―――望美の目の前で、敦盛は穢れの渦に飲み込まれ、黒龍の逆鱗を身を犠牲にして砕いた。  
 二度と再会すること叶わぬ別れに引き裂かれたように思われていたが、二人は厳島の舞台で再会を果たした。  
 そして思いを交わしてからと言うもの、二人は朔の好意で借りる事が出来た小さな邸で暮らしている。  
 
 穏やかに積み重ねていく日常に、不満はない。不満はないが、不安は常にあった。  
 いつ再び消えてしまうかも判らない敦盛の身体。戻ってきた彼は、人の身に戻れたわけではない。  
 彼の厭う、怨霊の身のままだった。  
 
 
 
「で、さぁ」  
 ふいにヒノエが発した一言に、敦盛は茶を飲みつつ何だ、と言いたげに視線を向ける。  
 まだ熊野別当として忙しく飛び回っている彼は、今日は時間をやりくりして様子を見に来てくれていた。  
 珍しくも、天敵と言って憚らない弁慶も一緒に。ちなみにその弁慶は、望美と共に外に出ている。薬草についてあれこれと講義しているらしい。  
 ずい、と膝で敦盛ににじり寄り、ヒノエは真顔で口を開いた。  
 
「……単刀直入に聞くけど、お前らヤッたの?」  
「ッッ!!?」  
 
 自身が使うカタールのごとき鋭い質問に、敦盛が思い切り噎せた。  
 本当に単刀直入である。げほげほと酷く咳き込み涙目になる旧友の姿に、ヒノエは言われずとも答えが判った気がした。  
「聞いたオレが悪かったよ敦盛。お前に望美を襲う度胸があるわけないもんなー…」  
 少しだけ……針の先くらいだけ反省しつつ、華奢な背をさすってやる。  
 
 昔から変わらない奥手ぶりに、同じ男としてじれったさも覚えるが。なぜか殴ってやりたいと思えないのは、悪友であるということもあるだろうが、何よりその顔が悪いのだと思う。  
 
 幼い時分に出会って一目ぼれし、口説こうと名を尋ねて即・砕け散った電光石化の初恋。  
 姫君に甘く野郎に厳しい自分の初恋が『野郎』だというのは、ヒノエの人生唯一(本人・談)の汚点だった。  
 けれども悲しいかな、男と言う生き物にとって、初恋の相手と言うのは(例え相手が誰であっても)特別なものらしい。  
 
「ど、度胸など…!ヒノエ、度胸と…そ、そのようなことは関係ないだろう!!」  
「いやあるね。大体、夜這いは男の度胸試しとして代表的だろう?……まぁ、いいや」  
 真っ赤になって慌てる敦盛に、ヒノエはにやりと笑みを深くして彼の耳元に口を寄せる。  
 
「じゃあ聞くけどさ。望美を抱いてみたいと思ったことはあるのかよ?」  
 
 途端、ずざぁっと敦盛が壁際に逃げた。ついでに『ゴツッ』なんて鈍い音もした。  
 勢いよく逃げすぎて頭を打ったのだろう、頭を押さえて唸っている。  
(お、おもしれえ……っ!)  
 この手の話題には極端な反応を見せる敦盛に、ヒノエは忍び笑いを噛み殺しきれず。  
「……ヒノエ、笑いすぎだ」  
 敦盛は痛む頭を押さえながら、くっくっと肩を上下させて笑う悪友を、太陽さえ凍らせそうな目で睨みつけた。  
 …が、まだ赤いままの顔で言われたところで怖いはずもない。  
 ヒノエの忍び笑いは大爆笑へ変わり、ますます敦盛の機嫌は傾いたのだった。  
 
