「退け、怨霊!さもなくばこの刀のさびにする。」  
 
その言葉とともに目の前に現れた背中は、広くて安心できた。  
 
「神子殿、後はこの頼久におまかせを。…お怪我はございませんか?」  
 
向けられた眼差しに心の奥深くまで貫かれたように感じた。  
それが、はじまり。――――――すべてのはじまり。  
 
 
最初に彼女を見たときは、いかにも頼りなげで、これから果たさねばならぬ重い役割に耐えられるのか、  
正直言って不安を感じた。  
しかし、彼女は……見事に自分の予想を覆した。  
何者にも屈しない意思の輝きはいつも失われることなく、弱音も泣き言も吐かない。顔には常に笑みを浮かべ、  
他者を思いやる優しさが、言葉の端々ににじみ出ている。  
惹かれずにいられなかった。  
あの日から何物にも心動かすことなく、ただ主の言葉のみに耳を傾けていた自分が、変わらずにはいられなかった。  
なぜこの方はこんなにも輝かしいのだ。影であるはずの自分に、我を忘れて求めようとさせるほどに。  
自分の分際というものをわきまえているつもりでいた。かの御方は自分の手に届くような存在ではない。  
いつか、あるべき世界へ帰っていってしまうのだと、幾度自分に言い聞かせたことか。  
しかし、それでも……身の内にある想いをごまかしとおせるものではなかった。かの人の声、仕草、表情――――すべてに心が揺れる。  
日々の鍛錬で鍛えたはずの自制心がいともたやすく打ち砕かれそうになる。  
彼女が、欲しい……。  
そんな穢れた思いを抱いているとは夢にも思わないのだろう……。彼女は無邪気な笑顔を自分に向ける。  
それが他の八葉よりも多いと感じるのは自分の自惚れか、願望か……。  
――――――それとも。  
 
 
「はぁ……。」  
 
お付きの女房が下がり、誰もいなくなった部屋であかねはそっとため息をついた。  
すでに幾度となく経験してはいるものの、この物忌みという風習はどうにも慣れることができない。  
現代にいたときからそれほど男の子と話をする方ではなかったあかねには、  
一日中男性と二人っきりという状況はいささか落ち着かない。  
とりあえず無難な趣味や仕事の話で時間をつぶすものの、相手によってはとんでもない反応が返ってきてしまったりして、  
あかねとしては内心緊張の連続なのである。  
例をあげるなら、泰明と仕事の話をしたときのことである。  
 
「……神子は陰陽道に興味があるのか?」  
 
なにやら妙にうれしそうな顔になったかと思うと、陰陽の何たるかについてえんえんと説明をはじめたのである。  
その長いこと長いこと……。  
泰明が非常に名残惜しそうに説明をし終えたのは、日も傾き、夜の帳も降りようかというころであった。  
他にも、鷹道が書道の手ほどきを始めたり、イノリが怖い話を話し始めたり……。  
友雅などはこの世界での心得と称して恋歌の返事の仕方を教えてくれた。  
「今度君からの返歌を戴きたいものだね。」などと冗談めかして言っていたが、真意はいまだに不明である。  
それを皆、何故か妙に嬉しそうにするものだから、あかねとしては途中でやめさせることもできずに当惑した時間を過ごすのである。  
彼らの普段の姿を知るものにとっては信じられないような話であるが、  
ことそっち方面に関しては年齢に比例しない鈍さを発揮するあかねは、その行動が意味することにまったく気付いていなかった。  
 
「今日は、頼久さんか……。」  
 
あの無口な青年のことを考える時、あかねの顔には自然に笑みが浮かぶ。頼久と一緒にいると不思議な安心感があった。  
そうかと思えば、何でもないことで不意に顔に血が上ったり、どきどきしたり―――――。  
この気持ちが何なのか、あかねはまだ判断しかねていた。  
 
