時は秋。龍神の神子と八葉たち一行が京の梶原邸から出立して、数日後。  
いつもと違うことに皆が気づいたのは、鎌倉に向かう街道沿いでのことだった。  
「望美、先ほどから顔をしかめているようだけど、どうかしたのかしら?  
体調が悪いのではない?私の気のせいならいいのだけど。」  
「は!?え、そ、そんなことないよ。ほらいつも通りぴんぴんだしっ!」  
望美は元気そうに腕でポーズを取ると、ついでにピョンと飛び跳ねてみせる。  
・・・もっとも一回ジャンプしただけですぐ止まったのだが。  
「うん、神子の気は今は翳っていないね。光輝に満ちているよ。」  
「しかし・・・今日の神子は、動きがいつもよりぎこちないように思うのだが。  
しばらく山道が続いたから、疲れが出ているのでは?」  
「敦盛くんの言う通りだよ。あーオレも疲れちゃったな〜。  
峠に着いたら少し休憩しよう。うんそうしよう!」  
「何を言う景時!我々は一刻も早く鎌倉に馳せ参じなければならんのだぞ!」  
「九郎、そろそろ昼時ゆえ休憩を取ってもよいのではないか。  
それに無理な強行軍で神子が体調を崩しては元も子もない。」  
「先生がそうおっしゃるなら・・・わかりました。少し先で休憩を取るぞ!」  
 
というわけで、現在は峠に設けられた小屋で休憩中。  
皆はこれ幸いと長居を決め込み、屯食(弁当)など食べはじめたが、  
望美はすぐ側の水場へ水を汲みに、そっと一行から離れる。  
湧き水で喉を潤し、ついでに水筒の水を入れ替えてから、  
物陰で皆から見えないのを確かめて、勢いよく素振りを始めた。  
一回、二回・・・が、すぐに止めて、胸元を押さえてみる。  
胸元を押さえたまま、今度はもう一度ジャンプ。ピョン!ピョン!  
「うーん、落ち着かないなあ・・・」  
「何が落ち着かないんだい、姫君?」  
「きゃっ!ヒ、ヒノエくん!!」  
望美の後からぎゅっ、といきなり抱きついてきたのは  
彼女の八葉であり、そして恋仲でもある男。  
 
「望美、本当に大丈夫かい?オレに隠し事はなしだからね。  
昨夜は平気そうにしていたけど、もしかしてまた、腰が痛いのかい?」  
「ホントに大丈夫だよ。昨日は、二度目だったから身体が慣れてたし。  
その、き、気持ちよかった・・・し。」  
「ふふっ、それなら嬉しいね。姫君を隅から隅まで愛でた甲斐があるよ。」  
「それからね、ちょっとお願いがあるんだけど、今、いいかな?」  
「勿論だよ姫君。それにお望みなら今宵もオレが極楽浄土へお連れ」  
「ヒノエ!弁慶さんが呼んでるから迎えに来たんだ!すぐ行くぞ。  
あ、先輩はゆっくりでいいですからね。」  
眼鏡青年、乱入。で、熊野別当の腕を引っつかんで退場。  
「ったく、そんなことだろうと思った。しかも今は旅の最中だぞ。  
先輩が疲れて動けなくなったらどうするつもりだ?」  
「信用ないね。そんなヘマをオレがするとでも思っているのかい、譲?」  
・・・行ってしまった。  
「まあ、今相談してもどうしようもないし、今日の宿に着いてからでもいいよね。」  
そんなことをつぶやきながら、望美もてくてくと両人の後を追ったのだったが。  
 
「怨霊だーーーーー!」  
皆が休憩していた小屋のあたりから、突然甲高い悲鳴が上がった。  
悪しき瘴気が噴き出した辺りから一目散に逃げ出してくる複数の旅人たちと  
すれ違うように、望美は現場に急いだ。  
先に戻ったヒノエや譲たち八葉は、既に怨霊の集団と対峙している。  
出現している怨霊は、見たところほとんどが木属性・・・ならば!  
「力があふれる・・・みんな、今だよっ」望美が叫ぶ。  
「さっさと片付けてくれよ」とヒノエ。  
「鋭き金気は、深き大地より生ずるもの」リズヴァーンも剣を構える。  
「金気は禁にして存在を断つ───破邪剣鋒!」  
景時の放つ金気、破邪剣鋒が怨霊たちをなぎ倒したかに見えたその時。  
「危ない、望美!」  
 
