何度も語りかけた。けれど返事はなく。  
何度も頬に、手に触れた。けれど、決してその手を握り返してくることはなかった。  
どうしても、もう一度彼の呼び声を聞きたくて。  
どうしても、もう一度抱きしめられたくて。  
そして伝えられなかった想いを伝えたくて、彼の想いに応えたくて、望美は時空を越えた。  
手の中の白き鱗に、彼を救ってみせると誓い、目の前の”彼”に、別れを告げた。  
 
 
時を越え、再び歴史を辿っていく中、望美はあの不思議な枯れ木の前を通りがかった。  
特に意識した訳ではなく、自然と、足が向かっていたようだ。  
まるで、見えない何かに引き寄せられるかのように。  
 
再び、逆鱗が鳴いた。  
彼女はねじ曲がり消えていく景色に、期待と不安を抱いた。  
願わくは、銀に逢えますように、と。  
 
 
「どなたかおいでなのですか」  
闇に支配された空間から一転、桜の舞い散る屋敷で、望美は意識を取り戻した。  
「…先程の光は?あなたの使者達のものでしょうか?」  
 
 
黙りこくったままの望美をいぶかしげに思ったのか、彼は口を噤み、静かに濡れ縁に腰を落とした。  
ギィ、と床がきしむ。音が御簾の向こう、長い髪をした者がこちらに近寄ったことを彼に知らす。  
 
「誰…ですか?」  
 
何処か震えるような、か細い声が返ってきた。  
「…名乗りあう必要はないでしょう、今の私達には。」  
「知りたいんです。ここが何処なのか、何時なのか、…あなたが誰なのか」  
 
「あなたが、私の知る”銀”なのか…」  
 
何処の女とも知れない、いつこの屋敷に紛れ込んだともわからない相手なのに、その声が心に染み渡る。  
御簾向こうの彼女がとても悲しそうに見えて。  
彼も、御簾ににじり寄り、彼女と向かい合った。  
月がそっとその姿を垣間見せ、向こう側の様子をぼんやりと見せる。  
 
「私も…あなた知りたいと思ってしまいました。あなたのその鈴のような声を、もっと聞きたいと…」  
「銀…」  
「姫君、私はそのような呼び名を頂いた事はないのですよ。悲しいかな、あなたはどなたかと私をお間違えのようだ」  
「そんなことないよ。あなたは銀だよ。私は、あなたを間違えたりしない。もう、見失ったり、しない。」  
 
不確かで曖昧な言葉に、けれど静かな情愛が込められた言葉に取り付かれていくのを感じる。  
何度誰と逢瀬を重ねても、今のように胸が締め付けられるのは初めてだ。  
御簾越しに添えられた手に、自分の手を重ねる。  
 
「あなたは、私をご存じなのですか?」  
「知ってる。…立場も名前も知らない。でも、あなたがどんな人か、短い間だったけれど…ずっと見てた」  
 
御簾を挟んで、ゆっくりと相手の体温が自分に入ってくる。  
 
「あなたを何とお呼びすればよろしいでしょうか。あなたは私を”銀”と呼ぶのに、私にはその術がない」  
 
風が吹き、雲に姿を隠していた月がその姿を現す。  
差し込んだ光は屋敷を照らし出し、中にいる望美に、彼の姿をはっきりと見せた。  
 
「…しろ、がね…」  
そこにいたのは何処か幼いような、けれど紛れもない彼だ。  
視点の合わない、いつも空を眺め同じ言葉を口にしていたその人でなく、記憶の中の、彼女をみつめる彼の姿がそこのはあった。  
 
喉の奥に、熱い何かが込み上げてくる。  
 
泣くまいと、銀を失ったあの日から必死に堪えてきたのに。  
泣いてしまえば銀がいないという事実、もう本来の彼は戻らないという予感を認めてしまうようで、それが怖かった望美は決して泣かなかった。  
人形のようになった彼を、その腕に抱いた時の涙が、最初で最後、そう決めていた。  
 
けれど、その彼を目の前にして、望美の小さな決意など融けてしまったようだ。  
はらはらと頬を伝い、目から零れ落ちた雫が音もなく衣服へ消えていく。  
 
 
「十六夜の、君…」  
 
聞き覚えのある呼び名に、知らず知らず落としていた視線を御簾へと戻す。  
 
「あの月が浮き雲に姿を隠し、眩い光を此処へ落とした時に、あなたがいらしたから。  
 こうお呼びしてもかまわないでしょうか、月の姫君?」  
「う、ん…」  
「姫君?」  
 
