さて。好きになったと自覚したはいいが、後はどうするか。  
伝える――といっても、反応があまりに恐ろしい。  
きっと毒キノコでも喰らったんだろみたいな冷凍光線を浴びせてくるのだろう。  
厚い氷壁に遮られて望美など相手にもされないのだ。結果はわかっている。  
まさに言うだけ無駄という部類の想いなのだろうな・・・。  
とは思いつつ、このままただ秘めているだけなんて望美らしくない。  
それに、告白がきっかけとなってあの仏頂面にも何らかの変化の兆しが表れるかもしれないじゃないか。  
ものごっつい前向きさを武器に、泰衡へ恋心を伝えてみた。  
 
――――そして深く後悔した。  
 
そう、例えるなら。毒キノコと一口に言っても、望美の世界でいう"りぼんに咲くどくだみの花"の  
異名を持つあの巨匠の世界に繁殖する例のキノコでも喰らったか、のような感じ。  
凄まじいとしかいいようのない拒絶をしめされた。  
声こそ荒げず肉体的な暴力は与えてこないものの、散々豊富な言葉の知識でもってこき下ろされ、  
槍のような眼力で串刺しにされ、黒いオーラで吹き飛ぶほどの威圧を受け。  
一体自分に惚れたと告白する女にどうしてそこまでできるのかと同性さえ怯えるだろう位にしてから  
何事もなかったかのように無表情で去っていった。  
跡には、精神的にボロきれと化した望美が一人ぐったりと残された。  
 
その日は流石に守ってあげたいとかいう優しい気持ちはかき消され、自分の男の趣味の悪さを  
嘆くしかなかった。  
「泣かないで、私の神子」  
仰向けで大の字になって腐っていたら、白龍(大)が慰めにきてくれた。  
「ううっ、ありがと白龍・・・今日もチャイナ服がまぶしいよ・・・」  
「泣かないで。私にも手伝えることがあればいいのだけれど・・・ごめんね、神子」  
「えっ?何いってるの!白龍はぜんっぜん悪くないんだからね。謝らないで。  
・・・・と、いうか。むしろ問題は私だよ・・・。  
よく考えたらこんな魅力的で素敵な人たちがズラリ勢ぞろいの真っ只中にいて、なんであんな  
東北産ツンデレを・・・。へへッ、笑っちゃうよ自分を」  
望美がさらに腐ると、純粋な龍は真顔で口を開いた。  
「神子。五行に相生・相剋があるように、人の心にもどうしようもない決まり事があると思う。  
八葉は皆本当に気持ちの良い人たちだ。  
それぞれに良いところがあり、それぞれに人をひきつける何かを備えている。  
けれどあなたという神子が求めるものとは違った。鍵が合わなかったんだ。  
それだけだよ。良いとか、悪いとかいう問題ではない」  
「白龍・・・それはつまり私が、俗にいうツンデレ属性ということかしら・・・」  
「人の言の葉むずかしい」  
「・・・・・」  
 
いや、そもそもあの男にデレの部分なんてあるのだろうか・・・そんなこと口にするだけでムチで  
しばかれそうなんだが・・・  
「けれど、神子。あなたが泰衡を見る目はとても自然でいいと思う。あなたは優しいけれど、  
どこか『そうしなければいけない』という思いを常にはらんでいるからね。  
でも、あの泰衡に向けているのは『そうしたい』だ。それはすごくきれいで、あたたかい。  
人の心は移ろいやすいものだけれど、あなたのその想う心と誠実な眼差しは変わらないもので  
あってほしいと願うよ」  
「・・・白龍」  
少し驚いた。この自分を守護する龍にはそんな風にうつっているのか。  
・・・この苦労と忍耐の毒々しい日々をきれいとか言われるとちょっと悲しいものがあったりするが。  
「けれどね神子。どんなことがあってもこれだけは忘れないでほしい。困ったら相談して。頼って。  
打ち明けて。みんな神子の力になりたいと願っている。私たちは常にあなたのそばにいるのだからね」  
その優しい笑みに揺り動かされて、再度目が潤んでくる。  
ああ、白龍。私の輝く美しい龍。  
あなたは無印ではEDスチルを二つも持つ存在だったのに。  
(大)時の格好と言動と傷舐めスチルがアレだったせいなのだろうか、追加ディスクでは  
男性キャラなのに新ルートもなく恋愛サポートキャラに徹するハメになってしまって。  
――それなのに、なんてまぶしい笑顔を向けてくれるんだろう。なんて優しい龍なんだろう。  
私だったらちゃぶ台ひっくりかえして夜の屋台で管巻いてる。  
 