 
 一方その頃、望美は弁慶から微笑みの脅迫、もとい尋問を受けていた。  
 彼女は考える、何故だろう。私は弁慶さんにこんな質問をされるためにここまで来たのだろうか?  
「あ、あの弁慶さん、薬草についての講義は…?」  
「大丈夫ですよ、君が質問に答えてくれればすぐにでも始めますから」  
 彼女はまた思う、女をいちころで落とす笑顔が、まるで戦いの時の知盛のように見えるのは何でだろう?  
 黒い外套の内側からあふれ出す邪気、もとい『逃がしませんよ』オーラに、望美は泣き出したくなった。  
(助けて―――誰か!敦盛さん!!)  
 しかし敦盛に助けを求めてみたところで、いつぞやの倶利伽羅でのように怨霊パワーで何とかなる問題ではなかった。  
「二者択一、簡単な答えじゃないですか。敦盛くんと契ったか契ってないかだけ教えてくれればいいんです」  
 にこにこにこにこ。  
 笑顔の圧力で人を殺せると言うのなら、きっと望美は3度は軽く死んでいる。  
「そっ…そんなこと言える訳ないじゃないですか!」  
 羞恥と恐怖混じりの焦りとで上ずった声に、弁慶はやれやれ…と額に手を当てる。  
 
「そうですか。では、まだなんですね」  
「〜〜〜〜〜…ッ」  
 
 薄く染まった顔をぷいと背け、望美はだんまりを決め込んだ。  
 ましてや、下手に答えればますます根掘り葉掘り聞き出されそうな雰囲気。  
 図星を突かれた彼女の選択はリズ先生も認める正しさだったが、その程度で弁慶を撃退できるはずもなかった。  
 
 にこやかに人当たりのいい微笑みを浮かべながら、彼は更なる爆弾を投下する。  
 
「駄目じゃないですか。僕が君たちの年頃はそれはもう、毎晩褥で荒法師の面目躍如…」  
「わーーー!やめてください〜〜〜!!!」  
 
 弁慶が己の荒法師振りを語り始めようとしたのを大声で遮り、望美は真っ赤になり耳を押さえてしゃがみこむ。  
 これはもう、絶対遊ばれている。その証拠にくすくすと笑いながら、彼はこう続けた。  
 
「ふふっ…本当に、君も敦盛くんもウブで可愛いですねぇ。思わず、色々おせっかいを焼きたくなってしまいます」  
 
 しゃがみこんでしまった彼女の傍に身を屈め、弁慶はそっと望美の手に何かを握らせた。  
 その感触に、何だろう…と手を開く。  
 何かと思えば何の変哲もない、薬を入れるのに使う小さな布袋だった。  
 
「え、弁慶さん……これは?」  
「即効性の精神疲労も取れる薬ですよ。からかいが過ぎてしまいましたから…そのお詫びです。  
 敦盛くんは、何でも自分の中に抱えこんでしまうひとでしたからね。君から渡してあげて下さい」  
 
 先ほどまでの、輝いていながらどこかドス黒かった笑みが嘘のように彼は笑う。  
 だが、その言葉に引っ掛かりがあることに彼女は気づかなかった。  
 
 望美は安堵の溜息と共ににこりと微笑み、有難うございます、と礼を言って立ち上がる。  
 
「あ、じゃあ私早速渡してきますね。また後で講義、宜しくお願いします!」  
 
 ぺこりと頭を下げて、白龍の神子として鍛え上げた足を存分に生かして駆け出す。  
 弁慶はその背中を見えなくなるまで見送って、―――完全に見えなくなってきっかり三秒後、ぽむと手をついた。  
 
 ……それはもう、とてもわざとらしい仕草で。  
 
「あぁ…僕とした事が。望美さんに大切なことを言うのを忘れてしまいましたね。  
 あの薬、確かに気疲れ『も』取れるんですが……副作用で『少しばかり』催淫効果があったりするんですよね」  
 
 いや、効果は逆でしたかね?やれやれ僕ももう歳でしょうか嫌になってしまいますよ。  
 ヒノエが聞いたら容赦なく突っ込まれそうな独り言と盛大なため息(※故意)を零しつつ、自身も彼女を追うように歩き始める。  
 がさり、と草むらが立てた音にふと立ち止まり……彼はクスッと唇を吊り上げた。  
 
 
「あと―――敦盛くん、薬が特別効きやすい身体ってこと」  
 
 
 弁慶の表情は―――策士の顔だった。  
 
 
 暫くして邸に帰り着いた望美が居間を覗くと、何やら不機嫌そうに顔を背けた敦盛の姿が見えた。  
 共に邸に残っていたヒノエは、『だから悪かったって』と彼の機嫌を宥めようとしている。  
(…何があったんだろ?)  
 はて、と首をかしげる。敦盛が、自分にされていたのと似たような質問をされたなど判るはずもない。  
 
