どうして? なぜ?
激しく体を揺さぶられるままに、望美は望まぬ快感にどろどろに融けきる寸前の思考の片隅で応えなき問いを繰り返す。
互いに想いを寄せ合うはずの恋人を豹変させた出来事に、望美は心当たりなどなにひとつなかった。
本当に、それは唐突だった。
ふたりきりでと外出に誘われ、心弾ませ差し伸べられた手を取った後、気づけば彼の隠れ家のひとつであるという
この屋敷の奥で衣を剥がれ、恥辱的な姿で縛められていたのだ。
艶やかな笑顔の下、冷静さと実力に裏打ちされた余裕を持つヒノエの常からはかけ離れた乱暴で非道な行為。
あまりの事態に声を荒げがむしゃらに抵抗したが、男という生き物の持つ力の前になんなく押さえつけられ、
望美の体に一から快楽を教え込んだ彼の指先や舌、その体すべてが齎す圧倒的な快楽で捻じ伏せられた。
「あ、あ……っ、や、いやぁ……!」
ずちゅ ぐぷっ
ヒノエしか知らぬ奥深く、蕩けるようにやわらかい弱い部分を強く抉られ、望美は嬌声とも悲鳴ともつかぬ声を上げる。
「ねぇ、オレの神子姫様。――望美、お前は誰のもの?」
「ひぅ……ッ」
ぬるりと熱い舌が耳孔に差し込まれ、上ずる息遣いと共に問う声が鼓膜をふるえさせるのにすら、
どうしようもなく感じてしまう。
「な――ん、で――ぇ……」
己の意思など踏みにじるように自由を奪われた体に、優しさを持たない強制的な快感。
そしてなによりも自分を犯す恋人の心が見えなくて。
悔しくて悲しくてそしてどうしてもその理由がわからなくて。望美は混乱する思考のままにぼろぼろと涙を零した。
「――望美」
そんな彼女の様に、律動を止めたヒノエが白い頬を伝う雫にそっと口付けた。
幾滴も幾滴も。そのすべてが己のものだといわんばかりに吸い取り、涙の跡を舐め上げる。
その仕草は、確かに常に望美を甘く優しく慈しむヒノエのそれだった。
「ふ……くぅ……」
嗚咽にふるえる薄桃色の唇に、ヒノエは自らのそれを重ねどこか自虐的に嗤った。
「――オレはもうお前の問いに答えているよ。神子姫」
「……え……、あ……ん、ふっ……」
その笑みに、言葉に。ちらりと何かが垣間見えた気がして。問い返そうと望美が唇を開いたその瞬間を逃さず濡れた舌が押し入る。
「だから、お前も答えて?」
「は……く、ふぅ……!」
そして垣間見えた何かに望美が手を伸ばすより先に動き出した腰に、再び思考が快楽の渦へと突き落とされてしまう。
「あっ……も、や……ッ!」
その心を置き去りに幾度も追い上げられた体は激しく貫かれるままに与えられる快楽をすべて受け入れ頂点を極めようとするが、
しかしヒノエはそれを許さなかった。
「――っ、と。まだダメだよ」
「え……きゃぁッ!?」
ぐい、と腰を掴み上げられ、深緑の双眸が見開かれる。
濃紫の髪があでやかに宙を舞う。ヒノエはそのまま己が後ろに倒れこむことで反動を利用し繋がったまま望美の体を
自分の腰の上に跨らせた。
「ひッ! く……う……っ」
その体制ゆえ、自重でより深部までヒノエの屹立を咥え込まされた膣内は、彼女の心とは裏腹に悦びにひくひくと戦慄く。
縛められ自由を奪われた四肢は均衡を取ることもままなず、しなやかな筋肉に覆われた胸板に倒れこもうとしたが、
片腕で華奢な肩を支えられそれを許されない。
「あ、は……っ。そこ……深すぎ、る……よぉ……」
哀れな嬌声に応えるように、ヒノエは熱く蕩ける膣内をゆっくりと味わうようにかき回す。