「……失礼いたします、神子殿。頼久です。」  
 
御簾の向こうから声がして、頼久が平伏するのが見えた。  
 
「いらっしゃい、頼久さん。」  
 
ぱたぱたと駆け寄り、御簾を跳ね上げて腕を取ると、いつもはあまり感情を見せない頼久の顔に動揺が見えた。  
 
「みっ……神子殿…。」  
 
にこにこと微笑むあかねの表情……それはいつものことであったが、彼女が身に纏っているのはいつもの水干ではなかった。  
重ねの色目など、武士である頼久の知識にあるものではないが、  
春の終わり……初夏に着るのにふさわしい草色を基調とした色が重ねられた袿を着たあかねは、  
普段よりもまぶしく艶めいて頼久の目に映った。  
ざわり……と胸の奥底に押さえつけてある感情が鎌首をもたげる。  
 
(やはり、断るべきだったか……。)  
 
こんな姿をしたあかねのそばに一日中いて、自分を抑えきる自信は頼久にはなかった。  
 
「どうかしたんですか?」  
 
小首をかしげた表情が、なんとも愛らしい。  
 
「いえ……私はここで控えておりますから、神子殿はどうか中でお休みください。」  
 
自制心を振り絞って言った台詞を、あかねはあっさり無に帰させてしまう。  
 
「何言ってるんですか、一人で部屋にいても退屈なだけです。一緒にお話しましょう。」  
 
「しかし……。」  
 
結局、あかねに腕を引かれるまま部屋に入り……頼久はふと表情を変えた。  
 
「この香りは……。」  
 
あかねの着ている着物から香るのは、先日手に入れた梅香の香り……。  
頼久のつぶやきを聞いたあかねがぱっと振り返って顔を輝かせた。  
 
「あ!やっぱり分かります?頼久さん、このお香好きだって言ってたから焚いてみたんです。」  
 
花がほころぶような、と形容するにふさわしい笑みがあかねの顔を彩る。  
 
「私、焚き方とかよく分からなくて、藤姫に聞きながらやってみたんですけど……やっぱり変ですか?」  
 
最後は上目遣いで尋ねてくるあかねの仕草に、思わず抱きしめたい衝動に刈られたが頼久はすんでのところで理性の糸を結びなおした。  
 
(駄目だ……このままここにいては、私は……。)  
 
今日はあかねの物忌み。彼女の気を乱さぬように呼ばれた八葉以外のものは、この棟に近付かぬようになっている。  
多少の物音を立てたところで気付かれることはない。その気になればいつでも想いを遂げられる状況なのである。  
日に日に募ってくる自分の欲望は狂おしいまでにあかねを求めている。頼久は今の自分の危険さがよく分かっていた。  
ひとたび理性を解き放てば、抱きしめるだけでは飽き足らず彼女を穢してしまうだろう。  
それだけは避けねばならない。  
心の底から守りたいと思っている少女を、自分が穢すなど―――――。  
 
「頼久さん……?」  
 
不意に黙り込んでしまった頼久に、あかねが不安そうな声をかける。  
 
「……申し訳ありません、小用を思い出しました。今日はこれで失礼いたします。  
天真をこちらに来させるよう取り計らいますので、しばしお待ちください。」  
 
「え……?」  
 
あかねは一瞬、何を言われたのか分からなかった。頼久は今来たばかりではないか。  
それが――――――。  
 
「あの……頼久さん?私、何か怒らせるような事でもしたんでしょうか…。」  
 
混乱して再び頼久の腕を取ろうとするが、頼久はすっとそれをかわして部屋を出て行こうとする。  
あかねにはもう、何がなんだかわからない。  
 
「待ってください………っきゃぁっ!」  
 
後を追おうと踏み出した足が着物のすそに引っかかる。  
物忌みで外を出歩かないからと、藤姫が用意してくれた袿を纏っていたのが災いした。  
バランスを崩して倒れかかるのを、悲鳴を聞いて振り返った頼久がとっさに受け止める。  
少女の重みが頼久の腕にかかり、少し遅れて梅香の香りがさっきよりも濃厚に鼻腔をくすぐった。  
 