「ヒノエくん!?」  
残り一体の怨霊───火属性の怨霊武者が隙を見て望美に襲いかかったのと、  
両者の間にヒノエが割って入ったのと、ほぼ同時。  
望美に向かって振り下ろされた怨霊武者の刀は、ヒノエの胸元に吸い込まれ、  
ヒノエはその身をもって斬撃を受け止める形になった。  
「ヒノエ!」「ヒノエ殿!」「おのれ怨霊め!」  
斬られたヒノエを弁慶が、動転する望美を白龍が後方に引きずり降ろし、  
入れ替わるように他の八葉たちが怨霊武者に向かって攻撃を加えていく。  
勝敗は瞬時に決した。  
 
「ヒ、ヒノエくん!?しっかりして、ヒノエくん!死んじゃいやぁ!!」  
「くっ、そんな無防備な顔するのは、オレの前だけにしときなよ・・・」  
「へらず口をたたいている場合ですか、ヒノエ!すぐ手当てしますよ。」  
「え、ちょ、ちょっとおっさん。いきなり服ぬが」  
「黙っていなさい!傷の手当てが先決です。」  
ヒノエが着ていた帷子は怨霊の刀でばっさりと斬られており、  
おそらくは胸元まで刀傷が届いているだろう。かなりの深手のはずだ。  
回復技をかけるため、朔も怪我人の側に呼び寄せられた。  
 
もっとも、ヒノエにのみ気をとられていなければ  
一同はもう一つ、いつもと違う点に気づいただろう。  
そう、側にいる望美がさっきとは一転、あたふたと赤面していたことに。  
(まずいよ。今ヒノエくんの服を脱がされたらまずい。  
「あれ」を皆に見られちゃう!やっぱり貸すんじゃなかった!  
今夜返してもらおうと思ってたのに、どうしよう!?)  
 
しかし弁慶は構わず装束を脱がせ、ヒノエの上半身をバッとはだけさせた。  
はだけさせた。はず、だが・・・  
「ヒノエ、なんですかその・・・それは?」  
 
皆が一斉にヒノエの胸元を覗き込む。  
が、ヒノエの胸元には、見慣れない形をした布切れが巻きついている。  
その布が桃色なのは血に染まっているのだろうか?  
「ヒノエくん。それも今取るね!」  
皆が首をかしげている隙に、望美がヒノエの背中に手を差し入れると、  
何やらプチン、という音がした後で布地がするするとヒノエの胸元から外れた。  
「よ・・・よかった。よかったねえ、ヒノエくん。」  
「だから言ったろ、心配いらないよって。」  
先ほどの布地が帷子の役目を果たしたのか、ヒノエの胸元にはかすり傷のみ。  
望美はヒノエに抱きついて喜び、一同も安堵の息をついた。  
が。  
「ちょっとごめんなさいね、望美。これは一体何だったのかしら?」  
「ああっ、朔!待って、それは。」  
望美がそそくさと隠した布地を、朔が何気なく取り出し、手に取っていた。  
よく見ると、布地の下部分には固くて細い棒のようなものが二本通っており、  
ヒノエが刀を受け止めた左胸のあたりでボキリと折れていた。  
無論その辺りも切り裂かれているが、これがヒノエの致命傷を防いだのだろうか。  
しかし並みの布地とは段違いに肌触りが良く、愛らしい花模様までついている。  
しかも色は桃色。これが妙齢の男性の身に着けるものだろうか?  
 
「い、いかん。どうした譲?弁慶、譲の手当ても頼む!」  
他にも怪我人がいたのか!?九郎の叫び声に、全員が譲の方を振り向いた。  
なぜか赤面してうつむく望美を除いて。  
もっとも譲も、望美以上に頭がゆでだこ状態になっていたのだが。  
しかも顔の下半分が染まるほど、盛大に鼻血を噴き出すというおまけつきで。  
「ヒノエ、ま、またか、またやったのか。あれほど言ったじゃないか。  
女性物の下着はこの世界にはない一点ものだって・・・」  
「「「「「下着ぃ!?」」」」」  
眼鏡青年はそのまま、バタンキューとひっくりかえってしまったのだった。  
 