その度に蠢く襞はヒノエ自身を甘く締め上げ、快感に抗えず身悶える望美の縄に搾り出された豊かな乳房がたぷたぷと揺れて
彼の目を愉しませる。
自分の与える快楽にどこまでも従順なやわらかな肢体に、ヒノエは嗜虐的な光を湛えた双眸を細め唇の端をつり上げると
狂う程に愛おしい女の名を呼んだ。
「望美、ほら」
「……?」
その声に望美が力なく顔を上げれば、ヒノエは深緑の視線を引きつけたことを確認して、ゆっくりと見せつけるようにふたりが
繋がる箇所に手を伸ばし濡れそぼる秘裂を指先で押し上げるように広げた。
「……あ、あ……ッ!?」
前のめりにヒノエの上に乗る望美の瞳に、まざまざと突きつけられる光景。
ちいさな肉の芽はその皮の内の実を覗かせるほどにぷっくりと膨れ、食指を伸ばされるのを今か今かと焦がれるようにふるえ、
その下に続く紅い華の花弁はぽってりと厚みを増し、限界まで己を拡げヒノエの雄を根元まで深々と咥え込んでいる。
そしてたっぷりと溢れさせ滴らせた蜜は己の華だけではなく、白い内股を、そして接合するヒノエ自身を、更には彼の下腹部
までをも濡れ汚してらてらと淫らに輝いている。
あまりにも卑猥なその光景に言葉をなくしがくがくとふるえる望美に、ヒノエは愉しげに微笑む。
「ふふ。いい眺めだね……」
「! ひっ…あぁあ、ッ……!!」
視覚からの強烈な刺激に追い討ちをかけるように剥き出しにされた芽を親指でぐにぐにと捏ねられ、望美の体は待ち望んだ
強い快感に胎内のものを締め上げ軽く達してしまった。
絞り上げるように絡みつくやわらかな肉襞のあまりの好さにそのまま望美の膣内にぶちまけてしてしまいたい欲求を
奥歯を噛み締め堪えると、ヒノエは自身を咥え込みひくひくと切なげに収縮を繰り返す花弁をゆっくりと指先でなぞった。
「――ね、望美もよく見なよ。お前のココ、こんなに色づいて愛液滴らせてさ。オレのを根元までしっかり咥え込んで
奥深くまで突いてくれってねだるようにひくひくしてるぜ? ホントいい眺めだよ。いやらしくてたまんねぇ……」
「いやぁ……あ、ん……やぁあ……」
揶揄交じりの声音に己が秘所のはしたない様をあからさまに言葉にされ、望美はいやいやと力なく頭を振る。
しかし過ぎるほど快楽に慣らされた体はその言葉の齎す羞恥すら刺激として受け入れてしまい、淫らにその身をくねらせた。
「本当にお前は嘘吐きだね、神子姫様。お前のナカ、どうなってるか自分でわからないかい? こんなにオレのを締め上げるように
絡みついているのに……さっ!」
「ひ、ぃん……ッ!」
言葉と共に、質量を増した一物にズン、と奥まで突き上げられ、望美は細い頸を反らせ喘ぐ。
「ほら、わかるだろ? オレのを奥まで咥え込んで悦んでるじゃん、お前」
「や……っ。う、ぁ……」
やわらかい部分を激しく突かれる感覚と卑猥な言葉はどうしようもなく強烈な快感を齎し、望美のすべてを犯しつくそうとする。
「オレが欲しい、だろ。望美。――欲しくて仕方ないだろう? ココの奥の奥まで」
「はっ、あ……あぁッ!!」
「……なあ? のぞみ……ッ!」
望美を追い詰めるヒノエの艶やかな声は、しかしどこか切実さすら感じさせる響きを孕み彼女の耳朶をふるわせたが、
息も絶え絶えに喘ぐ望美がそれに気付くことはない。
じゅぷ、ぐちゅりと濡れそぼる粘膜を激しく擦りたてる淫猥な水音と体のぶつかる音が快楽と羞恥に拍車をかけ、
華奢な体を容赦なく絶頂へと追い上げる。
「あ、あ! やぁ……。く、るっ……、きちゃうよぉ……ッ!!」
