梶原邸の食卓に八葉と神子たちが集う、いつもの朝の食卓。  
いつもと違うことに皆が気づいたのは、望美が食事の席についた時だった。  
「おはよう、神子。あの装束は?でも私の神子は何を着ても似合うね」  
「あ、ありがとう・・・白龍」  
「先輩、この世界の小袖なんて着てどうしたんです?制服は?」  
「あれー?いつもの服はまだ洗濯に出してもらってないよね、望美ちゃん」  
「はい。たまには気分を変えようかなーって」  
皆が望美の着物姿に大注目するので、望美はしきりに照れまくり。  
もっとも、着物にのみ気をとられていなければ  
一同はもう一つ、いつもと違う点に気づいただろう。  
そう、今朝の望美が腰をわずかに引きずりながら歩いていたことに。  
(フフ、昨夜は初めてなのに無理をさせすぎてしまったかな?  
けど、そんな姫君もかわいいね。あんなに赤面して・・・)  
望美が今朝に限って小袖を着てきた本当の理由。それはヒノエだけが知っていた。  
 
もっとも、食事中のヒノエのにやけ顔に目ざとく気がついたあたり、流石は黒法師弁慶。  
食後の定番、蜂蜜プリンが膳に配られた辺りで、満を持して切り出した。  
「望美さん、腰はどうされました?正座が辛ければ、足を崩しても構いませんよ」  
「神子、腰を痛めていたのか。そういう時は早く言わなければ」  
「ええっ、だ、だ、大丈夫です先生!きのう、ちょちょっと寝違えただけですから!」  
「いいえ、いけません。腰痛は放置しておくと後に響きますからね。  
いつ出陣命令がかかってもいいように、後で僕が診察しましょう」  
(冗談じゃないよ!)と頭の中で思ったのは望美か、いやヒノエが先だったか。  
どうやら図星らしい、と弁慶がほくそ笑んだところで、  
「弁慶!明朝、いや今日にも鎌倉へ出立だ!兄上から急ぎの書状が届いてな」  
源氏の御大将、乱入。  
(よっしゃあ、いいところへ来たぜ九郎のやつ!)と思ったのはヒノエ。  
それとは正反対に、頭を抱えたのは望美。  
(そんな今日だなんて!絶対に、絶っっっ対に、返してもらわなきゃ〜!)  
 
「ヒノエくん・・・ちょっと、私の部屋まで来て」  
「いいよ、朝から姫君の部屋にお招きいただけるなんて、光栄だね」  
仕方のない若い二人だと思いながら、邪魔するのも野暮とばかりに  
自室に引き取ろうとした弁慶だったが、  
白龍と譲がそっと後をつけていくのに気がついてしまった。  
「おふたりともどうしたんです?出立の準備はしなくてもいいんですか?」  
弁慶が声をかけると、両者、ぎくりと振り向いた。それでも声をひそめつつ、  
「弁慶さん。それが、白龍が、どうしても先輩のことが気になるって」  
「神子がおかしい。このままでは、鎌倉に行かれないと困っている」  
「まさか。確かに腰の具合は悪そうですが、歩けないほどひどくはないでしょう」  
「違うよ。身体もだけど、神子の気が、異様に高ぶっている。  
朝からおかしかったけど、九郎が訪ねてきてからもっと気が急いている。  
このままでは・・・もとの服を着られないって」  
「「・・・・・・は?」」  
 
「ヒノエくん、昨夜は訪ねてきてくれて、とっても嬉しかった」  
「俺もだよ、愛しい姫君・・・ん」  
閉ざされた部屋の中で、恋人たちはせわしなく口づけを交わす。  
なにせ昨夜、新枕を交わしたばかりなのだ。  
もっとも、ヒノエがさらに深い口づけになだれこもうとしたところを  
望美が必死で制す。  
「あのね、とっても、とっても嬉しかったんだけど。  
ねえヒノエくん、昨夜、私が眠ってしまった間に  
私の大事なもの、もってっちゃったよね?そうだよね?」  
「さあ、そうだった、かな?」  
「もう!とぼけないでヒノエくん!私、今朝目が覚めてびっくりしたんだよ。  
昨夜ずっとヒノエくんがいてくれたと思ったのに、いなくなっちゃってたし」  
「そうか、淋しかったんだね。次からは朝までそばにいるよ、姫君」  
「だーかーらー!それだけじゃくって!  
・・・お願い、『あれ』を、返して」  
 