だいたい、あんな庇護欲かきたてる可愛らしさの化身そのものの(小)最初に出しといてからに、まったく。  
・・・せめて初めからこの似合ってるチャイナ服ならなあ・・・  
特にあの通常時のベルトの龍はないと思う。  
あんまりではないだろうか、紅・・・・・・・ゲフンゴフンゲフン。い、以下略。  
 
「神子どうしたの?」  
「ううん何でもない。白龍・・・あなたの神子はあなたのこと、大好きだからね」  
「??うん、私も神子が大好きだよ」  
望美は目をごしごしこすると、決意の表情で己の龍を見上げた。  
「これから起こす行動で、きっと白龍の守護する京にも永い平安が訪れるから。  
どうか信じて。私に、奥州に力をかしてね」  
「うん、わかっているよ神子。あなたは私の神子。私はあなたを信じている」  
「パイロン!」  
「神子!」  
龍とその神子はひしと抱き合い、絆を確かめあったのだった。  
 
 
次の日。泰衡は「迷いは消えたか」と冷たく問いかけてきた。  
「ええ、ますますブチ堕としてやりたくなりました」――と返した。  
望美は己に心底から自嘲する深いため息をつくしかなかった。  
逃げられると追ってしまうのだ。性だ。どうしようもない。  
 
 
その後も。彼自身も、彼を快く思っていない人々の残酷な噂話も、時に望美を傷つけた。  
それでも彼女は勇気を出して、隔てる氷海を渡ろうと小舟を漕ぎ出してしまったのだった。  
親友が絶対無茶だから戻ってきなさいと呼び止める姿に、大丈夫ちゃんと氷割りながら進むから  
――と元気よく手を振って。  
 
 
 
――後から思い返すと、あの男のうんざり顔の向こうには、様々な感情がうごめいていたと気付ける  
のだけれど。  
 
 
 
かくして、周囲にはバレないよう気を使いつつもの壮絶な気持ちの追いかけっこが始まった。  
もっとも見られた所で冗談としか捉えることができないものだったが。  
九郎などは二人が移動の際も時を惜しんで激しい鍛練を重ねていると思いこみ、  
少しばかり二人の株をあげつつも、  
(ああ、望美、泰衡殿、真剣なんだな・・・。・・・当然か・・・。それに比べ俺は・・・)  
と、思い悩みを深くしていた。  
確かに望美のこの頃の毎日は激しかった。  
好きだと言えば気のせいだと素っ気なく、  
気になるといえば俺はまったくと鼻で笑われ、  
私を見てほしいと言えば強烈すぎて直視できんと真顔で切り捨てられる日々。  
後半は望美もちょっとヤケ入ってきた。  
 