「ごっ……ごめんなさい。」  
 
逞しい腕に支えられて、あかねは真っ赤になりながら体制を立て直した。そのまま身を離そうとして、  
頼久の腕がまだしっかりと自分の身体に回ったままなのに気付く。  
そっと見上げると、頼久の整った顔が思ったよりも間近にあった。何かに耐えるように引き結ばれた唇、  
少し寄せられた眉の下で揺れる紫苑色の瞳……一瞬見とれてしまったあかねだったが、すぐ我に帰って遠慮がちに声をかける。  
 
「あの…頼久さん、もう大丈夫ですから……。」  
 
ささやくようなあかねの声が、知らず頼久の本能を刺激する。  
ちりちりっと頼久の理性の糸がきしんだ音を立てる。無言であかねの身体を離すと、頼久はそのまま背を向けて歩き出そうとした。  
 
「あっ…待って!!」  
 
慌てて彼の袖をつかんで引きとめると、あかねは頼久の前に回りこんでその顔を覗き込んだ。  
 
「私……何かしたんでしょうか。何だか、頼久さん怒ってませんか?」  
 
不安げな表情で言うあかねの仕草が愛しい。しかし、今口を開けば、どんなことを口走ってしまうか知れなかった。  
頼久の沈黙を、肯定と受け取ったのであろう、あかねの表情が悲しげに歪んだ。若草色の瞳に涙が溜まっている。  
 
「ごめ……ごめんなさい…。私、何か頼久さんに失礼なことしちゃったんですね。だから頼久さん、怒ってるんですね。」  
 
ぽたりっと涙が零れ落ちる。  
 
「お願い……嫌わないで…。私、頼久さんに嫌われたくない…。」  
 
最後の台詞を聞いた瞬間、頼久は自分の理性の糸がとうとう切れてしまったことを知った。  
衝動の命じるままに、愛しい少女の身体を抱き寄せる。  
 
「それは……私に対する好意だと、受け取ってよろしいのですね?」  
 
「……え?」  
 
突然、頼久の態度が変わったことに当惑して、あかねは戸惑った声をあげた。目の前にいる頼久は、今まで見たことのない表情をしていた。『臣下』ではない、『男』の顔・・・。  
 
「……や…っ」  
 
本能的に危険を感じて逃れようとする少女を、頼久はいともたやすく押さえ込んだ。  
 
「駄目です……逃がしません。」  
 
耳元でささやかれて、あかねの身体が硬直する。  
 
「私は止めようとしたのですよ?それを引きとめたのはあなたです。」  
 
頼久の唇がゆっくりと耳朶をなぞった。  
ぞくり、とした感触が背筋を走り、あかねは身を震わせた。  
 
「何を…言って……んんっ」  
 
声をあげかけたあかねの唇は頼久のそれによって柔らかく塞がれる。  
最初はただ重ね合わされるだけだった口付けは、次第に熱を帯びて深く濃厚なものへと変化した。  
 
「…ん…ふぁ……んっ…」  
 
頼久の舌が口腔内を蹂躙し、吐息までもが絡めとられる。奥で縮こまっていた舌もすぐに見つけられ、引き出されてしまう。  
あかねの唇を思う存分貪り、その感触を楽しんだ頼久はようやく唇を離すと、今度は首筋に顔を埋めた。  
 
「あ……ふっ…」  
 
酸欠で朦朧としたまま、あかねが声を上げる。  
肩までかかるさらさらした髪を左手で掻き揚げ弄びながら、頼久はもう一方の手であかねの腰をしっかりと捕らえ固定してしまう。  
着崩れて少し乱れた合わせ目からのぞく白いうなじ、のけぞらせた喉、頤にかけて舌と唇を使っていくつも赤い華を散らせば、  
あかねはその一つ一つに反応して身をよじらせる。  
 