(『私の大事なもの』!?ヒノエの奴、やっぱり先輩に何か!)  
(ほら、私の言った通りだ。神子が困っている)  
(それにしても『あれ』・・・とは?)  
望美の尋常でない台詞に、二人と一神が妻戸の向こうで固まっている。  
譲に至っては(先輩がヒノエと・・・)という衝撃もあいまって、大打撃を受けている。  
当然望美とヒノエは知らないが。  
「ねえ、どうして?いつの間に、なんのためにもっていったの?  
お願いだから返して。でないと私・・・」  
「でないと?」  
「元の服が着られないの。『これ』じゃだめなの。『あれ』でないと」  
「ふうん、そうなんだ」  
焦る望美に、ヒノエは余裕の笑みで見事なコントラストを見せる。  
「姫君はどうして俺が『あれ』を取り替えていったのか、知らないんだ。  
というか、そもそもこちらの後朝の作法を知らないんだね。無理もないけど」  
「ねえ!どっちでもいいからとにかく返して」  
「姫君、男女が契った後の早朝をなぜ『きぬぎぬ』と呼ぶのか、知ってる?  
愛し合う二人が別れを惜しんで、互いの衣を取り替えるからだよ。  
俺も、同じようにするつもりだったけど・・・」  
「そんな、ヒノエくん」  
 
(ま、まさか、ま、ま、ま、ま、まさか!?)  
弁慶と白龍の気づかぬうちに、譲の顔色だけがゆっくりと青ざめていく。  
(そういえばヒノエの服も、何だかいつもと違うと思ったんだ!  
けど、まさか、まさか、まさか・・・)  
 
「・・・だからって、何も『あれ』を取り替えることないじゃない!  
これから鎌倉に怨霊退治に行くのに、スカートがはけないよ」  
「すかー、と?ああ、あの短い白袴のことかい?いいっていいって。  
姫君の白い足をあんな惜しげもなく皆の前にさらすものを着ないでいてくれるなら  
俺としては願ったり叶ったりなんだけど、ね」  
「もう、話をそらさないで!私は『あれ』でないと困るの!  
だって・・・『ヒノエくんの』じゃ、スカートからはみ出ちゃうし・・・」  
 
「ヒ・・・ヒノエーっ!!!」  
譲、遂に乱入。  
 
「ヒノエ、もう許さん!今すぐ先輩の『下着』を返せ!」  
「ゆ、譲くん!!どうしてここに!?」  
「譲、俺と姫君の愛の語らいを盗み聞きするなんていい度胸だね?」  
「何が愛の語らいだっ!?女性物のショーツはこの世界にはない一点ものだぞ!  
先輩を困らせてどうするつもりだ!」  
「何もわかってない外野のくせに、ひどい言い草だね?  
俺は姫君が困らないように、ちゃんと自分の下着をはかせて帰ったんだからね。  
その代わり姫君の下着は、俺がずっとはかせてもらってるけど」  
だから今朝のヒノエは、太ももまでおおう赤い下着をはいていなかったのだ。  
ただしフル○ンではない。いやそういう問題ではない。  
「やれやれ、とんだ悪趣味ですね。我が血縁ながら情けないものです」  
「あんたも盗み聞きしてたのかよ。  
まあ普通に夜着を取り替えるんじゃ、ひねりも何もないしね」  
「そんなんでひねるな!このエロ別当が!」  
「神子、気落ちしないで。どの位大事なものなのかよくわからないけど、  
私の五行の力で代わりになるならいくらでも・・・」  
 
「みんな、出てってーーーーー!」  
 
その後、他の八葉+黒龍の神子によって吊し上げ&三食抜きの罰を食らったヒノエから  
望美は何とか自分の『あれ』を取り返したものの  
肝心の『あれ』には、ヒノエのふくらんだ股間の跡がくっきり残っていて・・・  
元の衣装に着替えた後もしばらく赤面が収まりませんでしたとさw  
 

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