しかして。  
毎日恋心を伝えられる方の身になってみれば、少しばかりは過剰な意識を持ってしまう  
ものかもしれない。  
「俺などより――あなたには、おそばに使い勝手の良い方が幾人も控えておられるのだから・・・  
このようにお暇を持て余しておいでなら、お相手してさしあげたら如何でしょうか?神子殿」  
こればかりは言ってはいけなかった。  
年頃の少女が想い人を見上げる優しさを帯びた瞳と、少々の熱をもった柔らかい表情。  
なんだかんだでそれを望美は泰衡に向けていたのだが、突如、一瞬で失われた。  
まるで遮光のカーテンを乱暴にひいたようで。  
目を見開いて凍りつく望美に異質を感じて流石に失言に気付いたのだろうが、もう遅い。  
「・・・」  
顔の色を失くしたままに、望美は手を振り上げる。  
パン。  
容赦なく自分の頬を打った。  
「・・・」  
「・・・」  
「・・・痛い」  
「だろうな・・・」  
はたから見たら訳のわからない状況だったろう。泰衡にもよくわからない。  
望美は頬に手を当てしばらく微動だにしなかったが、やがて今にも絶えそうな声で呟いた。  
「・・・今のは、自分への罰です。今の台詞を引き出させたのは結局私だから。私が言わせたも同然  
だから」  
目を伏せたまま、ばっと勢いで頭を下げる。  
「ごめんなさい!そんなに嫌だったなんて、  
・・・ちょっと気付いてたけど、気付かないふりしてしまいました。  
もう、やめます。本当にすいませんでした。  
・・・だから、申し訳ないけど。今日はもう自由にしてください。  
明日にはちゃんと白龍の神子に戻ってますから、・・・お願いします」  
言い捨ててその場から猛然と逃げ去ろうとしたが、こんな時まで揺らぐことをしない低い声が耳に  
届く。  
「明日は早いぞ。――しっかりと整理をつけてきてくれ」  
さすがに、酷いと思った。涙腺がゆるみそうになる。  
いたたまれなくて、少しでも早く泰衡から遠のきたいとばかり願い、わきめもふらず逃げ出した。  
後にぽつんと残されたのは、頭は良くても不器用で馬鹿な男が、唯一人。  
 
大事な仲間達を一人一人思い浮かべ、一人一人に脳内で謝罪する。  
走り走ってもういいだろうと思うと、望美はゆっくりと足の速度を落としてゆき、しまいには  
トボトボと道を進んでいた。  
・・・。  
あーあ。かっこ悪い、意味不明。  
さらに変な奴と思われただろうな。・・・ふん、お互い様だから別にいいけど。  
・・・・・・。  
冬も終わりに向けて静かに動き出している。目に入る白が少なくなった。  
地面にのしかかる積雪量がかなり減少したのを感じる。ホッとしたような大地の姿が、頭と心から  
何か重いものが抜け落ちた自分の気持ちとかぶった。  
なんか、私。ひょっとして・・・むきになっていただけかもしれない。本当に好きだったのかな。  
失恋したはずなのに、何でこんなに軽くなった気がするんだろう。  
爽快感と少々のむなしさを身にしみこませ、望美は大きく深呼吸をした。  
・・・さあ、気持ちを切り替えなきゃ。明日からまた毎日顔を合わせるんだから。  
この話は終わり。次いこう、次。  
ところで。  
 
 
「――ここはどこ?」  
 
・・・・・・・・・・・。  
ヤ。ヤバい。迷子になった。  
ま、間抜けすぎる。ある意味さすが私。いや、そうじゃなくて。  
迷子になっただなんてあの人にバレたら、またに嫌味&眉間にしわの凍てつく波動をあびせられるではないか。  
イヤー!!と頭をかかえたところで、はたと気付く。  
 
