星が穏やかに暗闇を照らしている。  
 
「きれいだねぇ…」  
望美は火照った頬を手であおぎながら、隣の男に話しかけた。  
「そうですね。最も、私にはあなたの傍では星影など霞んでしまうように感じられますが…」  
涼しげな瞳が優しく望美を映す。その眼差しと文句に、望美はぽっと染まった。  
「し…銀はほんとによくそんな言葉がポンポン出てくるね」  
「ありがとうございます」  
誉めてないよ…。とコッソリ小声で突っ込むが銀はどこ吹く風。  
「それより、神子様の体調はいかがです?先程はお酒をお召しになっておられましたが…」  
「大丈夫だよ。みんなにつられてちょっとだけ飲んじゃっただけだから」  
 
平泉に平穏が訪れて、連日連夜御代さまの大御所では宴が催された。  
飲めや歌えやの大騒ぎで、深夜を過ぎればあの九郎や譲たちまでも酔いつぶれ、  
今や宴会場は屍累々といった状態だ。望美も一番の功労者とあって、  
今宵は無礼講とばかりに幾度も酒を勧められていた。  
銀の助け船で当初は誘いを避けつかわしつしていた望美だが、  
銀が席を外した間に断りきれずにとうとう飲んでしまったのだった。  
 
「早々に神子様とこの客間にさがらせていただいて正解でしたね。」  
「そうだね…あのままだったら今頃酔いがまわっちゃって大変だったかも」  
「それもありますが……、私は神子様と二人きりになりたかったですから」  
ふわっと微笑まれて、望美は頬に血がのぼるのを感じた。  
「わ、私も…銀とこうしてゆっくり、話がしたかったよ」  
今まで慌ただしかったし。うつむいてそう告げる。  
今まで呑気に銀の隣で話していた自分が嘘みたいだ。  
銀の一言で、すごく意識してしまう。ここは離れ。そして今は自分と彼しかいないということ。  
 
 
「思い出しますね」  
「…え?」  
「…遠い昔にも、あなたと一夜の逢瀬をしましたね」  
「あ…」  
桜が咲き乱れていた。星はまたたいて、月が照らした。  
 
「「十六夜の君」」  
 
ふとこちらを向く顔が、春の京で時空を遡って出会った彼に重なった。  
視線が交錯する。  
その瞬間、急激にふたりの空間が狭まったような気がした。  
胸を打つ鼓動が、銀に聞こえてしまいそうだ。  
と、思ったとき、銀が近づいて…口づけがおりた。  
 
「今宵はどうか…消えてしまわれないで下さい…。  
神子様…あなたが私の傍にいて下さることが…私には…」  
そのままふわりと抱きしめられる。降りほどけば簡単に逃げられる力で。  
銀の言葉が何を意味するのか、くらい分かるほどには望美は大人だった。  
うまく言葉にして応えられない程度には、子供だったけれど。  
 
きっと、やめて、と願えばあっさりと退いてくれるのだろう。  
彼はそういうひとなのだ。だけど望美は銀に抱きついた。きつく手に力をこめて  
「私もだよ。銀…」  
 
降り注ぐキスの合間に、ゆるゆると帯や衣を解かれてゆく。淀みのない手の動きがそのまま肌へと伝う。  
クラクラするのは酸欠のせいだけではない。普段かしこまった感じなのに、こんなキスができるんだ…。  
そう思うとなんだか無性に拗ねた気持ちになって、望美は銀の胸を腕で押しやった。  
 
「……銀…っ私…」  
何だか子供じみた嫉妬心をさらけ出してしまいそうで、望美は思わずむっつりと口をつぐむ。  
それを何をどう勘違いしたものか、途端に銀は眉尻を下げた。  
「私が恐ろしいですか…?それならば、何も致しません。神子様に誓って…  
私は、あなたを傷つけるのが何よりも恐ろしいのです…」  
なだらかな背中にまわした手を止めて気遣わしげに望美の瞳を覗き込む。  
「違うよ。私が銀を怖がったりなんかするはずないよ…」  
望美は真っ赤になった。そんなふうな瞳で見つめられたら、なんだか自分が銀に  
酷いことをしてしまったような気分になる。  
「銀は・・キスが上手くてずるいと思ったんだよ…」  
キョトンとする銀。ますます朱に染まる望美。  
「私が…銀の初めてだったらいいのにって…嫉妬しているんだよ」  
語尾がもにょもにょと怪しくなってしまったが、今や茹でだこのような望美を見て…銀はようやく合点がいった。  
と同時に思わずくつくつと笑いが漏れてしまう。  
「銀〜…」  
望美は頬を膨らませた。やっぱり、子供っぽいって思われたにちがいない。  
「神子様。銀はいつでも嫉妬しているのですよ…。あなたを護る役を神から与えられた八葉の方々に。  
あなたと言交わす人々に。あなたが微笑みかける全てのものに。けれど…私は嬉しいのです、神子様。  
あなたの・・・初めてで最後のひとになれたことが。」  
そう言い、淡々と着物を脱ぎ捨てていく。  
それを褥のかわりに、生まれたままの姿の望美をそっと横たえた。  
「神子様・・私の、最後で唯一のお方。」  
「……やっぱり、ずるい…////」  
結局、勝てないことになっているのだ。このひとには。  
露わになる銀の体に、恥ずかしさでうろうろと視線をさまよわせてしまう。  
美しい、と形容するのがぴったりくるような体躯だった。  
無駄がなく、均整のとれた体。すらりとした印象だが、しなやかで厚い体躯は紛れもなく男性のものだ。  
それなのにやっぱり、女の自分から見てもきれい。  
 