「敏感なのですね…。」  
 
嬉しげにささやく頼久の台詞に、あかねは頬に朱を上らせいやいやをするように首を振った。  
いくら鈍いといっても、ここまでされて状況を理解できないはずはない。  
頼久は抱くつもりなのだ―――――自分を。  
腰に回された腕は、あかねの力で引き剥がすこともできそうにない。よしんばそれができたとしても、  
日々鍛錬している頼久にとっては自分を捕らえることなど造作もないことだろう。  
逃げられない――――――。  
 
「……や…ぁっ…」  
 
怯えて身をすくませている少女を、頼久は愛しげに見つめた。先程とは違う涙で潤んだ瞳も、彼の嗜虐心を煽るものでしかない。  
 
「どう……し…て…よりひ……さん…ああっ…」  
 
うなじを何度も舐め上げられ、あかねは悲鳴を上げた。状況は理解できても、こんなことをする頼久が信じられなかった。  
この寡黙な青年はいつも自分を気遣い、決して嫌がることを強制しようとはしなかったのに――――――。  
 
「神子殿……。あなたがいけないのです。あなたのすべてが私を狂わせる…。たとえいつか元の世界へと戻られる身であったとしても、  
私はあなたを求めずにいられない。」  
 
熱に浮かされたようにあかねへの想いをささやくと、頼久は彼女の着物の帯に手をかけた。  
止めようとするあかねの抵抗も甲斐なく、何枚も重ねられた衣はするりと肩を滑り降りてしまう。  
下着を着けず素肌の上に着物を纏っていたため、それを取り払われると生まれたままの姿がさらけ出されることになる。  
現れた裸身は目に染みるほど白く、しみ一つない。ほっそりと華奢な肢体は輝かんばかりのまぶしさで頼久の目を射る。  
形のよい胸や慎ましやかな若草の茂みを、必死で隠そうとする仕草に男を刺激され、頼久は淫靡な笑みを浮かべた。  
季節は春を終えようとしていたが、まだ肌寒さが残る。寒さと羞恥で身を震わせる少女を、頼久は逞しい腕で抱き上げた。  
 
「きゃ……あっ!?」  
 
「このような端近では、お寒うございましょう。床へお連れいたします……。」  
 
言葉だけは普段と変わらず丁寧だが、行動はそれを裏切っている。  
何とか身を離そうとあかねがもがくのを易々と押さえ込み、制止の声も無視して御帳台へと歩を進める。  
薄暗い閨に強引に連れこみ、少女の身を褥に横たえると、頼久はあかねに覆い被さった。  
 
「いやぁっ……見ないでっ!!」  
 
あかねは左手で胸を隠すようにしながら、残る右手で頼久の体を押し上げようとした。  
しかし女の力でそれが適うはずもなく、分厚い胸板に阻まれる。  
自分の胸に加えられる取るに足りないほど小さな抵抗に、頼久はむしろ心地よさすら感じていた。  
愛しい少女が今、自分の腕の中にいる……。  
力をこめれば折れてしまいそうな身体も、涙に濡れた表情も、抗う声さえも今はすべて自分のものだ。  
 
「もっとよく見せてください……あなたを。」  
 
この上ない幸福感に心震わせながら、頼久はあかねの身体を隠す左手を引き剥がした。  
 
「いやっ……いやあぁぁっ!!」  
 
なおも抵抗を続ける右手を難なく捕らえ、左手とひとまとめにして頭上で固定してしまうと、最早あかねの身体を隠すものは何もない。  
 
「……あ…。」  
 
頼久の舐めるような視線で全身を撫で回され、あかねの身体は羞恥で桜色に染まった。  
 
「神子殿…。お美しい……。」  
 
感嘆の声を上げつつ、頼久は次の行動を開始した。  
あかねの両手は蒲団に縫い付けたまま、残ったほうの手を小ぶりながら形のよい胸に添える。  
びくっと身を震わせるあかねの反応を確かめるようにやわやわと揉みしだくと、あかねの唇から切なげな吐息が零れ落ちた。  
さらに力をこめ、唇を鎖骨のくぼみに寄せて吸いたてる。  
 
