ある日、私は自分の身体が自分のものではない感覚に襲われた。  
いくつもの時空を越えて、体が何処か麻痺でもしてしまったのだろうか?  
 
そりゃ、たくさんの時空を越えた。  
八葉全員、そして白龍や知盛とも結ばれた。  
皆で、私達の世界にも帰ったりもした。  
それでも、何処かで満足出来ない自分がいて、再び京へと舞い戻る──その繰り返しだった。  
 
でも。  
「何処かが満たされないんだよね…。」  
誰もいない、京邸の部屋の中で、一人呟いた。  
どの運命を選ぼうと、どんな行動をしようと、決して満たされぬ飢えにも似たこの思いは一体何だと言うだろう?  
「それは、きっと神子が一人じゃないから。」  
突然、後ろから声がかかり、私は驚いた。  
「わっ!…白龍?いきなり後ろから驚かせないでよ。」  
「ごめんなさい、神子。」  
シュンと落ち込む白龍。  
…やっぱかわいい。  
「別に謝る程の事でもないって。…で?私が一人じゃないってどういう事?」  
ぎゅっと後ろから抱き締めながら、白龍に聞いた。  
「神子が中で複数存在している。」  
「…は?…複数?」  
「うん、神子の中には、1、2、3…10人いる。」  
「10人!?…ちょっと待って!それって…多重人格って事?」  
「タジュウ…?よく、わからない。」  
「つまり、例えるなら…その〜何と言ったらいいか…。」  
どんな風に言ったら良いか考えあぐねる私に、白龍は言った。  
「タジュウ…と言うのは、よくわからないけど。神子の中には、将臣が好きな神子、九郎が好きな神子、ヒノエが好きな神子…。」  
弁慶が、と言いかけた所で、ストップをかけた。  
「…全員分挙げなくても、大体わかった。つまりは八葉各々が好きな私が中にいるって事ね?」  
「うん、でも八葉だけじゃなくて知盛が好きな神子も存在しているよ。」  
「彼まで…?」  
私は頭がクラクラするのを感じた。どうも、あの人は何処か苦手だ。…とは言っても、その傍ら気にかかるのも確かなのだが。  
「あなたが知盛を苦手とするのは、おかしくも何ともないよ。今いる神子は、私を愛する神子なのだから。」  
「そ、そう…ありがと?」  
心の内に密かに突っ込みを入れつつも、話を続けた。  
 
「そういうのが、多重人格って言うんだけど…じゃ、このままでいる限りは満足出来ないって事?」  
「うん、そうなるね。」  
「そもそも、こんな風になっちゃったのはどうしてか、わかる?」  
「神子、逆鱗を使ってたくさん時空を越えた。その影響が心身に現れた。」  
「…つまりはこの逆鱗の乱用が原因って事?」  
「うん。」  
自分の中に『使用上の注意:逆鱗の乱用はやめましょう。』等と言う言葉が浮かんでくる。…しかも特大で。  
「…いや、そんなアッサリと…どうにか、出来ないの?」  
「神子が願えばいい。」  
「願うってどんな風に?」  
「満足出来ますようにって。」  
「…本当にそんな願いでいいの?」  
「うん、神子。私を信じて!」  
「信じろって言われてもなあ…。」  
一人小声で愚痴たのが聞こえたのか、白龍の目がうるうるし始めた。  
「わ、わかった!信じる、信じるから!」  
そう言った途端に、にこっと笑う。  
…こういう現金な所も好きだけどね。  
「んじゃ、とりあえず…願えば良いのね?」  
「うん。神子の願いは、私が叶える。」  
祈るような仕草で、言われた通り、『満足出来ますように』と願った。  
 
その時、白龍は真っ白い光を放って。  
何処からかぼこぼこぼこっと、水が沸騰する時と同じ音が聞こえて来た。  
なんだろう?と思う間もなく、私は意識を失った。  
 
 
目が覚めた時は凄く驚いたのと同時に、白龍が言っていたのはこういう事か、と納得した。  
 
目の前に同じ顔が九人ワラワラと並んでいて、しかも「呼び名はどうしよっかー?」等と呑気な事を言っている。  
「いや、あなたたち…それよりももっと言うべき事あるでしょ?」  
「いいじゃなーい、これで皆が幸せなんだから。ねっ、将臣くん。」  
「ま、これはこれで平和とも言えるよな。」  
将臣くんがあまり物事にこだわらない性格なのは知っていたけど、ここまでとは…。  
さすがは平家をまとめるトップといったところだろうか。  
しかし、もう一人の私も私で、ここまで脳天気…もとい。楽観的だったっけ?  
 