その夜。ヒノエは珍しく針仕事に勤しむ望美を待って、宿の廊下にいた。  
京を出立前にも望美の下着(下の方)を勝手に「とりかえっこ」したヒノエが  
またやらかしたとわかり、本来なら再び吊し上げ&三食抜きの罰の予定だったが、  
『ヒノエくんは私をかばってくれたんだよ!無事だったんだからいいじゃない。』  
というお優しい神子姫のおかげで、今回に限り無罪放免となった。  
「もうそろそろ終わったかな、姫君?」  
「後ちょっと。こればっかりは他の人には頼めないもの。・・・よし、できた。」  
しばし部屋の中で、素振りやら飛び跳ねる音やらが聞こえた後、  
「やっと落ち着いたぁ。ヒノエくん、お待たせ。」  
部屋の主のお許しが出てヒノエが部屋に入ると、望美は既に着替えを終えている。  
「なあんだ、もう着替えてしまったんだ。  
せっかくだから、オレにももう一度、よく見せてくれないかい?」  
「い、いいけど・・」  
ほのかに灯りがともる中、ヒノエはそっと、望美の夜着をはだけさせていく。  
 
望美は胸元に、あの桃色の布地───ブラジャーをまとっていた。  
ヒノエが胸につけていた時には余った布地がしわになっていたが、  
望美の柔らかくふくらんだ両胸にはぴったりとフィットしている。  
もっとも、左胸のあたりは昼間の怨霊に切り裂かれていたので  
そこを望美はちくちくと縫っていたのだ。  
裁縫自体はあまり得意ではないようだが、丹念に縫ったあとがうかがえた。  
「やっぱりこれを着けていた方が落ち着くのかい?」  
「うん。これはなくても胸元は透けたりしないし、まあ大丈夫かなって思って  
ヒノエくんに貸したけど、やっぱり着けてないと駄目だったみたい。  
刀を振り回したり、駆け回ったりする時に胸が揺れて、時々痛くって。  
ワイヤーは折れちゃったから取り外したけど、それでも随分ましになったんだよ。」  
「わい、や?ああ、これのことだね。良かったらオレがもらいたいんだけど。  
オレが命拾いしたのはこれのおかげだからね。一生のお守りにするよ、望美。」  
「ヒノエくん・・・」  
 
「あっ・・・ん。F65って・・・やっぱり他の人に比べて大きいの、かな?」  
「えふ?ねえ。さあ、よくわからないけど。そもそも姫君は着やせしてるんだよ。  
まさかあの装束の内側に、こんなにふくよかなものが隠れているなんて  
皆思ってもみないだろうからね。」  
「あ、そんな吸っちゃ・・・揉んじゃ!」  
「これからもっとたくさん吸って揉んであげるから、もっと大きくなるよ。  
それにね、んっ、姫君の胸は大きいだけじゃなくて、白くて、柔かくて、感度が良くて、  
(ちゅぱっ)とにかく・・・サイコーだねっ!」  
「ヒ、ヒノ、はぁっ、あ、あ・・・あぁっぁぁぁぁあああ・・・・・・」  
 
翌朝。  
一生分の鼻血を出し尽くしてふらふらになって倒れた譲が辛うじて復活し、  
宿の廊下をふらふらと歩いていた。  
しかしそこで気まずいあの二人に出会ってしまったのが、譲の運の尽き。  
「おはよう譲。血の気は戻ってないようだけど、また倒れられたら困るよ。」  
「お、おはよう。譲くん。もう大丈夫なのかな?」  
「大丈夫です先輩。俺の方こそ、先輩にご心配をおかけして・・・!?」  
そこでペコリと頭を下げたのがいけなかった。  
 
「ヒノエーーー!お前という奴は昨日の今日でまた!!!」  
 
宿の廊下で時ならぬ追いかけっこが勃発したので、一同は見てしまった。  
逃げ回るヒノエの装束の間から、昨日と同じ桃色の布がチラリと覗いているのを。  
「待ちなよ譲!昨日もだけど今日のこれも無断じゃないんだぜ。  
ちゃーんと姫君のお許しを得て着させてもらっ」  
「そういう問題じゃないっこのエロ別当!一点ものの女性のスリップだぞ!  
もし裂けたりしたらどうしてくれるんだ!」  
このままではまたヒノエが吊し上げ&三食抜きの罰を受けることになりそうだ。  
望美は昨日以上に赤面しながら、恋人のために皆への言い訳を考えてみるのだったwww  
 

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