走る。  
しかし、それを上回る幸福感があかねを包む。  
好きな人に愛された喜び……あかねの少女時代は、この日終わりを告げた。  
ふと枕もとに目を落とすと、きちんと結ばれた文が置かれている。  
紫苑色の紙に書かれていたのは一首の和歌。  
あかねにも読めるように一字一字区切るようにして書かれたそれは、後朝の歌。  
 
 
 
 

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