「しかし、これだけ先輩がいるのは混乱しますね…。」  
「讓くん…。讓くんを好きなのは私だけだよ?」  
目をうるませて、他の女なんか見ちゃ嫌などと言って、讓くんにすがりついている。  
「あっ、いえ…その…あの…。」  
讓くんのパニックは当分治まりそうにもないだろうな…。  
 
九郎さんはと言えば、あちらでもう一人の私と共に混乱に陥って、喧嘩おっ始めてるし…。  
「なんで、こんなにお前が沢山いるんだ!?」  
「私であるけど、私じゃないんだってば!何度言ったらわかるのよ!」  
「わかる筈ないだろ!」  
「この頑固者!」  
「そういう問題か!?」  
…まあ、放っておけば次第におさまるでしょ、うん…。  
 
 
「あなたがこんなに沢山いるなんて…。」  
「敦盛さん。どんなに私が沢山いようとも、私は私です。あなたを愛するのも、私一人だけ…。」  
「神子…こんな汚れた身で…本当に良いのか?」  
「敦盛さんでなくちゃ、駄目なんです。」  
「神子…。」  
 
 
「しかし、こんなに姫君がいると、まいっちまうな。」  
「ヒノエくん。もしかして、全員口説こうなんて思ってないでしょうね!?」  
「まさか。そんなに信用ないかな、オレって?」  
「そういう訳じゃないけど…全て私であり、私じゃない訳で…。」  
「オレは、お前一筋だって。信じさせてやるよ。」  
「ひ、ヒノエくん…。」  
 
 
「ふふ。本当に眩しい限りですね。この様に可愛らしい光が集まると。」  
「弁慶さん…。」  
「おや、どうしました?その様に麗しい瞳を曇らせて。」  
「だって…こんなに沢山いたら、私なんてその他大勢の一人になっちゃいそうで、恐いんです…。」  
「…君はいけない人ですね。その様に僕を惑わせて、どうするおつもりですか?」  
「えっ!?いえ、そのそんなつもりじゃ…。」  
「僕が好きなのは、そういう可愛らしさを見せてくれる──あなた一人ですよ?」  
 
 
…熊野組は熊野組で、すっかり二人の世界入っちゃってるし。他はアウトオブ眼中。  
 
 
景時さんは景時さんで、かなり戸惑っている模様。  
「み、みんな〜とりあえず落ち着こうよ、ね?」  
「そう言ってる景時さんが一番アタフタしてるじゃないですか。」  
「だ、だってさ〜望美ちゃんがこんなにいっぱいいたら、やっぱり戸惑うよ〜。」  
「もうっ、景時さんったら相変わらずなんですね。」  
「ご、ごめんね…。」  
「いいんです。そんな所も愛しちゃってますから。」  
「そそ、そうなんだ…。ってええ!?」  
 
…あれは絶対尻に敷かれちゃうんだろうなあ…。  
 
 
ため息をついたその時。  
しゅぱぱぱぱっ!  
……ナイフが足下に飛んで来た。  
 
「………っ!そこの二人っ!人ん家で、血生臭い争いしないで!」  
男の動きがピタリと止まり、喉元に剣を突きかけた女の動きもまた、それに習うように止まる。  
「…やれやれ。こちらは口煩い神子殿だ。せっかくイイ所だったと言うのに…な。…場所を移して……ヤるか?」  
「望む所よ、知盛。あなたがいる場所なら、どんな所だろうと構わない。」  
「クッ、…それは俺を口説いているつもりか?」  
「なっ…!わ、私は…。」  
「わかっているさ…お前が俺をどれだけ欲していたか…その体も、心も。」  
「とっ、知盛っ!」  
「…行こうぜ。それとも、ここで続けたい…なんて、言う気じゃ…ないだろう?」  
「んっ…。んん……。」  
 
人目憚らずのディープキスをしながら去って行く。  
…ある意味、この二人も他が全く見えてないよなあ…。  
 
 
さて、先程の記憶が確かなら、私は白龍な筈。  
一体どこ行っちゃって……って、ええ!?  
 
「大好きだよ、私の神子…。」  
「私もよ。だあいすき……。」  
「神子…嬉しい。」  
「ねぇ、白龍?私、ずっと聞いてみたかったんだけど…白龍が私にして欲しい事ってないの?」  
「…して欲しい事?…神子が望みを言う事…だと思う。」  
「それじゃ、ダメなんだってば。何か…したいなあって思う事とか、ないの?」  
「神子の望みを叶える。それが一番したい事。」  
「もぉ〜、それじゃダメなんだってばあ。」  
 