「…ふぁ……ぁんっ」  
 
喘ぐ声を漏らすまいと唇を噛み締めるが、次々と与えられる未知の感覚に抗うことができない。  
口を塞ごうにも、両手は頼久に固定されたままだ。  
胸元に幾つかの華を追加し、あかねの反応を一通り堪能すると、今度は白い双丘の頂にある桜色の蕾に向かって唇を滑らせる。  
同時に手による刺激も蕾に集中させ、指で擦りたてて屹立させる。  
 
「……ぁああっ…や…ぁ…」  
 
硬くしこった蕾を舐め転がし、もう一方をつまみこねてやると、あかねの身体が大きく仰け反った。  
隠し切れない快感の余韻で身を震わせながらも、あかねは抵抗をやめようとはしない。  
身体をよじって逃れようとするその仕草が、ますます頼久の征服欲を煽っていることに彼女は気付いてはいなかった。  
 
「ああ…神子殿…感じておられるのですね、この頼久に――――。」  
 
半ば恍惚とした表情で、頼久がささやく。あからさまな台詞に、あかねの顔がますます朱に染まる。  
 
「やっ……ちが……ぁぁああああんっ!!」  
 
否定の言葉を口にしようとした瞬間、蕾に歯を立てられ、あかねは耐えきれずあられもない喘ぎ声を上げた。  
薄い笑いを浮かべながら、頼久が続ける。  
 
「これでも、ですか?それにここも……。」  
 
それまで胸の蕾を弄んでいた手がすっと滑る。その向かう先に気付いて、  
あかねは慌てて膝を固く閉ざそうとするが、いつのまにか頼久の足が割り入れられていて、侵入を許してしまう。  
下腹部を撫でるように一周してから、頼久の手はあかねの股の間にするりと入りこんだ。そして・・・・。  
くちゅんっ  
 
「っあああああっ!!」  
 
淫らな水音と共に秘所から堪えがたい快感が駆け上がってくる。  
まだ誰にも触られたことのない花芯は、身体を襲う未知の感覚に反応して蜜を滲ませ、初めて男を迎え入れる準備をすでに始めていた。  
 
「こんなに濡らして……神子殿は本当に感じやすいのですね…。」  
 
何度も花芯をなぞり、蜜をすくいあげては全体に塗りつけるようにしながら、頼久は歓喜の声を漏らした。  
 
「……も……いやぁ…。」  
 
涙を浮かべ、哀願するようにふるふると首を振るあかねが愛らしい。  
指で花弁を掻き分け、わざとあふれ出る蜜がくちゅくちゅと音を立てるよう、掻きまぜる。  
 
「……ぅあくっ…はぁん…。」  
 
頼久によって与えられる快感に、あかねの思考は溶けかけていた。抵抗しようにも四肢の力は抜け、ただ頼久の手の動きに翻弄される。  
身体が重く、持ち上げるのも億劫になってくる。神経のどこかが甘く痺れ、ぐったりと頼久に身を預けるような形になってしまう。  
あかねの抵抗がやみ、愛撫に甘い喘ぎ声が返ってくるようになると、頼久はようやくあかねの両手を戒めていた手を離した。  
そうしてもあかねが抗おうとはしないことを確認すると、頼久は身を起こし、自分の着物の帯に手をかけた。  
少しずつあらわになっていく鍛え上げられた身体を、あかねは焦点の定まらないぼんやりとした瞳で眺めていた。  
 
(……傷がたくさん…。)  
 
頼久の身体には、大小さまざまな傷跡があちこちに走っていた。  
あかねと出会う前のものもあるだろうが、出会った後、確実にその数は増えたはずである。  
頼久はいつも、文字通り体を張って彼女を守っていたのだから。  
 
「……っく…。」  
 
不意に、涙が込み上げてきた。恐怖でも、嫌悪でも、悲しみでもない何か強い感情が、あかねの中から溢れ出す。  
 
(…な……に?)  
 
