「あっ…あんっ」  
御簾をおろした部屋に、女の嬌声が響く。  
外は望月。月明かりに照らされた、整えられた庭が御簾越しに見える。  
自分の組み敷いた女は、豊かな胸乳とよくしまる秘部で包み込み、迎え入れてくれる。  
 
来る者は拒まず、去るものは追わず。  
孕ませることのないよう、細心の注意をはらってはいたが、  
少しでも多くの人が幸せになれるのなら…。  
そう思い、気づけば通う女は片手では足りない数になっていた。  
女と交わるのは、援助のせめてもの返礼として申し出があるからで、  
お互い気持ちよくなれたら、それでよいのだと思っていた。  
それなのに、この右の手に龍の宝玉を得て、龍神の神子と行動を共にするようになってから、  
どの女と床を共にしても、何かが足りない。  
 
自分の下にいるのが、こうして声を上げるのが彼女だったなら。  
あの汚れなき唇を貪り、巻貝のような桜色の耳を、細い首を味わうことができたなら。  
いとけない指を自分の指に絡め、花びらのようなつま先を愛で、  
恐らく誰も触れたことの無いであろう茂みの奥の、さらにその奥に触れることができたなら。  
自分を求め、淫らな表情をする彼女を独り占めできたなら。  
ふと、そんなことを想像してしまった。  
「東宮さま…っ、また大き…あんっ」  
女の声に我に返り、愕然とする。  
足りないのは彼女……なのか?  
今まで、殿上する貴族の男たちとの話に出てくるような、  
女性を欲する気持ちが理解できず、上辺だけ笑顔で頷いていたのに。  
初めて欲する女が、清らかであるべき龍神の神子であるとは。  
「東宮さま、どうされました?ご気分でも…?」  
どうやら、考えに捉われ、腰の動きが止まっていたらしい。  
「いいえ、失礼しました。何でもないのですよ。」  
微笑みと共に謝罪し、再び快感を追いかけるべく、動きを再開する。  
しかし、一度、頭に浮かんでしまったことを振り払うことはできず、  
瞼を閉じて彼女の幻影を追った。  
 
おわり。  

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