涙を悟られないよう、声を押し殺していたのに、つい出た返答に、月明かりを受ける彼はこちらの変化に気付いたようだ。  
いや、もしかしたらもっと前に気付いていたのかもしれない。  
望美の中の彼も、気付かぬ振りをする優しさを兼ね備えた人だったから。  
 
御簾越しに重なった手が、ふいに離れた。  
行き場のなくなった手に戸惑っていると、御簾と隣の御簾の重なった境目から、そっと望美の手を握る大きな手が現れた。  
自分を包む、大きな手。見覚えのある、優しい手。  
この感触を忘れた事はなかった。  
 
「不粋な真似はしなくなかったのですが…どうやら私はあなたに惹き付けられてやまないらしい。  
 あなたのお姿を拝見したいと、あなたの瞳に私の姿を映したいと、そう願う事をお許し頂けますか?」  
「うん…私も、あなたに会いたい。その為に来たんだもの」  
「ではこちらへ。」  
 
優しい手に先導され、差し込む光を遮る御簾を、そっと払い避ける。  
一瞬、胸元の逆鱗が鳴いた気がした。  
まるで自分を止めているかのように。警告のように。  
でも、望美には自分を止める術がなかった。  
 
御簾を開けて、目に飛び込んできたのは見覚えのある舞い散る桜と、深い闇の中に輝く月と、月の光で輝く銀色の髪。  
月の光を背負った彼は、懐かしい、そして初めての彼の姿。  
なんと、美しいひとなんだろう。  
 
「ー…私とした事が、言葉が出てこないようです」  
空いたもう一方の手が、そっと耳元の髪を撫でる。  
「思った通りの、そして想像だにしなかった方だ…まさに、あの遠い月から舞い降りた天女。」  
繋がった手に力を込め、望美ももう一方の手で銀の髪に手を伸ばす。  
「あなたも、思った通りで、でも違った…」  
もし他人が耳にすれば意味の分からない会話なのに、二人にはちっともおかしく思えなかった。  
銀にとって、異世界から来た望美の姿を想像するなど不可能だし、望美にとっても過去の銀は想像の域を出ないのだ。  
 
そんなことはどうでもよかった。  
二人にとって、今、互いを瞳に映し、触れあうことだけが真実だった。  
たとえそれが、いつ消えるとも分からない夢だったとしても。  
 
短い、けれど永遠のような沈黙をを破ったのは銀のほうだった。  
 
「先程、あなたは私に会う為に此処へ来たと、そうおっしゃいましたね」  
「そうだよ。ずっとずっと、あなたに会いたかった。私はあなたを探してた。」  
「では、私はあなたの”銀”なのでしょうか?」  
 
長い睫を不安げに落とした彼を、望美は精いっぱいの想いを込めて抱きしめた。  
不思議だ。いつもならこんな恥ずかしい事なんてできないのに。これも月の光の魔力なのか。  
それとも彼の魔力か。どちらにしろ、望美はその力に感謝した。自分の想いを伝える助力なのだから。  
 
「ごめんね、上手く説明できない。でも、間違いなく、あなたは私の知ってる銀だよ。  
 あなたは私を知らなくても、私は知ってる。この髪も、温もりも、手の優しさも…」  
「十六夜の君…あなたと私は前世で誓い合っていたのでしょうか?そうであったと想いたい。  
 あなたに出逢う為に、私は生まれてきたのだと。そして、やっと邂逅の時を迎えたのだと。」  
 
銀の力強い腕が背に廻るのを感じる。  
やっと見つけた半身を離すまいと、二人は抱きしめあった。  
 
望美は思った。  
言葉はいらないのかもしれない。彼にわかるように説明なんてできないけれど、けれど彼はわかってくれているようだと。  
 
 
遠くで楽の鳴る音がする。  
 
遠くで楽の鳴る音がする。  
そういえば、前に来た時もこの屋敷では宴が行われていた。  
 
周囲を気にする望美を、銀はそっと抱き上げ、望美がいた御簾の中へと足を進めた。  
 
「ここには、人は来ないでしょう。今日の宴は私の為。その私が、一人になりたいと出てきたのですから。」  
「宴を開くような、お祝い事があった顔にはみえないけど。」  
「月の姫はするどくていらっしゃる。あなたにはこの俗世の迷い事など、気にかける必要はないのですよ」  
「そんなことないよ!月じゃないけど、確かに私はこの世界のことよくわかってない。  
 でも、あなたに関わる事だもん、知りたいし、わかりたいよ。」  
 