・・・また、『あの人』か、私。  
 
自分にため息をつく。駄目だ。離れようと決意しても心が離れてくれない。  
――嫌な男だ。どうしてこんなに私を惹きつけて放さない。――忌々しい。  
 
次の瞬間。  
馬の嘶きが穏やかな空気をつんざいたのを耳にして、はっと我に返った。  
平泉ご自慢の駿馬の鼻面が目前に迫っていて、驚く。・・・乗っているのは。  
望美は信じられなくて思わず口をふさいだ。  
(・・・嘘)色々な意味で信じられない男が馬の上から見下ろしている。  
「どういう足をしているんだ・・・ここは奥大道の入り口だぞ・・・」  
呆れを通りこしてドン引きしています。  
どう見てもバッドエンドです。本当にありがとうございました。  
「・・・その女の足に馬でやっと追いつく人に言われたくないです」  
望美は無表情なままやさぐれた心そのものを言の葉で押し返した。  
泰衡は思いきりムッとしたようだが、例のごとく表情に出るのは微量だ。  
空間にバチッと火花が散った。とてもほれたはれたの話に発展しそうもない。  
(あれ、でも・・・追いかけてきてくれたのか・・・しかも自分で)  
それに気付くと、つい望美は反省の色を顔にのせてしまった。相手も喧嘩をしにきたわけではない  
ので、それを見るとすぐに怒気をひっこめる。しばらく気まずい空気が流れたが、馬から降りた  
泰衡が背を向けたまま「――悪かった」と吐き捨てるのを聞いて、望美も顔を伏せ「あ、いや・・・  
私も・・・すいませんでした」と返してしまった。  
再度の沈黙が訪れる。  
謝った。この男が。信じられない。私はそれほどまでに重要な手駒か。  
・・・いや、そんな言い方は良くない。きっと重要な・・・存在なんだ。  
相棒としてだけど。  
・・・駄目だ。いつまでもこんな考え方していられない。  
望美は泰衡の前にたたっと走って回りこむと、ぎこちない笑顔を浮かべて和解を促してみた。  
「じゃ。えっと、これからもよろしくお願いします。  
もちろんもう変なことは言いませんから安心してください」  
多分握り返されることのない片手をためらいがちに差し出す。案の定相手は微動だにしない。  
望美が呆れて半目になるのと、予想外の答えが返ってくるのが同時だった。  
「俺でいいのか」  
「へ?」  
「本当に俺でいいのか、と訊いている」  
苛立ちの混じった低い声が放たれた言葉は、望美の瞳を大きく見開かせた。  
――それって。  
望美が呆然としていると、相手は心底面倒くさそうににがいため息をついた。  
「蜘蛛の巣にかかるとはまさにこのことだな・・・」  
・・・本当に忌々しい。  
 
「――まあいい。とにかく早急に戻るとするぞ神子殿。この忙しい時分にとんだ余興を感謝するよ」  
いや、"まあいい"とかで締めくくれる話じゃないはずなんだが・・・しかも余興・・・さらに口調が  
憎々しげ・・・・・・し、視線が氷柱のよう・・・  
 
・・・。えーと。OK・・・もらえたんだよね?これって・・・  
 
望美は行き場のないツッコミの手をさまよわせながら、ガクッとうなだれた。  
 
 
それでも。かぽ、かぽと馬に揺られながら、背中に想いの通じた(と思いたい)人の存在を感じている  
時間というのは、なかなかに悪くなかった。  
左手をちらと見やる。  
手綱をひく手と、あでやかな金糸で丁寧に刺された下がり藤の刺しゅうが黒地に広がる。  
ああ、近いなあ・・・と再認識して、(一応)特別な相手になれたんだなと実感し、ついつい赤くなってしまう。  
そんな夢見心地の望美に、想い人は耳元で三つの条件を要求してきた。  
 
一つは、とにもかくにもまず第一に鎌倉攻めを念頭に置くこと。  
一つは、忙しいからそんなに相手できないということ。  
一つは、どうせすぐ終わる付き合いだから深く考えるなということ。  
 
「・・・・・・・・・・・・・・。」  
胸ぐらつかんで馬上から一緒に転がり落ち、殴り合いの大乱闘に持ちこみたいという気持ちをぐっと  
こらえ、望美はひきつった笑顔で泰衡の話を愛の力で聞き流した。  
 
 
結局望美はいろんな意味で舞い上がっていて、忙しいと毒づいた人間が操る馬の足がとてもゆったり  
したものだったことに気付くことをしなかった。  
そして、あまりにもふざけた三つの条件が、望美にではなくどちらかというと吐いた本人に向かった  
戒めの言霊だったことにも気付かなかった。  
そうすると、当然、長く孤独だった心の闇色に突然月の光が射しこむなどという狂気の恐ろしさ  
にも気付くことはできなかった。  
もちろんそれらを全て承知した上で、望美の心に離れていってほしくないと願ってしまった相手のことも。  
 
 
 

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