鏡に向かい、何度も体を観察する。一点の傷も痣もない。この美貌も、体も、すべてはお館さまの役に立つため。  
「お館さま。わたくしをお忘れになられたのですか。もう半月もお呼びがございませぬ」  
苛立ちを紛らわそうと、髪も体も念入りに洗い、櫛を通し、丁寧に練り香をぬっていく。白い肌には傷一つない。いつも鬼の薬を使い、痕一つ残らないように気を使っているのだから。  
「あの娘よりあたしのほうがずっと綺麗なんだからね!」  
この細い腰も、柔らかな曲線を描く胸も、人間の男には触れさない。鬼の術で邪な夢を見せて、夢中にさせるだけ。この足の指から、髪の毛の先までお館様のもの。  
「今宵こそは…必ずや、お館さまに…」  
鏡に向かい、紅を引く。真紅の唇を吊り上げ、洞窟の奥へ向かう。  
 
シリンの目が釣りあがる。水鏡の前、お館さまの隣にまたあの娘がいる。ろくに飾りもしない人間の娘の癖に。ぐっと手を握り締める。冷たい声が響く。  
「何用だ。シリン。今は呪詛を広めよと命じた筈だ」  
「お館さま。この私がお気に召さぬと申されますか?いつも黒龍の娘を…人の娘を側に置かれてばかり!」  
「可愛いだと?ふふ、そのように見えるか?シリン」  
今宵だけは後に引けない。この美貌も、体も、人間の娘に劣るところなどない。顔に朱が上る。  
「お前は数少ない同族の女。子孫を残す大事な役目がある。力が劣るとはいえ、我が命を果たしてもらわねばならぬ。お前とあれは違う」  
「どう違うとおっしゃるのです??」  
「あれは道具だ。これだけでは判らぬか。ならば見るがいい」  
 
シリンは無言で寝屋に入る。ご命令とはいえ、交わる様を見るなど。この衣も、紅もお館さまのために用意したというのに。  
ぶるぶると手が震える。  
「我がどうあれを扱うかみたいといったな。見るがいい」  
燃え上がる嫉妬を押し隠して二人に目をやった。あの娘の何処が良いとおっしゃるのです。  
 
疑問は二人を見てさらに膨れ上がる。娘を立たせたまま、床に招く気配もない。  
 
しゅっと乾いた音がした。アクラムが軽く指を動かす。  
「力を…こんなところで?」  
「黙れといった筈だ、シリン」  
空ろな目をした少女の衣が裂ける。鬼の力。お館様には、児戯に等しい。  
少女は黙ったまま、あらわになっていく裸体を晒している。足元に布がちぎれて乾いた音を立てた。  
最後の布が取られても、同じ姿勢を保ったまま。髪を結んだ紐もちぎれ、自分より幼い体にかかり、少しだけ裸体を隠す。  
 
シリンの顔に怯えが走る。今までお召しを受けても、あのような事はなかった。布をちぎられ、裸にされるなど。  
「いつもながら、良い眺めだ」  
アクラムが喉の奥で笑う。仮面の奥で、肉食獣の目が光る。  
「いつもどおり、準備をせよ。ラン」  
「はい、お館さま」  
 
「これは…」  
「良い眺めであろう…ふふふ」  
「あああ…はあああ…あああ!」  
二人の前で少女は胸を揉みあげていた。先端を千切れそうに引っ張り、片方は爪を立て、引っかいている。  
無数の線が白い乳房に走り、赤い血が流れる。爪が赤く染まっても、自慰をやめない。  
「うああ!ああ!あーっ!」  
快楽に酔った声。体にあわせて、長い髪がうねる。さびた鉄の匂いがシリンのところまで漂ってきた。  
「一度教えただけで、何度でも繰り返す…淫らな人形よ」  
「……お館さま…」  
「くうああぁぁーーー!」  
高い声を上げて、少女が座り込んだ。頂点に達した余韻に体を震わせ、ぱくぱくと口を動かす。  
胸から流れた血が腹部まで滴り落ちるのも構わない。赤く染まった手から、血が床に落ちた。  
 
