「……んっ、ぅ……」
夜中の浜辺に響きわたるのは、男女が交じり合う音。
「力、抜いたらどうだ…?神子殿…?」
「っふ…。」
男のゆったりした口調と、わざわざ神子と強調までしている事が余計に彼女の背徳感を強くさせて、
体が熱くなる。
「お願い…。やめ、て……。」
「『やめて』…?神子殿のの体はそう言っていないようだが…?」
男はにやりと笑うと、更に強く揺さぶりをかけた。
「いやあああぁああ……っはっ……」
上下に揺れる中、端にちらりと見える幾多の光。
ある二つの光はギラギラと男の欲を宿した炎が揺らめいて。
ある光は好奇心を瞬かせた光。
ある二つの光は絶望にも似た陰りのあるものだった。
それらの光全て、自分と共に、苦境を乗り越えてきた仲間のものだと女は知っていた。
その視線の中で、敵の将に犯された挙句、仲間にも見られてしまっている。
神子である事を捨てて、欲望の赴くままに貫かれている自分に失望されているのかもしれない。
「本当にお願いよ、やめて…知盛。」
「クッ…なら、これで終らせようか…?」
更に攻めたてられて
「あああああ───!!」
女は、頂点へと登りつめた。
「─────っ!!!…はっはあ………」
眩しいくらいの朝の光が、高館の部屋を照らしている。
だらだらと大量に流れる汗を手の甲で拭った。
「ゆ、め……?」
またか、と望美は思った。
ここのところ、同じ夢ばかり見続けている。
知盛に犯され、しかもそれをみんなにずっと見られ続ける──。
「なんて夢……」
何度も繰り返すと言う事は、密かに心の奥で願っていると
いう事なのだろうか、等と思いかけ、すぐに首を振る。
──そんな訳ない!私は白龍の神子なんだし、それに…あの人は敵で──しかももう居ないのだから。
「…どうかしましたか?」
ふと見上げると、そこには鬼にも似た薄い色の髪の青年が望美を覗きこんでいた。
「べっ、弁慶さん!?いつのまにっっ!?」
「いえ、たまたまこの付近を歩いていたところ、君の悲鳴が聞こえてきたので、
急いで駆け付けて来たんですよ。」
穏やかに笑いながらそう言う弁慶には、とても急いで走ってきたような感じが見えなかったが。
それでも、
「大丈夫ですか?」
と額を押さえるその顔は心配に満ちたものである事には間違いなかった。
「大丈夫、です…すみません、心配かけて…」
「また夢、ですか?」
弁慶の言葉に望美は頷いた。
「このところ毎朝ですね。しかも悲鳴をあげる程とは尋常ではない…
あなたを苦しめている夢とはどんな夢なのですか?」
望美はその問いに口を閉ざし、膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。
その頑な様子に、弁慶は溜め息をついた。
「…望美さん。もしかしたら、その夢は呪詛の影響かもしれませんよ?」
「…え?」
このところ、辺りで呪詛の種が見つかり、それを祓っている最中だった。
呪詛は二度祓ったが、体の調子は良くなるどころか悪くなる一方だった。
あの夢も、呪詛の影響なのだろうか─?
いや、それならばむしろ説明はつくのかもしれない。
「そう…かもしれないですね。」
「呪詛の影響にしろそうでないにしろ、夢の内容がわからなければ対処のしようもありません。
そこまで口を閉ざす程、嫌な夢なのでしょうが…お願いですから、話して頂けませんか?
口外は決してしませんから。」
「…………」
望美は、顔が熱くなるのを感じつつも、夢の内容を話し始めた。
「…そうですか。そんな夢を毎晩見ているんですね?」
「………はい。」
「…もしかしたら、それは呪詛とは別の問題かもしれません。」
「…え?」
「淫交という病気かも……」
「淫…交?」
弁慶の話によると、淫交という病は、その患者とは異なる性別の淫鬼という鬼が取り付いて、
夢に現れては性交を繰り返し、その者の気を奪ってしまうものなのだとか。
「…それが、私の夢の原因ですか?」
「…おそらくは。」
「薬とかでは、治せないんですか!?」
「残念ですが、僕の手元にあるものでは無理です。」
「そうですか…」
望美は、がっくりとうなだれた。
「…けれど、方法が全くない訳でもありません。」
「ホントですか!?」
「ええ。ですが…容易くないのも確かです。」
「…ですが、今の状況でこのままにしておく訳にもいきません。覚悟は出来ています…教えてください。」
「…わかりました。」
「それで、治す方法とは?」
「…男と交わる。それだけです。」
「…………は?」
「ですから、男性と交わるんです…七日七晩。」
「七日…七晩!?」
「ええ。あなたの気も乱れている様子ですし、五行の事も考えて、
僕ら八葉と交代で交わるのが一番いいでしょうね。あなたの心の準備等もあるでしょうし、
日にちや順番はお任せします。」
なおも穏やかな口調でそう告げる弁慶。
望美は、視界が暗くなっていくのを感じた。