いつも銀には影があった。  
楽しいときも、笑ってくれているときも、何処か遠い目をしていた。  
その理由が知りたい。できるのなら、彼に心の底から笑って欲しい。  
 
ス、と銀の長い指が望美の口元に置かれる。  
 
「お静かに、姫君。大きなお声は、人の興を引きます。今、私はあなたとの逢瀬を誰にも知られたくないのですよ」  
「バレたらまずい?」  
「いいえ…邪魔をされたくないのです。あなたの瞳に映るのは、私だけでいい。」  
 
自分を見下ろす深い紫の瞳に、まぬけな顔をした自分がうつっている。  
とたんに恥ずかしさを覚えた望美は、パッと顔を背け、先程までいた濡れ縁の桜を見る。  
けれど、銀にはその行為の理由がわかっていたようで、赤く染まった耳元に、そっと口をやった。  
 
「可愛い人…あなたは不思議な方ですね。あなただけ私を知っていて、私があなたを知らないなんて、寂しすぎる」  
 
耳元にあった唇が、首筋をたどり、項へと落ちる。  
 
思わず出そうになった声を慌てて手で抑えた。  
そこには、望美の知らない銀が、いた。  
 
「どうか、私にもあなたを教えてくださいませんか?」  
 
"教えるとはどういう事?"  
喉まできたこの言葉を、望美は飲み込んだ。その意味が分からない程、彼女は子供ではなかった。  
けれど、他に返す言葉も見つからなくて、視線がこの複雑化した想いを伝えてくれればと、それを汲んでもらえればと、ただ銀を見つめ続けた。  
 
「あなたの視線は、まるで月の光だ。時に私を焦らせ、時に優しく癒す。」  
「銀も…この銀色の髪が、空の星見たいで…ずっと綺麗だと思ってた。」  
 
初めて会った時から、ずっと、あなたが気になった。  
あの人と似ていたから?そうじゃない、それはきっかけに過ぎない。  
柔らかで気品に溢れた物腰も、ふと感じる香りも、優しい声も。  
手を伸ばせば、触れられるところに、銀がいる。彼も、自分に触れてくれる。  
何も怖くは、ない。怖いのは、再び彼がいなくなってしまうこと。それ以上に怖いことなんて、もはやないのだ。  
 
 
これが"恋"というものなのだろうか。  
 
 
ゆっくりと近付いてくる銀の顔を見つめながら、衝突に思う。  
銀色の髪が望美の紫の髪に触れる。同時に、望美は瞳を閉じた。  
 
キスは初めてではない。  
でも、ずっと、何故唇が触れあう際、目を閉じるのだろうと不思議に思っていた。  
相手の顔を近くで見れるなんて、素敵じゃないかと。  
 
触れあった唇が、酸素を求め少し離れる。  
その少しの時間すら許さないかのように、更に強く、けれど優しく唇が重なる。  
次第に荒くなる、呼吸と、高鳴る鼓動。彼に、この心音は伝わってしまうだろう。自分のものではないくらい、早く早く高鳴っているのだから。  
 
再び、衝突に悟る。  
今までのキスは、意識して目を閉じていたのだと。そして、今、この瞬間、自分は自然と瞳を閉じた事に。  
瞳を閉じれば、視覚を失った体が、他の感覚を研ぎすましている。  
感じる匂いも、温もりから熱へと変わり行く体温も、耳に響く鼓動も。全てを感じ取れるからだ。  
 
受けるに徹していた望美が、今度は自分から唇を押し付ける。  
嬉しかったのだ。  
自分のものだとばかり思っていた早い鼓動。それは、銀のものでもあったから。  
望美の中で、何処か遠い、薄布の包まれていた感情が、リアルになる。  
これは恋だ。惹き付けられてやまない、この人の為ならどんなものさえも投げうってしまいそうになる程の、狂おしい感情。  
 
 
ごく自然に、互いの唇が離れた。そして、銀の優しい手が望美の襟元に伸びる。  
侵入してくる手が思ったよりも冷たくて、思わず声を上げた。先程、声を上げてはいけない、と言われたのを思い出して、慌てて自分の目の前にある目を見た。  
「ごめん…」  
「大丈夫、ですよ。このような際に乗り込んでくる不粋極まりないものなど…一人くらいしかいませんから」  
「一人って…いるんじゃない!」  
「お気になさなずに。もう、とっくに宴から抜け、この屋敷を出ているでしょう。」  
こんな話をしている方が不粋ですね、と銀は笑った。望美もつられて笑った。  
そして、ひときしり笑って、とうとう望美の体が押され、銀を見上げるかたちになった。  
 