肢体に食い込む縄の痛みすら忘れ――いや、それすらも快感へと転化してその刺激と紅に縛められた虜囚は哀切な嬌声を上げる。
「いやぁ……! ダメッ、イク……イッちゃうの……!!」
「ああ。……イけよ、いくらでもっ……」
「……ッ……!!」
応える声と共に、ぐりぐりと最奥までめり込ませるように一層激しく貫かれ、望美はあまりの激感に声すら上げられず
しなやかな背を撓らせた。
「か、はっ……。 ……あぁあ、あ……ッ!!」
絶頂に激しく収縮する膣内に誘われるまま、ヒノエはその奥の奥まで己が白濁を注ぎ込まんとふるえる肢体をなおも手荒に突き上げる。
「く……ぅ……ッ!!」
胎内深くで爆ぜる熱のあまりの熱さに、体と心が形を失いどろどろと融かされていくのを感じながら、望美は思考のすべてを手放した。
――ぼんやりと、すでに焦点を失って久しい深緑の双眸がゆっくりと閉じられる。
精神状態も、そして華奢な肉体も限界を迎えたのだろう。
そのはずみにか。つう、となめらかな頬を滑り落ちた雫を舌で舐め取ると、ヒノエはいまだ体内に燻る激情を宥め、
ずるりと己を多量の蜜と白濁に塗れた花弁から引き抜いた。
すると幾度も幾度も男の精を呑み込まされた袋の奥から、塞き止めるものがなくなった濃密な体液がどろりと滴り落ちる。
なんとも淫猥な光景に、しかしそれを見とめたヒノエは不快気に眉を寄せ舌打ちをした。
自分が彼女にたっぷりと注ぎ込んだもの。それをその胎内にすべて留めおけない――それがなんとも腹立たしい。
零れ落ちたものを指先で掬い上げ、再び塗り込めるように花弁を押さえつければ、意識を失った望美はそれでも与えられる刺激に
反応してぴくりと体を跳ねさせる。
「――望美」
それに満足な――けれどどこか歪んだ艶やかな笑みを零すと、ヒノエはその華奢な肢体を縛めていた己の髪と瞳と同じ色の縄に
手をかけた。
あれほど容赦なく望美を締め上げていた縄は驚くほど簡単にぱらりと解け、長時間束縛されていた四肢はようやく訪れた解放に
どこかぎこちなく、力なく崩れ落ちた。
きつい縛めと手荒な扱いに、白い柔肌の上に無残な縄痕が、彼の唇が残した刻印と共にくっきりと残っている。
紅い痕を哀れだと思いながら、しかしヒノエがなにより感じるのは高揚感と満足感。
――この白い肌を慈しむのも、こうして痕を残すのも。どちらも自分に――自分だけに与えられた権利だ。
『なん……で、こ……んな……』
ふいに涙交じりの問いかけの声が、耳朶に甦った。
その問いかけのあまりのおかしさに、ヒノエはくすりと低く嗤った。
その答えは、こんなにも無造作に緑の瞳の前に転がされていたのに。
『ねぇ、オレの神子姫様。――望美、お前は誰のもの?』
それこそが、すでに答えそのものあったというのに。彼女は気づかなかったのだ。
浅い呼吸を繰り返す、艶めいた、しかしどこか痛々しさを感じさせる紅く熟れた唇に、ヒノエは飽きることなく口付けを落とす。
「オレの、神子姫。……お前はオレだけのものだろ、望美」
蕩けるような甘い声音で囁きかけながら、それまでの非道さがまるで嘘の様に愛しさと慈しみに溢れた手つきで望美の汗ばんだ頬に
貼りつく濃紫の髪を優しく払ってやる。
紅い縄。しなやかな双腕。熱い囁き。――そして、なによりヒノエの執着と独占欲と恋情が。
可視不可視のそれらは確実に望美を捕らえ縛り上げていく。
「ねぇ。――オレの望美」
――炎の如く熱い紅の縛めから、望美が逃れる術は最早どこにも存在しなかった。