「何を休んでいる?ラン?まだ終わってはおらぬぞ?」  
「は…い…お…やかた…さま」  
座り込んだ少女はゆるゆると両足を広げた。膝を立て、自ら、秘所を覗き込む。やがて、両手を交互に秘所に突きたてた。  
「あぁーー!あああ!あぁーー!」  
水音と共に体が跳ねる。それでも、機械的に茂みの奥へ小さな手を押し込む。空ろな顔が喜悦に歪む。  
両手が秘所以外に華芽にも触れ、更に快楽を増す。ぐしゃぐしゃと蜜が掻き出され、血と交じり合う。  
白い皮膚が赤く染まり、呼吸音と水音が混ざり合う。  
喉の奥から長く息を吐き出し、そのまま後ろに倒れた。指から、手首、肘にまで蜜が流れ落ちる。  
秘所からは蜜が噴出して、床に流れ出す。  
 
「見よ。人の女も鬼の女も変わる所はない」  
倒れた少女の下へ歩みよる。余韻にぴくぴく震える体を見下ろし、嘲笑う。先ほどの刺激で蜜をこぼしている秘所を足先で蹴る。  
ひいい、と嬌声があがる。暴力も、愛撫も人形に区別はつかない。  
「快楽を覚えれば、自ら溺れ、際限なく求めるのだ」  
秘所を蹴り続けるたびに、ぴくぴくと体が跳ね、蜜が散った。腰が刺激を求めて、上下する。  
ゆらゆらと白い胸が揺れ、物欲しげに赤い唇が開閉する。  
 
「これが…これが…」  
「どうだ?まだ文句があるか?」  
「いいえ…おろかなことを申しました。お許しください」  
恐怖に震えながら跪く。これは、交わりではない。猫が鼠を弄ぶのと同じだ。断じて自分と同じではない。  
ようやく、主君の怒りを買ったことを理解した。悲鳴をあげる。  
「お許しください!お許しください!私が間違っておりました!」  
「まだだ。シリン。部屋を出ることは許さぬ」  
冷徹な声が縛り上げる。  
 
「うあああ!!」  
少女の嬌声が木霊する。腰を高くもちあげられ、真上から引き裂かれる。主君は衣の前を少し肌蹴ただけ。  
少女の白い体が赤い衣に絡む。最深部まで穿ち、又引き抜く。ぐじゅっと二人の体液が混じり、流れ落ちた。  
細い体がきしんで、痛みと快楽に涙が流れ落ちる。  
腰を回せば、声が高くなり、両腕が支えを求め、空を切る。結わえてあった髪が広がり、動くたびに跳ねる。  
両足はぴくぴくと振るえ、限界点に近づく。  
「もっとだ。まだ、足りぬぞ」  
「ひっ…あああ…ひあっ!」  
細い足がぴんと張り、頂点に達した。アクラムの表情が変わる。怒りに満ちた目で生贄を眺める。  
 
「もう終わるなど許しはしない…まだだ」  
酷薄な笑みと共に、どさりと少女の体を落とした。少女の顔が歪む。離れたとたん、床に二人の体液が交じり流れ落ちた。  
「目が醒める様に、また折ってやろう」  
片手を持ち上げると、小指に力を加えた。鈍い音と一緒に、指が反対側に折れ曲がり、悲鳴が響き渡る。  
 
「お…や…か…た…さま」  
「交わるのに手はいらぬ」  
蒼白になるシリンを一瞥し、喉の奥で笑いながら、再び腰を打ち付ける。シリンがやっとの思いで声を絞り出す。  
「どうか…お許しを…気分が悪く立ってられませぬ…」  
自分の言葉を違えるとわかってる。どんなお叱りを受けるかわからない。それでも閨から逃げ出すしかなかった。  
 
「私は…お館様の…部下」  
何故なの?自分は、あの娘より大切にされているのを確かめた。なのに、寒気が止まらない。衣を引き寄せても同じだ。  
「私は…お館さまに…必要とされてるんだ…」  
その言葉が空虚に聞こえる。私は、鬼の一族の女。お館様の子を身篭ることもできるんだ。断じて、あの娘と同じじゃない。  
「私はっ…私は…」  
先ほどの光景を忘れようと、必死に目を瞑った。  
 
「まだ、足らぬ。我を満足させるまで、働いてもらうぞ。ラン」  
冷たい声が降る。狂宴はまだ終わらない。  
 

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