再び口付けを受ける。今度のものは、先程とうって変わって、熱を帯びた激しいもの。  
その波に呑まれる内に、知らず知らず、望美の体はそこかしこを露にしていた。顔が火照って、熱い。  
髪を一房とり、持て遊んでいた手が、そっと頬を撫で、首筋をなでる。  
どうしようもない波が、望美を襲う。心臓は疲れを知らず、高鳴り続けている。  
 
「あ」  
銀の手が、首から肩へ、そしてついに胸を降りてきた。  
「あ…ん」  
今までにない感触に、痛いまでに視線を送り続ける瞳に、翻弄される。次第に息が切れ、目には涙が浮かんでくる。  
 
胸への愛撫に、首や耳への口付けに、時に激しいキスに。そして、脇から腰へと辿られれば、意識しなくとも熱が体の中心部に集まってくる気がする。  
悟られないように、望美はその熱に必死に耐えた。けれど愛撫は止むどころか速度を増して。  
「ひゃぁ…んっ!!」  
立ち上がっていた胸の頂きに、ついに彼の唇が触れれば、望美の抵抗など簡単に消えてしまいそうになる。  
体の熱が、下腹部、足の付け根に集中し出したことをはっきりと感じる。  
片方の頂きを口に含まれ、もう片方を手に愛撫され、思考回路がうまく機能しなくなった望美の足は、そっと太腿を擦り合わせていた。  
 
それに気付いた銀の右腕は、唇が重ねるのと同時に、胸から脇腹へ、そして熱の溜まった場所へと向かった。  
そっと、指先が布の下に潜り込み、秘所を撫でる。指にねっとりと、熱っぽい粘着質のそれがからみつく。  
「あ…ダ、メ…ぇ」  
唇が離れた隙を狙って、望美の震えた批判が漏れる。  
「例え意味を持たずとも、あなたのこの口から否定の言葉は聞きたくないのです」  
少々乱暴に、銀の唇が再び望美の口を塞ぐ。それに足らずか、舌が唇の割れ目を舐め上げ、そっと中に侵入する。  
何かに縋りたくて、望美の手が銀の肩に辿り着く。その手を優しくとり、銀は手にも口付けを贈った。  
そして更に手を布の下へ入り込ませ、今度は手全体でその部位を摩り上げた。  
「んんっ」  
望美は与えられる慣れない刺激に耐えきれず、まわした手に力を込める。  
そんな様子を見下ろしながらも、蜜を吐き続けるその秘所を隠す布を取り去り、閉じようとする足と足の間に膝を割り込ませた。  
 
体が何かを求めているように、熱が望美の中に生まれる。自分の秘所から、熱いものが湧きいで、ぬるりと濡れている事を感じてしまう。  
戸惑う望美を愛しく感じつつ、銀もまた、自分の中の熱を感じていた。高まる本能を抑え、彼は再び望美の秘所への愛撫を再開した。  
 
「っああ…っ!」  
秘所の更に深部、隠れていた花芯を指の腹で擦り上げる。  
擦れることで与えられる快感に、体が跳ね上がりそうになる。溢れる蜜を絡めつかせ、締め付ける内壁を掻き分け、銀の長い指が内部へと侵入した。  
「は…あっぁ…」  
蠢く指に、繰り返される注挿に、おかしくなりそうになる。  
指が内壁を擦り上げ、もう一方の手が花芯を撫でる。込み上げる熱と襲いかかる波、寸での所で呑まれそうになった。  
呑まれなかったのは、銀の手が離れていったからだ。  
 
何かを耐えているかのような銀の表情を、望美はすぐに理解した。  
手で胸元を引き、彼の顔を近くまで引き寄せると彼にされたように、耳元を、首筋を舐めた。  
ピクリと反応した彼が嬉しくて、更に行為を続ける。  
言葉を紡ぐ勇気がないから、これでわかって欲しかったのだ。  
 