それが何なのか、あかねにはわからなかった。わからないまま、ただ涙だけが零れ落ちる。  
 
「……悲しいのですか?」  
 
身に纏っていたものすべてを脱ぎ捨て、逞しい裸身をさらした頼久が、再びあかねにのしかかりながら尋ねた。  
 
(……ちが…う…)  
 
ふるふる…と首を振るが、自分の感情をもてあましている状態では、何かを伝えようにもどうすればよいのか分からない。  
分からないから、余計に混乱して涙が止まらない。  
黙ったまま泣きつづけるあかねに、頼久はそれが自分への嫌悪によるものだと受け取った。  
そうとらえたとしても無理はない。彼は、本来守るべき主人を穢そうとしているのだから。  
 
「……それほど、お嫌ですか。」  
 
頼久の中で暗い感情が沸き起こる。  
劣情に突き動かされるまま、頼久はあかねの唇を貪った。  
 
「……ふっ…んんぅ…」  
 
舌を差し込み、あかねの舌を見つけ出すと、すかさず絡めとってきつく吸い上げる。  
あかねが苦しがってもがくのにも構わず口腔を犯し、ぐったりとしたところでようやく解放した。  
酸素を求めて荒い息をつくあかねの身体の下に腕を差し入れ、自分のほうに抱き寄せる。  
 
「どんなに厭われようと、私はあなたを誰かに渡す気はありません。あなたは私のものだ…!!!」  
 
血を吐くような口調で叫ぶと、頼久はあかねの体の至る所に唇を寄せた。  
首に、胸に、腹に―――――激情のまま所有印を刻み付け、余ったほうの手で秘所をまさぐる。  
 
「ああっ……ふぁぁぁあんっ!!」  
 
乱暴とも言える頼久の愛撫に、今まで以上の快感が押し寄せ、あかねは大きく身体を仰け反らせた。  
あふれ出た蜜が大腿をつたい、蒲団にしみを作る。  
自分を混乱させるこの感情が何なのか、判断することができないままあかねの思考は快感に溶けて押し流されていく。  
自分の愛撫によって乱れる少女の姿を、頼久は満足げに見つめた。  
それでいい……何も考えられないようにずっと啼かせていれば、拒絶の言葉も悲しみの表情も見ずに済む。  
頼久は体の位置を変えると、あかねの膝を割り広げ、その中心に顔を近づけた。  
 
「あっ…いやあぁぁっ」  
 
羞恥で身をよじるあかねを押さえつけ、花弁の中にツンと立った花芽を口に含む。  
 
「ひっ!?……や…だめぇぇっ!!」  
 
痛みすら感じるほどの強い快感があかねを翻弄する。  
舌と唇を使って丹念に愛撫をほどこせば、あかねの身体が水揚げされた魚のように跳ねる。  
逃れようともがくほどに、より深く愛撫を受け入れる形になってしまい、更なる快感が沸き起こる。  
 
「あんっ……あっ…あっ…!!」  
 
切羽詰った啼き声を上げるあかねの秘所に舌を這わせ、頼久はとめどなく流れ出る愛液を啜り上げた。いやらしい水音が部屋に響き渡る。  
 
「も…おかしく…なっちゃ…ああああっ!!」  
 
頼久がそれを飲み干すと同時に、あかねは生まれてはじめての絶頂を迎えた。びくびくっと痙攣し、焦点の合わない視線を泳がせる。  
頼久はくたり、と力の抜けた身体に愛しげに口付けると、しとどに濡れた花芯に右手の人差し指をあてがった。  
つぷっ  
 