「敦盛さん、ヒノエ君。ただいまー」  
「ああ…お帰り、神子」  
「やあ神子姫様、お帰り。弁慶の講義なんて受けてきたんだ、疲れただ……ろ?」  
 
 穏やかに微笑んで返答を返した敦盛とは逆に、ヒノエは訝しげな顔をして望美の手元を見る。  
 ―――鶸萌黄の小袋。それは、彼もよく知る…その薬効まで知っている、弁慶の薬だった。  
(あいつ……どう言う薬渡してるんだよ…)  
 はぁ、と嘆息を零す。突然の溜息に、敦盛と望美は顔を見合わせた。  
「どうした、ヒノエ。何か拾い食いでもして食べたのか」  
「うわ敦盛お前、ここぞとばかりに反撃しやがって…!」  
 先ほど散々からかわれた仕返しなのだろう、ぼそりと発せられた敦盛の言葉に噛み付く。  
 それを見て、楽しそうに望美は笑う。ホントに仲がいいんだねぇ、なんて呑気なことを言いながら。  
 
 望美の性格から考えて、自分から分けてもらった物ではないだろう。  
 とすれば…弁慶の差し金。あの叔父のことだ、詳しい薬効など白状していないに違いない。  
 ヒノエの推理はかなり正鵠を射ていた。  
 
「なぁ望美、その薬って―――……」  
「僕があげたんですよ」  
 
 がらり、と。  
 真後ろの引き戸を開いて答えを放ったのは、その薬を作った張本人。  
 思わず、ずざざざっとヒノエが後ずさる。いつの間に帰ってきたのやら、気配を全く感じなかった。  
 
「あ、早かったですね弁慶さん。お薬有難うございました、これから渡そうと思ってたところなんですよ」  
 にこにこと弁慶に笑顔を向けながら、彼女ははい。と敦盛にその袋を手渡す。  
「神子…? ……私は特に、どこも悪くないのだが…」  
 訝しげに袋を見、眉を寄せて問うた敦盛に望美は笑顔を絶やさず、それを持つ彼の両手を自分の手で包み込む。  
 自分の冷たい手に触れる温もりが、指先から全身に伝染しそうな感覚。敦盛は、かぁっと自身の顔が火照っていくのを感じた。  
「元気が出る薬なんですって。弁慶さんがくれたんです」  
「私にくれるのか…すまない、神子。有難う……」  
 照れからか、ぼそぼそと俯き加減に礼を述べる敦盛。  
 古き良き『清純異性交遊』を地で行く二人に、弁慶はじれったさと微笑ましさを覚えずには居られなかった。  
 ―――思わず浮かべてしまった微笑みに、逃げるように離れて黙りこくっていた甥の顔が引きつったのは、見なかったことにして。  
 
「ふふ、本当に二人は相思相愛ですね…僕が作った薬で、お役に立てるならいいんですが」  
 
 過去形ではない辺りが含みまじりなのだが、すれていない二人にその辺の機微がわかるはずもなく。  
 敦盛はまだ薄く染まった頬のまま、おずおずとした口ぶりで感謝を口にする。  
「弁慶殿も、すまない…。……ありがたく使わせてもらう」  
「どういたしまして。それを飲めばたちどころに元気になれますよ」  
 どこがだよ。とヒノエは心中で突っ込んだが口には出さない、いや出せない。  
 なぜならば命は惜しいから。まだこの世の春を謳歌していないのだ、花と散らせるのは惜しいと思わないかい、ねぇ姫君?  
 なんてこの場に居もしない数々の女性たちに思いを馳せる。要するに、ちょっとした現実逃避。  
 
 
「さて、あとは若い二人に任せて僕たちは宿に戻りましょうか。また明日お邪魔しますね」  
「若い二人って、オレ敦盛より若いんだけど?」  
 
 ヒノエがそう揚げ足を取る。  
 が、くるりと振り向いた弁慶の『あのときの顔』に、ヒッと喉の奥で悲鳴を押し殺した。  
 
 
「……湛増……?」  
「………か…帰ればいいんだろ帰れば…」  
 
 
 判ればいいんですよ、物分りのいい甥を持てて僕は幸せ者ですね。  
 にっこりと極上スマイルを浮かべた自分の叔父に、彼は自分の人生の汚点は、もう一つあったのだと思い知る。  
 