望美をそっと引き離し、今度は力強く上にのしかかる。  
口付けを交わす間に衣服を剥ぎ、望美の足を開かせた。  
 
「あまり…見ない、で?」  
 
さらけ出された秘所に落とされる視線と、姿を見せた銀のそれに、耳まで真っ赤に染め上げた望美が戸惑っていた。  
クス、と笑いを漏らし、先端を望美へとあてがう。  
 
「あ…!」  
 
ただ当たっているだけなのに、熱やぬめりを感じ、思わず息がつまる。  
そっと位置をずらしてやると、互いに言葉にならない快感が走る。  
 
そして、そっと、銀は自分を望美へと潜り込ませた。  
 
「あ…ああ…あっ!」  
 
ゆっくりと進む進路に合わせ、望美の口から喘ぎが漏れる。  
固いそれが、柔らかな内壁をこする感触に、包み込まれ呑まれる感触に、銀も声に鳴らない喘ぎを出した。  
深く深く、大きな異物が自分の中へと食い込んでくる感触に、痛みとは別の感触に、望美は悲鳴をあげる。  
 
「しろがね…あ…ん」  
「どうか今は…重衡、とお呼び頂けますか…?」  
「重衡…さん?銀の、本当の…名前?」  
「ええ…」  
「嬉しい、やっと…やっとあなたの事が聞けた。嬉しい…」  
 
涙ながらに嬉しそうに笑う望美に、銀のー重衡の感情が高まった。  
もう抑え続けられず、そっと、律動を開始する。浅く、深く、ゆっくりとだが確実に、腰を動かし、望美を攻め上げる。  
「ああっ…あん!あ…ふあぁ!」  
次第に動きが激しくなり、彼を呑み込む下腹部のもう一つの口からは更なる愛液が溢れ出していた。  
その愛液は動きをなめらかにし、小さな動きですら、二人への大きな快感を与えた。  
下腹部の口の、更に奥に熱が溜まる。彼を欲しがった熱とよく似た、けれども違う熱が。  
彼にしがみつく腕が時たま強くなり、望美の限界を伝えていた。  
「あ…重衡さんっ…なんか…私…っ」  
呑み込まれた自身が数度に渡り締め上げられる。それがまた快感となり、自分の動きによる快感と重なって、彼も限界を感じていた。  
 
徐々に動きが激しくなり、息は上がり、汗と愛液が散った。  
「んっー…あ、…ん、あぁっ!!」  
「は、ぁ!」  
一際大きく自身を入れ込み、彼自身はきつく締め上げられた。  
一方望美は、大きな快感と共に、意識を飛ばした。  
 
 
気が付けば、すぐ隣に銀がいる。外に目を向ければ、うっすらと空が青くなって来ているようだ。  
「お体は大丈夫ですか?」  
うん、と銀に笑いかけ、脱がされた服をかけて貰う。着替えの一番最後に手にした逆鱗が、微弱ながら光を放っていた。  
あぁ、もう帰らなければならないのだ、と望美は知った。ここは自分がいるべき時空ではないのだと。  
そんな彼女を悟った彼は、名残惜しそうに、望美の髪を梳いた。  
「月へ、お帰りになるのですか…?」  
「うん…そうかな…ここに来れた事が、奇跡みたいなものだから。」  
どちらからともなく、互いを抱きしめる。この温もりを忘れないよう、体に、心に刻み付けるように。  
「あなたは月から突如舞い降り、私と出逢った。  
 いつかお戻りになるとは感じていましたが…まさかこんなに急とは…」  
「帰りたくないよ…離したくないよ…」  
「けれど、行かなければならないのでしょう?」  
 
顔が見れるまで、体を離す。  
「私が戦へと行く事が変わらないように、あなたもまた…」  
服の下、逆鱗から白い光が漏れる。もう、時間がない。  
「戦…どうか、私の事、覚えていて。思い出さなくてもいい、忘れないで。  
 いつか必ず、また、会えるから。会いにいくから。」  
再び涙が溢れてくる。今日は何度、涙を流したのだろう。  
「忘れる事などできません…あなたが私を星というならば、私は月のそばにいる星になりましょう。  
 あの月の、そばに控える星に。」  
零れ落ちた涙を拭いてもらったその瞬間、眩い白い光が望美を包んだ。  
 
望美だけを。  
 
 
「何があっても生き抜いて。あなたを待ってるから。ずっと、ずっと待ってるからー!」  
 
 
 
奇しくも時は夜明け、夜空に輝きその存在を誇張していた十六夜の月はいつの間にか姿を消していた。  
彼女が残したわずかな温もりを掻き抱き、重衡は遠い未来を思った。  
いつか、また、逢瀬が叶うことを信じて。  
 
終  
 

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