「ひぅっ!?……あ……!」  
 
頼久の指があかねの中に潜り込む。  
今まで誰の侵入も許してこなかったあかねの秘所は、想像以上に狭く指を締め付ける。  
ゆっくり抽挿を開始すると、痛むらしくあかねが悲鳴を上げた。  
唇で花芽を愛撫して宥めながら、少しずつ慣らしていく。  
周りの肉をほぐし花弁を開かせるように刺激を加えてやると、喘ぐ声に甘い響きが戻り始めた。  
 
「……はぅん…あぁ…ぁん…。」  
 
すかさず指の本数を増やし、一気に花を開かせる。  
 
「あああっ!!よ……りひさ…さんっ」  
 
秘所を指で犯され、あられもない喘ぎを上げさせられながら、うわ言のように頼久の名を呼ぶ。  
三本まで増やした指を交互にうごめかせ、思うままに甘い喘ぎ声を引き出していた頼久だったが、  
恋しい少女に幾度となく名を呼ばれ、我慢も限界に達していた。  
 
「……神子殿……参ります。」  
 
指を引き抜き、雄雄しくそそり立った自身をあかねの秘所に押しつけると、そのまま差し貫いた。  
 
「きゃううっ……いたっ…あああああっ!!」  
 
いくら慣らしていたとはいえ、破瓜の痛みは避けられるものではない。  
あまりの衝撃に、息をすることすら忘れてあかねは必死で頼久にすがりついた。  
そうしていないと自分がばらばらになってしまいそうで、つかんだ頼久の腕に爪を立てる。  
 
「くっ……。」  
 
腕の痛みと思った以上の締め付けに、頼久は呻き声を上げた。  
指とは比べようもない大きな質量のものを受け入れたあかねの中は、侵入者を排除しようと頼久を締め上げ、  
圧力を加えてくる。気を抜けばすぐさま達してしまいそうな快感が頼久を襲う。  
愛しい女とようやく一つになれた喜びに、心震わせながら動き始めると圧倒的な痛みにあかねが悲鳴を上げ、  
自分を穿つ楔から逃れようともがく。  
暴れる身体を抱きすくめ、さらに奥の奥まで貫き通す。  
 
「……やぁっ…動かないで…抜いてぇっ!!」  
 
涙をぽろぽろこぼしながら哀願するあかねに、憐れをさそわれないわけではなかったが、  
自分でもあかねを穿つ自身の動きを止められそうになかった。  
 
「申し訳ございません……それは……できかねます…。」  
 
呻くような声で答え、頼久はその代わりとでもいうようにあかねの濡れた瞼や頬に口付けを降らせた。  
痛みを和らげるためにあいている手や舌、唇を使って全身を愛撫する。  
そうやって、どれほどの時が流れたころか…わずかずつではあったが、あかねの身体から強張りが抜け、悲鳴に甘い響きが混じり始めた。  
少しずつ……少しずつあかねの身体が開かれていく。  
 
「…あ…ああ……んっ…は……。」  
 
まだ時々走る痛みに顔をしかめながら、あかねが切なげな吐息を漏らす。  
半開きになった唇から零れ落ちるそれが欲しくて、頼久は己の唇をあかねのそれと重ね、舌を絡みつかせた。  
再び蜜を溢れさせ始めた秘所が、頼久の動きに合わせてぐちゅぐちゅと音を立てる。  
 
「……神子殿…もう……。」  
 
先程から限界を訴えかけている頼久自身が、絶え間なくあかねを求めている。  
朦朧とした表情で頼久を受け入れているあかねの耳元で熱くささやき、次の瞬間彼女の腰を強く抱きこんで激しく突き動かした。  
 
「やあぁぁぁんっ!……ああっ!!」  
 
腰を打ちつける動きに合わせて、あかねの口から嬌声が上がる。それを聞きながら思うさまあかねの中を蹂躙し、  
自身の高まりに合わせてすべてを放出する。  
受け止めきれずに溢れ出した想いの一部が白い大腿を汚し、頼久はあかねを抱きしめたまま蒲団に倒れこんだ。  
 