………なんでしょう。この私達の世界でも見かけないバカップル。  
うっすらとハート乱舞まで見えてます。  
 
……と言うより、いつの間に分離していたんだろう…先程の記憶は皆共有してるのか……。  
 
……ん?  
将臣くんに九郎さん。ヒノエくんに、弁慶さん。讓くんに、景時さん。敦盛さんに、白龍…知盛は既に売約済み。  
 
と、言う事は…私の相手って……。  
「神子。」  
後ろから聞こえてきた低い声に、体がピクッと反応する。  
「……先生…。」  
「私は……お前なのだな。」  
「は、はい…。そう…みたいですね。」  
「お前は…私では満足出来ぬか?」  
「いえっ!そんな事は決して!!」  
「そうか、ならば良かった。」  
何だか、やたら嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。  
突如、マスクを取る。手袋めいた物も外し、マントまで取ってしまった。  
「せ、先生?」  
「どうした、神子?」  
「…何故、私は抱っこされているんでしょう?」  
しかも、お姫様抱っこ。  
皆がまだいる中、これはかなり恥ずかしい。  
「無論、お前を寝所まで運ぶ為だが。」  
「なっ…!?」  
「先程、私では満足出来ぬ事は無いと言っていたではないか。」  
……そういう意味でしたか。  
それならそうとはっきり…と言ったら言ったで問題あるけど。  
私は何の抵抗の術も持てずに、そのまま寝所まで連れて行かれた。  
 
 
その夜。  
 
 
「将臣…くん。やっ、もうダメェ……。」  
「暫く離れていたんだぜ?もう少しお前を味わわせろよ。」  
「だって…もう三回も…。」  
「まだ、三回だ。…これっぽっちで三年分埋まるなんて甘いぜ。」  
「やあっ…んっ…。」  
 
 
「九郎さん…。」  
「のぞ、み……。くっ!」  
「い、痛い…よ。」  
「こ、これでか!?」  
「は、早く…抜いて……。」  
「し、しかし、まだ入れたばかりだぞ!?」  
「んじゃ…は、早く…して。」  
「し、しかし…。」  
「お願いだから…早くして…。裂けちゃうよ…。」  
「わ、わかった…。」  
 
 
 
「ヒノエくん…。いい、よ…気持ち…いい…。」  
「お気に召したなら、幸いだ。もうちょい動いても大丈夫そうかい?」  
「う、うん…多分、大丈夫…?」  
「痛かったら、すぐ言うんだぜ?」  
「んっ……ああっ!」  
 
 
「弁慶さぁん……。」  
「おや、どうしました?まだ、御奉仕が終わっていませんよ?」  
「弁慶さんが…欲しいの……。」  
「まだだと言うのが聞こえませんでしたか?いけませんね。それとも…お仕置きが必要ですか?」  
「んっ…んん…。」  
「そう、それでいいんですよ。素直な人は大好きですから。」  
 
 
「ゆっ、ずる…くん…。」  
「先輩……俺…俺はっ!」  
「いい…よ。とても、気持ち…いい…。」  
「先輩…。」  
「もっと…激しくしても大丈夫だよ?」  
「先輩…先輩……っ!」  
「ああんっ……讓…くん。」  
「せん、ぱい……くぅっ!」  
 
 
「の、望美…ちゃん。」  
「気持ち…いいですか?」  
「駄目だよ…そんな、君が上なんて…。」  
「私はいいんです。…景時さんが気持ち良ければ……。」  
「望美ちゃん…。」  
「一緒に…いきましょう?」  
 
 
 
「み、神子…駄目だ。」  
「どうしてですか?」  
「わ、私は汚れているから…神子に触れる訳には…ああ!」  
「大丈夫です。私も汚れないし、あなただって…とても綺麗だから。」  
「神子…。」  
「一緒に、気持ち良く…なりましょう?」  
「……ああっ!」  
 
 
 
「神子……。」  
「やっ…、そんなに激しくしたら…おかしくなっちゃ…。」  
「私は…とうの昔におかしくなって…いる。お前を抱きたいと…こうなる事をずっと…望んでいた。」  
「せんせ……ああっ!」  
 
 
「神子…神子の中はとっても気持ちがいい…。」  
「白龍…。駄目…。」  
「どうして?私のは…気持ち良くならない?」  
「そうじゃ…ないよ。気持ち…いい。とても…。」  
「そう、…良かった。神子が気持ち良くならないと、私も気持ち良くない。」  
 
 
 
そして、また。  
 
 
「知盛……。」  
「何だ…もう、限界か……?」  
「もう、さっきから言ってる…じゃない…。」  
「剣ではそう簡単に降参しないだろうに…。」  
「だって…ホントに…もう…。」  
「ならば…やめるか?」  
「意地悪……。」  
「…クッ。わかったよ。神子殿のお望みのままに…してやるさ。」  
「あっ…ああん……知盛……。」  
 
 
 
知盛の部屋で望美の悲鳴が上がり。  
 
京邸では、九人の望美の嬌声が大合唱となって響き渡ったと言う。  
 
 
 
 

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