「ガラじゃねえけど…これお前にやるよ」  
そう言って彼は駆けていった…。まだ夕暮れとはゆうに浅い、空の下。  
私の手に…彼の夕焼け色の髪のような、名もなき赤い花を残して…。  
 
私は彼を想う。この花の赤のような思いを秘める。  
この思いが変わることはない。決して、何があっても。  
ー何があってもー  
 
 
「お帰りなさいませ、神子様」  
「ただいま〜、紫姫」  
いつものように四条の邸に帰ってきた私を迎えてくれる紫姫。  
いつもの何気ない風景…のはずだった。  
「神子様、つい先ほど彰紋殿がいらっしゃって…神子様に  
大事なお話がおありになるそうで…」  
「彰紋君が…!?」  
花梨は正直とても驚いた。  
「奥にご案内しております。さ、神子様」  
紫姫が女房に取り次がせる。  
花梨は少し困惑の色を浮かべながらそれに付いて行く。  
手には赤い花を握り締めて…。  
(どうして…だって私…彰紋君に…)  
 
 
「こんにちは、花梨さん」  
そこにはいつも通りの優しげな笑顔を浮かべる彰紋がいた。  
「それでは我々はこれで…」  
案内を務めた女房達が下がっていく。  
それを見計らったかのように彰紋は口を開く。  
「…本来なら、まだ…このような所に来てよいような身ではないのかも  
しれませんが…」  
「…」  
下を向いて押し黙る花梨。  
「…大丈夫ですよ。人払いをしていただきましたので、このあたりには  
誰もいません。気になさらず、あなたの意をお聞かせください」  
「ごめん…なさいっ、ごめんなさい彰紋君…私、私っ!」  
突然口を開いた花梨の目から少し涙が零れ落ちる。  
それを彰紋は申し訳なさそうに…だがどこか冷ややかな瞳で眺める。  
「…どうか泣かないで。あなたの気持ちはあの時はっきりと伺ったのです。  
僕はあなたの気持ちを十分承知の上だったんです」  
優しく…その雫を拭ってやる。  
 
 
『花梨さん、あなたが好きです。どうか僕にあなたの心のうちをお聞かせください』  
『…ごめんなさい…私は…彼のことが、イサト君のことが好きなんです』  
 
 
「少し落ち着きましたか…?」  
時はもうすっかり夕刻を迎えていた。赤い光が部屋の中を徐々に照らす。  
「…はい、ごめんなさい。取り乱したりして」  
「いえ、僕こそ突然…」  
ふと花梨の膝横においてある一輪の赤い花に目をやる…。  
彰紋の中にその燃えるような色とは対照的な冷ややかな想いが蘇る。  
「ーその花は、彼から…イサトからの贈り物ですか?」  
おもむろに、わかりきったことを訊いてみる。  
「…うん。ついさっき…」  
花梨はふいの問いに何を答えてよいのかわからず口篭り、その花を持ち上げようと  
すると。  
すっと彰紋はその花を先に持ち上げ見つめる。  
「…綺麗ですね。まるでこの夕焼けの空のような…」  
「彰紋君…?」  
「そして彼のような…赤い…花」  
そう言った彰紋の表情は…切なげで、だが確かにそこには何かがあった。  
「…哀れなものですね」  
「!?」  
その瞬間、彰紋はその花を片手で軽く握りつぶす。ハラハラと赤い花びらが…。  
彼の想いの欠片が散っていくかのごとく…花梨の目の前を舞う。  
「な…にを?彰紋君!?」  
思いもよらぬ事態に花梨は困惑する。  
「…哀れだと言ったのです。一生懸命咲いたのに、こんなに簡単に手折られてしまう  
この花を…彼を。そして…」  
そこにはもう先ほどまでの優しげな彰紋はいない。  
「…あなたを」  
 
「…そうは思いませんか?花梨さん」  
そう言って花梨の顎をくいっと引き寄せる。  
微笑を浮かべるその表情は凍りつくように冷ややかで…。  
花梨は一瞬背筋にゾクリと悪寒を感じる。  
「は…放して!!」  
パシッと、反射的にその手を払いのける。  
「あ、あなた彰紋君じゃない…!さっきから…変だよ」  
力ない声で言う。  
彰紋はその様子を無表情で見つめ、  
「彰紋じゃない…ですか、僕は僕ですよ?ずっとあなたを見てきた…。  
そう、彼よりもずっと…ずっと前から」  
「今ここにいる僕が僕じゃないというのなら…あなたは僕の何を知っている?  
何も知らない、知ろうとも…しなかったのだから」  
ガッとこんどは後ずさる花梨の腕と腰を引き寄せる。  
「やだっ!!」  
もう一方の手で抵抗しようとするが、隙を取られガタッと組み敷かれる。  
「やめて…彰紋君、こんなの…」  
花梨の目に大粒の涙が零れ落ちる。  
「…あなたは、彼のことで頭がいっぱいだったろうですからね!」  
 
夕日が二人を照らす…赤い花びらが床に散らばって…  
「んっ…」  
彰紋が花梨の唇をまるで貪るかのように塞ぎ、口内を犯す。  
その小さな舌を絡めとリ、ピチャピチャと淫乱な音を立てる。  
と、そのとき、ガッと花梨が歯を立てた。  
彰紋の唇に微かに血が滲む…。  
だが、それは彰紋にとってはささいな抵抗にすぎない…。  
「…駄目ですよ?花梨さん。おいたは?」  
ぺロッとそれを舐め挙げる。  
「ひ…人を呼び…っ」  
そう言いかけてふと気付く。…そうだここには誰もいない。彼と私だけ。  
「…っ」  
歯をかみ締めて尚も涙を流す。  
「そう、無駄ですよ。ここには誰もいない。それにいたとしても…ね?」  
「!?」  
スルッと花梨のスカートの中に手を忍ばせる。  
一枚の布の上から秘部の亀裂をゆっくりと何度も何度もなぞっていく。  
「ひやっ…あっ、っ」  
びくっと花梨の体が反応し、みるみるうちに顔が赤くなっていく…。  
それを満足そうに眺め  
「花梨さん、別の世界から来たあなたに…僕がこの世界でどのような地位に  
いるのかご存知ですか?」  
「!?」  
その瞬間、秘裂をなぞっていた指が止まり、濡れてきたそこに  
ずぼっと指が一本入れられる…。  
「あぁ…っ!あ、あ、やめてやめてやめてぇ…っ!」  
「僕が思えば…思い通りになれぬことなど…そうはないのですよ…?」  
耳元で囁く。  
「あなたの体は…今宵我が思いのままに…」  
 

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