「神子殿…神子殿…お慕いしております……。」  
 
腕の中の存在を何度も確かめるように力を込め、とどくところすべてに口付けの雨を降らせながらうわ言のように繰り返す。  
それを受けながら、あかねはまた先程のよく分からない感情が沸き起こるのを感じていた。  
先程よりも鮮明な形で心に働きかけてくるその感情……それはまるで―――――。  
 
「…………あ…。」  
 
かすかな声を上げたあかねの顔を覗き込んで、頼久は彼女が再び泣きはじめたのを知った。  
後悔と恐れが押し寄せ、頼久は夢中でその涙を唇で吸い取った。  
まるでそうすれば彼女が泣いているという事実がなくなるとでも言うように……。  
 
「……よりひさ…さ…ん…」  
 
あかねの唇から彼の名が滑り出すと、頼久はびくり、と身を震わせた。  
 
「わ…たし……」  
 
続けて言おうとした台詞は、頼久によって阻まれた。  
乱暴な口付けで唇を塞ぎ、その先を言わせまいとする。  
 
「嫌だ……嫌です…何も言わないでください……まだ…」  
 
頼久を恐れさせていたのは断罪の予感だった。この罪を一番よく知っていたのは彼自身だった。  
例え死罪に処せられようと、恨む気持ちは毛頭ない。しかし――――――。  
彼が死よりも恐れたもの…それはあかね自身からの断罪。  
愛しい少女から、嫌悪の眼差しを向けられ、責めの言葉を浴びせられることを彼は最も恐れていた。  
 
「お願いですから、まだあなたを手に入れたという夢の中にいさせてください……」  
 
子供のように怯え、何度も口付けを繰り返して言葉を紡がせまいとする。  
やがて、この方法ではあかねの言葉を止めきれないと思ったのか、再びあかねの身体を愛して快楽の底に引きずり込もうとした。  
しかし、それより早くあかねの口から零れ落ちた言葉があった。  
 
「…………好き…。」  
 
瞬間、頼久の動きが凍り付いたように止まる。  
 
「……今…何…と……?」  
 
信じられないという表情をして、頼久が聞き返す。  
夢か、幻聴か……。頼久が決して聞くことができないと思っていた言葉が、あかねの口から出てきたのである。  
 
「好き、です。……あなたが…好き。」  
 
もどかしそうに言って、あかねは頼久の頬に手を伸ばした。  
小さく柔らかい手が触れる感触は泣きたいほどに暖かい。  
 
「それは……まことですか…?」  
 
思わず尋ね返して、それがひどく失礼な質問だったことに気付く。  
どこの世界に、自分を犯した男に偽りの愛の告白をするものがいるのか……。  
しかしあかねはそんなことを気にする風でもなく、あちこちに傷の走った頼久の胸板に手をやり、涙をこぼしながら言う。  
 
「いつも守ってくれるから…ずっと甘えてたんです。もっと早く気付いていたら、頼久さんはこんな思いをしなくても済んだのに―――――。  
ごめんなさい…。」  
 
そう言ってそのまま泣きじゃくるあかねを、頼久はたまらなくなって抱きしめた。  
どうして彼女はいつもこれほど優しくあれるのだろう。  
無理やり犯された恐怖はまだ鮮明だろうに、当の犯した相手に向かって謝るなど―――――。  
 
「いいえ……いいえ!謝られる必要はございません。すべての罪は私にあるのです。  
神子殿のお気持ちを確かめようともせず、あのような振るまい……許しを請う資格さえ私にはありません。」  
 
愛しくて愛しくて仕方がない。  
 
「神子殿……。あなたに口付ける事をお許しください…。」  
 
頼久のささやきに、あかねは頬を染めて頷いた。  
行為の後の乱れた褥の上で、二人は初めて心の通い合った口付けを交わした。  
 
 
 
end  
 

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