何度も夢見ていた。
お前をこうやって組み敷くのを。
温かな体温を感じながら、中へ押し入ってゆく事を。
お前のすべてが愛しい。指先から髪の毛一本まで…なんと美しいのだろう。
「ああ…ああ…先生っ」
「やっと私はお前の命をつなぎとめられたのか…神子」
「神子じゃなく…望美って…呼んで」
「私はその名前を呼んでいいのか…ああ、これは夢ではないのだな、望美」
「先生…せんせええっ」
悲鳴と一緒に青い水晶にヒビが入った。砕けた欠片は空中に解ける。
「まあ。鬼の心のかけら、期待してましたのに…こんな浅ましい夢を見てましたの」
望美の顔をした化け物ーダキニ天は足元の欠片を拾い上げた。すっかり器の形になじんでいる。
元の北条政子の姿はない。
「鬼というからどんな化け物かと期待しておりましたのに…小物ですわ。外で、内で、海辺で…そんなにこの娘と睦みたかったの?」
青い水晶を食べるたび、様々な睦事を見せられる。鬼の体の下で娘は乱れ、上り詰めていく。
鬼も只の人でしたのね。技巧も道具もない性行為に満足するなど。
「同じ味では飽きてしまいますわ。ああ、早く神子が来ないかしら」
閉ざされた入り口は開けることが叶わない。神子が来るまでこのままだ。
幾つも欠片を食べ、リズヴァーンの記憶や想いまで入ってきた。小娘を救うためだけに九郎に関わっていたこと。逆麟を持ったいきさつ。
まさか、この執着が九郎を成長させ、源氏が勝つきっかけになるとは。
「本当に助けたかったのは九郎でなく、この娘だったなんて…鎌倉殿が知ったらなんと言うでしょうね?」
灰色の床に青い欠片が幾つも散らばって、目を射る。
「はやくいらっしゃい。神子。この異国の建物も飽きたわ」
青い水晶を刀で砕く。他に幾らでもあるのだ。鬼は何度も神子の体を連れて逃げた。時の流れを戻せないと判っていて。
「時空を超えても流れは止められないのよ?鬼」
さあ…おいで。私の新しい器。
はやく心のかけらを全部拾いなさい。あなたの心は美味しかったわ…あの清盛の怨霊よりもずうっと。
今度はきれいに全部食べてあげるから。体も、逆鱗も、全部よこしなさい。
何度でも待っているわ。何度でも…ね。