 それは、『こんな性悪な叔父を持ってしまったこと』。  
 
「じゃあね望美、ついでに敦盛。姫君の麗しい貌を見る事が出来ない一夜は、オレにはまるで拷問のような一夜だよ。  
 …けど呼んだらいつでも駆けつけるぜ?敦盛に飽きたらいつでもオレのところに―――……」  
 お得意の熊野式挨拶で別れを惜しむヒノエに迫られて、望美はわたわたと顔を赤くする。  
 距離が近い。いつもの事とは言え、慣れる事が出来ない。  
「ちょ、ひ、ヒノエく…っ」  
 彼女がなんとか抗議の声を絞り出そうとしたその時、ふっとヒノエの背中越しに影が落ちた。  
 鋭く長く尖った爪を高々と掲げて、背後に金剛夜叉明王を背負った人影……言わずもがな、敦盛。  
 
 
「―――この穢れた力を…解き放」  
「うわぁあああッ敦盛、悪かった!!だから秘めた力Lv5はやめろって―――っ!!!」  
 
 
 普段大人しい分、敦盛はキレた時は半端ではない。そしてどうやら、思いも通じて嫉妬心も人一倍…譲と同等かそれ以上になったようで。  
 半分水虎化しかけていた爪を元に戻し、彼はわかればいい、と言いたげに息をついて座りなおす。  
 ……さすがは、『胸の奥に秘めた激情をつかむ恋』と言うシナリオキャッチフレーズを頂いただけはあった。  
 
 そそくさと逃げるように部屋を出て行ったヒノエに続いて、弁慶も優雅に一礼してその場を辞す。  
 二人きりになり、また穏やかな時間が流れ始めた。  
「相変わらずでしたね、二人とも。久しぶりに賑やかになった気がする」  
「そうだな。……たまには、こう言うのも良いと思う」  
 静かになった邸の中には、外から響いてくる鳥の声だけが響いている。  
 いつもと同じように他愛無い話をしながら過ごす一時。望美が注いでくれた白湯で薬を飲み下し、敦盛は思い切り顔をしかめる。   
「…う、やはり弁慶殿の薬は相変わらず苦い……」  
「しょうがないですよ、良薬口に苦しって言いますし、ね?」  
 望美も風邪を引いたとき、とびきり苦い薬を飲まされた経験を思い出し苦笑する。  
 その姿に相槌を打つように小さく頷きながら、ことんと杯を卓に戻した。  
 
 その、ことんと言う音が、始まりの合図。  
(……?)  
 急に、敦盛は暑さを覚えて眉を寄せた。季節は夏でもないというのに、身体が火照る。  
 暑くないか?―――そう問おうとして望美を見た彼は、思わずこくん、と小さく喉を鳴らした。  
 
 先ほどまで意識していなかった、華奢な手首とか。  
 小袖の裾から覗く脚線美とか、帯を締めてなお細い腰とか、折れそうな首筋とか。  
 それに…不思議そうに自分を見る望美の瞳と、唇。  
 
「……敦盛さん?」  
 
 どく、と心臓が跳ねた。いやもう動いていないようなものだから違うかもしれないが、そうとしか形容できない感覚が起こった。  
 ただ普通に名を呼ばれただけなのに、呼びかけさえもなぜか蟲惑的に響く。  
 彼女の吐息さえ、甘く香る気がして。駄目だ駄目だ駄目だ、必死に自制を試みても上手く行かない。  
 ……視線が、逸らせない。  
 
