「神子…。」
柔かな唇に触れる。
何時もの彼女であったなら、例え手のひらでも赤らめるだろうに。
ピクリとも反応しない。
これが心を食われた、と言う事なのだろう。
…私はまた、救えなかったのか。
変えられぬ運命だと言うのか。
ぽつり、と彼女の頬に雫が落ちる。
透明なそれは次から次へとぽつりぽつりと落ちて、頬を流れていく。
彼女はこんなに温かかいのに。
前の運命みたく冷たい体ではないのに。
その時以上に冷えきってしまったようにも感じる。
「神子……。」
着物を脱がし、胸に手を当てると鼓動も感じられるのに。
それを揉んでも、口に含めても。
何の反応もせず、ただなすがまま。
まるで、生きる屍の如く。
「神、子……。」
『なあに、先生?』
くすくすっと後方から声がした。
声や姿は神子そのものだが、神子ではないものの声。
『先生さえお望みなら、抱いてもいいんだよ?先生だったら私──。』
「───黙れ。」
私は神子をそっと床に寝かせ、剣を抜いた。
『私に剣を向けるの?あなたの望み通り動かせられるのに?』
「───黙れ。」
私は神子をそっと床に寝かせ、剣を抜いた。
『私に剣を向けるの?あなたの望み通り動かせられるのに?』
「要らぬ。」
私が望むのはただ、神子が「生きて」いる事──それだけだ。
「変えられぬ運命ならば、その先の未来で、神子を生かすのみ。」
それから、茶吉尼天との戦いで深手を負い。
私は神子を逆鱗の力で未来へ行かせた。
これでいい。
これで、神子は幸せになれる。
もう、あの運命を繰り返す事はない。
迷宮が崩れ落ちる中、彼女の優しい声が聞こえた気がした。
『先生。明日、どこかへ出かけませんか?』
『私、先生にいつも助けられてばかりで──だから、少しでもお役に立てたらいいなって。』
『先生……ごめんなさい。』
「望、美………。」
天井も崩れ落ち、視界が真っ暗になった。