父上のかん高い笑いが私の誕生を祝う。
「はははははは!!よう目覚めた!経正!これでわが平家も安泰じゃ」
「父上…」
「そなたは鷲とともに永久の京を築くのじゃ」
「私は死んだのです…何をおっしゃられますか?」
「これ、知盛、重盛を呼ぶがいい!!経正が蘇ったぞ!」
人々の歓声が聞こえる。
「まさか…そんな」
「敦盛もたまには役に立つ。現世への妄執がこんな形で出るとは」
私は再びこの世に生まれた。敦盛と同じ怨霊として。
あれから、私は無明の闇の中にいる。
人であろうと勤めた。だが少しずつ闇は私を蝕む。いつ訪れるか予想がつかない。それが恐ろしい。
女を抱けば、以前と変わりなく、自身が立ち上がり、いやおうなく攻め立てる。だが、今夜も闇が訪れた。じわじわと体が私のものでなくなる。
「これは…」
背中を撫でていた指が止まる。手が勝手に首へと動いていく。両手が女の首に添えられ、鼓動を、呼吸を確かめている。ここが血の通う路。気の通る路。
一気に締め上げれば、佳い声で命が消え行く様を歌うだろう。最後の息が止まるまで。
「ーーーー!!」
手が思うように動かぬ。引き剥がしても、手は白い喉を惜しむように開閉を繰り返した。
余韻に震える体から離れ、後ろを向いた。女と別れるときに使う手。こんなところで役に立つとは思わなかった。
「疾く…疾く、帰るがいい」
まだ自身が猛っている。欲を押さえつけて、冷ややかな声で女の体を冷ます。このような場になれば、女がたまりかねて出て行く。何度繰り返したろう。
女が不思議そうに寄ってきた。その体からじりじりと離れる。
「殿?何かお気に触られましたか?」
「もうよい。帰るがいい。お前の命があるうちに」
「異なことを申されますな。このような場所に賊は入れませぬ」
「私に触れるな!!戻れというている!!」
「殿?殿?何を…」
「だれぞ!!この女を戻らせよ!屋敷まで送るがいい!」
当惑する女をずるずると家人が引きずっていく。片手に衣を抱えて。いつもどおり金を余分に包んでくれるだろう。
「戻れ…私の体は誰にも渡せぬ…」
視界が曇る。なんと大きなものを自分は失ったか。将来、この体から追い出されるのは私。
伯父上の術により、恐ろしいモノがこの体の主となった。先ほどのように人を引き裂き、命が消えるのを喜ぶ恐ろしいモノ。
それは私が消えるのを待っている。
「まだ…敦盛を…平家を…守らねば」
これなら、まだ死んだほうがよかった。だが逝けぬ。敦盛がこの世に留まるうちは…平家があるうちは…身を挺して守ろう。
闇に飲み込まれる瞬間まで。