恥ずかしさに目を伏せてしまう望美に、銀はくすっと笑いかけた。  
「十六夜の君。あなたは私を望んで下さるのでしょう。  
恥じらうあなたを私がこんなにも欲するように…」  
そして頬を手のひらでつつみ、口づける。  
「その愛しい瞳に…もっと、私を…映して下さい」  
静かな部屋に、くちゅり、と水音が響いた。  
 
「ぁっ…んぁっ…っ」  
銀の指先は、探るように…しかし確実に望美の性感帯を見つけ出し、責め上げていく。  
背中やわき腹を撫であげ、やわやわと胸を揉みながら、耳たぶから首筋にかけての  
ラインを唇でたどる。ちゅ、ちゅ、と胸元に赤い花を散らすと、望美から吐息がこぼれた。  
銀は、ふっと微笑むと邪気の無い眼差しで囁く。  
「神子様…感じていらっしゃるのですか?」  
単純にものを尋ねるような口調。しかしその瞳の奥には揶揄するような色が浮かんでいる。  
銀は自分を取り戻してから、時々こういうような意地悪な質問をするのだ。  
「やっ…ぁ…違っ…」  
口づけて唇を奪って、否定する言葉を飲み込んでしまってから、ぷくりと充血した  
ばら色の蕾を摘み取る。  
「んっ…んぅ…ふぅ…っ」  
くにくにと蕾を指で弄んだと思えば、唇でそっとついばんで舌先で先端をこねる。  
ツンと立ち上がっているそこは、銀の唾液に濡れて妖しくてらてらと光って誘う。  
「ひぁっ…ぁんっ…やぁ…っそこ…ばっかりっ…」  
「神子様の御心のままに…」  
我が君の許しを得たとばかりに、銀は蕾をいじめていた右手はそのままに、左手を  
下へ下へと移す。びくびくと震えるなだらかな曲線を通り、柔らかな茂みに到達すると、  
ひとさし指をくぷりと沈ませる。  
「っあ…!」  
そこは既に充分に潤い、溢れる密をたたえていた。  
「や、ぁぁっ、あ、あ、銀…っ」  
花びらを擦るように繰ると、望美の体がさかなのように跳ねる。  
「神子様…感じておられるのですね…嬉しいです。」  
「んっ…いじわる…っ」  
羞恥に涙目になる望美に、銀は熱に浮かされたように深く口づける。望美もそれに応え始める。  
不意に花の芯を摘むと、望美の声にならない嬌声が上がった  
「神子様があまりに可愛らしいから…ですよ」  
「はぁっ…あっ…あっ…しろっ…ぁあっ!!」  
 
最後まで名を呼べはしなかった。  
銀が茂みの中の花芯を舐め上げたからだ。  
銀がいつの間にか茂みに顔をうずめ、丹念に花びらを舐めている。  
「ぁ、あっ…ひぁ…っしろ…あ、あ、やぁっん…!!」  
そんなことはやめてほしい。  
そう口に出したいのに、羞恥に染まった望美の言葉は意味の無い音に変わる。  
銀の腕によって大きく開脚され、何もかも見られてこんなに乱れている自分を浅ましく  
おもう一方で、溶けるような瞳で自分を追い上げる銀がたまらなく愛おしい。  
そう、強く想った瞬間からはあっけない程に、堕ちるのは簡単だった。  
 
「あっ…ひぁっ…ぁあっ…ぁっ…しろが、ねっ…しろが…ぁあああああっっ!!!!」  
じゅぷじゅぷと水音を立てて舌を密壷に差し入れられ、  
自分の喘ぎ声が遠くのもののように感じ、望美は意識を…手放した。  
銀は熱い息をつき、視線が定まらないままの望美の髪をゆるゆると梳いた。  
「神子様…」  
困ったように、切なげに囁かれてふっ望美の目に力が戻った。  
言わんとする事は言わずとも伝わる。一糸纏わず抱きしめられた体から伝わる熱や、  
硬く張りつめた銀のものが、何よりも如実に欲望を表していた。  
しかし、銀はそれ以上ぴくりとも動かない。  
望美の頬に微笑みがのぼる。  
 
「ふふっ…銀…いいよ…。きて。」  
記憶が戻っても、こういう所は変わらない。銀は、何よりも自分の気持ちを優先してくれる。  
それが嬉しくて、少し切ない。だから、そんな時、望美は思い切って本音を伝えてみる。  
少し恥ずかしいから、彼の首筋に額をつけて。  
「私…銀とひとつに…なりたい。初めてを銀にあげたい。だから銀も…」  
 
