大殿油のゆらゆらと揺れる灯りで目が覚めた。
部屋の調度や雰囲気でここが自分の家ではないことに気付き、寝入る前の記憶を辿ってみる。
(えーと、確か昨日は京職の仕事で花梨の所へは行けなかった。
仕事が終わって、遅くなったが通り道だったこともあって、花梨の顔を見に寄ったんだったな)
「それから………」
そう呟きながらふと視線を落とすと、
傍らに花梨が白い肩を覗かせ寝息を立てている。
(!!!!!!!)
思わずがばっと身体を起こす。
驚きながらも花梨を見ると、首筋や肩にある無数の紅い跡が目に入った。
(………俺だ)
先程の情事で花梨の耳朶や首筋や胸に…、いや全身に印を刻んだ記憶がある。
花梨と夜を共にするようになってまだ間もないが、こんなに印を刻んだことはなかった。
そんな折、○○(八葉の名前)が花梨の事を好きらしいということを紫姫の屋敷の女房から聞いた。
(それでなのか?俺、そんなに切羽詰っていたのか…?)
自分のしたことながら恥ずかしさが込み上げてくる。
「すまない」と心の中で反省しながら、花梨の身体が冷えないように夜具を掛け直す。
「………ん」
夜具を掛け直すと、花梨が目を覚ました。
花梨は瞼を二、三度擦り、目を開けると隣にいる勝真の姿にすぐに安心した顔になって微笑んだ。
「悪い、起こしちまったか?」
「ううん」
夢の中から戻ってきて、ほんの少し前の出来事を思い出したのか、
花梨は恥ずかしそうに身体に掛けられている夜具を鼻の頭程まで引き寄せた。
「何照れてるんだよ。お前が照れると俺まで照れるだろ」
夜具を指で引っかけ、隠れた花梨の顔を覗き込み、からかうようにおでこをピンと弾く。
「…だって、思い出しちゃって…」
引き寄せた夜具を少しずらし、上目遣いに勝真の方を見上げる。
「…そんな瞳で見るなよ。止まらなくなるだろ」
いても立ってもいられず、夜具の下から腕を伸ばし、花梨の腰に手を回し、
身体を持ち上げるようにきつめに抱きしめると、花梨の心臓の鼓動を直に感じる。
今しがた反省したことも忘れ、花梨の首筋にある印の横に新たに印を刻む。
花梨を組み敷こうと顔を上げると、花梨の唇が煽るように半開きで俺を求めているように見えた。
―――――気がした。
唇を貪るように口付けし、舌を割り入れる。
歯列をなぞり、滑り込ませた舌で花梨のそれに絡める。
花梨もそれに応えるかのように舌を絡ませてきた。
激しい口付けの最中、勝真の手は止まらずに花梨の胸を揉みしだく。
刺激されて硬くなった花梨の胸の頂に唇を這わすと、
花梨の身体はビクンと震え、身体を捩りながら勝真を掻き立てるように声をあげる。
「きゃっ…」
先程つけた印が目に入ったが、今しがた反省したにも関わらず、花梨の胸に印を残すようにきつく吸い上げる。
右手を花梨の胸から腰の曲線をなぞり、秘所の割れ目に沿って這わせると、既に蜜が溢れ出していて、
指を少し動かすだけで、くちゃくちゃと卑猥な水音を響かせる。
秘口に中指を滑らせ掻き回す。
花梨を刺激する指を二本に増やし、収縮する中を擦るように撹拌すると、花梨は吐息交じりに嬌声を漏らす。
「あ…あぁ…っ、……あんっ…、はぁ…っ…んっ……」
「…声、我慢しなくていいんだぜ」
勝真のその言葉に、花梨の嬌声は徐々に大きくなっていく。
さらに溢れ出した蜜に包まれた花芯へと指を伸ばすと、堰を切ったように熱い蜜が止め処なく溢れ出てくる。
弄うようにそこをきゅっと摘まむと、花梨は最初の頂に達したようで、掴んでる勝真の腕に力を入れた。
「あぁぁぁ……っっ!!」
やはりこの時の声は何度聞いても下半身にずんと響く。
花梨の潤んだ秘口から指を抜き、耳元で囁いた。
「入れて、いいか?」
「…うん」
ひくひくと淫らに収縮を繰り返す花梨の秘口に、そそり勃った自身を宛がい、一気に最奥まで貫く。
花梨の女の秘口が勝真を締め付けてくる。
花梨は眉根をきつく寄せ、勝真の腕を縋るように掴み、
身体の中に勝真のものが入っている異物感や圧迫感に耐えている。
その一方で痛みと同時に身体の奥から込み上げてくる甘い充足感にも飲み込まれ始めていた。
「大丈夫か?」
「……………う……ん」
花梨はそう返事をしたものの、苦悶の表情を浮かべている。
このまま貫きたい衝動をどうにか抑え、花梨の瞼に唇を落とし、慈しむように抱きしめる。
勝真の腕の中で、ふと焚き染めた勝真の香の残り香が鼻腔を擽り、花梨は瞑っていた目を開ける。
そして勝真の腕の中でゆっくりと一度大きく息をすると、勝真の首に腕を回す。
「少し落ち着いたか?」
花梨のおでこに自分のそれをくっつけて問い掛ける。
ゆっくり瞬きをして頷き、花梨はくすっと小さく笑った。
「どうした?」
「…何でもない」
「何でもない訳ないだろ」
「何でもないってば」
暫しの沈黙の後、二人で同時に笑い出す。
「何でもないの、本当に。………ただ」
「ただ?」
「抱きしめられたら、いつもの勝真さんだなぁって感じて。そうしたら嬉しくなったの」
(俺は抑えるので精一杯だっていうのに、そんなこと言い出すなんて反則だぞ)
花梨のその一言に、勝真は花梨を力強く突き上げた。
花梨も応えるように腰を揺さぶって勝真を官能の渦へと誘う。
深く浅く硬直の抜き差しを繰り返し、ぐいぐいと突き穿つ。
「…あ…あぁ…っぁん、いいっ」
「花…梨っ……!」
腰を送り続け、勝真にもそろそろ限界が近づいていた。
「…いっちゃ…う………。…も…ぅ……、ダメ…!」
花梨が辛うじて搾り出した声で絶頂を告げた時、勝真にも吐精の一瞬が訪れた。
勝真は小さく呻き、どくどくと勢いよく精を花梨の中に放った。
暫く二人で抱き合いながら微睡んでいた。
どちらとからもなく見つめ合って、口火を切ったのは勝真だった。
「花梨。ひとつ聞いてもいいか?」
「はい?」
「お前、○○(八葉の名前)の事………」
もしも自分の欲しくない答えだったらと思うと、その先の言葉が出てこない。
花梨が心配そうに勝真の顔を覗き込む。
「○○さんの事がどうかしたんですか?」
「いや、いいんだ。何でもない」
花梨の瞳を見つめて、続けた。
「俺はお前の隣にいる。今までも、これからも、ずっと…」
そう言って花梨を抱く腕に力をこめた。
刻み込んだ印を眺めながら。