バシッ
耳元を掠めた縄に、壁際に追い詰められながら譲は口元を引きつらせた。
「せ、先輩……?」
一体何を?
譲が恐る恐る目の前に立つ望美を見上げると、なぜだか彼女は慈愛の笑みを浮かべて彼に微笑んだ。
「譲君、束縛耐性ついてないでしょ?だから、耐性つけてあげようと思って」
「で、ですがこれは……」
望美が譲の前に差し出したのは、どう見ても荒縄だ。
バシッと望美は譲に見せ付けるように縄をしならせて見せた。
「束縛耐性をつけるには、縛らなきゃいけないんだよ?」
「でも、他の人はそんな方法で身に着けてませんよね?」
「うーん、それはそうなんだけど。でも今はそんなゆっくりやってる暇はないし。
手っ取り早く覚えるには、この方法が一番なんだって!」
誰にそんな眉唾物の話を聞いたんだ。
頭の中にそんなことを真顔で言いそうな面々が二人ほど浮かんできたが、譲に抵抗のすべはなかった。
額にじわりと冷や汗が浮かぶ譲を、望美はにっこりと笑って見つめる。
普段は心ときめかすその可憐な微笑だったが、
今の譲にとっては逃げられないという最後通牒に見えて仕方がなかった。
縄で縛られ、体の自由を奪われる。
ついでになぜか(本当になぜか)眼鏡を外され目隠しまでされてしまった。
どこで縛り方を覚えたのか望美の縛りの手際は譲の予想を遥かに超えた本格的なもので、
少しでも体の関節を動かそうとするとぎしぎしと骨がきしんだ。
耳元に何かが触れた感触がして、びくりと譲の体が跳ねる。
閉ざされた視界に、自由の利かない体では自分で思った以上に恐怖を感じていたらしい。
譲の反応をからかうように、望美の笑い声がどこかからか聞こえる。
先輩に笑われている、と思うと譲は今の自分の姿が急に恥ずかしくなった。
赤くなった譲の頬を望美の指が撫でる感触がする。
「どうかな、縄、きつくない?」
望美が譲の耳元に息を吹きかけてから囁いた。
びくり、と普段以上に大げさに反応してしまう譲のことを見て彼女は楽しんでいるようだ。
譲は動揺を押し隠そうと唇を噛んだ。
「大丈夫、ですよ」
「そう?」
「え、ええ」
「じゃ、もうちょっときつくしよっか?」
「え?!」
「え?だって、束縛耐性つけるためにやってるんだもん。きつくなかったら意味がないでしょ?」
ね?と望美が首を傾げる気配がして、彼女の長い髪が譲の頬にかかる感触がする。
これ以上きつく縛られてはさすがに冷静を装えない、と譲が望美を止める前に、
彼女は迅速に縄の束縛を強くした。
「うあっ」
ぎゅ、と体を強く束縛されて譲はたまらず床にのめりこむ。
股間の縄が下穿きに食い込み、縄が自身をきつく締め付ける感覚に譲の背に痛みと微かな快感が走る。
「どうかな、譲君」
床に転がり震える譲の様子など何もしらないような口調で望美が尋ねてくる。
力なく床に頬を押し付けながら譲は喘いだ。
「せんぱ、い。縄、キツイ、んですけどっ」
下半身にじくじくと感じる痛みに耐え喘ぐように言うと、気配は感じるが姿の見えない相手が首を傾げた気がした。
「そうかな?でもまだレベル2だから、譲君にはもっと頑張ってもらわないと!」
望美の場違いなほど明るい言葉に、譲の頭がぐらりと揺れる。
これでレベル2だというなら、レベル5になったら自分はどうなってしまうのか。
先輩、もう、許してください。
股間に痛みと快感を抱えながら、譲少年の意識はぶつりと縄を切ったように途切れた。
おわり。