 もう一度、あつもりさん、と。  
 望美が彼の名を呼んだ時、敦盛は己の中の何かが崩れ落ちる音を聞いた気がした。  
 
 
「………………そうだな。苦い薬を飲んだから、甘いものが食べたいように思う…」  
 
 
 一度ゆっくりと目を伏せて、敦盛はそう答えた。逸らされることなくひたり、と据えられた濃紫の瞳に、彼女は一瞬たじろぐ。  
 おかしい―――何か違う。望美の直感は当たっていたが、何が違うのかまでは判らなかった。  
 ただ判るのは、敦盛が少し苦しげな…熱にでも浮かされたような瞳で自分を見ながら、手をつきながらジリジリとこちらに迫って来ていると言うこと、だけ。  
「あ、甘いもの、ですか?」  
 ずり、ずり、と引きつった笑みを浮かべながら後退する。  
 一歩下がれば、一歩迫られる繰り返し。理性のどこかが警鐘を鳴らしている、逃げなければならないと。  
 だが、彼女の背はついに壁へと突き当たった。背中を壁に預けた状態で、目の前には敦盛。  
 彼はゆっくりと望美の顔のすぐ横に片手をつき、そっともう片方の手を頬に添える。  
 
「…神子は、甘い香りがするな。花に似たよい香り……だが、あなた以上に美しい花を私は知らない」  
「あ、ああああの敦盛さんおかしいです」  
 
 動揺と緊張で裏返った声を上げる望美。  
 あれ敦盛さんってこんな人だったっけむしろ『ささやき』にこんな台詞あったっけあるならレベルいくらなのって言うか待ってさっきのって熊野節だよねこの状況ってもしかして今敦盛さんに襲われてるのかな私!?  
 思考がぐるぐる回転する。きっと自分の顔はきっと真っ赤に違いない。ヒノエに迫られても赤面する位だ、好きな人にこんなこと言われたらきっと茹蛸。  
「おかしくはない、神子。神子こそ少しその、喋り方がおかしいように思うが」  
 そんな彼女の状況を知ってか知らずか無視しているのか、敦盛はいつもの調子で返答する。  
 だが手は添えられたままだ。気恥ずかしさから悲鳴のような声で望美は叫ぶ。  
「充分おかしいですよ!頭でも打ったんですかそれともヒノエ君と身体入れ替わっちゃったんですか!?」  
 その瞬間、ぴくりと敦盛が反応した。  
 
「……ヒノエ…?」  
 
 あ、やばい私何か地雷踏んだ気がする。  
 敦盛が纏う空気に影を帯びる。彼女がそう思った時には、視界がぐるんと回転し。  
 ―――気づけば、彼に見下ろされる形になっていた。  
 
「……やはり、私がこのような顔だからなのか?」  
「え……?」  
 
 ぽつり、と零された問いかけに目を見開く。  
 追い詰められているのは望美のほうなのに、彼女の目には敦盛のほうこそが、何かに追い詰められているように見えた。  
「女性と間違われるような顔立ちだから、神子はヒノエを気にするのか?……彼の方が、男らしいから?」  
 いつになく饒舌な己が吐き出す言葉の一つ一つ。  
 それは身勝手な独占欲や劣等感。判っていても抑える事が出来ないのは、この熱のせいなのだ、と。  
 敦盛はもっともらしい免罪符を心の盾に、押し殺していた本音を吐露する。  
「だが…神子、私も男だ。―――男だから、抑えていただけで……私もヒノエのように触れたいと」  
 がりり、と彼の爪が床を抉って。  
 
「それだけでなく……ヒノエのする、それ以上のことさえもと…。本当はずっと前から…望んでいた……っ」  
「あつ、もりさん……」  
 
 望美は初めてぶつけられた本音に言葉を失う。  
 人形のように綺麗な彼に、そんな欲望が渦巻いていたこともそれを押さえ込んでいたことも、思いもよらなくて。  
 一人の女として求められたことに戸惑い、視線を彷徨わせる。  
「浅ましいと思われるだろう。軽蔑されるのではないかと…怖かった。だが…すまない、もう抑えられそうも……ない」  
 醜い嫉妬と、焦りと、ただの歯止めの利かなくなった欲望で、あなたを求めるのは心苦しいけど。  
 その思いを心に押し込めて、彼は望美の意識を引き戻そうとするように優しく口づける。  
 
 
「…私も男なのだと……知って欲しい。……良い…だろうか……?」  
 
 
 熱を帯びたその囁きに、ぼうっと思考が霞んでいく。  
 無意識に返した届くか届かないかの返事に、彼は小さく、安堵の笑みを浮かべた。  
 

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