「……早く服を着なさい、神子」
リズヴァーンの声は低く落ち着いてはいるが、だがしかし、驚きを隠しきれてはいない。
それはそうだろう。何しろ、彼の目の前には、とんでもない格好をした望美が、立っているのだから。
白い、どこまでも白い肌が、電気をつけていない寝室の薄闇にぼぅと浮かび上がる。
――そう、彼女の上体は何にも覆われていない。
腰近くまである長い髪すら、その胸の双丘を隠し切ってはいないのだ。
そして下半身には、白のレースのガーターベルトにTバックショーツ。そして白の編タイツ。
勿論この世界の肌着の名前まで、リズヴァーンが詳しく知る筈もなかったが、
望美が何か破廉恥な格好で、自分を挑発している事はわかった。
そして今、まさにこの瞬間、望美はその靴下留めをゆっくりと外さんとしている。
それを制止すべく、先の言葉がリズヴァーンの口から出たという訳だ。
望美は恨めしげにかつての師を――そして、今は恋人となった男を――見上げた。
「……先生は、私のこの格好を見て、何も感じないんですか?」
「そうだな。寒そうだな、と」
「そーんーなーのーじゃ、なくって!」
望美はむくれてリズヴァーンに詰め寄る。
胸を隠してはいないので、たわわなその双丘がふるん、と揺れる様が見て取れて
リズヴァーンはさり気なく視線を逸らす。
逸らしついでに話をも逸らしてみせるのは流石に年長者の余裕か。
「では、お前はどのような言葉を望む?」
「……その、い、色っぽいとか、女らしい、とか――」
あらためて問い返されると、かえって恥かしくなるのか、望美の口調が俄かにたどたどしい物に変わる。
その台詞と口調から、望美のこの行動の意図を漸く理解したリズヴァーンは、
ふ、とその顔に笑みを浮かべると、つと手を伸ばして望美の頭を撫でた。
まるで小さな子供にしているかのような仕草に、望美はますます頬を膨らませる。
「わかりました。先生は、私の事女だと思ってないんですね?」
先生にとって私は、いつまでも弟子でしかないんだ
――なおもそんな事を呟く望美をリズヴァーンは次の瞬間、胸に抱き締めた。
途端にびくん、と望美の全身が緊張するのが、分厚い外套越しにも感じられて、それが愛しい。
「――そのような事、ある筈もない。
こうして抱きとめているだけで、この胸が高鳴るのを止められぬと言うのに」
「せ、せんせっ……!」
「わかったなら、二度とこのような馬鹿な真似をするものではない。風邪を引いてしまう」
はい、とうなだれる望美を、しかし、リズヴァーンは離そうとしなかった。そうする代わりに、耳元に囁く。
「――だから、今宵はこのまま、お前を温めていようと思うのだが」
数拍の沈黙の後、望美の選んだ運命は――互いが望むものだったのは、いうまでもない。