「…あなたは…」  
そのまま銀はくしゃりと微笑んでキスを落とす。望美の火照った頬や体から熱が移るようだ。  
 
「あなたを…愛しております…」  
うっとりと、しかし切なげに告げられた瞬間、銀の熱くたぎったモノが望美の中に打ち込まれた。  
「ぃっ…銀っ…」  
破瓜の痛みが望美を襲う。空に伸ばされた望美の手を、銀が受け止めて背中にまわす。  
「神子…様…っ…力を抜いて…私に、委ねて…」  
ぞわぞわと粟立つような快感に呑まれそうになる。いや、もうとっくに呑まれている。  
ひくひくと収斂しつつ深く、もっと深く銀自身をいざなって行く望美の秘肉からは、  
とめどない蜜が溢れ銀を濡らしていく。快感の波に攫われそうになりながら、  
銀は望美に痛みを与えないようにゆっくりと腰を揺らした。傷つけないように、すこしずつ。  
 
「くぅ…っん…ぁ…っ……っ…」  
ぽろぽろと涙をこぼして痛みに耐える望美にこころが痛む。  
泣かせたくなんてない。大切にしたい。なのに傷つけてしまう。  
彼女を傷つけてきた過去が、鮮明に浮かび上がる。彼女の泣いていた顔が、重なる。  
きりきりと胸が痛んで、銀は望美を掻き抱いた。  
「…しろが…ね…っ…泣か…ないで……」  
驚いて望美を見やると、彼女は微笑んでいた。  
涙を流して。いや、泣いているのは自分なのか。彼女の指が、ゆっくりと自分の涙をぬぐう。  
「…大丈夫だよ。私、嬉しい。嬉しくて、涙が出てくるんだ・・・。銀、すき。 大好き…」  
じんわりと暖かな想いが胸に満ちる。この方は、いつだって欲しい言葉をくれるのだ。  
なんのてらいもなしに。  
「…神子様。私も、同じですね…。私も、嬉しくて涙が出てくるのです…」  
瞼に残る涙を奪い取った。どちらからともなく、口づけをかわす。深くふかく、幾たびも。  
吸い付くような肌に指を滑らせ、尻から背骨までなぞるように辿らせ、  
不意に蜜壷の秘芯を揉むように弄べば、堪えきれずに甘い嬌声があがる。  
「ぁ…っん…んっ…んぅ…あんっ・・・あ、…あっ」  
そこに含まれる快楽の音を敏感に感じて、銀は  
くちゅくちゅと卑猥な水音を響かせ、花芯を長い指で擦りながら律動を速める。  
「…っみこ…様…」  
内壁を嬲るように激しく動くと、望美のナカも離すまいとキュウキュウと銀をしめつける。  
ずちゅっ…にちゅ…っずちゅっ ちゅぷんっ  
「ぁ、ぁ、あっ、しろがっ…ぁあっ、ぃいっ…ぁっん…しろがね…っ、銀っ…」  
「みこ…さまっ……のぞ…み、さま…っ」  
 
不意打ちだ。  
と、望美が言葉にして思う間もなく。  
今までにない大きな快楽の波が望美を襲った。  
 
突き上げられるほどにわけがわからなくなっていく。  
 
「あっ…ぁあっ…やぁ、ダメっ…変になっちゃ…っろがねッ…あ、ぁあ、銀、しろがねっ…!!」  
「…く…っ のぞみ、のぞ…一緒に…っ」  
 
激しく責めたてられ、ぐらぐらと行き場のない熱が白くひとつに集中していく。  
 
「ァ、んっ、や、んっ・・・ひぁっ、ひ…ッぁあああああ あ ああ あ あぁ ぁん・・・・・・」  
   
望美は銀の胸にすがりながら、弓なりにしなった。その時の締めつけと同時に、  
銀も望美のナカから怒張する自身を引き抜き、精を放った。  
 
・・・・・  
・・・  
・・  
 
 
 
つきぬけるような晴天の日に、大御所の男たちはたいがい緑色の顔をしていた。  
八葉の何名かも例に漏れないが、九郎たちはそれでも、各自の仕事に戻っていった。  
平穏が訪れたときこそ、やらねばならない事なんてそこら中に散らばっている。  
 
朝に滅法弱い望美といえば、お祭り騒ぎの翌朝はなかなか起き出さずとも  
別段怪しまれることはないのだが、日が高く昇ってからなお床の中で丸くなっているので  
さすがに心配になった朔が白湯を盆にのせて様子を見に来た。  
 
文字通り腰砕けで衣は昨日のままだった望美は、まさに危機一髪で  
現れた銀のさりげない助け舟でまたもや難を逃れたのだった。  
 
その後銀はなにかと理由をつけて望美の元に控え、看病がわりに  
白湯を食べさせてあげたとかあげないとか。  
 
 
おしまい  
 

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